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サラリーマン、異世界へチート通勤する  作者: 縞熊模様
第2章
141/163

2-30

良翔達はタリス付近の森の中に出る。

辺りは日が暮れだし、森の中だと薄暗くなっている。

そこにエヴァが聞く。

 「なぁ、良翔。何でタリスの街の中に出ないのだ?」

それにはノアが答える。

 『突然自分の目の前に、他人が現れたら驚くでしょ?それに、宿屋の部屋へ出るっていう手もあるけど、その為には宿屋の部屋の中に一日中閉じこもらなきゃならないわ。冒険者だと怪しまれてしまう事は分かるわよね?それに、良翔のこのゲートの能力は通常、他の人も出来ない事なの。だから、それを隠す為、周りからそういう力を持っているのでは無いかと疑われない為に、こうして、街の外へ一度出てから使用し、また、そこに帰ってくる、という事をしているのよ』

 「へぇ、成る程。なんだか面倒くさいな。ま、良翔達がそうしてるなら私もそうゆうものだと思う事にするぞ」

 「ああ、そう思ってもらうのが一番楽だ。とりあえずそういうものだと理解してくれればそれで良いさ」

良翔も頷く。


良翔達は街に戻り、そのままギルドへと向かう。

街は夕暮れ時という事もあり、夕飯の支度の為や、仕事を終え帰宅路に付く者、冒険を終えて帰って来た者で賑やかになっている。

その人混みを良翔達は縫う様に進み、ギルドへと到着する。

 「話は俺とハザでして来るから、ノアとエヴァは街を見て来なよ。エヴァは人の街に来るのは初めてだろう?ノアに案内してもらうといい」

良翔に言われエヴァは目を輝かせて喜ぶ。

ノアもそんなエヴァの様子を見て微笑ましく眺めている。

 「じゃあ、終わったら連絡するよ、ノア」

 『ええ、分かったわ。また後で』

そうノアが言い終わるかどうかのタイミングでエヴァはノアの手を引っ張り楽しげに、あれが見たい、あれを食べてみたいと仕切りにノアにまくし立て、人混みの中へ姿を消していく。

 「やれやれだな」

良翔は苦笑いを浮かべて2人が見えなくなるまで眺める。

それにはハザも苦笑いしている。

 「さあ、俺達もさっさと済ませてしまおう」

ハザは良翔に言われ、頷く。

良翔とハザはギルドの扉を開け、中に入る。


ギルドの中に入り、扉を閉めると外の喧騒が嘘の様に聞こえなくなる。

今まであまり気にしていなかったが、ギルドの扉は、音を遮る仕組みになっている様だ。

確かにギルド内では、どこが襲われただの、あそこが危ないだの話が日常的に飛び交っている。

そんな話が街の人にダダ漏れになるのも好ましくは無いのだろう。

どちらかというと、中の音を外に漏れづらくする為の配慮なのだろうと良翔は解釈する。


良翔達はそのまま、カウンターに向かうとミレナが笑顔で迎える。

 「良翔さん、今晩は。今日はどんな御用ですか?ひょっとしてノアさんもいない事ですし、私に会いに来てくれたんですか?」

と、冗談なのか本気なのかどちらとも取れない、そんな雰囲気でミレナが話しかけて来る。

 「そうだな、ミレナさんに挨拶と、カシナさんに報告があって来たんだ。カシナさんは居るかな?」

ミレナは予想外の言葉が良翔から帰って来た様で少し驚くが、先ずはカシナのスケジュールを確認する。

 「カシナ様は今は執務室におられる事になってますね。今都合を確認しますね」

ミレナはそう言い、恐らく新人であろう他の受付嬢に何か伝えている。

ミレナに話しかけられた受付嬢はチラリと良翔達を見て、頷き、直ぐに席を立ち、執務室の方へと向かう。

ミレナは再びカウンターの自席へ戻ると、良翔に話しかける。

 「良翔さん、さっき挨拶と言ってましたけど、まさか、タリスを出て行かれるのですか?」

良翔は苦笑いしながら、頷く。

 「ミレナさんには本当に良くしてもらったし、非常に心地良い環境だったのもあって、正直もっと長居したかったんだがな。残念ながら他に向かわなきゃならない用事が出来てしまってね。カシナさんへの報告が終わり次第この街を立つつもりだ。だから、ミレナさんにはその挨拶も兼ねてね」

するとミレナは他の人がハッと驚く程落ち込んだ顔をする。

良翔もまさかこれほどの反応が返ってくるとは思いもせず、少し焦る。

 「来たばかりだというのに、もう行かれてしまうんですね……。確かに良翔さん達は冒険者になったのですから、当然の事だとは分かってはいるのですが……。やはり、どうしても別れが来るのは悲しいものです。特に良翔さんの場合は、他の冒険者の方達とは違いますしね……。そして……、私の…この気持ちも…」

そう言い、黙ってしまった。

良翔はどうミレナに接して良いか分からず、言葉を探していると、ハザが思いもかけずミレナに声をかける。

 「ミレナ殿。そう悲しむ必要なないと思うぞ。良翔殿は一時的に留守にする様なものだ。私自身も仲間がいるのでな、時折はこちらに顔を見せようと思っているし、良翔殿にもバンダン殿やカシナ殿と交流を継続して取る必要があるのでな、時折はこうしてここに来る必要があるのだ。つまり、我々にはここに来る目的と理由があるのだ。なので必然的に別れという訳ではなく、一時的な留守だ。そう思ったら、気が楽にならぬか?」

ハザにそう言われ、ミレナは顔を上げる。

そして、目に涙を浮かべながら、笑顔で答える。

 「はい…。ハザさんの仰る通り、これでお別れだなんて考えない様にします。良翔さん達はちょっと遠くに出掛けていて、いずれここに返って来てくれる。その帰りを心待ちにする様に致します。……ハザさんて良い人なんですね」

逆にミレナから素敵な笑顔を向けられ、そんな言葉を言われたハザは戸惑う。

 「あ、ああ。そう思われるのが良いと思う…」

そこに先程の新米らしき受付嬢が走って戻ってくる。

 「良翔様、ハザ様、カシナ様がお会い出来るそうです。お手数ですが、執務室迄お越し頂けますか?」

 「ああ、分かった、ありがとう」

良翔は笑顔で答え、ミレナに手を振り、その場を後にする。

ハザもこれ幸いと、良翔に従いそそくさとその場を後にする。


執務室をノックすると、中からニーナが出て来る。

 「良翔様、ハザ様こんばんは。いかがされました?さぁ、中へお入り下さい」

良翔とハザは中に促され、そのまま促されたソファーへと着席する。

日中の円卓はこの部屋の隅に畳まれて立て掛けられている。

いつもの執務室に戻っていた。


ニーナはそのままカシナの隣に立つ。

毎度執務室へ行くと出される紅茶については、予めニーナに断っておいたのだ。

カシナは良翔とハザが着席するのを待ち、口を開く。

 「どうしたんだ良翔、それにハザまで。ノアはどうした?」

 「今日の今日ですまないな、カシナさん。急ぎ耳に入れておきたい事があってね。今日この街を立つ事にしてね、ノアには買い出しを頼んでいるんだ」

ふむ、とカシナは両手を顎の下で組み、良翔を見つめる。

 「実はあれから、確認したい事があって、先程までハタットの村に行っていたんだ」

カシナは眉を動かし、ハタット?と呟く。

 「なぜハタットなどにわざわざ行ったんだ?あそこは小さな漁村だが、特段、良翔が目を引く様なものがあったか……?」

カシナは少し考えるが、結局思い当たらなかったらしく、再び視線を戻す。

 「……今回のこのタリスの街の事件で、まだハッキリとしていない問題がある、と言えば?」

良翔に質問されカシナは迷わず回答する。

 「街を出て行った冒険者達の足取りが不明な事と、出て行ったその理由が不明という事だな」

良翔は頷く。

 「さすがカシナさんだ。ハタットにはその回答を求めに行ってきたんだ」

するとカシナとニーナの顔つきが変わる。

 「詳しく聞かせてくれ」

カシナに促され、良翔は話を始める。


ハタットに的を絞りそこを訪れた理由、村の様子や村で起きていた事、そして、良翔達が村でして来た事、などを要所を掻い摘んで端的に伝える。


良翔の話を聞き終え、カシナは、ふう、と軽い溜息を吐き、腕を組み、考え込む。

良翔とハザはカシナの言葉を待つ。

少しして、カシナが組んでいた腕をほどき、再び先程の姿勢に戻ると、良翔に聞いてくる。

 「この街を出て行った冒険者達が亡くなってしまっていたのは大変残念な事だ…。これについては今後は外に出て行く冒険者には、明確な目的や、今後向かう場所を言えぬ者には強く止める様にするしかないな。幸いにも、街から出て行く者が最近は収まった様だがな。それから、ハタットの村での一件、良翔に全てやらせてしまってすまなかったな。だが、助かった。ありがとう」

 「いや、気にしないで欲しい。俺もカシナさん達に何も言わずに動いてしまったからな。その辺は事前に共有すべきだったかと思う」

カシナは頷く。

そして、カシナは再び口を開く。

 「それにしても……、お前達がこれから追って行く男は一体何者なんだろうな…。少なくとも人間の様には思えんが…。まぁ、良翔の言う通り、いまだにそいつの目的が分からないが、我々に害を与えようとしている事だけはハッキリしているな」

それには良翔も頷く。

 「なるべく早く、その目的を突き止める様に心掛けるよ。カシナさんも何か進展があったら手間だが俺にも情報を共有して欲しい」

 「ああ、もちろんだ」

カシナは頷き答える。


そこで、良翔は思い出した様に、伝える。

 「突然で申し訳ないが、一つカシナさんにお願いがあるんだ」

 「なんだ、我々で出来る事であれば協力させてもらうぞ?遠慮せず言ってくれ」

良翔は頷く。

 「では、甘えさせてもらうと、ハタットの村で出会ったメイシャという女の子がカシナさん宛に訪ねて来るかもしれないんだ。彼女は魔法を使えるようになりたいらしくてね。あの村の惨状を嘆き、自分でも何かできる様になりたいと強い意志を持っている真っ直ぐな娘だ。その際には悪いんだが、彼女の面倒を見てやって欲しい。私的なお願いで悪いが頼めるか?」

すると、カシナはニヤリと笑う。

 「良翔が話していた元盲目の少女の事だな?任せておけ。ここはギルドだ。そして私はそのギルドのマスターだ。ギルドは新人の育成も行う場所だからな。強い意志を持つ者で有れば、こちらこそ大歓迎だ。私に任せておけ」

良翔も笑顔になり、頷く。


 「さて、カシナさん達に報告したかった内容は以上だ。ハタットの様子を含め、観察をお願いする」

良翔はそう言いながら席を立ち上がる。

カシナは頷き、

 「分かった。定期的にこちらから数名派遣し、交流を今より持つ様にしよう。また、大地の守護者達の監視範囲を広げてもらう様に依頼しておこう。そうすれば何かしらの変化が生じれば、こちらでもそれなりのスピードで情報が把握が出来るはずだ。………ところで、良翔達はもうこのまま行くのか?」

それに、良翔は笑顔で頷く。

 「ああ、あまりダラダラ居てしまうと、いつまでも出発出来なくなりそうだからな。準備が出来次第、直ぐに発つよ」

 「そうか…、では、何かあれば伝達する為の媒体が必要になる。以前良翔に作って貰った指輪を私と良翔専用の通信に改造出来るか?」

良翔は頷くが少し考える。

そして、カシナがいま指にはめている指輪を指して、提案する。

 「もし、差し支えないなら、今俺が付けているこの指輪と、カシナさんのその指輪を繋げてしまっても良いかな?連絡を取る人が多くなる度に指輪を新たにはめていったら、その内、指輪だらけになりそうだからな。俺のこの指輪はバンダンとも繋がるが、カシナさんとの専用通信も付加する事は可能なはずだ。必要が有れば、この指輪でバンダンとカシナさんと俺との三者同時通信も出来る様にする。どうかな?」

カシナは頷く。

 「ああ、それで構わない」


良翔はカシナの手をそっと取り、指輪に向けてもう一方の手を上からかざす。

その間、何故か、カシナは顔を少し赤らめている。

良翔が付与し終わると、そっとカシナの手を話し、黙ってカシナを見つめる。


暫く見つめられていたカシナは、先程よりも更に顔を赤らめ、少し汗を掻き出す。

そして、ピクリと眉を動かす。


良翔は試しにカシナに念話を行ったのだ。

 「カシナさん、聞こえるかい?」

突然良翔の声が脳内に聞こえた事で、カシナは眉を動かしたが、直ぐに順応する。

 「ああ、付与の様子を初めて見たが、こんなにもあっさりできてしまうものなのだな」

カシナも念話で応じる。

 「そうだな、毎回こんなものだった気がするな。まぁ、他の人も同じ様に出来るかは分からないけどな。とりあえずは無事にうまく出来た様だし、何かあれば遠慮なく呼び出してくれ」

 「ああ、分かった」

そして、良翔は念話を切る。


すると、カシナは立ち上がり、片手を差し出して来る。

 「武運を」

 「ああ、ありがとう」

良翔も片手を差し出し、握手する。


握手を終えると、良翔はドアに向かって踵を返す。

そして、一度カシナとニーナに振り返り

 「じゃあ、また」

と告げ、部屋を後にする。


良翔とハザは執務室を後にし、ロビーに戻る。

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