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サラリーマン、異世界へチート通勤する  作者: 縞熊模様
第1章
21/163

1-21

リビングへ向かうと芽衣が聞いてくる。

「どうしたの?随分遅かったじゃない。せっかく早く帰ってこれたんだから、早く夕飯にしないともったいないわよ♪」

芽衣はなんだか機嫌が良い様だった。

今日は良翔が、朝話した通りに早く帰ってきたのが、嬉しかったらしく、いつもよりも、少し料理に凝った様子だった。


芽衣は、良翔がリビングに来た事で、料理の仕上げへと着手した。

少し待つと、少しいつもより盛り付けが贅沢に見える内容の料理を出してくれた。

そして、良翔の目の前で、あの美味しい味付けのする粉、“創成の粉”をぱっぱっ、と仕上げに上からかける。

芽衣は粉をかけると、粉の味が全体に行き渡る様に混ぜ、取り皿に取り、良翔の前に置く。

そして、芽衣も同じものを皿に取り、自分の前に置く。


ふと良翔は思った。

良翔はこの粉のお陰で素晴らしい力を手に入れた。

だが、よく考えれば、芽衣も同じものを食べているのだ。

つまり、芽衣もこの粉のお陰で、何か不思議な力を手にしてるのではないか。

良翔は、そう思った途端、芽衣の顔をハッと見た。

しかし芽衣は良翔と目が合うと

「どうしたの?待ちきれなかった?じゃあ、早く食べましょ♪」

と言い、いただきます、と先程の粉のかかった料理に箸を伸ばしていく。


美味しそうに、口に運んではもぐもぐ食べている芽衣を、良翔はジッと見ていた。

流石に、その様子の良翔を不思議に思った芽衣が聞いてくる。

「どうしたの、良翔?ひょっとしてお腹が空いてないとか、嫌いな料理だったり…する?」

芽衣は少し悲しそうな顔をする。


芽衣のその表情を見た良翔は、ハッと我に返り慌てて謝罪する。

「ごめん、ごめん。ちょっと考え事をしちゃってさ。つい、止まっちゃったよ。もちろん嫌いな料理な訳でもなく、お腹が空いてないわけでもないよ。むしろ好物だし、とっても美味しそうだよ」

良翔はそう言い、芽衣にニコリと笑いかける。

そして、箸を取り、料理を口に運んでいく。

「うん。やっぱり芽衣は料理が上手いな。凄く美味しいよ」

それを聞いた芽衣は、心配そうな表情から一変して、大きく笑顔を作る。

「良かったー。凄く心配しちゃったわよ」

そう言いはしたが、芽衣の顔には、もう、先程の心配そうな表情はない。

満面の笑みで、食事の続きを始める。


食事のあいだ、芽衣が今日の家の出来事や、子供の様子を嬉しそうに話してくれた。

良翔もそれを聞き、とても微笑ましい気持ちになるのだった。

お互いに夕飯を食べ終わると、2人で食器などを片付ける。

食器を片付け終え、良翔は換気扇の下に腰を下ろし、タバコに火を付ける。

食後のタバコはやはり美味い。


タバコを堪能している良翔に、芽衣が突然思い出した様に話してくる。

「良翔、そういえばなんだけどね、今日は変わった事が起きなかった?」

突然の事にハッと芽衣の方を振り向く良翔。

そのはずみでタバコを落としてしまう。

良翔は、落としたタバコを慌てて拾い、芽衣に顔を向け、聞き返す。

「…えっと?つまり…?」

良翔は唾をゴクリと飲み込む。


「えっとね、笑わないで聞いて欲しいんだけど…、私ひょっとしたら魔法使いになっちゃったかも?って思えるような事が起きてね〜」

「う、うん…」

冷や汗が、良翔の頬を伝わる。

「えっとね、例えば…、あれ」

芽衣が指を指す。

良翔は芽衣がどれを指差してるのか分からなかった。

指差した先が漠然とし過ぎてるのだ

「ん…と。どれ?」

良翔が聞き返す。

芽衣が再度、指を指す。

良翔は、もう一度芽衣の視線の先を追いかける。

すると、ありえない光景がそこにはあった。

芽衣の指差す先に、テレビのリモコンが浮いていた。

そして、そのリモコンはすぅっと芽衣の手に向かって移動し、芽衣のすぐそばにまで来ると空中で停止した。

ガタッ

良翔は驚きその場で立ち上がった。

タバコを急いで消し、芽衣のすぐそばに移動する。

確かにリモコンは浮いている。

リモコンの周囲に手をかざしても、リモコンを空中に浮かせる要因を見つけられなかった。

「芽衣…、これって…」

芽衣はその間もニコニコしていた。

「ね?ね?驚いた?凄いでしょ?わたし本当に魔法使いになれちゃったのかも!」

芽衣は、良翔を驚かせたかった様で、それが見事に成功した事に満足しているようだった。


そんな芽衣を見ながら、良翔は心の中で呟く。

「間違いない。これは、創成の粉の効果だ」

良翔は、そう確信し、芽衣に確認する。

「す、凄いな…芽衣。この力って…、いつ気付いたんだい?」

芽衣は、この力の事を聞いてもらいたかった様で、堰を切ったように、説明を細かく始める。

どうやら、言いたくて、うずうずしていたのを我慢してたらしい。

普通なら、気付かれたら変な目で見られてしまう様な、怪しい力、と警戒し、バレない様に隠そうとするのが普通の様に考えられるのだが、芽衣に限っては全くそうでなかった。

この力が知れてしまったとて、良翔はきっと驚くが、褒めてくれると信じて、疑わない様子だった。

良翔なら、畏怖し、離れたりする事はないと信じているからこそ、こうして包み隠さず、力の事を話してくれるのだろう。

実は、そこまで考えておらず、純粋に自慢したいだけかも知れないが…。

良翔は、芽衣の話を聞きながら、そう思った。


芽衣が興奮冷めやらぬ様子で、話終わると、良翔は、芽衣にコーヒーを入れてやる。

「芽衣の力は凄いね。でも、まずは一旦落ち着こうね?」

芽衣は、自分が興奮していた事に気付き、顔を赤らめ、一つ咳払いをしてから、コーヒーを飲み始める。


芽衣がコーヒーを飲んでいる間、良翔は、芽衣の話をまとめ、そしてその力がどの様なものかを考え始めた。


芽衣の話によると、この力に気付いたのが、やはり良翔と同じ今日だったという事。

きっかけは、掃除をしている際に、重い物をどかそうとして、持ち上げようとしたが、持ち上がらなかった。

そこで、芽衣は、この、重たい物が思った通りに浮いていてくれれば、掃除がもっと楽に出来るのに、と強く思ったそうだ。

途端に、先程持ち上がらなかった重い荷物が、空中に浮いていたらしい。

そこからは、芽衣が意思として伝えたい物に対してのみ、芽衣の意図した動きをするとの事だった。

つまり、このリモコンが、中を浮きながら、芽衣に向かって近づいてくるイメージを抱けば、たちまちリモコンが、その通りに動く。

あくまで芽衣が思い描いた物に対してのみ働く力の様だ。


芽衣は、一言で表せば、物体操作の力を手にしたのだ。

話を聞く限り、芽衣はまだ物の移動のみに使用している様だったが、イメージさえすれば、その物体自体を壊したり、形を変えたりさせる事も出来るのだろう。

対象物は芽衣が意識したもののみに働く、範囲が限定的なものだが、意識さえしてしまえば、その物に対してなんでも出来てしまう。

それは、とても素晴らしく、強力な力だろう。

だが、その反面、注意して使わねばならない。

良翔は少し不安になる。

芽衣が邪魔だと思い、それに対して悪意を抱けば、それを芽衣が意図しなくても破壊してしまったりするかもしれない。

そうなれば、きっと芽衣は悲しい思いをするだろう。

それに、この力は物だけでなく、生き物にも働かせられる力なのかもしれない。

例えば人間だ。

そう考えるといっそう深刻な気がする。


真剣な表情をして考えている良翔を見て、芽衣は少し不安な表情になり、コーヒーを飲む手を止める。

「良翔…。ひょっとして…、私のこと怖くなっちゃった?」

そんな芽衣の言葉を優しく包み込む様に良翔は言う。

「そんな事は全くないよ、芽衣。だから、それについては全く心配しなくて良いよ?それに、俺も芽衣に話したい事があるんだ。きっともっと驚くだろうさ」

それを聞いた芽衣は目を輝かせる。

「ひょっとして…、良翔も不思議な力を手に入れたの!?」

身を乗り出して聞いてくる芽衣を、良翔は手で制して、言葉を続ける。

「でも…、その前に、芽衣が手にした力について説明したい事があるんだ」

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