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サラリーマン、異世界へチート通勤する  作者: 縞熊模様
第2章
157/163

2-46

良翔が湖に戻ると、そこでは子供達は先程の魔法陣を利用して湖の真上に座り込み、水の中の生物を覗き込んでいる。

フィーはその傍に浮き、子供達の様子を見守っている。


一方芽衣は湖の縁に立ち、湖面を眺めている。

良翔が不思議にその様子を眺めていると、芽衣はおもむろに手を下から上に振り上げる。

すると、芽衣の目の前の湖面がドンッ!と水しぶきを上げながら大量に吹き上がる。

その反動でその付近を泳いでいた2匹程の魚が上に吹き飛ばされ、芽衣の周りにボトボト落ちてくる。

どうやら、芽衣は魚を取っているらしい。

良翔は驚きと共に呆れながらその光景を眺める。

 「どんな魚の取り方だよ……」

良翔が芽衣を眺めていると、良翔が戻った事に気付いた芽衣が良翔に振り向き、大声で叫ぶ。

 「良翔ー!!今夜の夕飯はお魚さんだよー!!」

そう言う芽衣の表情は満面の笑みだ。

良翔は苦笑いしながらも、片手を上げてそれに応える。

そして、その声を聞いた子供達も急いで芽衣の方に駆け戻り

 「未亜もお魚さん取るー!!」

 「奈々も!奈々も!」

そう騒ぎ、せっせと芽衣の真似をして、湖の水を盛大に吹き上げさせる。

側から見れば、とんでもない光景だ。

だが、良翔はやはり、こんな光景で動揺していては夜まで持たない、と自分に言い聞かせ、その光景を呆れながら眺めるだけに留めるのだった。



 「良翔、そろそろそちらに合流するよ」

突然、秋翔の声が聞こえる。

良翔は子供達や芽衣の様子を眺めながら、応える。

 「ああ、分かったよ。無事に古の湖に着いてるから、こちらはいつでもOKだ」

 「分かった」

そう端的に答えて、秋翔は通信を切る。


それから数分した後、良翔のそばに転移ゲートが出現する。

ゲートが周囲に眩い光を放つ為に、一斉に皆が振り向く。

やがて、出現したゲートから、秋翔が出て来ると、続々とノア、エヴァ、ハザが次々と出て来る。

 「あ!ノアちゃんだー!」

未亜がノアを見つけて、ノアに向かって駆け出す。

ノアも未亜の声に反応して、未亜の方へ振り向き、笑顔で未亜を迎える。

奈々も未亜の後を追いかけたかったらしいが、近くにいるエヴァやハザが目に止まり、行くのを躊躇っている様だ。

それに気付いた芽衣は奈々を連れて良翔の方に歩いて来る。

 「良翔、この人達は?良翔の冒険仲間かな?」

 「ああ、そうだよ芽衣。秋翔とノアはいいよな。こっちがエヴァで、こっちがハザだ」

紹介されたエヴァとハザがそれぞれ挨拶する。

 「私はエヴァなのだ!宜しく頼むぞ!」

 「私はハザと申します。良翔殿やノア殿と共に旅をさせて頂いている」

すると、芽衣もにこりと笑い、自己紹介する。

 「私は芽衣です!良翔の妻です。いつも主人がお世話になっております!こっちは娘の未亜に奈々です。家族共々今後共宜しくお願いします」

良翔は思わず苦笑いする。

 「ま、そういう事だ。みんな、宜しく頼む」

ノアやハザ、エヴァが頷く。

ハザの笑顔に少し安心したのか、奈々がエヴァの方に近付き袖を引っ張る。

 「ん?どうした奈々?私と遊びたいのか?」

奈々はエヴァを見上げながら、コクリと頷く。

するとエヴァは、よし!と掛け声を出すと、エヴァをサッと肩車し、フワリと宙に浮き、ビュンビュン飛び回り出した。

それを見た未亜も、自分も!、とせがみ出したのでこちらはハザが肩車して空を飛ぶ。

その光景をノアと芽衣が隣同士に並んで、眺めている。


そこに秋翔がそっと良翔に近寄り、小声で話しかけて来る。

 「良翔、すまないがリンクをしてくれないか。今一何でこんな状況になっているのか飲み込めなくてな」

 「ああ、そうだったな。すまない」

良翔はすぐに秋翔とリンクする。

ものの数秒で互いの経験を共有した、良翔と秋翔は2人揃って難しい顔をする。


 「良翔……、何て言って良いか分からないが……、ご苦労だったね……」

秋翔は苦笑いしながらも、良翔にそう言う。

 「そう言ってくれるのは、やはり秋翔だけだと思ったよ……。大丈夫。君のその一言で俺は救われたよ」

そう良翔も返し、しばらく互いに顔を向け合っていたが、次第に双方笑い出す。


良翔は笑いが収まると、真剣な顔をして、子供達の方を見ながら、秋翔に話しかける。

 「そちらも調査ご苦労だったね。ノア達はどうやら捕虜になっているアースワイバーンの状況を把握できたみたいだな。それに、秋翔達が周辺の森で見つけた洞穴も気になる。その辺の説明を一応聞いてもいいかな?」

雰囲気の変わった良翔に対し、秋翔も真剣な表情で頷く。

 「ああ。そのつもりさ。先ず捕虜となったアースワイバーンについてだが、リンクで伝わった通り、捕虜は人間の男性に変化している者だ。酷くやられている様で、今もセルダー都市長の自宅の地下に監禁されている。アースワイバーンの姿に戻らないのは恐らく拘束されている拘束具に魔力を抑え込む力がある為と思われる」

「成る程……。魔力を抑え込む拘束具とは物騒だな。因みに、そのセルダー都市長とは?」

 『それについては、私から説明するわ』

いつの間にか良翔達の近くに来たノアが応える。

 「ああ、頼めるかい?」

ノアは頷き、話し始める。

 『セルダー都市長が、アトスの都市長として就任したのは2年前。市民による投票の結果、投票総数の80%もの評を獲得して当選した、市民から信頼が絶大に厚い存在みたいね。その人気の理由が、決して横柄にならず、市民に対しても平等に振る舞い、そしてアトスの為に身を粉にして働く姿勢が多くの市民に共感を与えたみたい』

 「つまりアトス市民の鏡の様な存在な訳だな。だが、そうするとそんな人物像の人間がアースワイバーンを捉えて拷問めいた事までしているとは、何か不釣り合いだな…」

ノアは頷く。

 『ええ、その通りよ。私もそんな人々の鏡みたいな人物が、仮に罪人を捕えたとしても、自宅の地下室で拷問みたいな事をするのはおかしいと思ったの。だから、思い切ってその屋敷に侵入して様子を見てみたの』

 「侵入したのか……。良くバレなかったね……」

 『それは良翔もでしょ?私も良翔に習って魔力遮断膜、ステルス膜でちゃんと見つからない様にして行ったわよ。そして……、そこで見たのは、人の姿をした凶悪な魔物だったわ』

良翔は眉間にシワを寄せる。

 「魔物……。セルダー都市長は、つまり、もう死んでいるということか?」

するとノアは首を左右に振る。

 『恐らくなんだけど、あれはセルダー都市長本人だと思うの。まだ半魔半人状態なんだとは思うけど、もう殆ど魔物の力に支配されつつ有ると言っても過言ではないわ。そして、他の者から悟られない為に魔力遮断の様なもので抑えているのだと思うけど、僅かに漏れ出ていた彼の魔力からは非常に凶悪な力を感じたわ』

 「半魔半人か……。ハタットの村と同じだな……。だとすると、やはりアイツが関与している可能性が高くなるな……」

ノアもそれに頷く。

 『正直私もそう思うわ。ただ、あれはハタットの村の比ではないわ。もっと悪質なものよ。ハッキリ言ってその辺の冒険者ではとても手も足も出ない程に強いわ。決してセルダー都市長に対しては油断してはダメよ、良翔』

良翔はシッカリと頷く。

 『そして、地下に囚われていた捕虜の方なんだけど……。正直、酷いなんてもんじゃなかったわ。片手は斬り落とされ、目は無理矢理に縫われて開かない様になっていた……。そして体中に焼印と骨折が無数……。残った手や足があらぬ方向に向いていたわ……。正直、思い出しただけでも吐気がするわ。良くもあんなに残酷になれるものだと…。そして、彼も生きていられるのが不思議な程よ。恐らくアースワイバーンという魔物だからこそあそこまでやっているのかもしれないけど……、あれをやっている奴の気がしれないわ……』

良翔は胸に黒い影が差すのを感じる。

そして、このままではダメだと強く思う。

 『セルダー都市長の様子は半年程前から急変したと市民や、その屋敷で働く従者などが口走っていたのを聞いたわ。……そして、結論、私の見立てではセルダー都市長は例の男に何らかの悪さをされて、人間の姿形をしてはいるものの、別の存在へと変わってしまっていると思った方が良いと言う事ね』


良翔はノアの話を聞き、腕を組みながら考える。

何故、例の良翔達が追っている男は、セルダー都市長をその様な魔物に変えてしまったのか……。

そして、アースワイバーン達との間に何が起きているのか……。

良翔はしばらく考えたのち、ノアと秋翔に考えた事を伝える。

 「……とりあえずは、今のキーマンはセルダー都市長とその囚われてるアースワイバーンだな。いずれにしても何かを判断するには情報が足りない。だが、ろくな証拠もなくセルダー都市長に問い詰めたところで、うやむやにかわされてしまうだろうし、街の部外者である俺達がそんな事を言い出してしまったら、逆に目をつけられてしまうな。そうなると今後アトスで動くには非常に都合が悪い。……であれば、残すはアースワイバーンの捕虜だ。彼を何とか救出して、今の状況を聞き出そう。それにノアの話からして、急がないと、いつ彼が死んでしまうかも分からない状況の様だしね。事は一刻を争う。申し訳ないが、ノアと秋翔で協力して、囚われのアースワイバーンを救出できるかい?幸いな事にノアがアースワイバーンの目の前まで行っているから、転移ゲートを使えば上手く姿を目撃されずに救出できるんじゃないかな。彼を救出した後は、彼を連れて、タリスにかくまってもらおう。そうだな……、バンダンの所が匿うには丁度良いかもしれない。バンダンには、俺から連絡しておくから、秋翔とノアは、そのアースワイバーンの救出を頼めるかい?」

良翔の提案に秋翔とノアが頷く。

 「よし。じゃあ、早速で悪いが、今夜決行してくれ。日中は屋敷内で活動している者も多いと思うから、寝静まった夜更が一番目撃者が少なくて良さそうだ」

 「分かった。そうしたら良翔はバンダンに連絡を取っておいてくれ」

良翔は頷く。

 『良翔の言ったことは分かったわ。今夜実行する。ハザやエヴァにも後で説明しておいてね』

 「ああ、了解だ」

ノアは良翔の返事にニコリと笑う。

 『ところで、芽衣達は今日はこの後どうするの?』

良翔は腕を再び組み考える。

 「……正直今のところはノープランだ。何かいい案がないかい?」

すると、ノアはニヤリと笑う。

 『なら、芽衣達に冒険してもらったらどうかしら?きっと芽衣の事だから、良翔と一緒に冒険するよ!とか言ってるんでしょ?』

良翔は苦笑いする。

 「……ノアはお見通しなんだな。その通りだよ。芽衣が余りにもリアルな魔法の練習してるものだから、何でそんな練習してるんだって聞いたら、当然冒険する為だと言われてしまったよ。……でも、芽衣達に冒険させるってどうしたらいいんだ?」

ノアは、ふふふと笑う。

 『そんなの簡単よ。文字通り、冒険してあげれば良いのよ。そういえば、丁度いいじゃない?ジラトミールにも行きたかった所だし、残り数時間、みんなでジラトミールを目指しましょうよ』

ノアの思わぬ提案に、良翔は目が点になる。

そして、視線を秋翔に向けると、諦めたら?といったジェスチャーを秋翔から返される。

良翔は素直に諦め

 「……じゃあ、そうするか……」

と、半ば投げやり気味に答える。

ノアは良翔のその返事を聞いて、ニコリと盛大に笑顔を作ると、くるりと芽衣達の方へ向けて、走っていく。


 「芽衣も言い出したら止まらないが、ノアもそうだったね」

秋翔から呆れ気味に言われ、良翔も思わず頷かないわけにはいかなかった。


それから一堂が、ジラトミールへ向け、空中移動を開始したのは間も無くのことだった。

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