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サラリーマン、異世界へチート通勤する  作者: 縞熊模様
第1章
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正直、ガザルは焦っていた。

良翔が、当然恐れおののき、試験を辞退すると思い込んでいたのだ。

そして、良翔が辞退すれば、直ぐにケルベロスを引っ込めるつもりだった。

ところが、あろう事か、良翔は迷う事なく、コイツと戦わせろと言うのだ。

仮に、このまま良翔が戦い、死んだとしても、気にはしない。

冒険者はいつ何時も死の危険が隣り合わせにあり、自分の力を過信し、その危険性を理解出来ない者から先に死んでいくだけだ。

試験中に受験者が死んだとて、ガザルが罪を問われる事は無い。


だが、事態は良翔が死ぬだけでは済まされない状況であった。

良翔が破れた場合、当然召喚してしまったガザルが責任を持って、速やかに召喚したモンスターをその場で討伐しなければならない。

だが、愚かなガザルは怒りに任せて召喚を行った為、他の術者同様、魔力が底をついていたのだった。

正直立っているのも虚勢に過ぎない。

普段なら、全力で戦えば、苦戦こそすれど倒せない相手ではない。

だが、今は状況がまるで違う。

いまここで、ケルベロスを放つのは、確実に不味い。


その為、ガザルはどうしても、ケルベロスを召喚の魔法陣から解き放ちたくは無かった。

召喚の魔法陣から解放さえしなければ、召喚された魔物はこちらの意図に従い、消したりする事が可能なのだ。

だが、一度、魔法陣から解放して仕舞えば、その制御力を失い、たちまち魔物の自由を許す事になる。

つまり、それは自分に死の危険が迫る事を意味する。

自分が死ぬだけではなく、街内にこんな巨大な魔物を解き放てば、当然犠牲も多数出てしまうだろう。

それだけはなんとしても避けたい。


しかし、良翔達に大見栄を切ってしまった建前上、そう簡単に引っ込める訳にも行かない。

良翔から試験断念の言葉を聞き出さねば、ここまでの苦労が全て水の泡に帰してしまう。


だが、相変わらず良翔は、問題ないから戦わせろ、と言っている。

この世間知らずの大バカ者が!と心の内で盛大に罵倒する。

だが、ガザルのなかでは、答えは分かり切っていた。

自分の建前よりも、命と安全の方が大事に決まっている。


そう結論を出したガザルは、ある事を思いつく。

そうだ、ケルベロスを消した後、どの様な事態に陥る可能性があったのか、また、その様な自分勝手な振る舞いや考え方は、街を危険に晒すだけでなく、仲間の命さえも危険に晒す事を伝え、そんな者を冒険者にする訳には行かない、と今回の試験を不合格にしてやれば良い。

そんな全て自分に返ってきそうな理由を、全く気付きもせず、ガザルは名案だと思い付き、ほくそ笑む。


良翔はそんなガザルを、くだらない事でも思いついたのかな、と内心呆れて見ていたが、意識はしっかりとケルベロスを捉えていた。

いつ襲いかかってきても、対処出来るようにするためだ。

良翔は気付いていた。

恐らくノアも気付いているのだろう。

このケルベロスは、既にガザル達の制御下にいない。

それを証明する様に、光のヴェールから、前脚を少し出していたのだった。


先程のファウンドウルフは、光のヴェールを超えられずにいた。

だが、ケルベロスはその光のヴェールをなんの障害も感じていない様に、前脚を光の外に出したのだ。

恐らくケルベロスの背後に立つ、ガザルにはケルベロスの前脚が見えていないだろう。

きっと制御下から外れている事を気付いていない。

そんなケルベロスが魔法陣から飛び出し、攻めてこないのは、良翔がいつでも応戦出来る気配を出しているからだった。


そんな事はつゆ知らず、ガザルは高笑いを始め、良翔を見下す様に話してくる。

良翔は視線だけ、ガザルに向ける。


「ふははは!お前は、愚かな男だ!自分が下した決断をまだ、分からずにいるのか!即ち、即刻、試験はやめだ!もう既に結論は出ている」

良翔はガザルが何を言いたいのかいまいちよく分からない。

ガザルはそんな良翔の様子に満足そうに頷き、

「そうだろうなぁ。よく分からんだろう?

なぜ試験がやめなのかを。だからこそ、お前は愚かなのだ!」

そう言い、ガザルは掌をケルベロスへ向ける。

「とりあえず、試験は中止だ!このモンスターを消した後に説明してやる!」

ガザルは高々にそう言い、自信満々に何かを唱える。


すると、先程迄光を放っていた魔法陣がみるみる消えていく。

それと共に、モンスターの姿も…。

消えない。

魔法陣だけが消え、モンスタが何事もなかったかの様に同じ姿勢で、残っていた。

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