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サラリーマン、異世界へチート通勤する  作者: 縞熊模様
第2章
150/163

2-39

良翔達は目的もなく、快晴の空の元、なんとなく草原の中を歩き出す。

それだけでも、十分に気持ちが良いのだ。

良翔達が住む街も、都心に比べれば自然は多い方だが、こうして改めてこの世界の空気を味わうと、格段に違う。

良翔は、昨日まで毎日来ているが、ここまでちゃんとこの景色や空気を堪能していなかった事に気付かされた。

目の端では、未亜と奈々が走り回っている。

と、突然、奈々が転ぶ。

しかし、すぐに何もなかったかの様に立ち上がり、また走り出す。


実は良翔はこちらに来て早々、芽衣、未亜、奈々に対し、防御膜を張ったのだ。

これで、強力なモンスターにでも遭遇しない限り問題はない。

その為、転んだ程度では何も痛みが起きる事もないのだ。

隣を歩いていた芽衣が不思議がっているので、良翔は教える事にする。

 「あれは、こちらに来て早々未亜や奈々に体を守る魔法をかけたんだ。だから、転んだぐらいじゃ怪我はしないよ。もちろん芽衣にも同じ魔法をかけてるよ」

すると、芽衣は納得したのか、掌を拳でポンと叩き、ほうほう、と言っている。

 「つまり、良翔が守ってくれてる、って事でしょ?」

 「俺が、と言うとよりは、魔法が、だけどね。まぁ、似たようなもんだね」

 「そういう細かい所はいいの。良翔がその魔法を使わなきゃ、奈々は怪我をしてた。でも、それを良翔が防いだって事に変わりないよ!さっすが!私の旦那は良い男だ!」

芽衣は笑いながら、そう答える。

良翔も笑って答える。


そこで、突然芽衣が、あっ!、と声を上げる。

驚いた良翔は芽衣に声を掛ける。

 「ど、どうしたんだ、芽衣。何かあったのか?」

声を掛けて、またしても、しまったと良翔は思う。

芽衣の顔がキラキラと輝いているのだ。

これは絶対に何かを思いついたに違いない。

 「うんうん!!何かあるある!!大いにあるある!!」

こうなったら、もう後戻りは出来ない。

良翔は仕方なく聞き返す。

 「……その何か、ってなんだい?」

すると芽衣は、うふふふふ、と不気味な笑いを浮かべて良翔に振り返る。

 「魔法よ、マ・ホ・ウ!!この世界に来たんだから、魔法の使い方を教えてよー!!」

……ですよね。

やっぱり、そういうの来ちゃいますよね。

と、良翔は内心で呟く。

だが、芽衣は良翔の気持ちなどつゆ知らず、さらに話し続ける。

 「でもさー。そもそも、疑問なんだけど、私達が住んでる地球と何が違うの?空気もあるし、酸素も有るみたいだし。だけど、この世界でしか、魔法って使えないんでしょ?この世界の人にしか魔法を使う為のエネルギーみたいなのって持ってないのかな?でもさ、使っちゃったらどうやって回復するの?ご飯食べたら治るの?」

良翔は芽衣の質問に驚く。

やはり、芽衣は頭の回転が早いな、と改めて感心する良翔。

 「芽衣は凄いな。もう、そこまで気付くなんて。芽衣の言う通り、この世界でしか魔法は使えない。それはこの大気中に、目には見えないが酸素と同じように、魔素、と呼ばれる物が存在するんだ。それがあるから人々は魔法を使える。その魔素を体内に取り込み、自分の魔力に変えてから、魔法として使用するんだよ」

 「へぇ。そうなんだ。なんだが不思議ね。目に見えないからあるか分からないけど、そういうもんなんだよね?私達の世界にも魔素があるって言われても不思議じゃないし、世の中色んなことが起きるんだね」

良翔は笑顔で頷く。

すると、芽衣は、じゃあ…、と言って、掌を眺めている。

良翔は不思議に思い、黙って芽衣を見つめる。

すると、なんと芽衣の掌の上に光った球が出現するではないか。

良翔は驚き、目を丸くする。

 「……芽衣、まさか、それって……」

すると芽衣は舌をちょろっと出しながら、笑顔で答える。

 「……魔法?出来ちゃったみたい……」

良翔は芽衣に言われ、急いでその作り出された球を鑑定する。

そして、良翔の目の前にステータスウインドウが表示され、それが無属性の魔力球である事を良翔に告げる。

無属性の魔力の球。

つまり、魔力をそのまま球とした出現させたということだ。

魔力値としては500程の大した威力の物ではないが、魔力を具現化して、自分の掌に出せると言うのは驚くべき事だ。

当然、芽衣の体内には魔力はない。

であれば、これは大気から集めた魔素を濾過し、魔力として出現させた物なのだ。

良翔は聞かずにはいられなかった。

 「……芽衣、一体どうやって……」

すると芽衣は首を傾げながら答える。

 「どうって……、良翔に教えてもらった通り、魔素さんに呼び掛けて、私に魔法を使える様に動いてってお願いしただけだよ?そしたら、これが出来たの」

そうか……。

芽衣は物体操作のスキル持ちなのだ。

言ってしまえば、魔素も物体なのだ。

それに働きかけ、魔素自身が濾過をして、芽衣に魔法が使える様な魔力へと自らの姿を変えたのだ。

何と万能なスキルだろうか。

良翔は呆れると同時に、芽衣の秘めたる力の可能性に驚くのだった。

そして、それはただの魔力球では無い。

驚くべき程に濾過されていて、非常に安定しているのだ。

 「これは、凄いな。芽衣の力は万能だし、クオリティーもかなり高い。これなら、安定した魔法が使えそうだな。因みに芽衣は魔法を使いたいって言ってたけど、どんな魔法を使いたいんだい」

 「それはもちろん!断然、絶対に空を飛ぶ魔法!!」

芽衣の興奮は上がっていく一方だ。

良翔は苦笑いしながら芽衣をなだめる。

 「分かった、分かった。だから、落ち着いてくれ。魔法はコントロールが難しいんだ。つまり、興奮してても上手く扱えないぞ?」

芽衣は頷き、真剣な表情で深呼吸を一つする。

すると見事に興奮した雰囲気が一気に消える。

この切り替えの良さは真似出来ない、と良翔は心の中で思う。

 「はい!良翔先生!準備できました!先ずはどうしたらいいのでしょうか?」

 「うん。そうしたら、まずはさっきの魔力があるよね?それで全身を包み込む様に体にまとうんだ。その後はその包んだ魔力の外側に力を発生させて、体を浮かせるんだ。ただ、それだけだと浮くだけだから、それを前や後ろ、右左に上下、自分の意思で操作出来る様にならなきゃいけないんだ」

 「むむむ、なんだが難しそうね…」

芽衣は難しい顔をする。

良翔は優しく微笑みながら、頷く。

 「少し初めは難しいかもね。でも、慣れればこんなもんかって思えるようになるさ。そして、余裕が出て来ると、自由に空を飛び回れるんだからね。すごく気持ちいいよ」

芽衣はウンウン頷いている。

 「よし!午前中は私はこれを練習する!良翔、悪いけど子供達見ててね」

良翔は笑顔で頷く。

すると、何やら楽しそうな事を始めた芽衣を見て、子供達が寄って来る。

 「ねーねー、パパ。ママは何やってるの?」

と未亜が聞いてくる。

 「ママは今魔法でお空を飛ぶ練習をしてるんだ。だから、邪魔しちゃダメだよ?」

良翔が優しく答えると、未亜と奈々の目が見開き、キラキラ輝かせる。

 「私も空飛びたい!」

 「私も!私も!」

まぁ、そうなるわな、と良翔は心の中で呟く。

 「うーん……」

良翔は未亜と奈々が空を飛べる様になる為の方法を考える。

良翔としても、子供達が自転車に乗れる様になるのと同じ様な感覚で、空を飛べる様になれたら良いのにと思う。

だが、未亜と奈々、そして芽衣とは扱えるスキルが大きく異なるのだ。

芽衣はあらゆる物に干渉し、それを意のままに操る事が出来るが、未亜と奈々には何かに干渉する力は無い。

つまり、魔力を得る為の方法が無い様に思えるのだ。

良翔は考えてみるが、結局良い考えが思いつかない。

良翔は残念だが、子供達には無理だと教える為に顔を上げると、何故か2人は、空のある点を見上げたままじっとしてる。

 「……??」

良翔は不思議に思い、2人の視線の先に目をやるが、何もない。

だが、2人は確実に何かに向けて視線を送っている。

 「……どうしたんだい、2人とも。何か見えるのかい?」

良翔はそう話しかけつつも、周囲に視線を走らせ、広域鑑定を行う。

地下深くならまだしも、未亜や奈々が見つめる辺りでは鑑定魔法に引っかかっても何も不思議ではない。

だが、鑑定結果からは何も表示されない。

良翔は頬に伝う汗を感じつつも、周囲への警戒をより一層強める。

 「パパ、シーっだよ」

 「パパ、ビックリさせちゃダメなんだよ?」

未亜と奈々に言われ、いよいよ、2人が何かを見ているのが確定する。

鑑定にも引っかからない、目視も出来ない、この謎の相手に、良翔の心臓の音が早くなる。

良翔はどう合間って良いか分からないが、姿の見えぬ相手に対し、愛刀である黒刀を構え、反対の手には、超強力に圧縮した黒球を握る。

 「……誰だ……。姿を見せろ……」

良翔は低い声で、未亜と奈々の先にいる何者かに向かって声を掛ける。

すると、良翔の視線の先あたりから声が響く。

 「うふふふふ。何をそんなに荒ぶっているの?私はそこの小さなお2人とお話していただけなのよ?」

良翔は、その瞬間に黒刀へと莫大な魔力を流し込む。

そして、鋭い視線で、声の出所を睨む。

 「何者かは分からないが、姿を現せ……」

 「あらあら、物騒ね。貴方、せっかちね……。言われなくても今お見せしますよ。だから、その物騒な物を仕舞って頂戴。私はお話ししたいだけなのだから……」

 「それは、お前の出方次第だ……。姿も現さず、俺達の直ぐそばまで忍び寄る奴を信用しろなど、虫の良い話だ」

 「……ふう。まあ、それもそうね。貴方達にしてみればそう映るわね。良いわ、先ずは私の姿を見てから判断して頂戴」

随分と余裕である。

よっぽどの強者なのか。

その間、未亜と奈々良翔と声の主のやり取りにぽかんとしている。

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