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しばらくして噴煙がおさまると、そこには信じられない光景があった。
何とノアから先の目の前が大きくえぐれている。
そして目を見張るものが鎮座していた。
先程、課題にしてちょいちょい壊していたアダマンストーンの埋まっていた部分が全て露わになったのだ。
実はとてつもなく巨大だったのだ。
直径は50メートルほどだろうか。
大きな半円状の球体をしていた。
下の方は平らなのだろうか…。
そう良翔が思っていると、突然アダマンストーンが小刻みに揺れ始める。
アダマンストーンの周りにある石が、小刻みに揺れる、大地の振動に抗えず、カラカラと音を立てて、ノアが開けた大穴の底に転がり落ちて行く。
下の方で何かが出てくる。
それを見やると良翔は愕然とする。
鋭利な突起物をまとい、真っ黒な瞳の亀の様な頭が出てきた。
頭を出したアダマンストーンは、続いて手足と尻尾を出現させる。
底には禍々しい姿の、真っ黒な巨大な亀がいた。
「…ノア。…これって…」
『これはね、実はアダマンタートルなのよ』
ノアは何気無しに言ってのける。
そして、良翔の方へ向き直ると口を開く。
『最終試練の課題は、とてつもない力で、アダマンストーンを砕く、改め、アダマンタートルの甲羅を破壊する、です!』
「え…、えぇーーー!?」
良翔は思わず大きな声を出す。
すると、声に反応したアダマンタートルの顔が良翔の方を向く。
何やら鼻からは、ふーふー荒い息を出している。
怒っている様に見える…。
アダマンタートルは、一歩踏み出す。
そして徐々に手足を動かし始め、尻尾を揺らしながら、だんだんとスピードを上げて、良翔めがけて走ってくる。
良翔はうろたえた。
『この世界には、人種やその他の種族以外にモンスターがいる、と言ったはずよ?』
思い返せば確かに、ノアはモンスターや悪魔も居ると言っていた。
そして、今自分に向かって、凄まじい破壊音を響かせながら、走ってくるあるアダマンタートルもモンスターなのだった。
『気持ちの準備は出来てるかしら、良翔?』
そう言いながら、ノアは良翔の前へ歩み出る。
アダマンタートルは先程よりも加速し、こちらに向かってくる。
「の、ノア危ない!!」
ノアはニコと笑うと、目前に迫るアダマンタートルに向き合う。
そして、大きく振りかぶり、グーパンチをアダマンタートルの顔に叩きつける。
ンドゴッ!!
ノアの拳が、アダマンタートルの顔に大きな窪みをつくる。
窪みはそのまま衝撃を頭から後ろへ伝えて行き、アダマンタートルの体が浮いたと思った途端に、巨大な体を後ろに凄まじい勢いで吹き飛ばされて行く。
良翔は、アダマンタートルが、鎮座していた元の場所に、戻る様に吹き飛ばされて行く様子を呆気に取られ見ていた。
『次は良翔の番よ?良翔は魔素を使ってイメージして、あのモンスター亀をやっつけるのよ?だけど、ただ倒すのはダメだからね。チャンとあの甲羅を破壊するのよ。そして、その方法は、あれを破壊出来るだけの大きな力を与えて、やるのよ?』
「そ、そうだったね。分かった、ノア。何とかやってみせるよ」
そうは言ったものの、正直言って怖い。
膝が震えているのがわかる。
アダマンタートルは、先程のノアのパンチで脳震盪でも起こしたのだろうか。
ユラユラ揺れている。
『さぁ、チャンスよ良翔。どうな力をつかうのか、私に見せてみて♪』
「…分かったよ、ノア」
そう呟く様に、自分に言い聞かせる様に、良翔は口を開く。
そして、大きく深呼吸して、意を決する。
イメージを始める。
実は、この練習を始める前から、良翔は思い描いていたイメージがあった。
ノアは、良翔がどの様なイメージをするのか、ワクワクしながらも注意深く見ていた。
すると良翔がイメージを始めた途端、周囲の魔素が物凄い勢いで、一気に良翔に集まって行くのを感じる。
そして集まった魔素が5個の塊に姿を変える。
そして魔素が更に姿を変えて行く。
一つ目の魔素の塊が、炎の球に姿を変える。
二つ目の魔素の塊が、水の球に姿に変える。
三つ目の魔素の塊が、風の球に姿を変える。
四つ目の魔素の塊が、雷の球に姿を変える。
五つ目の魔素の塊が、土の球に姿を変える。
それらを合わせて五大属性の混ざった攻撃でもするのかしら、とノアは想像する。
ところが良翔はまだ更に魔素を集めている。
先程集めた魔素もそれなりにあったが、今集め続けてる魔素の量は既に、それの5倍はあった。
ノアは、何をするのかしら、と目を見開いて良翔を見つめる。
良翔は先程作り出した、5属性の球を集めると一つの球へと融合させる。
あらゆるものが混ざり合った為か、球は不安定な動きをしている。
そしてその周りを囲う様に、先程大量に集めた魔素が、二層の球体に姿を変えた。
一層目の球体は、光属性へと姿を変え、不安定だった、混合された球体を覆い、押さえつけて行く。
先程まで、ボゴボコ蠢いていた球が光に包まれ、拳大程の大きさへ収束されて行く。
サイズは小さくなったが、凄まじい力に圧縮されたのをノアは感じる。
すると、今度は二層目の球が、次第に闇属性へと姿を変え、拳大の球を覆っていく。
先程まで、光属性に包まれ、眩い光を放っていた球体が、二層目の球体に包まれる事により、漆黒の球体へと姿を変えた。
ノアは、頭の中で警笛が鳴っているのを感じる。
正直、自由に良翔にイメージして欲しいと思いはしたが、ここまで出来るものなのだろうか…。
ノアの推測からしても、あの球体の秘める力は、とてつもない域に達しているのだ。
ノアが危険を感じ、良翔に声を掛けようとしたタイミングで目を疑う光景が飛び込んでくる。
ただでさえ、危険水域にある球体が、恐らくメモリー機能を使ったのであろう、一瞬で、更に、九つ増えたのだ。
全部で10個になった球体は、アダマンタートルを取り囲む様に配置されている。
ノアは焦り、良翔に叫ぶ。
『ま、待って、良翔!!お願い、待って、良翔!!!』
良翔は準備が整ったのを感じる。
「思ったより、上手くいったみたいだけど…、大丈夫か…、これ?」
良翔は出来上がった球体を見つめる。
イメージした通りとはいえ、何やら凄い事になっている。
球はその凄まじい力の片鱗を周囲へ顕現させている。
球の周囲はバチバチ音を立て、時折、黒い空間をランダムに出現させている。
まるで小さなブラックホールが不規則に発生している様だ。
そして黒い空間は、出現する度に、その空間にある物を一瞬にして飲み込み、すぐに姿を消す。
更に、その源である球は、この間にも、勝手に周囲の魔素を取り込み続けているのだ。
自動的に成長を続ける球は、既に出現時よりも、二倍ほどの魔素量を含んでいるが、足りないと言わんばかり、飽きる事なく魔素を取り込み続けている。
大きさは、出現時と同様に拳大のままだが、内に秘めるそのエネルギーは、作り出した良翔でさえも、計り知れないと想像がつく。
そう考えながら、球を見つめていると、ノアの声が聞こえた。
『ま、待って、良翔!!お願い、待って、良翔!!!』
ノアは、良翔が踏みとどまる事を必死に願いながら、良翔の返答を待つ。
「あ、あぁ、ノア。まだ、放たないよ。それにしても…ノア…、これってこのまま、アイツにぶつけても大丈夫かなぁ…?」
ノアは大きく安堵の溜息をついた。
そして気を取り直し、慌てて良翔に言う。
『当然、放ってはダメよ!!良翔、あなたね…。これ、とんでもない力を持ってるわよ!!自由にイメージしてとは言ったけど…、あなたのこれ、球体一つで、アダマンタートルはおろか、この辺一帯…、軽く半径1キロは消し飛ぶでしょうね…。しかも、それが10個って…』
「え…、嘘…」
『オマケにこの球、勝手に成長を続けてるし、ただの攻撃魔法、なんて生易しいものじゃ、済まされないわ』
沈黙が流れる。