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サラリーマン、異世界へチート通勤する  作者: 縞熊模様
第2章
145/163

2-34

受付で一週間分の手続きを行なっていると、秋翔から通信が入る。

 「良翔、聞こえるか?」

 「ああ、聞こえるよ秋翔」

 「遅くなって済まなかった。週末というのはどうしてこう無駄に忙しくなるのだろうな。そうならない為に日々こなして行けば良いと思うのだが。まぁ、特に俺には苦痛といったものは感じないが、効率の悪さを感じてしまうな」

それには、良翔は内心苦笑いしてしまう。

 「まぁ、それは俺も否定出来ないな。因みにあとどれくらいでいつもの場所につきそうだい?」

 「恐らく45分から1時間程だと思う。また、近付いたら連絡する」

 「了解。そんなに急がなくていいからな」

 「ああ、分かったよ、良翔」

そう言って秋翔からの通信が切れる。

丁度宿の手続きも終えた。

羽ペンを置き、サインをした紙をサリアノに手渡すと、サリアノはニコリと笑い大事そうに受け取る。

 「ああ、サリアノさん。食事に関してだけど、必要な時は声を掛けるから、その時以外は用意は不要だ」

 「はい、かしこまりました」

急に良翔の話し方から丁寧さが抜けたのも、サリアノの忠告もあり、良翔も堅っ苦しいのは苦手なのでいつもの接し方に切り替えたのだった。

サリアノ曰く、丁寧さは相手を不愉快にはせずとも、下に見られてしまう可能性がある為、冒険者はあまり敬語を使うべきではないとの事だった。

サリアノの話を聞くと、仲間もいる手前、リーダーとなるべき者が他者から見下されてしまっては、仲間も面倒を被る場合が時折りあるらしい。

であれば、最初からぶっきらぼうになる必要はないが、ある程度の態度は取っておけば、そういった無用な巻き込まれ事を回避出来る可能性が高まるとの事だった。

その利もあって、良翔はサリアノの進言通り、サリアノに対して敬語をやめた。


良翔はサリアノに挨拶し、急いで自室へと向かう。

秋翔が戻るまでの間に、土日の休みの間の皆の過ごし方を話し合いたかったのだ。

部屋の戸を開けると、ノアが開け放っていた窓から心地よい風が部屋の中を抜ける。

そして、皆思い思いに過ごし、良翔の帰りを待っていた様だった。

良翔が入ってくるなり、ハザはテーブルを4台のベットの中心に置き、椅子をその周りに4脚並べた。

 「さぁ、あまり時間が無いのだろう?良翔殿この後の事について指示してくれるか?」

ハザは良翔の思いを汲み、さっさと本題へ切り替えてくれる。

ハザの言葉を合図に皆がテーブルに集まり、着席する。

 「ありがとう、ハザ」

良翔はハザに会釈する。

ハザも頷く。

 「さぁ、待たせて悪かったね。今日この後から3日後の朝迄について、どの様に過ごすべきか皆に相談したい。まずは皆の意見を聞かせてくれないか」

まず最初に口を開いたのはノアだった。

 『そうね、まずは相手方、つまり、この地に住むアースワイバーン達の情報が必要ね。今どうなっているのか分かれば御の字だけど、それが分からなくても、元々の彼等の規模がどれくらい居たとか、どうやって生活していたんだとか、彼らの情報が絶対的に足りないわ』

ハザも頷き、次いで口を開く。

 「うむ、ノア殿の言うようにそれがまずは第一優先と私も考えている。そして、次いでこの街の状況についても把握する必要があると思う。この街で事の対応に当たる者達は一体どこまで知っていて、アースワイバーン達にどの様に対応しようとしているのか、だ」

 「我はここのご飯が気になるぞ!」

1人この街へ来た目的とズレている者が居るが誰も触れない。

良翔はニコリとエヴァに向かって、頷く。

 「そうだな、エヴァ。それも大事な問題だ。では、エヴァには美味しい食事が出来るところを探してもらう様に頼むかな?でも食事の時間にだけお願いするよ。その他の時間はハザ達の指示に従う事、いいかな?」

 「ああ、任せておけ、良翔!」

良翔は頷き、ハザとノアに向き合う。

 「この街で先ず調べるべき情報は2人の言った内容で行こう。そして、俺からも意見させてもらえれば、この街の外周辺の調査も頼めるかい?地形だけでなく、どんな木が多いとか、大地についてや、川の質についてだ。後は、この街のギルドが発行しているクエストの種類や量、それにどんな内容なのかを確認して欲しい。それらをまとめて特徴を切り出して欲しいんだ。ただしクエストをこなすのは3日後を待って欲しい」

3人は頷く。

 「では、3日間の活動内容は決まった。後は人選についてだが、先ず俺に代わり、秋翔が入る。秋翔は先程も話した通り、俺と出来る事は変わらないし、考え方も同じだ。それに何かあれば俺とも情報共有が出来るから、その点については心配しなくていい。ノアはどうする?残るかい?それとも、俺と戻るかい?」

ノアは少し迷ってから、頷く。

 「私は………、残るわ。エヴァが気になるしね。芽衣や美亜ちゃん奈々ちゃんに宜しくね」

と笑顔で良翔に答える。

 「分かった。ありがとう、ノア。助かるよ。でも、あまり危険な事はしないでくれよ?秋翔が居るから問題ないと思うが、何かあってからでは遅いからな」

するとノアは嬉しそうに良翔の腕に抱き付きながら頷く。

良翔に心配されたのが嬉しかったらしい。

胸が当たってるんだが…、と内心思う良翔だが、そこは冷静に対処し、ノアを、はいはいと、椅子に再び着席させる。

 「では、人選についてなんだが、ノアとエヴァは街の状況の把握に当たって欲しい。ギルドへ赴いて情報を集めて欲しい。機会が有ればアトスの兵士達ともコンタクトを取ってみてくれ。あとついでに、ノアとエヴァで美味いところを見つけてくれ。期待してるぞ、エヴァ?ハザは秋翔と共に街の外周辺の調査とアースワイバーン達の動向を調べて欲しい。アースワイバーンの事についてはハザが一番適任だと思っている。頼むな?」

3人が一斉に頷く。

 「じゃあ、明日からの事宜しく頼む。俺は秋翔が来る前に身支度をしなきゃな」

良翔はそう言い、この部屋に唯一設けられた小部屋へ入る。

人間かどうかはさておき、女性が2人もいるのだ。

ノアだけの時ならまだしもだが、今は気を使いたい所だ。

良翔は小部屋に入るとさっさと着替えを済ませる。

小部屋を出るとハザと目が合う。

 「ほう……、良翔殿の世界の服装というのは変わっているな」

 「ああ、あっちには魔物とかは居ないからな。武器なんかは殆どの人が持っていないよ」

 「なんと、それは人間や獣人ばかりと言うことか?!それに自分を守る為の武器が要らぬとは、襲われる心配がないという事なのか?」

ハザは驚き目を丸くする。

エヴァも良翔の世界の事は気になる様で、自分のベッドにチョコンと座り、良翔とハザの話を聞いている。

良翔はハザの問いに笑って答える。

 「いや、俺達の世界には魔素というものが存在しないんだ。それ故に魔素に依存する生物は存在しない。そして、武器を持たないといったが、それは住んでいる国家の治安具合によるかな。俺が生活している国では、国を守る為の兵士達や一部の組織の者が武器を所持していたりする。ただ、通常の一般人はこの世界で言う武器と言うほどの者は持っていないと言う事だ。決して争いが無いわけじゃないし、場所によってはずっと戦争をしている国もある。戦争の手段は違えど、争いに至ってはここと大して差はないさ」

するとエヴァが口を開く。

 「だが、そうすると良翔の魔力はなんなのだ?良翔は別の魔素のない世界の住人なんだから魔力は無いはずだろ?なのに、明らかにこの世界の生き物と同じ様に魔素を持っているし、おまけにその量も尋常じゃないぞ?」

珍しくまともな事をエヴァが口にした事によって、良翔も含め皆驚く。

 「あ、ああ。エヴァの言う通り、この世界に来たての時は魔力は無かったよ。ただ、異世界転移出来る様になってから、神のギフトかどうかは分からないが、体が改変されたのかもな。知っての通り、俺は人の魔力を吸収出来るんだ。そして、それを自分の中に留めておく事が出来る様になったんだ。だから、俺には魔力が存在する。まぁ、こちらの世界では有用だが、魔素のないあちらの世界では使え………」

良翔は言いかけて、途中で止まる。

良翔が途中で止まった事で、ハザ達も不思議に思う。

 『良翔、どうしたの?』

ノアが首を傾げながら、良翔に聞く。

良翔はある事に気がついてしまった。

良翔は直ぐに、笑顔をノアに向け、返事する。

 「あ、ああ。何でもないよ、ノア。つい他の考え事に意識を取られちゃってね。…さて、そろそろ秋翔からの連絡が来る頃かな?」

良翔はスマホを片手に時刻を確認する。

そして、それにまたしてもハザが食い付く。

 「良翔殿それはなんなのだ?マジックアイテムの一種か?」

 「ああ、これは俺のいる世界での電話だ。同じ様な道具を持つ者に、文字を送ったり、話したりする事が出来るものだ。そして今みたいに時刻も教えてくれる物さ。分かりやすく言うなら思念の指輪に多くの機能がついた様な物かな」

ハザは良翔のスマホをマジマジと見つめている。

ハザは新しい物が好きらしく、その好奇心も相まってか、目新しい物に良く反応する。

 「なんと、そんな高価なアイテムもあるのか。魔力が存在しないのに、どういった仕掛けなのだ。それにその様な高価なアイテムを他の者も持っているのか。良翔殿の国は非常に裕福なのだな」

それには良翔も笑う。

ノアは微笑ましくそのやり取りを聞いている。

 「いや、ハザ。確かに俺の住む国は決して貧しい国ではないが、この道具は俺の国の多くの住人は持っている。そこまで高価な物ではないよ。人によっては複数持って使い分けていたりもするしな。それにこれは俺の住む国だけでなく、世界中の者が持っている物になる。だから、そう珍しい物でもないんだ」

ハザは良翔の話を聞き、尚も驚く。

 「何と!!良翔殿の世界では、我々の世界では幻とも思えるほどのアイテムを皆が簡単に手にする事が出来ると言うのか!?何と進んだ世界なのだ……」

良翔はクスリとだけ笑い、今度使わなくなった古いスマホをハザにあげようと思うのだった。

そして、丁度秋翔からの連絡が入る。

 「良翔、後5分ほどで着くぞ。準備はいいか?」

 「ああ、お疲れ様秋翔。準備は問題ない。個室に入ったら連絡してくれ。迎えに行くよ」

 「迎え…?ああ、明日からの行動の為に、ハザやアダマンタートルとの顔合わせかい?」

秋翔はまだアダマンタートルがエヴァと名付けられ大きな変化を遂げた事を知らない。

 「ああ、そう言う事だ。今日こちらで起きた事を今から全て経験共有[リンク]するから、メモリを上書きしてくれ」

 「了解した」

良翔と秋翔は毎度、タイミングを決めて互いの情報や経験した事を、さも自分が味わったり、行動したかの様な共有を行う。

それを良翔達は経験共有[リンク]と呼んでいた。

経験共有により、良翔は秋翔が今日どんな事があり、どんな事をしたのかを把握する。

また、秋翔も良翔が今日どんな経験をし、なにを考え、何を得たのかを把握し、新たな技や魔法で有れば自分も習得するのだった。

秋翔にしてみれば、実際は魔法など一度も放った事も無いのに、既に経験としてあるという事になる。

そして、良翔が先程ハザ達の会話の中で閃いた事を把握する。

 「これは…、確かに良翔の思う通りだな。試して見る価値は大いにあるな。帰ったら頼むぞ?」

 「ああ、任せておけ。どうだ、秋翔。着いたか?」

 「ああ、正に今入った所だ」

 「分かった」

良翔はそう言い、秋翔との会話を一度切る。

そして、ハザ達の目の前で、今まで見せてきたゲートとは明らかに様子が異なるゲートを出現させる。

 「秋翔が帰ってきたから、こちらに連れて来る。少し、待っていてくれ」

良翔はそう言い、異世界転移ゲートを潜り、姿を消す。


個室の中に現れた、良翔は無言のまま、秋翔に頷き、片手を差し出す。

秋翔も良翔に促された通りに手を出し、良翔の手を握る。

そして、秋翔は異世界に初めて踏み入れたのだった。

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