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サラリーマン、異世界へチート通勤する  作者: 縞熊模様
第2章
130/163

2-19

エヴァは体の変化が終わったらしく、驚きの声を上げている。

「おおお。凄い!!これが一人前となった証か!!魔力が先程とは比べ物にならない程増えたぞ、良翔!」

エヴァは大喜びしながら、良翔の元に駆け寄ろうとする。

良翔は慌てて、エヴァに待ったをかける。

「え、エヴァ!分かった!分かったから、こっちに来なくていい!先ずはその服をどうにかしてくれ!話はその後だ!」

良翔にそう言われ、エヴァは、お?、と駆け出していた足を止め、自分の身体をジロジロ眺める。

すると、エヴァはなにかを察したらしく、ニヤリと笑う。

そして、そのまま歩いて良翔の目の前まで近づき、逸らしている良翔の顔を覗き込む。

「ははん?良翔、さてはお主、私の成長した体に興奮しておるな?ほら?もっと見て良いんだぞ?なんせお主は私の名付け者だからな!なんなら触ってみても良いぞ?」

エヴァは、わざと胸を強調する様に腕を寄せ、艶やかな笑みを浮かべ、良翔の腕に自分の胸を押し付けてくる。

「ば、バカ!何してるんだ!早くノアに服を出してもらって、それを着てくれ!」

良翔は顔を真っ赤にしながら、執拗に肌を寄せて来るエヴァを一生懸命剥がそうとする。


そこに、良翔の目の前をチリチリと、黒い何かが通る。

良翔は、ハッとし、顔を上げ、辺りを見回す。

そこには、先程良翔の前を通り、消えて行った黒い光が、無数に舞い、ノアを起点に円状に放出されている。

「ま、マズイな……」

良翔の頬を汗が伝う。

相変わらずエヴァは周囲の変化に気付いておらず、まだ、良翔に構って欲しそうに体を擦り付けている。

ハザに至っては、ノアの変化をいち早く察したらしく、いつのまにか100メートル以上離れた場所に移動し、幾重にも重ねた強力な魔力防御壁を自分の前に一生懸命展開している。

「ハザ……」

良翔は、お前だけズルいぞといった視線を向けるが、ハザは良翔と目が合うと、残念そうな悲しい表情を向けるだけだった。

「な、なんだよ、ハザ。その表情は……。まるで……」

そこに鬼の形相のノアが、怒鳴る。

『エヴァァァ!!』

エヴァは、声を掛けられた事でやっと後ろを振り向き、凍りつく。

「な、な、な……何て恐ろしい程の魔力を集めているのだ!!」

『いいから、良翔から離れなさい!!』

ノアの激怒の声に、エヴァは一瞬たじろぐが、先程までとは違い、良翔から離れ、ノアの方に向き返り、強気に出る。

「ふ、ふん!私はさっきまでの私とは桁外れに違うぞ!父上程までは行かなくとも、神魔獣と呼ばれる私のの力を甘く見るなよ!」

『へぇ…。名前を貰った途端に強気ね…』

「だいたい、出会った時からノアのその私への対応はなんなのだ!!それにさっきも、酷い名前を付けようとして!!私はお前はひどく嫌な奴だと思うぞ!!」

『へぇ…』

エヴァに言われ、ノアの雰囲気が途端に変わる。

良翔はこのピリピリした空気に不味さを感じ、直ぐにエヴァに声を掛ける。

「え、エヴァ。そのぐらいにしておきなよ。ノアが怒り出しちゃったじゃないか」

するとエヴァは良翔にチラリと視線を移し

「いいや、良翔!ここはハッキリさせておいた方が良いぞ!!今後共に旅をするのに、遠慮なんてするべきじゃないぞ!」

「い、いや、エヴァ。お前はもう少し遠慮は覚えた方が良いと思うぞ…」

だが、エヴァは良翔の話など聞いていない。

「それに、何で怒るのだ?さてはお主、私に嫉妬しておるな?確かに胸は私の方が大きい様だな!!」

あ、それ言ったらダメだ、そう良翔が思うのと同時に、ノアから凄まじい魔力が放出される。

ノアを中心に地響きが起こる。

だが、エヴァも応戦する様に、巨力な魔力を放出する。

『やるのね?』

「舐められっぱなしは好かんからな!」

そう互いに言葉を交わすと、2人同時に更に魔力が膨れ上がる。

互いから放出された魔力がせめぎ合う地点では、バチバチと強力な異なる魔力がぶつかり合う激しい音を立てる。

そんな光景を見て、良翔は思わず、ぼやく。

「……勘弁してくれ」


良翔のそんな思いなど気にも止めぬ2人は、呼吸を合わせた様に、ドン!っと大地を同時に蹴り、互いに向かって一直線に走り出す。

ノアは両手にレイピアを出し、クロスする様にエヴァに向かって斬りつける。

一方のエヴァも、恐らくアダマン鉱石であろう物質に変化させた大ナタの様な両腕をクロスさせる様にノアに斬りつける。

互いの刃が触れ合った途端、周囲に凄まじい爆風を撒き散らす。

暫く鍔迫り合いをしていたが、ノアが鍔迫り合いの最中に出現させた複数の魔力球に気付いたエヴァが飛び下がる。

そして同じく、真っ黒な強力に圧縮された巨大な魔力球を前面に作り出し、それを盾にする様に再びノアに向かって、突進する。

ノアはその様子を冷静に眺め、向かって来るエヴァに先程出現させた魔力球を全て放つ。


良翔は咄嗟に周囲への影響を考え、エヴァとノアの戦闘域を中心に強力な大型の魔力障壁のドームを展開する。

展開が終わると同時に、ノアの魔力球がエヴァの作り出した大型の魔力球に全て着弾し、激しい爆発を魔力障壁内に生む。

障壁内は、たちまち噴煙で埋め尽くされ、中の様子は見えなくなる。

だが、それもつかの間、今度はエヴァが自身の作り出した魔力球をノアに向けて放ち、それを追う様に走り出すのが、見える。

エヴァの巨大な魔力球が巻き上がった噴煙をことごとく消し飛ばし、噴煙が魔力球の軌跡に沿って消えていくためだ。


その後を追いかける様に、エヴァが走っていくと、ノアがいつのまにか、レイピアから大剣に変更した武器で、その魔力球を一刀両断にしてしまう。

真っ二つに割れた魔力球はノアを避ける様に、飛んでいき、良翔の作り出した魔力障壁にぶつかり、大爆発を起こす。

その一撃で良翔の作り出した魔力障壁が消し飛んでしまう。


だが、エヴァは、大剣を振り抜きスキが出来たノアめがけ、両腕の大ナタをノアに向けて上から叩きつける様に振り下ろす。

しかし、ノアは不敵に笑い、エヴァを見返す。

「!!??」

エヴァが異変に気付いたその瞬間、エヴァは大爆発と共に後ろに激しく吹き飛ばされる。

その爆発の衝撃で大地は大きなクレーターを生み、大きく震える。


どうやらノアは、エヴァの魔力球を切る前に、新たに魔力球を作り出し、自分の後ろから、エヴァに向かって放っていたらしい。

ノア自身が死角となり、エヴァはノアの魔力球に気付けなかった様だ。

チャンスと思い、大きく振りかぶったのがアダになった様だ。


「くっ……、流石にやるな!!だが、これならどうだ!!!!」

エヴァはそう叫ぶと、両腕の大ナタを元の手に戻し、両手を前に突き出す。

途端に空気を震わせながら、先程とは比べ物にならない程強力で、かつ巨大な魔力球を生み出す。

もはや、生み出された魔力球がそこにあるだけで、大地は勝手にえぐれていき、草木は燃え上がり、瞬く間に灰となり消滅していく。


『あらあら、そんなものかしら?』

ノアはあえてエヴァを挑発する様に言い、エヴァと同じような魔力球を作り出す。

それを見たエヴァは叫ぶ。

「なめるなーーー!!!!」

エヴァは更に倍ほどの威力に達するであろう程の魔力を込める。

そしてそのまま、ノアに向けて放ってしまう。

その威力の増し方にはノアも眼を見張る所があるらしく、カッと眼を大きく開く。

『それぐらいがなんだって言うのよ!!!!』

ノアも先程の魔力球に更に魔力を流し込み、エヴァに向かって放つ。


それを目にした良翔は、非常に焦る。

魔力障壁も今からでは間に合わない。

このままではあの途方も無い魔力同士がぶつかり合えば、この平原は確実に消滅する。

ここに暮らす生き物は軒並み死滅するだろう。

そんな事があって良いはずが無い。

それに、せっかく仲間となった者達がこんな些細な事で本気の殺し合いをして良いはずも

無い。

そう良翔が思っている間にも、魔力球は互いに向かって飛んでいく。

魔力球は地面に触れていないにも関わらず、ガリガリ地面を深くえぐりながら、進んでいく。


良翔は咄嗟に動いていた。

気が付けば体が動いていたのだ。

そして互いに向かって飛んでくる魔力球同士の間に立つ。

『良翔!!!!直ぐに、そこをどきなさい!!!!』

それにはノアも焦ったらしく、声を張り上げる。

魔力球はもう良翔の目前だ。

良翔は深く息を吸い、ユックリ吐くと、両手を左右に広げ、それぞれの魔力球へと向ける。

体を巡る魔力の流れを最大限に活性化し、ノアとエヴァの魔力球を吸収する為の準備をする。

また、それと同時に周囲の魔素を急激に操作し、魔力球から出来るだけ魔力を分解して放出させる。

魔力分解による魔素の大量放出によって、その辺り一体の魔素濃度が急激に上昇する。

その影響もあってか、周囲に生えている草が劇的に成長し、ある一定の高さに至ると、魔力球に触れ、消滅させられていく。

そこには生と死が激しいサイクルで繰り返されている。

そんな光景を振りまきながら、魔力球は良翔へと着弾する。

「…つっ!」

魔力球へ触れた手から、激しい痛みが襲ってくる。

手の平からはとめどなく魔力が良翔の中に流れ込み、体内を激しく巡っていくのが分かる。

そして、良翔の中でも互いの魔力がぶつかり合い、体の体温がどんどん上がるのが分かる。

だか、良翔の必死の抵抗に対しても、一向に2つの魔力球は衰えを見せない。

良翔の腕からは所々、その激しさに耐え切れず、血が流れ出す。


正直これ以上は今の肉体では吸収しきれないと判断した良翔は、更に吸収した魔力を、互いの放った魔力球を包み込む様に放出する。

吸収し、放出して包み込み、抑えつける。

そして、その間にも魔力球から魔力を分解して大気に放出する、という3つの作業を一度に行なっていた。

暫くの硬直の後、徐々に互いの魔力球に衰えが見え始めた。

良翔はそれを悟り、一気に3つの作業を加速させる。

その間にも良翔の体は悲鳴を上げ、今にも膝をつきそうになる程、激しく体力を消費していた。

激しい吐き気や目眩もする。

だが、良翔は歯を食いしばり、魔力球が完全に進行を止め、良翔が放出した魔力壁によって、完全に動かなくなるまで続ける。


やがて、魔力球は良翔の放出した魔力壁に包まれ、完全に沈黙する。

それと同時に、良翔はその場にぐしゃと崩れ落ち、激しく息を切らしながら仰向けになって動けなくなる。

そこにノアが泣きながら走って来る。

『バカバカ、良翔!!本当に死んじゃう所だったじゃない!!幾ら何でも無茶よ!!』

ノアが大泣きしながら、良翔の胸を叩く。

「さ、流石に、あれは…、キツかった……。ちょっとマズイかも……?とは思ったよ…。ノアもエヴァも…、きっついの打つなぁ…」

と息絶え絶えにしながらも、ニコリとノアに笑う。

「せ、せっかく一緒になれた……、仲間なんだ…。だから……、仲間内での、本気の殺し合いなんて……、俺は嫌だな…」

ノアは良翔の言葉に必死にウンウン、頷く。

『ごめん、ごめんね、良翔!だから、もう休んで!!激しく消費し過ぎて、体がこんなに震えてるわ!それに、こんなに傷も……!!』

そう言いながらノアは、大粒の涙をボロボロ流す。

「あぁ…、分かった。少し休ませてもらうよ…」

そう言いながら、良翔はノアの頬に優しく手を触れる。

ノアは良翔の手が頬に触れると、その手をギュッと握りしめる。

「エヴァは…」

どうやら、エヴァはノアに渾身の魔力球を放ちそのまま魔力欠乏に陥ったらしく、完全に伸びて気を失っている。

「…どうやら無事な様だな……」

良翔はそう言うと、気が抜けたらしく、気を失った様に途端に深い眠りに落ちてしまう。


一方、ハザは、その場から更に避難し、数百メートル離れた場所から、事の顛末を眺めていた。

だが、それだけの距離を取っていたにも関わらず、ハザはあの戦場から肌を刺す様に伝わって来る、強大な魔力のぶつかり合いに、体をカタカタ震わせていた。

「……神の戦いとは、あれ程なのか……。次元が違い過ぎる……」

ハザは唾をゴクリと飲み、呟きを続ける。

「そして…、良翔殿は……、神をも超えるのか…」

巨大な噴煙が捲き上る戦場を、遠くから眺めるハザは、ただただ立ち尽くすしかなかった。

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