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サラリーマン、異世界へチート通勤する  作者: 縞熊模様
第2章
162/163

2-51

良翔は、アトスの宿の室内に出る。

良翔が転移ゲートから出て来たのに気付いたのは窓辺に立っていた、秋翔だけだった。

ノアやフィー、エヴァは各々机に突っ伏したり、横になっているハザの隣で顔を伏せて眠っている。

 「どうしたんだ、良翔」

秋翔は窓の外から視線を外し、良翔に話しかける。

秋翔もなんだかんだ言って疲れた表情をしていた。

 「お疲れの所、突然すまないな。早速で悪いんだが、秋翔リンクさせてくれ。そっちで何が起きていたのかと、こちらに俺が今来た理由を共有したい」

 「……ああ、構わないよ」

そう言い、秋翔は良翔に手を伸ばす。

良翔も手を伸ばし、互いの手が触れると、良翔と秋翔の中にそれぞれの経験が共有される。

 「……なる程、芽衣がね……。芽衣は強いな。もちろん俺はYESだ。その申し出は素直に嬉しく思う。後はみんなに聴いてみよう」

秋翔がニコリと微笑みながら言う。

一方の良翔は、秋翔が体験した恐怖の時間と、ハザの痛々しい迄の記憶が共有された事で、絶句する。

 「なんで事だ……、こんなにも……」

良翔はベッドの上で静かに眠っているハザに視線を向ける。

そして、そのまま歩いてハザに近づく。

ベッドの隣に良翔が立つと、ハザのベッドにもたれかかる様に寝ていたノアが目を覚ます。

 『ああ、良翔、来てたの。気付かなくてごめんね。寝ちゃってたわ』

ノアに対し良翔は優しく微笑み頭を撫でる。

 「いや、気にしなくていいよ、ノア。それよりも、ハザやノアが辛い状況にあったのに、不在にしてすまなかった……」

良翔があまりにも悲しそうな顔をした事で、珍しくノアが焦る。

 『い、いえ、良翔!貴方はちっとも悪くないわ!私達がハザ達を早く見つけてあげられなかったのが悪いのよ』

それに対し、良翔は悲しくも薄く笑うのみだった。

 「少し良いかな?」

良翔がそう言った為、ノアは自分が座っていた席を空ける。

良翔はノアから譲られた席にゆっくり腰掛け、ハザの右手に触れる。

 「ハザ、聞こえるか?今元通りにしてやるからな……」

そう良翔が小さく言うと、良翔はハザの右手から、魔力を流し始める。

だが、それに気付いたノアは残念そうな顔をし、良翔に伝える。

 『私や秋翔も試したのだけれど、破損してしまった左手が何故か復元されないのよ……』

 「………そうか」

良翔はそうポツリと呟くも、魔力を注ぐことを辞めない。

ノアは見かねて、良翔の肩に触れようとする。

 『良翔……』

だが、次の瞬間、ノア達が何度試しても上手くいかなかったハザの左腕が徐々に復元され始めたのだった。

 『え……、どうやって……』

不思議がるノアを横目に、良翔はハザの腕の蘇生に注力する。

やがて、ハザの腕は完全に元どおりに復元された。

それを固唾を飲み見守っていた、ノアと秋翔は盛大に喜び合う。

 『凄い!良翔どうやったの!?』

やっと、肩の力を抜き、安堵の顔をした良翔はノアに笑顔で説明する。

 「実は、今日そこにいるフィーと契約を結んだ時に、マナという新しい力を使えるようになったんだ」

 『マナって……?』

当然ノアは知らない。

秋翔は良翔と記憶と体験を共有した事で、知識として知ってはいるが、契約をしているのは良翔のマナなので、秋翔はフィーの力を使う事は出来ない。


 「それは、私から説明した方がいいかしら?」

声の方に顔を向けると、先程ノアと秋翔が騒いだ事で目を覚ましたフィーが、目を擦りながら発言したのだった。

 「ああ、頼めるかい?」

良翔は素直にフィーにお願いする。

フィーはニコリと笑う。

 「ええ、もちろんよ。えっとね、先ずは目で見てもらった方が分かりやすいわね」

そう言うと、フィーは立ち上がり、魔素を解放し、精神生命体へと姿を変える。

見た目は先程とは何も変わってはいない。

その変化に気付けない、ノアは首を傾げる。

 『ごめん、フィー。何か変わったの?』

それに対し、ふふふと微笑する。

 「ノアちゃんも魔力鑑定出来るわよね?試しに私を鑑定してみて頂戴な」

ノアはフィーの発言に訝しげな顔をしながらも、魔力鑑定をフィーに向けて発動する。

そして、驚きの顔をする。

 『え?フィー、あなた魔力が全くないじゃない?魔力遮断膜でも張ったの?』

 「いいえ。張ってはいないわ。そして、さらにノアちゃん。私に向けて部屋が傷付かない程度の攻撃魔法を放ってみて」

それにはノアは難色を示す。

 『え…、何の為に…。嫌よ、仲間を攻撃するなんて私には出来ないわ……』

ノアがそう言うので、良翔は立ち上がり、ノアに声を掛ける。

 「ノア、安心していいよ。良いかい見ててくれ」

良翔はそう言うと、フィーに対して、殺傷能力があると思われる、鋭利な魔力球をフィーに向けて躊躇いなく放つ。

 『ちょ!良翔何して……!』

そう言いながら、フィーの様子を走って確認しに行ったノアの足が止まる。

フィーは先程の姿勢のままニコニコしたままだった。

 『大丈夫……みたいね…。確かに良翔の魔法はフィーに当たったわよね?なのに、何で全く傷ついてないのよ?』

するとフィーは再び、ふふふ、と笑うとノアに説明を始める。

 「ノアちゃん、これがマナの力よ。正確には、マナに対しては魔力のみで出来た攻撃は効かないの。マナとは、精神の力なのよ。そして、私は、そのマナのみで存在する精神生命体なの。だから、当然魔力感知には引っかからないわ。魔力がないから当然ね。そして、マナと魔力の関係性なんだけど……、魔力というのは、魔素に対し、意思、つまりマナを伝える事で、初めて魔力となるの。マナなくして、魔法は使えないし、また、魔素なくしてマナは魔法を使えない。魔法に関して言えば、互いに依存する関係となるの。因みにだけど、魔素が無くともマナだけでも、魔法の様な事は起こせるわ。その際に消費するのはその者の精神力。そして、魔力よりも遥かに物に対して与える威力はは絶大だわ」

話を聞いたノアは沈黙する。

しばしの後、ノアは口を開く。

 『つまり……、魔力の根源はマナにあって、マナ無くして、魔法は使えない。マナとは精神、つまり思いや願いなんかの力って感じかしらね?因みに、精神生命体であるあなたにダメージを与えようと思ったらマナの力が必要になるってことかしら?つまり、思いの力って事ね。因みにフィーはどうやって誕生したの?魔物は魔力の吹き溜りに自然発生すると聞くわ。では、精神生命体は?マナの吹き溜りみたいなものがあるって事?』

ノアは頭の回転が速い。

良翔が感心していると、フィーが答える。

 「ええ、ノアちゃんの言う通りよ。精神生命体である私にダメージを与えるにはマナの力が必要よ。そして、私の誕生についてだけど、吹き溜りと言うよりは、人々の思いが私を生み出したって感じね。言っていなかったけど、私は人々が信じ祀る、風の精霊、シルフィードなの」

 『……いわば宗教の様な信仰心から生み出された存在が、実際に誕生したって事かしら?』

 「ええ、そんなところよ」

ノアは腕を組み考える。


 『それで、良翔はあなたと契約を結んだと言っていたけど……。フィーと契約を結ぶとマナを使える様になるのかしら』

 「ええ、使える様になるわ。正確には私と契約しなくても本来なら使える筈なの。実際に貴方達は魔法を使ってるからね。魔法を使うには、魔素に対して意志を働かせる必要があるの。つまり、それってマナを使用して魔法を使ってるって事と同じ事なのよ。ただ、貴方達人間を含め、多くの生き物は普段あるゆる物に、あらゆる思いや考えを持ち過ぎみたいなの。だから、ただ使おうと思っても使えない」

 『……つまり、邪念が邪魔をするって感じ?』

フィーはノアの答えに、軽く微笑んで答える。

 「邪念って呼ぶと聞こえが悪いけど、もっと単純にいろんな考えを一つに絞るだけって事なのよね。ただ、それはそれで貴方達には難しいみたいね。だから、私と先ずは契約して、その力を扱ってみればどんな感じなのか分かるんじゃ無いかしら?」

それには、ノアも納得する。

 『それもそうね。フィー、改めて私と後で契約してくれないかしら』

 「ええ、もちろんよ。後で2人っきりの時にしましょ。契約にはアナタが誓う心の声を私に伝える必要があるわ。それは2人きりの方がやりやすいでしょ?」

すると、ノアはチラリと良翔を見てから、フィーに頷く。

 『ええ、任せるわ、フィー。そうなると………。さっき良翔がハザに施した特殊な感じの魔法って、そのマナを利用したのね?』

ノアは良翔に向き直り、良翔に問う。

 「ああ、その通りだよ、ノア。ハザの腕には、同じく阻害のマナがあったんだ。恐らく相手の思念が傷口に残っていて、魔力をいくら流しても、そこで無効にしてしまっていたんだと思う。だから、まずはその傷口のマナを取り除いて、正常な流れを作ってから、魔力を流し込んだんだ」

ノアは腕を組み、少し考える。

 『……マナって中々に厄介ね…。そして、私達の課題も浮き彫りになったわね。私達は、このマナの力を持たずに、あの男と対峙し大敗を喫した。それはマナの力を得るのも優先的課題であると同時に、あの男の力の根元を知らなくてはならないと言う事でもあるわ。私達の知らない力がまだ他にもあるのかも知れない…』

それに、良翔は深く頷く。

 「ノアの言う通りだ。正に俺もそう考えていた所だよ。マナと魔力、そしてこの他にも何か力があるのではないかと、ね。だけど、いずれにしても今はマナの取得を最優先に考えよう。マナを自由自在に扱える様になったら新たに見える領域があるかも知れない。今はそれに期待だな」

良翔は一呼吸置き、笑顔で全員に向く。

 「さぁ、そこで提案なんだが、芽衣がみんなに夕飯を用意してるんだ。良かったらみんなで食べないかい?芽衣も今日みんなとこうして会えて、折角だからちゃんと話したい、と言っていた。マナの事や今後の事も含めて、その場で食事しながら話してはどうだろう?」

それには、ノアもフィーも頷く。

そこに声が聞こえる。

 「良翔殿……。それは私も参加可能うだろうか?お恥ずかしい話しながら、腹が減ってしまって……」

一斉に皆が声の方を向く。

すると、ハザが体を起こし、良翔達の方を恥ずかしそうにしながら向いているではないか。

 『ハザ!気が付いたの!?』

ノアが歓喜の声を上げる。

 「ああ……、すまぬ、ノア殿。ご心配をお掛けした」

 「いや、気にしなくていいよ、ハザ。本当に……、無事で良かった。こっちこそ守ってやれなくて済まなかった」

すると、ハザは目を見開き、今まで自分がどんな目に有ったのかを思い出した様だった。

 「い、いや良翔殿。こちらこそ、申し訳ない。油断していたとはいえ、あそこまで歯が立たぬ相手が居るとは……。正直ここに私が存在出来ていることが疑わしい程だ……」


しばしの沈黙がその場を流れる。

そして、最初に口を開いたのはフィーだった。

 「まぁ、皆さん。無事にこうして再開出来たのだから、気にしない事です。過去の事を悔いても致し方ないですわ」

フィーが重くなりかけた空気を一蹴する。

 「そうだな。フィーの言う通りだと俺は思うぞ。さぁ、早く芽衣のところに行こう」

秋翔は笑顔で皆を促す。


一同は頷き、良翔の作り出した異世界転移ゲートを通って、芽衣の待つリビングへと向かう。

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