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サラリーマン、異世界へチート通勤する  作者: 縞熊模様
第2章
138/163

2-27

メイシャは器に両手を伸ばし、そっと触れる。

「それじゃあ、飲むわ……。私に何かあったら、宜しくね、良翔さん」

メイシャは不安を押し消し、強がる様に笑ってみせる。

「ああ、安心しろ。だが、出来る事ならそうならない様に願うばかりだ」

メイシャは、ふっと肩の力を抜き、一気に水を飲み干す。

しばらく二人ともジッと動かない。

変化が起きるのを待っているのだ。

五分程経っただろうか。

「そろそろか…」

良翔がそう言うと、メイシャが指先を眺めながらポツリと呟く様に返す。

「なんだか、体が温かくなって来たわ…。そして……、眠気……、が……」

メイシャの手に握られていた、器がテーブルの上にコトリと音を立てて、置かれる。

メイシャはそのまま、テーブルに突っぷす様に眠ってしまった。

良翔は魔力水から、メイシャの体内の全身に魔力が行き渡るのを注意深く見守る。

眠ってしまったメイシャを抱きかかえ、そっとベッドに横たわらせる。

特に苦しむといった様子はなく、穏やかに眠っている。

体内の魔力も暴走する様子もなく、緩やかに全身に巡り、メイシャの表情からも、先程よりも血行が良くなった様に見受けられる。良翔はメイシャの手のひらを確認する。

先程見受けられた、変色した指先はスッカリ元どおりになり、水分を良く含んだ綺麗な指へと変わっていた。

「先ず、魔物化した部分の再生は上手くいっている様だな……。残すは……」


メイシャがやがて眼を覚ます。

おおよそ15分ほど眠っていただろうか……。

彼女は薄すら眼を開ける。

少しの間、ぼうっと天井を仰ぎ眺めていたが、やがて、意識が戻るにつれ、はっとする。

がばっと状態を起こし、辺りを見回す。

そして、突然眼を抑える。

「見える………、見えてる!!……良翔さん!!良翔さん!?」

メイシャは大粒の涙を流しながら、辺りを見回すが、良翔が見つけられない。

「安心しろ…、メイシャ。ちゃんと居るよ」

メイシャは声が突然聞こえ、驚き、更に家中を見渡すが、良翔の姿を目視出来ない。

「え…?良翔さん、どこに居るの?私の目は、まだちゃんと治ってないのかな…」


「違うさ、メイシャ。俺の姿が見えない事が正しく目が機能している証拠さ。俺はこの村に来た時からずっと魔法で姿を消している。だが、メイシャの鋭い五感に見つけられてしまったというだけさ」

「そ、そうなの……。どうりで村の人達が良翔さんに声を掛けなかったのね…」

「ああ、騙すみたいですまなかったな」

するとメイシャは首を左右に振り、ニコリと微笑む。

「いいえ。気にしないで良翔さん。ただ、出来れば私が目が見える様になって、最初にその恩人の姿が見れないのは悲しいわ。……出来れば……良翔さんに会いたいわ」

良翔はふと顔を綻ばせ

「ああ、分かった」

ステルス膜を解除する。

すると突然メイシャの前に良翔の姿が現れる。

メイシャは一瞬驚くが、やがて良翔の姿をまじまじと見だす。

良翔は照れ

「おい、あまりジッと見ないでくれ。見ての通り中年のおじさんだ。お世辞にも目の保養にはならんぞ」

するとメイシャは大粒の涙を流しながら、良翔に抱きつく。

「良翔さんは…、良翔さんは…。私の思い描いた通りの姿だった。不思議ね……、目が見えていなかった筈なのに、とても懐かしくて、見覚えのある顔なの…。ありがとう、良翔さん」

埋めていた顔を話し、気持ちのいい笑顔を見せてくるメイシャに、良翔は優しく微笑み、そっと頭を撫でる。

「よく頑張ったな、メイシャ。メイシャのお陰で実験は無事に成功だ」

メイシャは大きく微笑み、力強く頷く。

そして、良翔にぎゅっと抱きつく。

親を亡くし、愛情に飢えていたのだろう。

それが、突然目が見える様になり、目の前の男性に優しくされたのだ。

不安と安心が一気に押し寄せ、体を震わせ、大粒の涙を零す。


しばらく泣いた後、メイシャは顔を話し、赤い眼を擦りながら、少し照れて、はにかむ。

「ごめんなさい、良翔さん。……でも、もう大丈夫」

良翔はメイシャからそう言われ、そっと体を離す。

「落ち着いたみたいだな。さて、これからどうするんだ……?」

メイシャは自分の両頬を、自分の両手で挟み込み、気合いを入れると、良翔に向け、意志の強い眼差しを向ける。

「まずは、この器を使ってみんなを治すわ。恐らくみんな自分の体が変わってしまったことに薄々気付いている筈だから。だから、きっとちゃんと説明すれば分かってくれる筈よ。その後は……」

そう言いかけ、メイシャは少し視線を逸らす。

言うかを迷っているみたいだった。

良翔はメイシャの背中を後押ししてやる。

「その後は……、村を出るのか?」

するとメイシャはコクリと頷く。

「私は目が見えない時に良翔さんと、もう一人の人の魔法に触れたわ。それはとても優しい魔法。暖かくて優しい。でも、それでいてとても力強いの。私もそんな魔法を使える様になって、村のみんなや、色んな人を救いたいって思うの…。目が見える様になって気持ちが大きくなっている事は分かってるわ。でも、この気持ちは…、きっと今の高ぶりが収まっても、変わらないと思うの…」

良翔は、それを聞きニコリと微笑む。

もう一人というのも、恐らくノアの事だ。

どうやら彼女はメイシャの中でとても大きな存在になっている様だった。

「メイシャにぴったりの仕事だな。大丈夫。メイシャならきっと出来るさ」

メイシャも微笑み、ニコリと笑い、頷く。


「さて……、それじゃあ、俺はそろそろ行くよ。この器も無事に機能する様だし、後は任せても平気だな?」

メイシャは一瞬不安げな、そして悲しげな顔をするが、すぐに口をぎゅっと結び、頷く。

「ええ、大丈夫!いつまでも良翔さんに、おんぶに抱っこじゃ叱られてしまうもの!」

良翔はメイシャの顔を確認し、これなら大丈夫だと悟り、頷く。

良翔は姿をステルス膜で再び覆い、メイシャの前から姿を消す。

そして、扉を開け、出て行く間際に、メイシャに声を掛ける。

「魔法を使える様になりたいなら、タリスのカシナという人物を訪ねるんだ。話はしておく。きっと悪い様にはならない」

「ええ、分かったわ!何から何までありがとう!良翔さんもお元気で!!」

「ああ、メイシャもな」

良翔はそう言い、家の外に出る。

そして、そのまま村の入り口へ向かう。

もう、後ろは振り返らない。


村の外に出て、しばらく進むと、ノアとハザが待っていた。

良翔は村の入り口が見えない事を確認して、ステルス膜と魔力遮断膜を解く。

『お疲れ様、良翔。上手くいった?』

ノアが声を掛けてくる。

「ああ、無事にな。ノアとハザのお陰だよ」

「やはり、メイシャ殿がキーマンであったか。ノア殿の言う通りだな」

良翔は頷き、ノアとハザを見る。

「2人のサポートに救われたよ。それにしても、ノアはよく分かったな」

すると、ノアはニコリと微笑み

『私は良翔のナビゲーターだからね♪それぐらい余裕よ♪』

ノアの返しに良翔は微笑み、頷く。

「さすがはナビゲーターだな」

1人話を理解出来ず、キョトンとするハザは

「そのナビゲ……、何とかって言うのはなんだ?」

と聞き返す。

良翔とノアは、ふと笑い

「それについては、エヴァと合流した時に説明するよ。急ごう、もうじき夕方だ。今日のうちにタリスを出立しなきゃならないからな」

戸惑いながらも、頷くハザ。

良翔はゲートを作り出し、3人はエヴァの元へ向かう。

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