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そこには、白金色の装備品を纏った美しく品のある女性が立っていた。
栗毛色の髪は、顎下程の長さまであり、切れ長の目からは、こげ茶色の瞳がまっすぐ良翔を見ている。
血色は良く、健康そうな乳白色の肌が、紅い唇をシッカリと引き立てていた。
防具を着けているとはいえ、それでもスタイルの良さが分かる。
胸は小さい訳でもなく、大きい訳でも無い。
だが、動きに支障が出ない様に、上からシッカリ防具などで抑える必要があるのであろう大きさである事は見て取れる。
そして、防具の合間のくびれは、防具が周りにあるからなのか、際立って見え、色気を醸し出している。
腰に下げた剣の柄に右肘を乗せ、左手は足に沿って垂らしている。
右足に重心を乗せ、左足だけ少し開き、楽な姿勢ではあるが、どこか、攻撃的な意思を感じる。
シッカリ鍛えられている様で、崩した姿勢であっても不安定な所は微塵も無いのだ。
良翔がマジマジと声の主を観察していると、女性はもう一度、ガザルに視線を向け、声を発する。
決して大きな声で話している訳では無いのだが、非常に声が良く通る。
「そこの2人の試験は問題なく合格だ。そして、ガザル…。お前はクビだ」
女性は、表情を変えずに淡々とガザルに対し言葉を放つ。
すると女性は、ジャンプしたかと思うと、フワリと良翔達の直ぐそばに降り立った。
恐らくこれが飛行魔法なのだろう。
かなり、手慣れている。
女性は、良翔とノアをユックリ交互に見ながら、優しい表情を浮かべて話す。
「これから冒険者になろうとする初心者が、道中倒したモンスターから手に入れた物だと受付に持ち込んだ物が、アースワイバーンの戦利品だと聞かされたのでな。冒険者にすらなっていない初心者がだ。当然興味が湧いてな、見に来たのだ。そして、見に来て正解だった。冒険者にこれからなろうとする、その者達は、確かに己の力でアースワイバーンを倒すだけの実力がある事は、先程見ていて十分に分かった」
一旦言葉を切ると、女性は再度ガザルに視線を移し、再び冷徹な表情へ変わる。
ガザルは再度女性に見られ、ビクっと体を震わせる。
「私の言わんとする所が分かるな、ガザル。お前は試験官でありながら、優秀なこの者達を更なる高みへ繋いでいく事をせず、あまつさえ、自分の力量をわきまえず、己の自己顕示の為だけに、制御の効かない危険なモンスターを召喚し、街を危険に晒した。その罪は、免れる事など出来ぬ程に重い。不幸中の幸いか、この者達が稀に見る実力の持ち主であったからこそ、この危険は回避されたに過ぎない。そうでなければ、街にも被害は出ていただろう」
ガザルは何とか気力で立っていたが、その言葉を聞いた途端、魂を抜かれてしまったかの様に脱力して、地面にグシャリと崩れ落ちる。
だが、直ぐに顔を上げ
「し、しかし、カシナ様!これは…」
「まだ、何か?」
許しをこう様に懇願の眼差しを向け、ガザルは口を開くが、ピシャリと、カシナと呼ばれた女性に、鋭い視線を向けられ、言葉を切られてしまう。
「いえ…、何も…」
観念したのか、ガザルはそれ以上何も言えなかった。
頭をがくりと下げその場で固まってしまった。
そのやり取りを見ていた、良翔は恐る恐る口を開く。
「あの…、お話のところすみませんが…、あなたは?」
声をかけられる、カシナと呼ばれた女性が振り向く。
「ああ、私はカシナだ。ちゃんとした挨拶が出来ずにすまない。私はギルド連盟タリス支部の支部長をしている、つまり、ここのギルドマスターだ。そして、そこの試験官の男はガザル。私の配下に属する者だ。ガザルがお前達に失礼を働き、申し訳ない。今このガザルには然るべき処罰を与えるところだ。すまないが、ちゃんとした挨拶は少し待ってくれないか。この件をちゃんと片付けてからだな」
そう言って、カシナはガザルの方を向く。
「全く、この男は…」
そう、呟かれガザルは小さくビクりとする。
そこへ、良翔は尚も口を挟む。
「その事なんですが…。俺としては、結果無傷ですし、相方のノアも全く影響は有りません。なので、ガザルさんの罪を無かった事に迄は出来るかは分かりませんが、せめてもう少し軽くして頂く事は出来ないでしょうか?」
そんな事を突然言われ、カシナは、ん?、と顔をしかめる。
ガザルもがばっと顔を上げ、良翔を見る。
「いや、この者は明らかにお前らに悪意を持って、試験官の立場を忘れ、ケルベロスを召喚したのだぞ?」
良翔は頷く。
「ええ、ですが結果は、何も犠牲を出す事なく、無事にモンスターは倒されました。それに、あれぐらいの強さのモンスターだったからこそ、本来の実力を見るという試験の目的に沿っていて、カシナさんも俺達の実力を知る事が出来た、というのも事実だと思います。逆にノアが倒した、ファウンドウルフだけであれば、そこ迄の力を俺も使いませんでした。つまり、それは俺達が持つ、本来の力を見る事が出来ず、正しい判断を下すには、情報が不足してしまう。そうなってしまった可能性があったのも事実だと思います。」
ふむ、と腕を組むカシナ。
良翔は言葉を続ける。
「それに、街に入る時に門兵の人に言われましたが、この街は冒険者を求めている、と。つまり、冒険者の数が足りていないと言うことでは無いでしょうか?見たところ、ガザルさんは優秀な冒険者の様に私には見えます。そんな人を、人を欲しているギルドが手放して良いのでしょうか?」
ガザルは確かに激情に駆られ、ケルベロスを召喚してしまったが、決して弱い訳ではない。
先程、こっそり鑑定した際、ガザルはレベル48と高く、HP、魔力共に5000を超えている事を良翔は知っている。
恐らく、カシナもそれは知っているのだろう。
即、良翔の意見を否定する訳でも無く、暫く考えている。
別段、良翔はガザルに好意を持つ訳は無いのだが、良く考えれば、ずっとこの仕事をして来たのだろう。
中には、本当に実力も無いのにも関わらず、虚勢を張った愚かな冒険者候補もいたのだろう。
その際には、何度も危険を伝え、時には痛みを与えて、考えを改める様に指導して来た筈だ。
ただ、今回だけ、いつもと同じ虚勢を張った類では無く、本当に実力が合っただけなのだ。
なので、ガザルはついていなかった、ただその一言だろう。
それが、きっと冷静さを失った背景であるだろう事は想像出来た良翔は、こんな事で職を失うのは、あまりにも過剰な措置の様に思えた。
自分も職場では良い思いをしていない。
そんな自分の境遇もあってか、良翔はガザルを擁護する発言をしたのだった。
蓋を開ければ、何も被害は出ていない。
なら、結果オーライではないか。
後は、この場に居る者が、ガザルを許せば、それで終わりだ。
しばし考えていた、カシナは良翔を向き問うてくる。
「今回の最大の被害者はお前達だ。そのお前達が何も問題にせず、ガザルの罪を問わないと言うのであれば、今回の事は私も見なかった事にしよう。だが、お前達は本当にそれで良いのか?」
カシナにそう言われ、ノアは良翔を見る。
良翔の判断に従う、といった目だ。
良翔は迷わずカシナに返す。
「ああ、それで問題ない」
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