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サラリーマン、異世界へチート通勤する  作者: 縞熊模様
第1章
19/163

1-19

『さて、そうしたら、次の目的地は、いよいよ人の居る街にでも行ってみましょうか』

ノアから念願の提案がされる。

「ああ、是非行ってみたいな」

そう返事をした良翔がだったが、突然ノアが思い出した様に言う。

『あ、一つ言い忘れてたわ。この世界には、魔力があるって事は既に知っているわね?魔力はあらゆる物の力であり、魔法も当然それに依存するわ。そして、この他に、経験値とレベルというものが存在するの。これについては説明しなくても、良翔はよく知ってるわね?』

「へぇ、そんなものまで存在するんだ。…待てよ?…て事はさ、さっきのアースワイバーンを倒して、俺自身も経験値が手に入って、レベルが上がってたりする?」

『ふふ、ご名答。今自分のレベルがどれくらいなのか気になるでしょ?知りたい?』

「うんうん、是非知りたい!」

興奮する良翔に、ノアは意地悪そうに

『私からは教えてあげないわ。でも、調べる方法があるわよ?さて、どうやるのでしょう?』

それを聞き、少し考える良翔。

ひょっとして、と思い付いた事を早速イメージする。

すると、見事に良翔が思い描いた通りに、ゲームでよく見る、ステータスウインドウが良翔の目の前に表示される。

魔素を利用し、自分の属性やあらゆる力などを客観的に見たのだ。

つまり、先程ノアに教えて貰った鑑定スキルを自分に向けて発動し、それを数値化したものを表示したのだ。


【 名前 : 橘 良翔

レベル : 23

HP : 2300

魔力 : 5,202,300

スキル : イメージ創成、イメージメモリー、

: 五体属性魔法、光魔法、闇魔法、

: 神滅魔法、絶対防御、身体強化、

: 飛行、擬帯翼、異世界転移、鑑定、

: 無詠唱、魔素操作

職業 : 創造神、サラリーマン 】


良翔は、表示されたステータスウインドウを、思わず何度も見返す。

「魔力が500万超えてるって、桁違い過ぎるだろ…。それに、このスキル達は…チート過ぎるし。てか、最後の職業は意味わからん…。創造神て…、神かよ…。むしろ、サラリーマンの方が嘘っぽく見えるんですけど」


ゲームなら、ほぼデタラメな数値である事は間違いない。

何なら、良翔が今まで遊んだどのゲームよりも、ずば抜けて、最強と呼べるステータスなのだ。

魔力のうち、2,300という数値が本来の良翔の魔力量なのだろう。

その他の魔力は、あの球体10個分のものだ。

そう考えると、あの、球体一つに50万以上もの魔力が含まれていた事になる。

数値化されると、いかに、自分が作り出した球体が恐ろしいものだったか、よく分かる。

試しに先程、アースワイバーンを葬った球体をメモリースキルで再現し、それを鑑定すると

【 名称 : ディザスターストーム

魔力 : 42,000

属性 : 風 】

「ノアが1/3に弱めてくれても、なお、あの測り知れない破壊力を持った嵐が、実質14,000の魔力って事は…、最初に作り出したあの球体は…」

良翔は、凄まじい光景を想像し、身震いする。

恐怖を感じた良翔は、直ぐに、目の前に再現させたディザスターストームの球を自分に取り込み、消した。

こんな恐ろしいもの、迂闊に出すべきでは無いと、焦ったのだった。


それまで、口を閉じていたノアが、良翔の様子を見ていたが、良翔が慌ててディザスターストームを消したのを見て、口を開く。

『無事に自分のレベルは分かったみたいね?そして…、最初の球はとんでもなかったのが良く分かったでしょ?因みに、さっきのアースワイバーンは、HPが5200程だったわ。つまり、今回のも、最初の球よりは弱いにしても、明らかに過剰ダメージね。だから、次回からは、一度相手を調べてから、どれ程の攻撃をすれば倒せるか確認するのが良いと思うわ』

「…そうだね。…そうするよ。これはダメだ、危険過ぎるね」

良翔は、ノアに対し真剣に答える。

『ええ、私達にとってはそこまで危険では無いけど、この世界の大抵の生き物を倒す程度なら、あそこまでの威力は要らないわね。もちろん、まれにさっきの亀みたいに、あの攻撃にも耐えうる奴もいるけど、殆どは不要だわ』

「うん、分かった。もう少し力加減を練習しなきゃね」

『ええ、その方がいいと思うわ』

ノアは微笑んで答えた。


「ところで、ノア。一つ非常に気になる事が書かれてるんだけど…。職業に、創造神、て書いてあるんだけど、これってどういう事か分かる?」

気を取り直して、良翔が聞く。

『あぁ、それね。私も同じ職業になるのだけれど、私達は無から何かを想像する事が出来るじゃない?つまり、それって神の技なのよ。今は効率が良いから魔素から変換してあらゆる物を作り出してるけど、実際は良翔が最初に翼を作り出したみたいに、何も使用せずに、イメージを具現化する事は、それ即ち、創造なのよ。だから、神の創造の力を操る者、つまり、創造神って訳ね』

「なるほど…。ノアも神様なんだね…」

しばし沈黙した良翔が、ノアを見つめていると、突然クスリと笑う。

それに、疑問を抱いたノアが聞いてくる。

『な、何よ〜。何で私を見て笑うのよ〜。何かおかしな顔してた?』

ノアは焦って自分の顔をペタペタ触って確認する。

「いや、ごめんごめん。別に悪気はないんだよ。神様って、案外身近にいるのかもな、って思えたら、自分が今まで当たり前の様に、神様は絶対に会えない遠い存在だ、って思いこんでた事が、少し滑稽に思えてね」

『あぁ、そういうことね』

少しホッとした顔をするノア。

気を取り直したノアが、ニコッとしながら

『もう一つ、教えてあげるわ。アースワイバーンがいた辺りをよく見てみて』

そう言われて、良翔は目を凝らして、先程アースワイバーンがいた辺りを良く見る。

すると何やら、粉となった地面に、光を反射するものが半分ほど顔を出している。

良翔は光り輝く物体に近付いて行くと、それを持ち上げる。

それは赤い宝石だった。

そして、拾い上げた場所には、白い牙が二本ほど落ちている。

そちらも拾い上げ、ノアに見せる。

ノアも近づいて来て、良翔の掌に乗った宝石と牙を見やる。

『この赤い宝石は、竜の涙といって、この世界の装飾品に多く使われているわ。そして、その牙は、そのまんまのアースワイバーンの牙ね。どちらも、この世界のお店で買い取ってくれるのよ。つまり、これで軍資金を手にする事が出来るってことね』

話を聞き、良翔は目を見開き興奮する。

「おお!憧れに憧れた、モンスターからドロップアイテムを手にする事ができるとは!」

良翔は早速、ノアに言われなくても、鑑定スキルでドロップアイテムを確認する。


【 名称 : 竜の涙

効果 : 魔力効果増強(中) 】


【 名称 : アースワイバーンの牙

効果 : 土属性耐性(中) 】

それを見ると、良翔はひどく興奮を覚える。

あれだけ憧れた、モンスターを倒してドロップアイテムを得る世界。

そして、経験値を得て、レベルが上がる事で、自分が強くなれる世界。

極め付けは、魔法まである世界。

正にこの世界は、良翔の希望そのものだった。

実際に、目の当たりにした事で、興奮を覚えるのは、当然の事だろう。

良翔は興奮しながらも、初の戦利品を大事に通勤バッグへ仕舞う。


しかし、ふと良翔は気付く。

体に気怠さを覚えたのだ。

よくよく、考えてみれば、朝から、昼休憩を挟んだとはいえ、ずっとイメージを繰り返しては創造し続け、そして、あらゆる事が出来るようになっただけでなく、あらゆる物に出会い、驚き、興奮し続けて来たのだ。


良翔は一旦、湖へ戻ると、休憩をノアに持ちかける。

ノアは快く、承諾した。

その後、しばらく休憩した後に、良翔は気を取り直し、ノアと威力をコントロールする為の練習をして過ごした。

真面目に練習に取り組んでいたせいか、気がつくと、日はスッカリ落ち、辺りは暗くなっていた。

ノアとの練習を打ち切り、良翔は時刻を確認する。

時計は19時を過ぎていた。

「今日はここまでだな」

そう呟くと、まだまだここにいたい気持ちに駆られるが、ぐっと堪え、ノアに、今日は帰る旨を伝える。


ノアは素直に了承した。

するとノアは姿を消した。

また、良翔の脳内へと戻ったのだ。


そして、良翔はゲートを再現させる。

良翔は、ゲートを通る前に、辺りを良く眺め、記憶に留める。

暗くなったとはいえ、その美しい景色は、夜であっても、星の光を湖面に反射させ、日中とは違った神秘さを漂わせていたのだった。 良翔は、また来よう、と強く胸に抱き、ゲートを通る。


怒涛の異世界での体験を終え、ゲートがつながれている、あの駅のトイレの個室に戻ってきた。

ゆうに数時間は、このトイレの個室だけは閉じたまま、つまり使用中だったのだが、その間に誰も不思議に思わなかったのだろうか。

いくら、分かりづらいとはいえ、案内も出ているのだ。

何人かはここを訪れても不思議ではない。


良翔は、恐る恐る個室の扉を開ける。

しかし、そこには、入って来た時と同様、誰も居ない。

手を洗い、何事もなくトイレを出る。

何故か良翔はよそよそしい気持ちになる。

先程まで、他人が通常する事ではない経験をして来た自分が、何やらバレてはいけない秘密を持っているようで、自然と隠したい気持ちになるのだ。

それがぎこちなさを生み、よそよそしく感じてしまう。


トイレに繋がる、従業員用の様な薄暗い通路を抜け、駅改札内へ出る。

朝とは進行方向を逆にした人々が、目的のホームへ向けて、いそいそと歩いて行くのが見える。

普段下車しない駅とは言え、なんだかとても不思議な光景を見ている気がする。

良翔は少し、立ったままその光景をぼうっと眺めていたが、やがて、思い出した様に帰路へつく。

ホームへ降りると、丁度電車が入ってくる。

良翔は、入れそうなスペースを見つけ、もぐりこむ様に乗り込む。

ドアが閉まり、列車が揺れながら動き出す。

窓の外を、見慣れた景色が通り過ぎていく。

だが、良翔はその景色がとても新鮮に見えた。

車の光、家々やビルの光、街灯や遠くに見える、月の色さえも、とても新鮮に感じれたのだ。

神経が過敏になっている。

そう感じた良翔は先程までの経験が、夢ではないと確かめる様に、心の中で声掛ける。

「ノア?」

すると頭の中に響く様に声が返ってくる。

『なあに、良翔?』

顔は見えないが、その声を聞くと良翔は安堵した。

先程まで、自然と目でハッキリと追っていた景色も、今は意識の外にあり、ただ流れる様を見ている。

「いや、なんだか色々あって疲れた一日だったけど、すごく充実してたよ。そして凄い面白かった。なんて言うか、そんな体験をさせてくれたノアには感謝してるよ」

良翔がお礼を述べると、ノアは照れた様に返してくる。

『そんな事ないわよ、良翔。私も今日、良翔に人間の体を与えられて、沢山の経験をして、とても楽しかったわ。今までは良翔の中から、ただ見るだけの世界だったのに、それが手に触れて、肌で感じれて、もう夢見心地だったわ。こちらこそ、ありがとう、良翔』

そうか、ノアも全てが初めてだったんだな、と思うと、良翔は心の中で小さく微笑む。


やがて、下車駅に着いた。

良翔は電車を降り、駅を出る。

いつもの家路への徒歩道を歩き出した良翔だが、随分と久々な感じがする。

歩きながら良翔は、今日の出来事を芽衣に話すか悩む。

言ったところで信じてもらえそうに無いことを思った良翔は、会社を休んでしまった事も伏せておくことにした。

下手に心配をかけるより、後々、説明しなくてはならない機会が来た時に伝えようと、心に決めたのであった。

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