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サラリーマン、異世界へチート通勤する  作者: 縞熊模様
第2章
155/163

2-44

 「さて、お昼も食べ終わった事だし、この後はどうしよっか?」

良翔が奈々の頬に付いた食べかすを手で払いながら、皆に聞く。

 「お昼ご飯食べたら、みんな空も飛べる様になったし、どこか自然が綺麗な場所に行きたいなー」

 「未亜は大きな湖に行きたい!!」

 「奈々はオヤツ食べたい!!」

各々が自由に発言するが、良翔は笑顔で聞いている。

 「そうしたら、湖がある所をパパが知ってるから、そこに行こうか?そこでおやつの時間になったらおやつ食べような」

3人は元気よく頷く。

フィーもその光景を微笑ましく眺めている。

 「じゃあ、食べ終わったら出発だ」

良翔の掛け声に合わせて、未亜と奈々が急いで昼食を口の中にかきこむ。

芽衣と良翔、フィーは既に食べ終えていたので、芽衣が持参したコーヒーを飲みながら、その光景を眺めている。


子供達が食べ終えるのを待ち、ランチを片付けた後に一同は宙へ浮く。

 「さあ、行こうか。少し遠いから途中疲れたら休もうね」

 「「はーい!」」

元気の良い返事が子供達から聞こえる。


5人は一斉に良翔に従い空を飛ぶ。

一行が目指すのは山向こうの古の湖だ。

良翔は皆に合わせ、いつもよりもかなりゆっくり飛ぶ。


 「秋翔やノア達は上手くやっているだろうか……」

その間に秋翔達の事が気になり考えていた。

 「一度コンタクトを取ってみるか…」

そう心の中で呟くと、良翔は秋翔に連絡する。

 「秋翔。秋翔聞こえるか?」

しばしの沈黙の後、秋翔が答える。

 「ああ、聞こえるよ。どうした、良翔?」

 「突然すまないな。実は今、秋翔達がいる異世界に来てるんだ」

 「そうなのか??芽衣達は置いてきてしまって大丈夫なのか?」

それを言われ、思わず良翔は苦笑いする。

 「後で記憶共有すれば分かるんだけど、じつは今、芽衣だけでなく、未亜、奈々も一緒にいるんだ」

そう良翔が言うと、しばし沈黙が流れる。

 「……どういう事だ?芽衣だけならまだしも、未亜や奈々まで居るなんて……。何かあったのか?」

良翔は秋翔に昨晩から今までの経緯を掻い摘んで説明する。

もちろんフィーについてもだ。

良翔が説明を終えると秋翔はクスクス笑っている。

 「大変だったみたいだな。その場に居なくとも良翔の大変さは想像できるよ」

 「そう言ってもらえると救われるよ。それに、これを理解してもらえるのは秋翔だけだと思うしな」

またしても秋翔はクスクス笑う。

 「なら、どこか途中のキリのいいところで、そちらに合流するよ。芽衣の要望は良翔と一緒の冒険なんだろ?であれば、遅かれ早かれハザやエヴァにも会うだろうし、普段良翔がどんな連中と過ごしてるのか分かれば、芽衣も安心するだろうしな」

 「ああ、すまないな、色々調べてもらってる最中に。因みにそっちの様子はどうだ?何か掴めたか?」

 「それについても、そちらに合流したら報告するよ。今はまだみんな散っていて情報を集約出来てないんだ。ただ、街の中で一つだけアースワイバーンの反応があったのを覚えているか?」

 「ああ、覚えている」

 「どんな奴なのかまではまだ分かっていないが、少なくともあの街中のアースワイバーンはどうやら捕まって地下に監禁されているらしいんだ」

 「……なるほど。何か不穏な感じがするな」

 「ああ、その通りだ。今その点についてはノア達に探ってもらっているからノア達からの報告を聞いてからだな」

 「分かった。じゃあその時に。とりあえず俺達は古の湖に向かってる。そこで落ち合おう」

 「了解した」

秋翔は通信を切る。


良翔は意識を目の前に向け、もうじき霊峰イニジオの山頂が見えてきた事を悟る。

気付けばかなり肌寒くなっている。

後ろを振り返れば、未亜や奈々と芽衣、フィーが楽しそうにお喋りしながら飛んでいる。

無事にちゃんとついて来れている様だ。

良翔はそっと耐寒防壁を彼らの周りに展開する。

するとフィーが3人に向かって山の向こうを指差す。

3人がフィーの指先に従い視線を移すと、湖が見えた。

 「あれが古の湖よ」

フィーが芽衣達に告げると、一斉に歓喜の声が聞こえる。


 「このペースならあと30分程か……」

良翔はそう呟き、先程の秋翔の話を思い出す。

街中に反応のあったアースワイバーンは、秋翔の話だと囚われの身だという。

アースワイバーンが囚われるとなると、それなりの強者でなくては出来ない。

それとも人型に化けている事がバレたくなくて大人しく捕まっているのか。

ただ、いずれにしても囚われている時点で何か不穏な動きがある事は確かだ。

そして、良翔にはもう一つ気掛かりがあった。

マナ、つまり精神生命体の存在だ。

今回フィーの様な精神生命体に遭遇し、良翔は不覚にもその存在が目の前にいるのにも関わらず気付く事が出来なかったのだ。

たまたまフィーの様な善?の存在だったから良かったものの、悪意を持った存在だったらどうだっただろうか。

きっと良翔だけでなく周りの者に多大な被害をもたらしていただろう。

良翔は急務で精神生命体の存在を知覚出来る必要性を感じる。

 「フィー。俺達人間がマナを感じ取る方法は無いのか?」

良翔は心の中でフィーに問い掛ける。

フィーとはマナの繋がりが出来た為に、念話の様な事が可能となったのだ。

 「あら、初めての心の声がそんな無粋な事なんてガッカリだわ。うふふ、良いのよ?愛してるー!とか、大好きだ!とかでも。ちゃんと内緒にしておいてあげるわ」

良翔はフィーの返しに思わず苦笑いする。

 「ああ。それはまた今度にするよ。ところでどうなんだ?出来る様になるのか?」

 「そうねえ。人間が感知できる様になる方法ね……。私達は意識しなくても感知できるから疑問に思った事も無かったわ……。でも、あなた達が私たちの様なマナの存在を感知出来ないのは自身の思念が入り混じり過ぎてるからだと思うのよね。例えば殺気とか好意とかは明確な意思の表れだから、貴方達でも感知できると思うの」

確かにフィーが言っていることも分かる。

明確な殺意や好意というのは人の雰囲気を変える。

それ故に気付ける事もある。


では、マナとは違い、魔力はなぜ感知できるのか。

良翔はそこに対して今まであまり疑問に思った事がなかったが、フィーの言う通りなら、魔力もまた意思を与えられた魔素がその意思に従いあらゆる事象を起こすのだ。

であれば、逆に魔素がマナを感知できるのではないかと良翔は考える。

つまり、意思のあるところに魔素を触れさせれば、魔素がその意思に支配され、何かしらの形を取るのではないか、という事だ。

となれば、魔素に意思を拾わせて感知スキルで視認出来る様にしてやればば良いのではないか。

良翔はそう考え、試しにフィーに向けて先ずは感知スキルを発動する。

当然いつも通り魔力量に応じた光がウインドウに表示される。

進化したとは言え、フィーの魔力量はそこまででもない。

だが、今度は良翔の意思で動かされた魔素を

広域鑑定の範囲全体を探る様に動かし、魔素に影響を与える何かの所で、その意思に従い魔素の色を変化させていく。

すると、良翔が思い描いた通り、鑑定ウィンドウにはなんらかの意思に反応した魔素が至る所でその色を変え、表示され出した。

そして、一際目を引くのは、フィーのいる所に先程とは比べ物にならない程の魔素が集まり、巨大な魔力を所持している存在としてウインドウに表示されたのだ。

フィーのあのおっとりとした感じからはとても想像出来ない程に、周囲の魔素に影響を与えている。

良翔の魔力量程まではいかないが、少なくとも良翔の半分近くの魔力量に達する魔素がフィーの周囲に集まっているのだ。

マナ、つまり意思の力に伴って周囲の魔素に影響を与える力は、魔力量と同じ様にその存在の強さを表していると言っていい、と良翔は考える。


そして、鑑定ウィンドウには、もう一点気になる点がある。

マナの力に作用された魔素達が、未亜と奈々の周りにも濃く集まっているのだ。

正直、良翔や芽衣とは比較にならない程に多い。

 「フィー、ひょっとして未亜や奈々はマナの力がとても強いのか?」

 「あら?よく分かったわね。ええそうよ。そりゃあ、私が引きつけられちゃうくらい美しく力強いマナを2人は持ってるわ。だから、私の事も見えたのかもしれないわね」

なるほど、と良翔は思う。

未亜と奈々は少し良翔や芽衣とは、マナの潜在量が異なる。

つまり、思いの力だ。

それは、未亜と奈々は子供だからではないか?

子供は疑うことよりも、やりたい、興味があるという思いで大人よりも真っ直ぐに行動する事が多い。

更に、未亜や奈々は創世の粉のお陰で、他の子供達よりもかなり特殊な事が出来る。

そんな状況であれば、より一層に何かをしたいと思う事や、やろうと思う事に対して、余計な警戒心などによる抵抗は限りなく少ないのではないか。

つまり、強く真っ直ぐに思う力が良翔や芽衣よりも遥かに強いという事だ。

そう思うと、良翔はなんだかスッと腹に落ちた気がする。

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