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出口を出ると、子供たちのキャッキャ楽しそうな声が聞こえて来る。
目をやると、まだ先程と同じ様に、空を飛ぶ練習を続けていた。
やはり、フィーの言った通り、時間にしてほんの数分しか経過してない様だった。
「時間の経過がフィーの言った通り、こちらの世界とあの空間とでは異なるみたいだな……。一体どうやっているんだ……」
良翔の呟きを聞いたフィーは自ら答えて来る。
「あの空間は私達精霊の世界なの。私はあそこまでの道を繋いだだけ。私達精霊はマナのみの存在であるから、時間の流れなどあまり関係ないのよ。人の世界の感覚だと何倍もの速さの時間の経過を感じるけど、アレが私たちの世界の通常の流れなの。私たちの世界はマナで出来た、いわゆる精神世界だから、時間の流れが異なっていても不思議ではないわ」
「……つまり、アレはこことは違う、また別の異世界って感じかな?」
「ええ、そう捉えてもらってなんの問題もないわ」
良翔とフィーは会話しながら芽衣達に近づいて行くと、未亜と奈々が最初に気付いて近づいて来る。
「パパ、フィーお話終わったー?」
奈々はそう聞きつつも、フィーの手を握る。
「ええ、終わったわ。お待たせしちゃって
ごめんなさいね」
フィーが笑顔で答えると未亜がフィーのもう片方の手を握り、急かす。
「じゃあ、フィーさっきの続きやろー!」
フィーは笑顔で頷く。
子供達に手を引かれ、足早にその場を去るフィー達と入れ違いに芽衣が良翔に近づいて来る。
「良翔、お話終わったの?」
「ああ、終わったよ」
「そう、良かったわ!そうしたら、私の空を飛ぶ練習に付き合ってよー」
芽衣のニコニコ顔に多少の罪悪感を覚えながらも、良翔は芽衣に頷く。
未亜と奈々はフィーに、芽衣は良翔に教えてもらいながら、結局は昼頃には全員空を飛べる様になってしまった。
「この世界じゃ慣れた光景だけど…、良くよく考えれば、異様な光景だな…」
良翔は1人呟き、ビュンビュン飛び回っている3人を見ている。
そこに瞬間的に移動して来たフィーが良翔の隣に現れる。
「あの子達中々にセンスが良いわね。あっという間にどんどん飲み込んで行くものだから、つい教え過ぎちゃったわ」
「おいおい……、教え過ぎちゃったって……、空を飛ぶ以外にどんな事を教えたんだ?」
良翔は溜息混じりにフィーに聞くと、
「あ、丁度やるみたいよ」
と言う、フィーの視線の先に目を向ける。
視線の先では、空中に何やら人が1人乗れる程の魔法陣が無数に配置され、その上を子供達がケンケンパしているのだ。
そこだけを切り取って眺めれば、かわいいものだが、子供達が遊んでいるのは高度20m程の所だ。
おまけに踏み台としているのは、風をその場に圧縮して作り出した空気の壁だ。
それを地面に見たててケンケンパしているのだ。
「……どんな遊びだよ…」
良翔は開いた口が塞がらない。
未亜と奈々は互いの陣地から進み合い、面と向かいあったタイミングで、ジャンケンではなく、なんと、相手を強烈な風で上に吹き飛ばすのだ。
未亜が奈々を上にポンと吹き飛ばした途端、直ぐにケンケンの続きをして奈々の陣地を目指す。
だが、奈々も負けていない。
吹き飛ばされた反動を利用して、空中でクルリと回ると、直ぐに未亜の目の前に降りる。
驚いている未亜に、奈々は今度は、先程の仕返しと言わんばかりに目一杯、未亜を後ろに風で吹き飛ばす。
未亜は凄い勢いで自分の陣地よりも後ろに飛ばされて仕舞う。
良翔は焦り、未亜に向かって高速で駆け出す。
しかし未亜は一向に落ちて来ない。
未亜は空中で反転し、ビュンと自陣に戻ったのだ。
またそこからケンケンして奈々の陣地を目指す。
「………とんでもない遊びだな………」
良翔は思わずフィーに目をやると、ペロと可愛く舌を出す。
良翔は軽く溜息を吐き、フィーの元に戻る。
「攻撃する様な技は教えてないんだな?」
「ええ、それは大丈夫。出来てせいぜい相手をぽんと吹き飛ばす程度よ。それに、今彼女達が足元に踏んでる魔法陣も、身を守る為に防御壁として教えたのだけれど…、面白い使い方をするものね」
フィーは笑いながら答える。
確かに子供の発想力というのは、時に思いがけない使い方をしたりする。
良翔も今まで子供達には沢山驚かされた過去を思い出す。
一方で芽衣は空を飛びながらも、防御壁を展開したり、火や水属性の魔法を放ったりしている。
極めて実践的な練習をしている。
芽衣が地面に降りたタイミングで良翔が聞く。
「芽衣、何でそんな練習してるんだい?」
すると、芽衣は当然の様に答える。
「何でって、こうやって実践さながらの練習しておかないといざって時に使えないじゃない?」
一瞬その場に沈黙が流れる。
「……ん?いざって時って、どんな時を想定してるんだい?」
「そりゃあ、良翔と一緒に冒険してて、モンスターに遭遇したり、危険な目に遭ったりする筈じゃない?だから、それの練習よ?それとも、もっと危険な時の事を想定した方が良いかしら?」
芽衣は至って真面目に良翔に答える。
やっぱり、そういう事考えてたよね……。
良翔はそう心の中で嘆くしかなかった。
「いや、今の練習で十分じゃないかな……。そんな事を想定しながら練習してたなんて、芽衣は偉いな……」
良翔は苦笑いしながら答える。
だが芽衣はそんな良翔の気持ちを知る由もなく満面の笑顔で
「うん!!頑張るよー!!」
と答える。
良翔は素直に諦め、小腹が減った事に気付く。
そういえば今朝は子供達や芽衣に急かされ、朝食を食べ損ねていた。
携帯で時刻を確認すると、すでに正午を回っている。
「芽衣、お昼にしようか。未亜と奈々にも声をかけてくれるかい?」
「ああ、もうそんな時間ね!とっても楽しくって時間があっという間に過ぎちゃったわね。今子供達呼んでくるから、良翔とフィーちゃんはお昼の準備お願いして良い?」
良翔とフィーが頷くと、芽衣はすっかり慣れたもので、ふわりと浮かび上がり、上空でまだ変わったケンケンパをしている子供達の方へ飛んで行った。
良翔は少し、芽衣の後を眺めていたが、気を取り直して、昼食の準備をする。
フィーもどうやら初めてのランチに気分が高揚しているらしく、準備の間、終始良翔にこれは何だ、アレは何だと質問して来る。
良翔は一つ一つフィーに答えてやりながら、昼食の準備を終える。
日は丁度良翔達の上に登った所だった。