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サラリーマン、異世界へチート通勤する  作者: 縞熊模様
第2章
135/163

2-24

時折、すれ違う村人が、メイシャに声を掛け、挨拶を交わした後に、ノア達は誰なのかと問うが、メイシャは都度、私の友達なの、遊びに来てくれたのよ、と嬉しそうに返事をする。

村人達も、嬉しそうなメイシャの表情もあってか、それ以上の詮索はしてこない。

やがて、メイシャの言っていた、祭壇のある小山の入り口に着く。

すると、メイシャは手を離し、ノア達の方に振り向く。

「ここまで連れて来てくれてありがとう!とっても楽しかったわ!でも、ここから先は村の者しか入れない決まりになっているの。だから、少しここで待っていてくれるかしら」

『ええ、分かったわ。足元に気を付けてね?』

ノアはそう言い、メイシャを見届ける。

メイシャは石畳の階段を、段差を足で確認しながら、さっさと登って行く。

時折躓きながらも、だが、躊躇いなく登って行く。

先程の走りで、安全を最優先に生きて来た、メイシャの人生観が、大きく変わった様で、この階段登りも、どう楽しむか模索している様にすら見える。

ノアはそんなメイシャを微笑ましく見つめる。


やがて、メイシャの姿が見えなくなると、ノアは近くにあった木に寄り掛かり、ハザに話し掛ける。

『さて、と。……どう思う?』

ノアに聞かれ、ハザは腕を組み、少し考えた後に口を開く。

「少なくとも、あのメイシャという娘は他の村人達とは違うという事は分かる。良翔殿の狙いは分からぬが、良翔殿は注意深く、頭の回転が非常に早い人だ。その彼が、彼女に何かを託したという事は、そこには何かしらの活路があり、それを依頼された彼女は、少なくとも信じて良い様に思える」

ノアもハザの話に頷く。

『そうね。ハザの考えに私も同意だわ。彼女が向かった先に祭壇があって、メイシャは何かを祭壇に取りに行った。つまり、彼女は良翔に頼まれて、祭壇にある、何かを取りに来たと推測してしいいと思うわ。なら、無事に彼女を家まで送り届けるのが私達のこの村での使命ね』

ハザも頷く。


メイシャはいつもとは異なる、とても新鮮な心持ちで、祭壇へ向かう階段を登っていた。

今日は良翔と出会い、諦めかけていた村の人達を救うという難題に光の兆しが見えた。

そして、その最中とても好感の持てるノアという女性にあった。

彼女はメイシャが目が見えないという事に対しても、決して下に扱う訳でもなく、対等に普通の女の子として接してくれた事が嬉しかった。

村の人達は、メイシャの面倒を良く見てくれた。

だが、それは反面、可哀想だ、不憫だという気持ちが現れての行動である事を、メイシャは強く感じていた。

決して村の人達が嫌いという訳ではない。

だが、ノアからの、不自由ではあるが、可哀想な訳ではない、という言葉に強く胸を打たれたのだった。

「私もあんな人になりたい…」

気が付けば、メイシャは階段を登りながら、そう口にしていた。


無事に階段を登り切り、祭壇へ着く。

メイシャは手を伸ばし、器の場所を探す。

「…あった!」

メイシャは、あの匂いがしてからは、極力触れたくもなかった器をとても大事そうに胸に抱える。

今もあのメイシャの嫌いな悪臭が器からはする。

だが、メイシャはもう気にはならなかった。

この器は、もうじき良翔の手によって、健康な時の人に生まれ変わる、今度こそ本当の奇跡の器となるかもしれないのだ。

それは、本当に村の宝だ。

落として壊してしまっては、元も子もない。

メイシャは祭壇を離れ、走り出したい衝動を抑え、行きとは真逆に慎重に時間をかけて、階段を降りる。


ノアとハザは階段の上を眺める。

やがて、メイシャの姿が目視出来る。

メイシャの腕には大事そうに木で出来た器が抱えられている。

『あれが良翔が依頼したと思われる品ね。木の器の様に見えるけど…、一体あれが何なのかしら…』

よくよく見つめてみるが、見た目だけでは何とも判断がつかない。

ノアは何かあるはずと、器に向かって魔力の有無を確認する。

すると、凄まじく禍々しい魔力がその器を包み、器からは村のあちこちに向かって魔力線が無数に伸びている。

「……な!?何だあれは!?」

ハザも肌で感じ取るのだろう。

器に向け、非常に嫌な顔をする。

しかし、ノアは冷静に器とメイシャを交互に見比べる。

『……ハザも気が付いた?あの器……、この世にあってはならないぐらい禍々しいものね…。だけど、ただ手に持つ程度では悪さはしないみたいね。その証拠にメイシャを見れば特段何かの変化も見受けられないもの。それにしても………、あんなものを作った奴の気が知れないわね…』

ノアはそう言い、ハッと気付く。

とっさにハザに顔を向けると、どうやらハザも気付いたらしい。

「ノア殿!!……あんなものを作った奴だ!!」

『そうよ、ハザ!!きっと、あんなものを作った奴は、私達が追っている男に違いないわ!そうか……、だから、良翔はその器をメイシャに持ってこさせてるのね』

すると、ハザが考え込む。

「だが、そうすると……、何故良翔殿はその器をわざわざメイシャ殿に持ってこさせるのだ?良翔殿は姿を消しているのだから、自分で行って破壊するなり、持ち出すなりした方が早く、済むのではないだろうか?」

それには、ノアも首を傾げる。

『それは、分からないわね……。ただ良翔が、あの器を壊したり、持ち出すべきではないと判断したという事なんだと思う。そして、メイシャに持ってこさせるという事は、彼女が、今回の件で良翔の中でキーマンとなっているという事じゃ無いかしら。無関係な者を巻き込むのを良翔は絶対に好まないと思うわ。だから、良翔はあえて彼女に器を持ってこさせてるのよ』

「ふむ……、納得だ。しかし、良翔殿も切れ者だが、ノア殿も素晴らしく切れ者だな。やはりお主達は一緒に居て驚かされる事ばかりだ」

ハザにそう言われ、ノアはふふふと笑う。

『そうね。そのお陰でハザも楽しいでしょ?』

ノアに言われ、え?と顔をするハザだが、直ぐに思い当たるらしく、ふっと微笑む。

「ああ、確かにその通りだ。決して退屈はしないな」


2人の会話が終わる頃に、丁度メイシャは最後の一段を降りた。

「お待たせしてしまって、ごめんなさい」

『いいえ、ちっとも待ってなどいないわ。むしろ早かったぐらいよ。さぁ、目的の物は手に入れられたみたいだし、先ずは怪我をした足を治しましょ』

ノアはそう言い、メイシャを近くの木の側に促し、座らせる。

「本当にこれぐらいのキズなんて、大した事ないから平気よ」

メイシャは本当に大した事無いと、顔を振る。

『あら、でも、傷口に土が詰まっていて、そこには虫も付いてるけど、それでも、衛生的にした上で、治療しない方が良いのかしら?』

メイシャはノアに言われ、見る見る顔が青ざめていく。

「む、虫が付いてるの!?え!?ヤダヤダヤダヤダヤダ!!ノアさん、お願い!!直ぐに治療して!!」

すると、ノアはふふと笑い、メイシャを安心させる。

『メイシャ、冗談よ。でも、傷口を衛生的にして、直ぐに治療するのはとても大事な事なの。急いでるって話だったから、先ずは目的を優先させちゃったけど、本来ならあの場で直ぐ治療するのが一番よ。小さな傷でも、傷口から菌が入れば、後々大きな代償を払わなければならない事もあるのよ?』

メイシャはノアの冗談だと分かり安堵した表情になるが、直ぐにノアの話を聞き、反省する。

「ノアさんの言う通りね。分かったわ。治療お願い出来るかしら、ノアさん」

非常に素直で真っ直ぐな娘だ、とノアは感心する。

『ええ、もちろんよ。そうしたら、傷ついてしまった足を前に出してくれる?』


メイシャとノアは治療に専念する。

ものの5分ほどで、傷は完全に癒え、綺麗な足に戻った。

『はい、お終い。ね?簡単な事でしょ?これならさっさと治してしまう方がよっぽど早いわ』

メイシャもノアに同感の様で、素直に頷く。

「ええ、ノアさんの言う通りね。こんな事なら早く治療してもらえば良かったわ。それにしても……、魔法って素敵なものだったのね。きっと色々な魔法が有るのだろうけど、ノアさんの魔法からは、とても優しい匂いがするの。私ノアさんの魔法のファンになっちゃったわ」

2人はまたクスクス笑いあった。


『さぁ、そろそろ戻りましょう。急いでいたのはそれを持って帰る為だったのでしょ?足の傷も癒えた事だし、また走ってメイシャの家まで戻るわよ』

メイシャは力強く頷き、その場を立ち上がる。

『さぁ、道案内を頼むわ。腕は私に任せて!』

「ええ!ありがとう!!」

3人はその場を後にし、駆け足でメイシャの家へと向かう。

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