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サラリーマン、異世界へチート通勤する  作者: 縞熊模様
第2章
153/163

2-42

ゲートの中へ入ると、いつもなら直ぐに出口に出るのだが、今回のゲートはそうではない。

長いトンネルの中を歩いている様だった。

そのまま進むと、やがて出口と思われるらしき場所から明かりが見える。

明かりが徐々に近付き、やがて、視界が一気に開けた。

そこは辺り一面、花畑だった。

木々も覆い茂り、どこか未踏の山中にでも出た様だった。

出口の直ぐそばには、フィーが立っており、笑顔を良翔に向けてくる。

 「ようこそ、私達の庭へ」

 「……ここは不思議な世界だな。さっきフィーが作り出した世界って言っていたが、こんなものを作れるのか?」

フィーはクスリと笑うが答えない。

 「……さぁ、こっちよ」

良翔はフィーからの返答を諦め、素直にフィーに続いて木々の間を歩く。


やがて、木々が切れると、突然まっさらな大地が辺り一面に顔を出した。

そこら中岩や小石が転がっている、そんな光景が永遠と続いているのだ。

 「ここのオアシスは傷つけたくないの。だから、ここから先の大地でね。バトルエリアはこの更地全て」

 「……分かった」

 「あ、ちなみに魔素もあるから好きなだけ魔法でも何でも使って頂戴。勝敗は私に負けを認めさせること。良いかしら?もちろん、あなたが負けを認めても、私の勝ち。安心して、あなたを死なせる様な事はないから」

良翔は改めて心の帯を締め直す。

フィーは顔こそ笑顔を崩さぬままだったが、さっきまでのふんわりとした空気はそこには無く肌をチリつかせる殺気を放ち始めていた。

この感じからしても、今まで会ったどの者よりも強い。

 「……随分と余裕だな、フィー。俺も精々頑張るよ」

 「ええ、賢明ね。……さて、それじゃ始めるわよ?」

良翔は黙って頷く。


するとフィーは、こっちだと言わんばかりに物凄いスピードで更地の奥へ飛んで行く。

良翔は焦らない。

早速、先程から気になっていた魔力感知、つまり広域鑑定を行う。

しかし、結果はそこまで強くない魔力を持ったフィーが超高速で移動しているのを映し出したのみだった。

魔力反応だけで言えば良翔の足元にも及ばない。

だが、フィーは精神生命体だ。

魔力量=強さの式は成り立たない。

良翔自身もその式に当てはまらない存在である事を認識している。


フィーは既に良翔の広域鑑定領域外に消えてしまった。

良翔は周囲を警戒しつつも、フィーの飛んでいった方へ歩きながら考える。

問題なのはマナだ。

マナで存在する相手に、どうすれば攻撃が届くのか。

マナは、先ほどの良翔の理屈が正しければ、あらゆるスキルの産みの親となる。

つまり、思い込みや思念といったものだ。

それらが一つの塊として集まり、形成されたのがスキルだったり、フィーの様な精霊だと考えている。

言うならば、フィーは風に関するスキルの塊であり、それが意志を持ったものと言えるだろう。

だが、良翔はふと立ち止まる。

フィーは何故この世界に魔素を用意したのか。

良翔の為?

その様に聞こえたがよく良く考えれば、フィーも同じではないだろうか?

良翔からフィーにダメージを与える事は何かしらのマナに関する攻撃方法が確立出来なければ難しい。

だが、フィーが良翔にダメージを負わせるのにも結局はスキルを使用し、魔素に働きかけて魔力として攻撃しなければならないのではないか。

であれば、ほぼ無尽蔵と言って良いほどの魔力を所持している良翔にフィーの魔力攻撃は届かない。

要するに、互いに互いを攻撃する手段が無いのではないか?

良翔はそう仮定する。

となると勝敗の決定はどちらが先に相手にダメージを与える事が出来るかと言う事だ。


良翔は立ち止まったまま、広域鑑定のウィンドウを確認する。

フィーの魔力反応は消えたままだ。

だが、良翔はその場からふわりと浮かび上がり、超強力な魔力障壁を良翔の周囲5メートル程を囲う様に発生させる。

途端に、魔力障壁に巨大な魔力がぶつかる。

フィーの放った攻撃だ。

 「あらあら、よく防げたわね。魔力をちゃんと消しておいたんだけど、バレちゃったみたいね」

 「だろうと思ったよ、フィー。事前に精神生命体だって事を聞けてよかったよ。お陰でこうして対策を練れたんだからな」

フィーはニコリと笑う。

 「自分で墓穴を掘ってしまった感じね。ここまで短時間でそれに気付けたのは素晴らしいわ。でも、それなら私への攻撃方法は分かったかしら?」

それには良翔は答えず、逆に質問をする。

 「そういうフィーはどうなんだ?その攻撃方法じゃ俺を傷つける事は出来ないぞ?それとも他に策があるのかい?」

すると、フィーはクスリと笑い、答えない。

両者やはり似たようなものか…、と良翔は返事のないフィーの答えから推測する。


途端にフィーは再び姿を消す様に超高速で移動を開始する。

今度は良翔もそれに対し、直ぐに追いかける。

2人はとうに音速の域は超えている。

時折、フィーの放つ魔法が良翔に飛んでくるが全て魔力障壁に掻き消される。

 「随分と頑丈な壁ね!」

フィーが楽しそうに興奮した様子で話しかけて来る。

良翔はダメ元で、超高密度で圧縮した魔力球を連続でフィーに向けて放つ。

フィーはもちろん回避行動を取るが、無数の球がフィーに着弾する。

しかし、大爆発の向こうからは微笑みを絶やさないフィーの姿が見える。

 「やはりダメージを与えるのは難しいか……」

良翔は呟くと、今度は物理攻撃に切り替える。

黒刀を顕現させ、爆炎が消えぬままのフィーに向かって勢い良く斬りつける。

しかし、良翔の描いた剣筋は虚しく空を切る様に抜けてしまう。

 「やはり、物理攻撃も無理か……」

刀を振り抜くと同時に、その反動で一気にその場を離脱した良翔はフィーよりも上空から、フィーを眺める。

フィーも笑顔で良翔を見上げている。

 「さぁ、次はどうするのかしら!」

フィーはそう声高に良翔に話し、良翔目掛けて、先程良翔が作り出した圧縮球と同じ物を無数に放って来る。

良翔はそれらを全てかわしながら、フィーの様子を観察する。

 「魔力だけでもダメ、物理攻撃だけでもダメ…。残すは精神的に効果のある攻撃か……」

良翔は、飛び回りながら考える。

 「……芽衣には悪いが、やっぱりこれしか思い付かないな……」

そう呟いた良翔は、おもむろに反転すると、フィー目掛けて物凄い勢いで、突っ込む。

フィーは勝機とばかりに、凄まじい数の魔力球を放ってくる。

良翔はそれらをことごとく寸出のところでかわす。

あと10m……

あと5m……

良翔は心の中でカウントダウンする。

良翔が徐々に徐々に距離を縮めて来る事に、フィーは先程までの余裕が消えたのか、笑顔が消え失せ、目を見開いて躍起になって魔力球を放って来る。

あと3m……

フィーの顔が焦りに変わる。

 「な、何を狙っているの!?止まりなさい!止まりなさい!!」

そう言いながら、闇雲に魔力球を放って来る。

あと1m……

ゼロ……

良翔はフィーの目と鼻の直ぐ前にピタリと立つ。

フィーの吐息が良翔の顔をくすぐる。

フィーは驚き、口を半開きのまま、魔力球を放つ手を止め、そのままの姿勢で固まってしまう。

何をされるか分からない、そう言った顔だ。


良翔はフィーに向かって優しく微笑むと、そっとフィーに口付けをする。

それは長く、時が止まったかの様に静寂がその場を包む。

フィーは突然の事に目を見開き、しばらく固まっていたが、やがて目を閉じ、腕を良翔に回して来る。

良翔はフィーにしっかりと抱き付かれてしまい、濃厚な口付けをされ続ける。

 「これが一番効果があると思ったんだが……、効果があり過ぎたみたいだな…」

と心で呟くが、フィーは話してくれない。


数分が経った頃、フィーがようやく良翔を抱きしめていた手の力を緩める。

良翔はここぞとばかりに、唇を離し、フィーに笑顔を向ける。

フィーはまだ、とろける様な目をして、上の空だ。

 「どうだい?これで契約は結べたかな?」

すると、フィーはハッと我に返ったらしく、顔を真っ赤にして俯く。

 「ず、ずるいわ、良翔。まさか、こんな……、こんな奥の手を持っているなんて……」

良翔はニコリと黙って微笑む。

するとフィーは諦めた様に項垂れ、口を開く。

 「良翔、契約は無事に成立よ。さっきの……、あ、アレで完全に私のマナとあなたのマナが繋がってしまったわ。完全契約として、私はあなたに仕える事になったわ……。私のマナはあなたのマナを強く求めている。私自身もそれを強く感じるわ。こんなの……、こんなの、初めてよ……」

 「これしか思いつかなくてな。こんなやり方で突然すまなかったな」

良翔は頭をフィーに下げる。

するとフィーは大慌てで否定する。

 「とんでもない!!こんな素敵な契約の仕方があるなんて、思いもしなかったわ!私はもうあなた無しでは存在出来ないと思える程よ!」

良翔は苦笑いする。

 「まいったな……」

良翔の呟きは目をキラキラ輝かせたフィーには届かなかった。


今まで他の者とどうやって契約していたのかとても気になる所だったが、今は一刻も早くこの場を終わらせたかった良翔は、端的な質問のみする。

 「無事に契約が済んでよかったよ。フィー、この契約が済むと具体的にどうなるか教えてくれないか?」

フィーは何故か、艶かしい視線を良翔に向けながら答える。

 「完全契約によって、良翔は私の力を自由自在に使えることが出来る様になったわ。もちろん自在に私をいつでも呼び出す事が出来るし、常時顕現させておく事も出来るわ。言うならばあなたの中に常時いる感じね」

 「なるほど。じゃあ、ボチボチみんなのところに帰ろう」

え?もう?と、何かを期待してぶつぶつフィーが言っていたが、良翔は無視して、さぁ、帰ろう、と促す。

フィーは諦めた様にゲートを顕現させ、良翔はさっさとゲートをくぐる。

 「やっと解放された……」

良翔はゲートの出口に向けて歩きながら、溜息を吐く。

良翔の後ろをあいかわず、フィーはニコニコ顔でついて来る。

出口が見えた。

無事に精霊との契約も終えた。

後でフィーの力を試すとしよう。

良翔は光が待つ出口へと歩を進める。

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