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サラリーマン、異世界へチート通勤する  作者: 縞熊模様
第2章
139/163

2-28

3人は先程エヴァと別れた地点へ戻ってくる。

そこには、大の字になって、エヴァが気持ち良さそうに寝ていた。

『コッチが大変だったのに、エヴァはまだ寝てたのね』

ノアがクスリと笑う。

もう、先程までのエヴァとの険悪な感じはない。

ノアは、エヴァに近づき、肩を揺らして起こす。

『エヴァ、起きなさい』

すると、エヴァはゆっくりと眼を開ける。

「お、ノア姉。もう終わったのか?」

『ええ、終わったわ。疲れてるだろうけど移動よ。それにあなたの服も用意しなきゃね』

そう言われ、エヴァは大欠伸を一つした後に、ひょいっと飛び上がり、起き上がる。

「洋服については、私はこれも気に入っているのだが…、着た方が良いのか?」

それには良翔はすかさず

「ああ、頼むから着てくれ」

と間髪入れずに挟む。

「うぅ、分かったのだ。ノア姉何か良いものあるのか?」

そう言われ、ノアは少し考えてからエヴァに提案する。

『とりあえずは、仮着を着て街に行って、どんな服装が良いのか、見てみましょ。あまり時間をかけずにね』

「そうだな、エヴァにも好みがあるだろうし、こちらとしてはちゃんと服を着てくれていれば問題はない」

『なら、今はこんな感じで良いかしらね?』

そう言うと、ノアはパッと右手を横に振る。

するとエヴァの服装がパッと変わる。

ブラックのタイトパンツに、長めのレザーブーツを履き、上は襟付きのシャツを少しはだけさせ、胸元は黒のチューブトップをまとっている。

腰にはノアと同じレイピアを指し、肩から腰にかけては胸当てを装備している。

軽装で動きやすそうな服装である。

そしてエヴァの髪型も変化している。

左右の髪は編み込まれて、後ろに流れていき、ウルフヘアへと変化した髪型と混ざって、後ろで一まとまりになる。

民族的な、ラフな印象を残しつつも、どこか垢抜けたお洒落な雰囲気もある。

うん、悪くない。

エヴァのイメージによく合っている。

活発でかつワイルドな感じだが、ちゃんと女性らしさも残している。

良翔は思わず、感想を口にする。

「俺は今の服装が非常に良くエヴァに似合っていて、ピッタリだと思うんだが…。逆にこれ以上の服装を期待する気になれないんだが……。それでも見に行くかい?ノアはエヴァの特徴を上手く現してる服を選択したね」

するとノアはニコリと笑う。

『確かに、自分で言うのもなんだけど、結構良い感じにハマってるわね。エヴァはどう?悪くない?』

エヴァはノアと良翔に言われ、自分の服装を上から下まで眺め、頷く。

「うむ、動きやすいし、ノア姉も良翔も良いと言っているからな!私はこれでいいぞ!」

良翔もノアも頷く。

「じゃあ、服屋は行かなくて良いな」

良翔がそう言うと、ノアとエヴァが頷く。

そこへ、ハザが口を挟む。

「では、エヴァ殿の服装問題も解決したところで……、早速なんだが良翔殿の今後の予定と先程の村での事を我々にも教えてくれないだろうか」

ハザにそう言われ、良翔は頷く。

「ああ、そうだったな。先ずは先程の村の事から説明する」

良翔以外の3人が頷く。

「端的に説明すると、あのハタットの村に俺達が追っている男が来ていた。そして、居なくなった冒険者達もだ。冒険者達は皆、恐らく強い暗示を掛けられていたのだろう。あの村に行き、皆、海に身投げしていた」

するとハザは驚く。

「なんと……」

良翔は話を続ける。

「だから、残念ながら街から居なくなった冒険者達を連れ戻す事は不可能だ。そして、それだけでは終わらなかった。身投げした冒険者達の魔力を集め、ノアとハザも見たあの器に、彼らの魔力を禍々しく変えて宿らせていたんだ。しかも、その器で汲んだ水を飲んだ者は魔物化してしまう力を与えてな。その器は村ではどんな病や傷でも立ち所に治してしまう奇跡の器として祀られる始末だ。その正体を知っていたのが唯一、ノアとハザも会ったメイシャだけだった。結局、村人はメイシャ以外は皆魔物化してしまっていたんだ。魔物化した事で彼らの生態が変わり、子供がいないが、皆、活発で生命力に溢れた村となっていたんだ。まぁ、魔物は子供を産まないからな。必要なくなったんだ」

『つまりあそこはメイシャ以外は魔物の村だったと…』

良翔はノアの相槌に頷く。

「ああ、その通りだ。とりあえずはその問題を解決すべく、俺はメイシャに器を持って来させ、その器の機能を改変した。健康的な人間の細胞を複製し、魔物化してしまった細胞を置き換えて、元の人間の姿に戻るようにな」

3人は考える顔をしながら頷く。

「とりあえず、メイシャは自らを実験台にして、新たに生まれ変わった器の機能を試して欲しいと申し出ていたからな、迷いはしたが、彼女で試させてもらった。もちろん、結果は無事に成功だ。魔物化した部分も正常な人間の細胞に置き換わっている事を確認したから、問題ないだろう。俺はそれを見届けてから村を出てきた。後はメイシャが上手くやるだろうと思ってな」

すると、ノアが疑問を口にする。

『待って、良翔。つまりメイシャも魔物化していたという事?』

良翔は頷く。

「ああ、微々たる部分だがな。恐らくノア達と走った事で汗をかいたのだろう。結果的に汗がその器に触れ、魔物化する液体となってしまっていた。そして、それに気付かずメイシャが触れていたんだ。つまりその触れていた部分だけが、魔物化してしまっていたんだよ」

すると、ノアは少し落ち込んだ顔をする。

『そうなのね…。私が走らせちゃったものだから。一時的とは言え、部分的に魔物化させてしまったのね…』

それに良翔は首を振る。

「正直気にする事は無いと思うよ、ノア。魔物化したと言っても指先が少しだけだからな。本人もほとんど自覚無かったみたいだし。それにそのお陰で、新たに改変した器の効力も確認出来たからな。結果オーライだ」

良翔にそう言われたノアだが、まだ、少し気にしているようだった。

良翔はノアを安心させる為に話を続ける。

「結果、メイシャが器を取って帰って来た時は、取りに行った時とは、別人の様に変化していたよ。そしてノアの事をとても尊敬していたみたいだ。だから、ノアが気にする事じゃないと思うよ」

ノアは良翔からそう言われ、少し考えたが、ニコリと微笑む。

『そうね、良翔の言う通り気にしない事にするわ』

良翔は頷く。

「となると…、一体その男の目的はなんだったのだろうか…」

ハザがどこに向かってとではなく、呟く様に言う。

「正直分からない…。その男は悪魔の器を作って、村人を魔物に変えてどうしたかったのか、こればっかりは全く理由が思いつかないんだ。ただ、あの男の魔力は、器に残っていた魔力から特定した。奴の尻尾は掴んだ。だが、気になることもあってな。今回の事も、四島の事も、奴は何一つ迷わず、なんの疑問も抱かずに行っていたと思われる事だ。奴の魔力には何の迷いも後悔も無かった。ただ有るのは、真っ直ぐな思いだけ。それは不自然な程、迷いのない魔力だったよ。今思い出しても、不自然過ぎて嫌な気持ちにさせるものだ」

良翔以外の3人は考える。

しかし、明確な答えなど出る訳でも無かった。

 「まぁ、今はしょうがない。奴を追う為に重要な魔力の痕跡を掴んだんだ。今回はその収穫があっただけ良しとしよう」

それにノアが頷く。

 『そうね、今は分からないことを無理に考えて時間をかけてもしょうがないわ。それよりも、ハザ。今後の事も聞きたかったんでしょ?』

ノアに言われ、思い出した様に、ハザが頷く。

 「ああ、その通りだ。ハタットの村の事は分かった。後はその掴んだ尻尾から今後に繋げていけば良い。それで、話は変わるが今後はどうするのだ?」

それに対してはノアが口を開く。

 『次に向かう村や、どうやって例の男を追っていくかは良翔に考えてもらうとして、とりあえず人数も増えたこのパーティーでの旅の仕方について、意識を合わせておきたいの。それについては私から説明するわ』

ハザとエヴァが頷く。

 『まず初めに、私達の正体を説明する必要があるわ』

ハザがゴクリと唾を飲む。

 「良翔殿とノア殿の正体についてとは………」

ノアはニコリと笑う。

 『この世界では、そんな、大それた事ではない事よ、ハザ。私達はね……、毎日異世界から来ているの。私も良翔も、夜は異世界で過ごし、朝こちらに来ているの。これで私達の能力の根源については大方想像つくわね?その辺は他の転生者や転移者と同じと思ってもらって差し支えないわ。それで……、今後についてなんだけど…』

ノアが話している最中にハザが口を挟む。

 「ま、待ってくれ、ノア殿。良翔殿とノア殿が異世界からの転移者という話は、その力からしても素直に頷けるのだが、毎日異世界とこちらの世界を行き来しているとなると、話は変わってくるぞ!そんな話、聞いた事もない……。通常、我々が見聞きしている転生者や転移者に共通しているのは、皆一度きりの異世界移動という事だ。それを良翔殿達は任意に異世界を行き来出来るのか!?」

ノアはニコリと笑い頷く。

 『私達の場合、その辺はちょっと特異かもね。まぁ、出来るものは出来るのだし、実際にそうして生活しているから……、ねぇ?』

と、ノアは良翔に視線を送る。

エヴァもハザも良翔を向く。

良翔は鼻頭を掻きながら、頷く。

 「まぁ、ノアの言う通りだな」

ハザは驚きの表情を隠さない。

だが、ノアは気にせず話を続ける事にする。

 『それで、何故この話をしたかと言うと、私達の世界には、私達の家族が居るわ。7日のうち、2日もしくは場合によってはそれ以上、私達の世界で過ごす事にしているのよ。毎日、常にこちらに居る訳ではないって事』

するとエヴァが話を言い当てる。

 「つまり、その良翔達が不在の間、我々はどうするのかという事か?」

ノアはニコリと笑い、頷く。

 『ええ、その通りよ、エヴァ。そこで提案なんだけど、私達が不在の間は良翔の写し身である、秋翔[アキト]をこの世界によこすわ。その間は秋翔と今起きている問題や課題について調べたりしてもらいたいの。もちろんその間を休みにしてもいいわ。常に冒険しっぱなしって言うのも疲れるだろうし、ハザについては仲間の事やマレナの事も気になるだろうからね』

またしてもハザは驚く。

 「良翔殿には写し身なる存在が居るのか?まさか、能力も同じって事は…」

 「いや、同じだな」

良翔がハザに返す。

 「では、実質神の力を持つ者が、その秋翔殿を含め3人も居ると言うのか…」

良翔は頬を掻き、ハザに答える。

 「まぁ、正確には俺が出来た事は出来るという意味だな。秋翔にはナビゲーター機能は無いからな。あくまで俺が作り出した俺自身の複製だから、出来る事に差はある」

ハザは驚きのあまり声すら出せない。

一方のエヴァは途中から話についていけない様だ。

全く言葉を発しない。

 「その、ナビゲーターというのは一体何なのだ……?スキルか何かなのか?」

やっとの思いでハザが口にする。

これにはノアが答える。

 『ナビゲーターとは、良翔がイメージしたものを具現化する為のサポート機能を指すわ。そして私は良翔のナビゲーターなの。私は元々ただの機能だったわ。それを良翔が具現化し、肉体を与え、個性を与えてくれたの。そうして、私が生まれた』

 「ま、待ってくれ!もう少し分かりやすく頼む。理解出来る気がするのだが、頭が追いつかないのだ…」

ハザは目を見開き、わなわな震えている。

そこにノアが軽い溜息を吐いて、再度分かりやすく説明する。

 『いい?エヴァにも判る様に簡単に説明するとね、良翔は思い描いたものを現実に出現させる力を持ってるの。私の機能、つまりナビゲーターはそれを補助するもの。どう?これで分かったかしら?』

そこへ、さっきまでよく分からなくなり、話について来なかったエヴァが、おぉ!と声を上げる。

 「つまり、良翔は神なのだな!まるでマキト様みたいだな!」

ハザは震えながらも、エヴァの発言に視線を傾け、どうやら完全に腹に落ちたのだろう。

 「そうだ……。エヴァ殿の言う通りだ。良翔殿のその能力は……、神の使いではなく、創造神マキト様そのものの力だ……。まさか……」

ハザの震えは止まらない。

だが、良翔が釘を刺す。

 「ハザ?でも、約束だろ?俺を神扱いしないって話だっただろ?だから、今まで通りだ。それに前も言ったけど、俺は神の導きとかそういったものは一切無いんだ。ただ、単純にこの旅を楽しむだけさ。たまたま神の力の様な能力を運良く身に付けられた、ただそれだけだよ。あ、後、分かってると思うけど、この事は決して口外しないように。色々とやりづらくなるからな」

良翔にそう言われ、ハザは我に返った様でピタリと震えが止まる。

 「そ、そうであったな。すまない。まさかまさかと思いはしたが、私の想像を遥かに超えていたもので、つい、な。大丈夫だ。安心してくれ、この事は墓場まで持っていく。それに、これだけすべて話して貰えたのだ。それだけの信頼を得られた事に、素直に喜ぶ事にする。これで、何が起きても大した事では驚かなくなった気がするぞ」

ハザの答えに良翔もノアも笑う。

 「ああ、頼むよ。エヴァも良いね?」

エヴァもニコリと笑い頷く。

 「ああ、任せておけ!元々我々は創造神マキト様と共にこの世界に来たとされているんだ。だから、私は然るべきところに来たという事だな!これからは、良翔とノア姉の為に全力で頑張るぞ!」


そこに思い出した様に、ハザが口を挟む。

 「いま、色々いっぺんに情報が来た為に、さり気なく触れずに過ぎてしまったが、ノア殿は人間では無いのか?」

それにはノアは首を左右に振る。

 『私は確かに元々はただの機能だった。でも、今はちゃんと肉体もあるし、個としての意思も確立しているの。だから、ちゃんと人間でもあるわ。ただ、私は生まれが人とは確かに違うから、人じゃないと言われればそうかもしれないけど…』

それには良翔が、答える。

 「いや、ノアはもう立派な人間だよ。生い立ちが親から生まれ、姿形は人の形をしていたとしても、とてもじゃないが人間と呼べない奴も、世の中には沢山いるからな。何をもって人間と呼ぶのか、という事にしか過ぎないさ。それにノアはもう俺の大事な家族だからな。それ以上でも、それ以下でもないって事さ」

それにはハザも頷く。

 「うむ、確かに良翔殿の言う通りだな。くだらない質問をしてしまってすまない、ノア殿」

ノアは良翔に家族と呼ばれた事が嬉しかったのか、とても大きな笑顔を良翔に向ける。

 『いえ、気にしないで、ハザ。ハザのその疑問は至極当然なものだもの。私もその事はちゃんと自覚してるつもりよ。でも、良翔が言ってくれた通り、私はちゃんと家族になれたの。だから、そういう存在、っていうのがハザの質問に対する答えかな』

ハザは満足そうに頷く。

エヴァはどこか、羨ましそうにノアと良翔を見つめている。

本当は家族が欲しいのだろう。

だが、こればっかりは、じゃあなろう、とは簡単にはいかない為に、良翔は気づかないフリをする。

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