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サラリーマン、異世界へチート通勤する  作者: 縞熊模様
第1章
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受付嬢は手を引き剥がされた事など気にせず、話を続ける。

「先程も申しました通り、通常はFランクから始まります。それは当然、冒険者になりたての方は、実力が弱いだけでなく、経験も浅いのです。いくら初心者向けのクエストがあるとは言え、当然上のランクの方よりも、クエストの最中に命を落とす可能性もずっと高いのです。ですから、当初なかなか、Eランクへは上がれません。Eランクへ上がるには、先程良翔さん達が受けて頂いたランクの高いモンスターを倒すランクアップ試験を受けるか、Fランクのクエストを沢山こなして、地道に上がるしか有りません。Fランクのクエストは危険レベルがもっとも低いモンスター討伐や採取クエストがほとんどで、命の危険は少なくなりますが、その分多くのクエストをこなし、多くの経験を積む必要があります。そうしてやっとなれるのがEランク冒険者です」

良翔は頷く。

「ですので、入会の試験で先ずEランクに飛び級する方はほとんど居ません。良翔さん達の様な余程の実力がない限り、試験官から合格は出ません。そして、さらにEランクからDランクへ上がるには、技量と勇気が必要となります。Fランクで弱いモンスターもしくは難易度の低い採取クエストを多くこなす内に、あまりクエストを失敗することもない為、多くの冒険者の方が、自分は凄いのではないか、強いのではないかと錯覚される方が多く出てきます。そこでDランクから先は、自分のランクよりも一つ上の高いランクのクエストを複数クリアする事がランクアップの条件に付加されます。当然自分のランクよりも高いランクのクエストはより危険が増し、思い込みだけでなく、実際に役立つ技術や力が必要となります。また、危険を察知し、時には引くことも判断に入れる勇気が必要になってきます。当然、あまりクエストの失敗を繰り返す場合はペナルティが付きます。つまり、自分の力量を良く把握し、必要な時に適切な判断を下し、時には勇気を振り絞り進退を決める決断力がDランク昇給には求められるのです。それを良翔さん達は入会のタイミングでクリアしてしまったのです!」

良翔は受付嬢の話を聞き、正直、せめてEランクスタートの方が良かったのではないかと思った。

高威力の魔力はあっても、経験が圧倒的に乏しいのだ。

しかし、ガザルは文句無しで合格だと言ってくれた。

しかし、今更、それを覆すのもどうかとも思う。

良翔が悩んでいると、ノアが口を開く。

『なんなら、もう一つ上のランクもこの試験でクリア出来ると思うけど、どうなのかしら?』

ノアはたくましい。

しかし、そんなノアの期待とは異なり、受付嬢から言葉が返る。

「申し訳ありません。Cランクから先はギルドの試験では昇給出来ないのです。やはりギルドとしても、冒険者の方にはより多くのクエストをこなして頂きたいのです。クエストをこなして頂ければ、その分困っている方々が救われます。ギルドの存在理由は第一に困った方々を力のある者が解決し、人々の生活を守る事を目的としています。その為、Cランクより先の昇給には、純粋にクエストをこなした量とその質に依存していきます」

なるほど。

良翔は確かにその通りだと思う。

誰かが困っているから、クエストが発行される。

クエストを発行するには、報酬を用意しなくてはならない。

クエストを発行する側にしてみたら、必死の思いだろう。

自分達では解決出来ない問題を、他人頼みにしなくてならないのだ。

それは、目の前に原因があるのを分かっていても、自分達ではどうしようも出来ない事が歯がゆく、そして、それがいつ何時自分達に危険をもたらして来るのか分からず、常に怯えた生活を送らなければならないのだ。

相当なストレスだ。

だから、いくら冒険者がランクが上がり強くなったとしても、クエストを解決しなければ、ただの役立たずだ。


良翔はランクを上げる事よりも、とにかく沢山クエストを解決していこう、と決心した。

クエストを発行した人達の悲痛の思いがあの紙には秘められている。

幸いにも自分は恵まれた力を手にする事が出来た。

だが、その力は己の欲望を満たす為だけに使うべきではない、何かを守る為に使われるべきなのだ。

結果ノア達に押し切られる形で、クエストを受注したとはいえ、良翔はヤル気を内心たぎらせていた。


話は一通り終わり、良翔達は席を立とうとすると受付嬢が立ち上がった。

そして笑顔を添えて、手を差し出してくる。

「申し遅れまして申し訳ありません。私はギルド連盟タリス支部で受付をさせて頂いております、ミレナと申します。何かあれば私まで遠慮なくお申し付け下さい」

差し出された手を握り良翔も返す。

「大変お世話になりました。何から何までありがとう御座います。また、クエストを完了したら、ミレナさんにご報告しますね。これから宜しくお願いします」

ミレナは、良翔と握手をするとそのまま両手で握り、ニコニコしながら、良翔の手を離さない。

すかさず、ノアが笑顔のまま青筋を浮かべながら、手をユックリと、しかし力強く引き離し、自分との握手へと切り替える。

『私とも宜しく頼むわね、ミレナ』

「ええ、もちろんですわ、ノアさん」

お互い笑顔だが、その握手には渾身の力が込められているのだろう。

お互いに笑顔のまま、顔を少し赤らめ、青筋を浮かべたまま長い握手をする。

そんな様子を見ていた良翔はクスリと笑い、

2人に声をかける。

「2人は短時間で仲良くなったみたいだね。だけど、ノア。名残惜しいのも分かるけど、ミレナさんの仕事の邪魔はしちゃダメだよ?それじゃぁ、行こうか、ノア」


すると、何故か勝ち誇った顔をするノア。

そして、何故か恨めしそうにノアを見つめるミレナ。

ノアは手を離し

『そうね、良翔。私達は行くところがあるからね〜、わ、た、し、た、ち、は。名残惜しいけど、行くわね、ミレナ』

「く…。そうですわね。良翔さんには、この後カシナ様とのご面会が有りますし、クエストへ行く為の準備が必要ですものね…。お別れは名残惜しいですが、また、いい報告を届けに来てくださいね?もちろん、なんでもなくても来ていただいて構いませんので♪」

ミレナは一瞬悔しがる顔をするが、すぐに笑顔を取り戻し、良翔に言う。

「はい、また、なるべく早く良い報告が出来るように努力します」

良翔は頭を下げ、ミレナを後にする。

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