2-18
少女はしばし泣いた後、ようやく落ち着いたらしく、調子を取り戻した。
「す、すまない。取り乱してしまった。そして、自己紹介が遅れて済まない。既にご存知の通り、私はこんな姿をしているが、先日良翔達に会ったアダマンタートルだ。仲間に入れてもらえるかも知れぬと分かってから、人型に化ける術を身につけ、こうして今の姿になったのだ。どうだ?うまく化けれてるだろう?」
良翔はニコリと笑い、頷く。
ノアもさっきまでの事は何もなかったかの様に、口を開く。
『でも、何で子供なのよ?あなた千年以上生きてるんでしょ?年寄りじゃなく、大人ならまだしも、子供って……、何か理由があるわけ?』
ノアに話しかけられ、まだビクビクしているが、少女はノアの質問に答える。
「に、人間にしてみたら千年とは計り知れない歳月なのかも知れぬが、アダマンタートルの中では、私はまだまだ子供なのだ。人間に化けるなら年相応の方が違和感が無かったので、子供の姿にしたのだが……、大人の姿の方が良かったか?」
『ふうん。そうなんだ。というか、あなたメスだったの?』
すると、顔を真っ赤にした少女は
「し、失礼な!確かに、人間のお主達にしてみれば、本来の姿では分かりづらかったかも知れぬが、私はれっきとした女だ!!……、って、聞いてるのかーー!!」
必至に少女が反論するが、質問をした当のノアは、興味が失せた様子でつまらなそうに髪をいじっている。
それには、思わずハザも良翔も苦笑いする。
とりあえず、このままではラチがあかないので、良翔は話を進めることにする。
「アダマンタートルさん、あなたの名前は?」
良翔に名前を聞かれ、少女は落ち込む顔をする。
「実は以前も話したかも知れぬが、私はまだ、未熟な子供という事もあって、名を授けられておらぬのだ……」
「それは、少し不便だな……。もし、差し支えなければ、俺達が名前を付けても問題ないかい?」
すると、少女は途端に目を輝かせ、嬉しそうな顔を良翔に向ける。
「私に名前をくれるのか!?もちろん、問題ないとも!!是非お願いしたい!!私達アダマンタートルの中で、名前持ちは列記とした一人前の証なのだ。つまり若い者達は皆、名前を持つ事に憧れるのだ。名前を付けてくれるなど願っても中々叶わない事なのだ!!」
すると、ノアが非常に適当な感じで、名前を言い出す。
『じゃあ、亀子で良いかしら。もしくはシンプルに亀』
その発言を聞いた途端、少女の顔から血の気が引いていくのが分かる。
「あ、あの……、ノアさん。名付けをして欲しいとは申したが……、もう少し…、もう少しだけ、塾考頂けないでしょうか…」
突然、自分の名前が窮地に立たされた事から、少女は真剣に半ベソをかきながらノアに懇願する。
良翔も流石に見かねて
「ノア?その辺でお終いにしようよ。もう、ちゃんと仲間として、これから一緒に行くんだ。もうちょっとちゃんと考えてあげよう」
ノアも少し、行き過ぎたと反省したらしく、少女に頭を下げる。
『ごめんなさい。少しおふざけが過ぎたわ。今のは冗談だから気にしないでね?名前については良翔に決めてもらうのが1番いいと思うわ』
ノアはそう言うと、ニコリと少女に微笑んでから、ハザに視線を送る。
ハザも、ノアの視線に気付き、頷く。
「私も良翔殿に一任する。名前の事はお任せした」
2人から突然名付けを任されてしまった為、良翔は腕組みをしながら、急いで名前を考える。
少し考えた後、少女の顔を見ながら、良翔は思い付いた名前を告げる。
「エヴァ…、なんてどうかな?」
少女は目を輝かせ、嬉しそうに笑う。
「エヴァ……。エヴァ!!うん、エヴァ!!いい名前だ!!」
良翔はノアやハザにも視線を送る。
すると、ノアもハザも頷く。
『悪くないんじゃない?』
「うむ。良い名だと私も思う」
良翔も微笑みながら、頷く。
「じゃあ、異論もない様だし、今日からお前はエヴァだ」
良翔がそう告げると、突然、名前をつけられ、はしゃいでいた少女、エヴァの体が急に光り出す。
エヴァ自身も、何が起きたのか分からず、立ち止まり、驚きと共に自分の体をキョロキョロ眺めている。
次第にエヴァの体に変化が生じ始める。
ハザには分からないだろうが、ノアと良翔には、エヴァが周囲から魔素を大量に集め、体内に取り込んで行くのが分かる。
徐々にエヴァの手足が伸び、身長が伸びる。
まさに成長と言えるだろう。
その成長に合わせ、エヴァの容姿にも変化が生じる。
幼かった顔は、美しく、妖艶な雰囲気を纏う、どこか和美人の大人へと変化したのだった。
そして、菱形のアザの様な模様が星型の様に五つ額に描かれている。
マレナの時もそうだったが、額の菱形の模様は、その者が扱える属性を表現している様だ。
つまり、エヴァはなんと5属性も操れるという事になる。
ハザの言う通り、神話級の存在なのは確かな様だ。
ふと、良翔はエヴァへの視線を移すと、先程まで纏っていた、ボロ布の様な衣服が子供サイズだった事もあり、エヴァの成長と共に上下に裂け、然るべき体の凹凸部で引っかかり、水着の様になってしまった事に気づく。
思わず良翔は目を逸らし、エヴァから声がかかるのを待つ。