表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サラリーマン、異世界へチート通勤する  作者: 縞熊模様
第1章
18/163

1-18

目的の湖まで、飛ぶと良翔はノアを腕から降ろした。

結局目的地に着くまでの間、ノアはこのままが良いと駄々をこね、お姫様抱っこのまま飛び続けたのだった。


湖に着き、とても良翔の世界では見る事が叶わない様な美しい湖である事に気づく。

透明度が驚くほど高く、かなりの深さまで見えるのだ。

だが、底はそれよりも深い様で、底の方までは見えない。

しかし、視界の許す限りの世界には、多種多様な魚が見え、心地好さそうにゆったりと泳いでいる。

気温も程よく、春先の様な感じだ。

先程超えて来た、雪を被った山とは打って変わって、花を敷き、鬱陶しさ感じをさせないほどに気持ちよく生えた草の合間に、湖面の光が反射して、薄い光を差し込ませているのだ。

この世のものとは思えない程美しく、落ち着きを伴った尊い景色に良翔は心が洗われて行くのを感じる。


『綺麗ね…』

ノアも、良翔と同じく景色を見つめ、風に髪をなびかせながらそう呟く。

先程までの興奮が嘘の様に穏やかだ。


「さて、これからどうしようか…」

良翔は気持ちを切り替える様にノアに聞く。

そうね、と呟く様にノアは言いながら、周囲に目を配らせる。

するとノアは、ある一点を見つめる様に、視線を止める。

そして、真っ直ぐ見つめる。

ノアの視線の先は、深く茂る森の中だ。

良翔もつられ、その視線の先を追いかける。

何か大きな影が動くのが見える。

「ノア…あれは?」

『モンスターよ、良翔。本当はさっきの亀でモンスターを倒す練習をしておきたかったのだけれど、仕方ないわ。アイツを倒すの。あ、ただ、さっきみたいな行き過ぎた力はダメよ?』

良翔はノアに言われ、蠢く影を見つめる。

本当は倒したりなどはせずにさっきみたいに、話して済むならそれに越した事はない、と良翔は心の中で思う。

だが、それを見越した様にノアが言う。

『アイツはさっきの亀みたいに話せないわよ?そんなに知性は高くないわ』

ノアに言われ、わずかな望みを捨てる良翔。

「ノアはよく分かるな。俺には大きな影が動いてる様にしか見えないからさ…。あれが何なのか分かるのかい?」

『アイツは…、アースワイバーンね。私も見るのは初めてだし、会うのも初めてよ。でも、魔素を伝って、それの大きさや色、形、どんな属性なのか、調べようとするイメージをすれば分かるようになるわ。後は良翔の知識の中にある、ゲームやら、小説の情報と特徴を結びつけるだけよ。いわゆる、遠視+鑑定スキルと言った所かしら。だから、良翔にも出来るわよ?』

「え?俺の中の知識が役に立つの?

でも、俺のアースワイバーンなんて、空想上のモンスターであって、本物は見たことないよ?」

『ここは良翔の望んだ世界よ。良翔の望んだ生物や事象が存在する世界を意図的に選んで来ているの。もちろん、この世界はちゃんと存在している本物の世界だけど、良翔の望んだ、良翔の知識にある生物が居るのは何の不思議でもないわ』

「…なるほど。だから、姿や形、属性なんかが分かれば、俺の知識にある情報と紐づけることが出来るのか」

ええ、そうよ、と言いながらノアが視線の先の森に向かって歩き出す。

良翔もそれに続く。


良翔は息を飲み、なるべく足音を立てない様に進む。

そして、ノアに言われた通り、アースワイバーンの弱点である風の球体を用意する。

念の為、その球には、3個分をギュッと拳大に収縮したものだ。


少し歩くと、アースワイバーンの姿が見えた。

全体的に茶褐色をしており、さっきのアダマンタートルよりは小さいが、それでも十分に大きい。

人の丈よりは3倍ほどの大きさで、動く度に大地に軽い振動が起こる。

口には竜族の威厳を残した鋭い牙が見え隠れし、巨大な尾と羽は、一振りで巨木をも倒してしまうほどの存在感がある。手足に生えた鋭く大きい爪は、たとえ像であってもひとなぎで切り裂いてしまうだろう。

良翔は、その姿を見て、思わず球の威力を上げようかと迷う。

そこにノアが小声で話し掛けてくる。

『また、そんな物騒なもの作って…』

良翔の作り出した球を見て、そんな事を言う。

そして、気を取り直したかの様に続ける。

『まぁ、いいわ。一回、それにどれ程の威力が備わっているのか、いくら危険だと言われても目の当たりにしないと良翔だって実感わかないわよね。だから、試しに打ってみて。モチロン、周囲へのフォローは私の方でするわ。良翔は遠慮なく戦って頂戴』

そう言われると放つ事に気が引ける良翔だが、実際ノアに言われた通り、この球には、見た感じにそれ程の威力がある様にも思えないのも事実なのだ。


「分かった、ノア。行ってくるね」

意を決して、良翔は震える足に鞭を打つ。

シッカリと大地に踏ん張り、魔素を利用して、自分の体を強化する。

体には、あらゆる衝撃を無効化する様にイメージし、凝縮した魔素を薄く体の表面に纏わせていく。

全身を覆うと、今度は別の魔素を用いて、脚部と腕に自分の伝える力が何倍にもなる様なイメージを伝える。

準備は整った。

ちらりとノアを見やると、行ってらっしゃいと笑顔を見せてくれる。

よし。

そう掛け声を自分にかけ、一気にアースワイバーンへ駆け出す。


と思った途端、アースワイバーンがあっという間に目の前に来た。

急いでブレーキをかける。

移動スピードが速すぎたのだ。

良翔は自分の動体視力を上げる事を失念していた。

お陰で、良翔のスピードに目が付いて行けず、気がつけば、アースワイバーンの顔の真下にいたのだ。

当のアースワイバーンも何か異変を感じはしたのだが、まさか自分の真下にいるとも思わず、顔を上げ周囲を見回している。

良翔は一瞬躊躇したが、右手に作り出した、球体に目をやり、思い切ってアースワイバーンに押し付ける。


ゴゥゥッ!


突然凄まじい竜巻が発生し、良翔もろとも包み込んでしまった。

良翔は近くに居過ぎたのだ。

しかし、良翔は何ともなかった。

先程、自分を守る為に包み込んだ膜が、シッカリと全ての衝撃を消し去っていた。

良翔は、見た目ではとてつもない、竜巻を目の前にしているのだが、どこか他人事の様に、その景色を見ていた。

一方のアースワイバーンは、良翔の球が触れた途端、一瞬で上空に吹き飛ばされ、竜巻が一番荒れ狂う位置にたどり着いた途端、体を細切れに切り裂かれ、吹き出した血液も、竜巻の中で一瞬にして霧散して、体もろとも徐々に、その巨大な姿を消していく。

竜巻はアースワイバーンだけでなく、その渦の中にある、あらゆる岩や草、木、小石などを巻き上げ、全てを一瞬にして粉に変えていく。

それは正に一瞬の出来事だった。


少しの間が空き、切り刻む対象を失った竜巻は、徐々に威力を弱め、やがてその荒々しい姿を消していった。

視界が徐々に晴れると、良翔は目を疑った。


そこには巨大なクレーターが出来ていたのだ。

良翔の立っている位置だけが、何事もなかったかの様に綺麗に残り、それ以外の周囲10m程は何も無いのだ。

あるのはクレーターの表面に薄く積もった、切り刻まれ粉となったものだけだ。

暫く呆気に取られていると、ノアが慌てて走ってきた。

『良翔、大丈夫なの!?まさか、自分もろとも巻き込みながら、あれを放つとはツユにも思わないじゃない!怪我とかしてない?どこか痛いところない?』

「…あ、ああ。特に問題なさそうだよ…」

ノアに話しかけられているが、良翔は、まだ呆然としている。

その様子を見たノアは、安堵のため息をついた。

『まぁ、無事だとは思ったけれど、流石にあの竜巻に飲まれるのを見ると、焦るわよ。それにしても、その防御壁は大成功ね』

やっと、意識が戻ってきた良翔は、そう言われ、自分の両手をマジマジと見る。

小刻みに手が震えていた。

正直、怖かったのだ。

だが、それも一瞬で終わってしまった。

そして、自分は今も、先程と何ら変わらない。

強いて言えば、先程よりも少し力がみなぎっている気がする。

良翔はみなぎる力を抑える様に手を閉じては開いてを繰り返した。

少しして、良翔は思い出した様に

「そういえば…、最後の試験は無事合格かな?」

ん?とノアは良翔の質問に気付き、またまた、と言った顔をする。

『当たり前じゃない。良翔の周囲を見てごらんなさいよ。有無を言わさず合格だと物語ってるじゃない。それに、これでも私が影響範囲を抑えたのよ?何もしてなかったら、これの3倍は被害が出てたわね』

それを聞いた良翔は、ん?と耳を止める。

『さ、ん、ば、い、よ良翔。これで半径10mぐらい。つまりは半径30mくらいはこんな感じに大きなクレーターを作ってたって事よ』

「…そんなに、凄かったんだ…」

『そうよ?だから、自分がいかに凄いことをしてるかよく分かったかしら?』

それを聞き、良翔は少し考え

「あぁ、よく分かったよ…。少し力を使うのが怖くなったかな。そして、自分はそれだけの力を生み出せるって事もよく分かった。かと言って、力の出し惜しみして、死んじゃってもしょうがないからね。この力はちゃんと時と場合を考えて、必要な時に使う様にしなきゃ、だね。」

うんうん、と頷きノアが言う。

『その通りよ、良翔。イメージから力を具現化する事はとても素晴らしい能力なの。でも、反面とてつもなく恐ろしい力でもあるわ。その恐ろしさを良翔はちゃんと理解出来た。それが、今回の練習の目的よ。だから、今回の練習は大成功』

「うん、それを知る事はとても大事な事だと思う。最初は浮かれて、何でも思い通りに実現する最高の力だって思ってた。だけど、こうやって、その力の凄さを目の当たりにすると、最高の力であると同時に、とても危険な力なんだって実感出来た。それは意図してなくても、簡単に他者を傷付けてしまうものなんだってね」

ノアはニッコリ微笑む。

『ええ、良翔にそこまで理解してもらえて嬉しいわ』

良翔もニッコリ笑う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ