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サラリーマン、異世界へチート通勤する  作者: 縞熊模様
第2章
136/163

2-25

3人は村の大通りを抜け、メイシャの指示通りの場所で細道に折れる。

家を二、三件通り過ぎると、また、路地に出る。

そこから、左に折れ、二件ほど進むとメイシャの家に着いた。

メイシャは息を切らしている。

今までろくに走った事もないのだ。

大した距離ではないにしろ、メイシャにとっては激しい運動に違いなかった。

メイシャはようやく息を整え、顔を上げると、ニコリと微笑み、ノアとハザに頭を丁寧に下げる。

「ここまで、連れて来てくれてありがとう!本当ならお茶でも出してちゃんともてなしたい所なんだけど、今お客様が来ているの……」

メイシャはそう言い、とても残念そうな顔をする。

それに対し、ノアは優しくメイシャの肩に触れ

『いいの、気にしないで。ここまで付いてきたのは私達の勝手なのよ。だから、気にしないで。今はここでお別れだけど、必ずまた会えるわ』

すると、メイシャは名残惜しそうに、顔をノアに向け、ノアの片手を両手でしっかりと掴む。

「……ええ。必ず、また会えると信じているわ!!だから、どうか、それまで私の事忘れないで…」

ノアはふふと笑い、メイシャには伝わらないだろうが、頷く。

『ええ、約束よ。必ずまた会えるわ。恐らく近いうちにね。さて……、それじゃあ、そろそろ行くわ。あんまりうろちょろしてると門番さんに怒られちゃうもの。またね、メイシャ』

「元気でな、メイシャ殿」

メイシャは何度も頷き

「ええ、また今度!!ノアさん、ハザさん!!」

メイシャはノアとハザの足音が聞こえなくなるまで、彼らを見送った。

そして、別れに落ち込む気持ちに、鞭打ち、良翔の待つ家へと気持ちを新たに、扉を開け中に入る。



一方の良翔は、メイシャが出て行ってから、広域鑑定を村の隅々まで行う

すると、微弱では有るが、村の人々の魔力反応が映る。

その中に一際大きな魔力が2つ。

村の大通りを進んでいるのが分かる。

これはノアとハザだ。

さらに、良翔は奇妙な魔力線を捉える。

村人達よりも更に微弱な魔力だが、驚くべき事に、その魔力線は全ての村人から、有る方向に向かって、一直線に伸びているのだ。

そして、その線上に向かって、1人の不自然な移動をする魔力を確認する。

村の者達とは明らかに違う魔力。

これは、メイシャだ。

メイシャは家の壁伝いに進む為、蛇行する様に進むのだ。

だが、彼女なりに急いでいるらしく、意外な速さで進んでいた。

やがて、彼女の魔力がノア達の巨大な魔力とぶつかる。

「あ……、これはノア達にぶつかっちゃったかな?焦らないで良いと言えば良かったな…」

良翔は思わず呟く。

やがて一緒になった3つの魔力は、互いに同じ方向に走る様に進み出す。

「ん?ノア達もメイシャと一緒に向かうのか?」

良翔の独り言は止まらない。

「予想だと、あの器は、酷い魔力を帯びてそうなんだけど……。ノアが警戒して壊さなきゃ良いんだが……」

良翔の心配をよそに、3つの魔力は、魔力線の集合地でもある場所へ辿り着くと、メイシャの魔力だけが、1つ離れ、目的の場所まで進み出す。

「ノアとハザはそこから先は進めないんだな…」


メイシャの魔力は、魔力線のゴールもしくは始点に辿り着いた。

少しの後、魔力線の始点がメイシャの魔力と同じ移動を開始する。

「どうやら無事に回収できたみたいだな……」

良翔はそこまで確認して、一旦広域鑑定を解除する。

ノア達が一緒なら、ここまで戻るのは特に問題ないだろう、と判断した良翔は、メイシャがこれから持ってくる悪魔の器を、奇跡の器に変える為のイメージを始める。


「体を魔力主体に変える方法か…。それが、分かれば、それとは逆の事をしてやればいいんだが……」

良翔は腕を組み、椅子の背もたれに寄り掛かかる。

そして、自分で、自分の考えを良く理解する為に、口に出しながら考えをまとめていく。

「そもそも、魔物と人間の違いは何なのか、深く考えた事がなかったな…。確かに構成比は人間は肉体と呼ぶ物が魔物よりも圧倒的に多い。片や魔物には肉体と呼べる物が圧倒的に少ないという事は知っている。だが、肉体とは何を指すのか…。結局は魔物だって、何らかの形を構成しているし、実際に触れるし、血液の様な物もある…。つまりは細胞と呼べる物がどちらにも共通して有るんじゃないか?……もし、そうだと仮定するなら、両者の違いは細胞の違いになるな……。互いの細胞の決定的な違いは、魔物の細胞の方が魔力との相性が圧倒的に良く、意思のままに形を変えたり、エネルギーに変換しやすかったりするという事か…。魔素が形を作り、擬似細胞となる。その為、魔素は常に周囲にあり、消費すれば吸収するサイクルを行う為に、魔物は老化しない。片や人間は魔素に依存しない細胞が多く、その細胞は自身を消費し、自身のエネルギーを使用して活動する。故に老化が生じる……。つまり……、魔物の細胞化した細胞を、人間と同じ細胞に戻す事が必要になる…。となると……、その人それぞれの細胞を一つ一つ調べないといけなくなるな……。んーー、元の細胞に戻すのはやはり難しいのか……」

良翔はだらんと両手を下げ、考えを一旦止める。

ふとタバコが吸いたくなる。

久しく味わっていない感覚だった。

良翔は思い切って、家の外に出て、サッと屋根に登る。

レベルも上がっているのだろう。

この世界では良翔の筋力や運動能力は格段に上がっている。

屋根の高さまでジャンプする事など造作もない事だ。

ここなら、そう人目につく事は無い。

おまけに良翔は今は姿を消しているのだ。

見えるとしてもタバコだけだ。

余程、屋根の上を注意して見ないと、気付けないのだ。

良翔は屋根に寝そべり、収納から出したタバコに火を付け、ユックリ吸う。

久々に肺を満たす煙に、程よい刺激を感じる。

頭が冴えるかどうかは疑問だが、気持ちはリセットされる。

中々答えの出ない課題に煮詰まっていた気持ちは、一旦リセット出来た。

良翔はタバコを吸いながら、ユックリと考える。


そして、良翔はある事に気づく。

「待てよ…。今までは、今あるものを変えて元に戻そうとしていた。だけど、一から作り直してしまうという手もあるな…。村人達は幸いにも完全な魔物化をしている訳ではなさそうだし、本来の人間の細胞の部分も残っているんだ…。ならば、その残った細胞から、コピーを繰り返して増やしてやればいいんじゃないのか?そして、今ある魔物の細胞と入れ替えていく。そうすれば本来の細胞に置き換えられるんじゃないか?……本当に成功するかは正直試してみないと分からないが、やってみる価値はあるな……。うん、元々は一つの細胞から細胞分裂で生まれて来るんだ。その理屈なら、きっと…」

良翔はタバコを吸い終わり、閃いた事を早速試す事にする。

人での人体実験はすべきでは無いと考え、あたりに生えている草で試す。

人と草が同じ物質で構成されているのかと言われればよく分からない。

だが、理屈は同じだろうとの結論に至る。

人の細胞と違うとはいえ、始まりとなる物質があり、それが増えていき、結果そのものを成り立たせる。

であれば、その元からある物質を増やしてやり、異なる物質と入れ替えてやれば良い。


先ずは草に触れ、その大半に魔力を与え、大気や大地から魔素を吸収し、魔力のエネルギを極限に伝えやすくする。

すると草はみるみる成長し、あっという間に良翔の腰ほどまでの高さに育つ。

色は緑から、紫へと変わり、風も吹いていないのに、ユラユラと揺れ出す。

「この状態を仮想魔物化とすると…」

今度は、良翔は新たに別の魔力を草に流し込み、元々草に存在していた物質を探し当て、それをコピーするように働きかける。

コピーによって生み出された草の細胞は、どんどん侵食し、魔物化してしまった細胞と入れ替わっていく。

その侵食が進むにつれ、草はどんどん小さくなり、本来の姿へと戻る。

だが、姿を戻した草は、先程まであった虫食いなどはなく、綺麗な状態でその形を戻すのだった。


タバコのお陰かは分からないが、視点を変えられたのは大きい。

良翔は再び家の中に戻り、先程草を元に戻した魔力の動きについて考える。

あの魔力の動きを、器に入れた液体に発生させなければならない。

良翔は初め、自分の体の一部で試すつもりだったが、よくよく考えれば、良翔とこの世界の人々とでは、体の細胞が異なる事に気付いた。良翔の世界では魔力などは存在せず、細胞もそれを必要としていない。

だが、この世界の人々は魔力を必要としている体なのだ。

となれば細胞もそれに準じた作りになっているのだろう。

故に魔力のない細胞を探す事は不可能だ。


そこで良翔は先程の閃きを応用する事にする。

探して見つからないのなら、消去法で絞り込めば良いのだ。

つまり、器と同じ禍々しい魔力を帯びた細胞以外を見つけ出し、それをコピーして増殖させていく。

コピーする際に必要となるエネルギーは器から得た魔力でやれば良い。

正に、毒となる器の魔力を利用して、毒を制す感じだ。

また、探し当てる細胞も一番エネルギーが多いものを探して、それを複製しなければならない。

傷ついた細胞や寿命の短い細胞をコピーしてしまっては本来の目的を達成出来ないからだ。

良翔は魔力の修正の仕方をイメージし、完成させる。

後は、メイシャの帰りを待つばかりだ。

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