表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サラリーマン、異世界へチート通勤する  作者: 縞熊模様
第2章
131/163

2-20

数時間程経った頃、ようやく良翔の意識が戻る。

良翔は薄すら眼を開けると、良翔の胸にノアの寝顔があり、その後ろにはエヴァの寝顔がある。

どうやら2人共泣いていた様で、瞼を赤くしながら、スースー寝ている。

良翔は顔を上に向けると、ハザがあぐらをかき、座っているのが見えた。


良翔が眼を覚ました事に気付いたハザは、ニコリと笑う。

「目が覚めたか。あれだけの強大な魔力球の間に入って鎮めたにも関わらず、大きな怪我もなく、たった三時間程の睡眠で元に戻るとは……。つくづく桁外れの様だな」

ハザに言われ、特にダメージの酷かった両腕を少し動かしてみるが、何も支障がなさそうだった。

因みに両腕に負った傷は恐らくノアが治療してくれたのだろう、綺麗に傷一つない状態に元どおりになっていた。

それにしても、ハザが呆れる程の桁外れた回復力に、良翔も思わず呆れてしまう。


「そういえば、あれからどうなったんだ?エヴァは確か力を使い果たして気を失ったみたいだったが無事だったのか?」

ハザは良翔の問いに頷く。

「ああ、エヴァ殿は無事だ。あの後、直ぐに眼を覚ました。魔力を使い切ったというのに、凄まじい回復力だ。起き上がった当初はまだ、戦闘の真っ最中だと思い込んでいたらしくてな、直ぐにノア殿目掛けて数発の魔力球を放ったのだ」

良翔は驚く。

「え、そしたらノアは俺を抱えたままじゃないか。あれから、また、戦闘が起きたのか?」

するとハザは首を左右に振る。

「いや、ノア殿はとっさに良翔殿にだけ魔力障壁を張ったのだ。そして、御自身はもろにエヴァ殿の魔力球を受けた」

「な!?ノアは無事なのか!?」

ハザはノアに一瞬視線を移し

「そこで、寝ている通り無事だ。いくら驚異的な回復力を持っているとはいえ、意識を取り戻したてエヴァ殿が放った魔力球は、あの戦闘時とは比べ物にならぬ程、威力が弱かったのだ。だが、とはいえ、もろに着弾したノア殿はその場から吹き飛ばされ、多少の怪我は負った様だった。だが、吹き飛ばされても直ぐに立ち上がり、良翔殿に駆け寄って、必至に良翔殿の体内の魔力の流れを制御していたのだ」

ハザの言葉に、良翔はノアの顔を見る。

よく見れば、傷は癒えているが、うっすら頬に切り傷の様な跡が見える。

良翔は起こさぬ様に、そっと優しくノアの顔に触れ、撫でる。


「エヴァ殿も、ようやくその時になって、異変に気付いたのだ。目の前では、良翔殿が倒れ、ノア殿が泣きながら必至に良翔殿に呼び掛けながら、何かを施している。尋常ならぬその光景に、エヴァ殿は自分が今とんでも無いことをしでかしてしまったのだと気づいた様でな、直ぐにノア殿のそばに駆け寄り、必至に謝罪していた。だが、ノア殿も先程の事などなりふり構っていられない様子で、血が止まらない良翔殿の腕を治療する様エヴァ殿にお願いしたのだ。それはもう懸命にノア殿とエヴァ殿2人で協力してな。2人とも大泣きしながらも懸命に介抱している様は、さっきまであれだけの死闘を繰り広げていたのがまるで嘘の様だったぞ」

「そうか…。助かったよ、ノア、エヴァ」

良翔は優しく微笑み、2人を起こさぬ様に足の上にそっと移動させ、上半身だけを起こす。

そして、2人の泣き顔をそっと撫でてやる。

「しかし、良翔殿が倒れた当初は本当に皆焦ったぞ。呼吸こそしていれど、エヴァ殿のお陰で傷は癒えたはずなのに、みるみる体温は下がっていき、血の気が引いていくのだ。体も暫くは突然衝撃を受けた様に跳ねるしな。正直かなり不味い状況だと思った。だが、ノア殿が言うには、良翔殿の中で急激に混ざり込んだ大量の他者の魔力が混じり合うまで互いに衝突しあい、その反動が良翔殿の体を傷付けているとの事だった。なので、私が良翔殿の体が突然跳ねても傷つかない様にする為に抱え、ノア殿が中で暴れ狂う魔力達を抑え、混ぜ合わせて、良翔殿の魔力流に正常な流れを作るようにしていたのだ。その間、エヴァ殿は傷付いた良翔殿とノア殿の治療を行なっていたのだ。恐らく30分程だろうか。ようやく良翔殿の容態が安定した所で、ノア殿とエヴァ殿も力尽きたらしく、2人ともその状態になってしまった」

「そうだったのか……。ハザも心配かけて済まなかったな」

ハザは笑顔で、首を左右に振る。

「いや、私こそ済まなかった。本当は良翔殿と同じ様に仲裁に入るべきだったが、体が咄嗟に反応してしまってな。あの魔力量の前にすっかり逃げ腰になってしまった。本当に申し訳ない」

良翔も笑顔で答える。

「いや、気にするな。体の中に流れる魔力の割合が俺たち人間よりも遥かに多いんだ。ハザの方が敏感に反応してしまうだろうさ。だけど、次も同じ様なことが起こったら、今度は手伝ってくれよな?」

良翔はニヤリと笑い、ハザに顔を向ける。

「ああ、次こそは。だが願わくば次がない事を願う」

それには良翔も頷き

「正にそれは同感だ」

良翔とハザは互いに笑い合う。

酷い有様だったが、結果誰一人として欠けてはいない。

結果全員無事であったのだから、良しと思う事にする。


気が付けば、日は傾き始め、時刻は3時頃だろうか。

ここで数時間寝てしまったのは誤算だった。

だが、ノアやエヴァはまだ眠っている。

深い眠りに陥っている原因の一部に良翔への治療がある事は明白で、2人を起こすのには気が引ける。

「今日は、このまま2人が起きたら、宿に帰るか…」

良翔がそう言うと、

「ハタットは良いのか?てっきり今日行くのかと思っていたがな」

「ああ、そのつもりだったが、2人がこんな感じだしな。無理をさせるのも少し躊躇われる」

そう良翔とハザが話していると、ノアが目を覚ます。

目を覚ますと、突然良翔に抱き付く。

『良翔!!良かった!無事だった!!本当に良かった!!』

「ああ、心配かけて済まなかったね」

そう言いながら良翔はノアの頭を優しく撫でる。

ノアは涙目の顔を良翔に向け、ニコリと笑う。

すると、エヴァも目を覚ましたらしく、目をこすりながら、顔を上げる。

そして、良翔を見た途端、同じく良翔に抱き付く。

だが、エヴァは良翔だけでなく、ノアも一緒に強く抱きしめるのだった。

「2人とも無事で良かった!!本当に心配したんだぞ!!」

すると、ノアはニコリとエヴァに微笑む。

『それはあなたのお陰でもあるわ、エヴァ。ありがとう』

ノアがビックリするほど素直にお礼をエヴァに言うではないか。

良翔は思わず、え?、という顔をして2人を見る。

どうやら良翔の治療の事で、2人の間のわだかまりは一気に溶けた様だった。

2人の仲違いから、これだけ大きな争いに発展して、良翔を含め、盛大に巻き込まれた身としては、思わぬ所が無い訳ではないが、結果、2人が距離を縮められたのであれば、まぁ、良い所に落ち着いたという事なのだろう、と良翔は思う。

「まぁ、何はともあれこうして全員無事で何よりだ。それに少しはお互い理解出来たみたいだしね?」

良翔にそう言われ、2人は少し顔を赤らめるも、頷く。


照れ臭さから、ノアが慌てて口を開く。

『ほ、ほら、次はハタットに行くんでしょ?ここで思わぬ時間食っちゃったから、急がないと!』

「ああ、確かにそれはそうだが………、だが、ノアもエヴァも、もう体は大丈夫なのか?」

『私は全然平気よ?』

ノアがそう言うと、エヴァも少し気怠そうな顔をしながら、答える。

「わ、私も大丈夫だ……」

「エヴァ。無理しなくて良い。俺たちの目的はハタットへ行き、街の様子を見てくるだけだ。特に戦闘とかにはならないと思う。だから、ここで休んでいて良いよ」

すると、エヴァはへなへなとその場に座り込んでしまった。

「すまぬ……。自業自得とは言え、私はまだノア程回復していないのだ…。仲間になって、最初の皆んなでの行動を非常に楽しみにしてたんだが…、こんな感じでは足を引っ張ってしまう…」

寂しそうな顔をする、エヴァにノアは肩をポンと軽く叩き、笑顔で話しかける。

『気にしないで、エヴァ。良翔の言った通り軽い偵察みたいなものだから、ここで休んでいても平気よ。それに本番はこの後よ。その時にはシッカリ回復してて貰わないとね。だから、今はユックリ休んでなさい』

ノアに優しくそう言われ、エヴァは少し嬉しそうに、素直に頷く。

「ああ、分かった。ノアがそう言ってくれるなら、甘えさせてもらって、次に向けて、少し、休ませてもらうよ」

「そうだ、エヴァ殿。今は無理をするべきではない。ノア殿の言う通り、しっかりと休んだ方が良い」

エヴァは、ハザにも言われ、素直に頷く。

だが、すぐに顔を上げ、ハザの顔をマジマジと見る。

「失礼だが、お主は誰なのだ?先程から気にはなっていたのだが、機を逸してしまって、聞きそびれていたのだが…」

するとハザは、ああ、そうか、と真面目な顔をエヴァに向ける。

「挨拶が遅れて申し訳ない。私はアースワイバーンのハザと言う。訳あって、良翔殿とノア殿と共に旅させてもらう事となったのだ。この中では私が一番戦力的には使えないかも知れぬが、差し支えなければ是非とも私もエヴァ殿と共に旅をさせて頂きたい」

ハザはそう言うと、律儀に頭をエヴァに下げる。

ハザの方が先に良翔達のパーティーに入っているにも関わらず、エヴァに頭を下げるハザは、自分と周りとの能力差を痛感しているのだろう。

だが、ハザが予期していたエヴァの反応とは、違う応えが返ってくる。

「ほぉ、お主アースワイバーンなのか。アースワイバーンにもお主程の強者がおるのだな。全く気付かなかったわ。やはり、世界は広い。私の知らぬ事が沢山あるものだ。それに、ハザは私の先輩になる。私に頭など下げる必要は無いと思うぞ?むしろ、私の方が頭を下げてお願いせねばならん立場だ。まぁ、ハザは良翔とノアが認めた者なのだ。お主はもっと胸を張って良いと思うのだが?」

それを聞き、一瞬驚くハザだが、すぐにフと笑い、頷く。

「ああ、心掛ける様にする。これからよろしく頼む、エヴァ殿」

エヴァもニコリと笑い、頷く。

良翔はその光景に思わず笑顔が溢れる。


良翔は、体が自由になった事で、ユックリと体の様子を確かめながら、立ち上がる。

何の問題もない。

手を開いては閉じる動作を繰り返し、力の伝わりを感じる。

良翔は、自分の体は気怠く、もっと力がうまく入らないものかと思っていたが、立ち上がると自分の中から、先程までには感じなかった大きな力を感じる。

恐らく、エヴァとノアの強大な魔力を吸収したせいだろう。

すると、ノアが少し心配そうな顔で良翔の顔を覗き込んでくる。

『良翔の方こそ、調子はどうなの?まともに考えたら、良翔が一番ひどいダメージを負っていたのだから、無理しなくて良いのよ?』

それには良翔は首を左右に振る。

「それがさ、今はさっきよりも断然調子が良いんだ。恐らくなんだけど、エヴァとノアの強力な魔力を吸収したからじゃないかな?」

『そっかあ。問題なさそうなら何よりだわ。だけど、あまり無理はしないでね?』

「ああ、気をつけるよ」

良翔はそう返事し、ノアに微笑む。

3人は、エヴァに声を掛け、空へ飛び上がる。

エヴァは下で手を振っている。

良翔はエヴァへ手を振り返すと、一同ハタットへ向け、飛んでいく。


エヴァは3人を見送りながら、やがて見えなくなると、ポツリと呟く。

「あのアースワイバーン……。ハザは、ああ言っていたが、アイツの中に硬く閉ざされた何かが目を覚ませば、私よりも遥かに強い魔力を持つだろう…。だが、通常のアースワイバーンではあり得ぬ…。あやつは一体…」

そして、エヴァはその場にどたんと仰向けに倒れ込み、すぐに眠ってしまう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ