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サラリーマン、異世界へチート通勤する  作者: 縞熊模様
第1章
3/163

1-3

ふと、違和感を覚える。

先程より、トイレ全体が明るくなっている気がしたのだ。

だが、不思議な事にトイレの中の蛍光灯は一つも灯いていない。

耳に意識を傾けても、先程まで微かに聞こえていた周りの音も無くなっている。

何かがおかしい。

不安を抱きつつも、恐る恐る、トイレを出る。


良翔は一瞬真っ白になった。

そこには、青々とした草が膝丈ほどの高さまで生え、辺り一面に茂っていた。


草原だった。

思わず自分の場所を確認するかのように、後ろを振り向く。

だが、そこには先程まであったはずのトイレが無くなっていた。

声すら出ない。


良翔は口を閉じるのを忘れてしまったかの様に、ポカンと口を開け放ったまま立ち尽くしていた。

辺り一面360度が草、草、草なのだ。


長い時間の様に感じられたが、実際は数分程だろうか。

放心状態からふと我に返り、良翔は先程までの状況を思い出しながら、自分の現在の状況把握に努めようとする。

が、失敗する。

正しい回答が得られそうにないのだ。

「…どういう事だ?」

やっと口にした言葉だった。


すると、突然無機質な声が聞こえる。

『創生されたゲートにより、異世界への転移が完了致しました』

先程、個室で聞いたあの声だ。


良翔は声を聞くなりビク、と体を固まらせた。

周りに誰も居ないのは確かだ。

なのに声が聞こえたのだから驚くのも無理ない。

恐る恐る視界の後ろに顔を向ける。だが、そこには誰も居ない。

しかし、声はハッキリ聞こえたのだ。

叫びそうになるのを堪えて極力抑えた声で周囲に向けて、途切れ途切れ聞き返す。

「あの…、失礼ですが、どちら様でしょうか。…私からは…、あなたの姿が見えないのですが、どちらにいらっしゃるのでしょうか?…それに、…ここが何処なのかご存知ですか?」

返答を待つ間、声の出所を特定しようと、周囲へ目を走らせる。

『私はマスターに創生された、イメージ創成ナビゲーターで御座います』

またしても、その声の主を目にする事は叶わなかった。

それにしても声が近い。

声の近さにまたしても体がビクつきそうになるのを堪える。

無機質な声が続ける。

『マスターがイメージの具現化機能を御希望されましたので、マスターの中に、機能のみの実装となりました。その為、私自身には、マスターが目でご確認頂けるような、姿や形は用意されておりません。現在はマスターの脳内に、マスターが理解される言語に変換して直接お伝えさせて頂いております』

「…」

沈黙する、良翔。

そんな良翔にはお構いなく、何ちゃらナビゲーターは続ける。

『そして、マスターがイメージされた異世界に対し、イメージ変換機能を使用して、個室の扉と異世界をお繋ぎ致しました。マスターはゲートとなった個室の扉を通り、現地点へ来られました。つまり、ここはマスターがイメージされました異世界となります』


何ちゃらナビゲーターの声が止まり、頭の中に静寂が訪れる。

冷静に聞いていたつもりだったが、鼓動が早くなる。ジワリと汗も頰をつたる。



少し間を置いて考える。


脳内で呟く様に、もしくは確認する様に語りかける。

「つまり…、俺があなたを…、ナビゲーターさん?を作り出した、と?」

『はい』

「それに…。俺が行きたいなぁ、と思い描いたイメージに似た異世界へ通じる道を、その…、ナビゲーターさん?…がトイレの個室に作成した、と…?」

『はい』

「…で、俺は、今それを通って、異世界に来てしまった、と?」

『はい』

「…」

「…」

「…ん」

「ヤッパリ意味わからん」

どれだけ冷静に考えても、やはり今の現状はそう簡単には飲み込めない。

それにここはどこで、一体何なのか?

さっきまで駅のトイレに居たよな?

確かにポスターを見て、こんな所行ってみたいな、とは思ったよ。

偶然とはいえ、たしかに景色が先程のポスターに似ていなくもない。

いや、でも、あり得ないでしょ…


考える事が多過ぎて頭の処理が追いつかない。

その為か、何度も同じ問いを自問自答で繰り返してしまう。

暫くして、ラチがあかないことに気付き、一度考えるのを止める。


一度、深呼吸をする。

再度、周囲の景色に目をやり、そのまま、360度ぐるりと水平にユックリ周り、辺りを確認する。

やはり、目の前にあるのは草、草、草。

遠くには、先端だけをほんのり雪化粧した山が見える。

「ここ、何処なんだよ…」

ポツリと呟く。

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