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サラリーマン、異世界へチート通勤する  作者: 縞熊模様
第2章
128/163

2-17

ゲートをくぐり出て来たのは、良翔達がいつも出勤時に出現する場所だ。

日に二回この場所に来るのは、なんだか不思議な感じになる。

「良翔殿、ここは?」

「ここはハザ達の住んでいた森よりも、更に東にある、最果ての平原だよ。ここから更に東に飛んだ所に岩の山場があるんだけど、そこに俺達が用のあるアダマンタートルが居るんだ」

『正確には、用があるのはあっちだけどねー』

すかさずノアが訂正する。

「先程から気になっていたのだが、アダマンタートルとは、アダマン鉱石で体が作られている亀の形に似ている方で間違いないだろうか?実は……、我々の間では神話的な存在であって、この目にするのは初めてなのだが……。因みに何千年もこの地を見てきた生き物であり、伝承では神が天界から降りてくる際に共に連れてきたとされている方なのだ…。そんな方が実在するとは……。そして、そんな方を良翔殿やノア殿が見知っているとは……。つくづくあなた方は神の使いに相違ないと思える」

それには良翔は苦笑いし

「どうだろうね。そのアダマンタートルはハザが言うほど神聖な感じじゃなかったけどね。まぁ、会ってみれば分かるさ」

良翔の言わんとするアダマンタートルのイメージが湧かなかったらしく、ハザは顔に疑問符を浮かべる。

良翔はそんなハザにはお構いなく、話を続ける。

「後、皆んなをガッカリさせるのも何だから、あの場ではあえて言わなかったけど、俺やノアはたまたま職業が神の使いと同じってだけで、神の声が聞こえるとか、そういった事は一切ないんだ。あくまで俺たちの意思で自由に行動の選択肢を選んでいるだけだよ。だから、あんまり神とかみたいに神格的な扱いだけは勘弁してくれよ?」

それには、ハザはニコリと笑い、頷く。

「ああ、安心してくれ。俺は良翔殿やノア殿が神の使いだから、と特別視している訳ではない。純粋に良翔殿達の人柄に惚れて付いてきているのだ。ただ、それだけでは説明がつかぬ事もまた多い事は事実だな。それを納得させる説明をするとすれば、神の使いだから、という事だ」

確かに、ハザの言う事も一理ある。

偶然とは言え、確かにこの地の伝承にまつわる事柄に触れる機会は他者よりも多いように思える。

この五日間で、これ程イベントが起きているのだ。

しかも、「神」というキーワードを添えたものばかりだ。

偶然というだけで片付けるには些か、無理も感じる。

となると、良翔達の知らぬ所で何かに手繰り寄せられる様に、行動をしているのではないかと、良翔はふと疑問に思う。


ノアが不意に口を開く。

『まぁ、何だって良いわよ。その内、神様が出て来るなら、挨拶して、はい、お終い。私達には何ら影響ないわ。そんな事は気にせず、良翔は良翔のやりたい様にやれば良いのよ。結果、それが神につながる行いとなったとしても、別に良翔が望んでない行動をさせられてる訳でもないんだから、特に気にする必要ないわ』

良翔もノアの考えに賛同だった。

「そうだね、ノア。まぁ、なる様になれだな」

良翔は笑ってハザに顔を向ける。

ハザも優しく頷く。

「さて、アダマンタートルに会いに行くか」

『ええ』

「ああ」

3人はその場からふわりと浮かび上がり、東に向けて飛行を開始する。


やがて10分ほどで、先日の岩山に辿り着く。

大して飛んだわけではないが、なぜかハザを息を切らしている。

「良翔殿と…、はぁ、ノア殿は…、はぁはぁ、無限の体力と魔力をお持ちか…。はぁ、よくもあのスピードで、はぁはぁ、ここまで、止まらずに飛んで何ともないとは……」

「ハザは少し休んでいて良いよ。向こうから来てもらおう」

良翔は、ハザに視線を送りつつ、右手に魔力球を作り出す。

そして、それを上空に浮かべて、アダマンタートルの動きを待つ。

だが、中々出てこない。

「この間と同じ魔力球を作ってみたけど、出てこないなぁ…。魔力に反応して出てくるかと思ったんだけどな…」

『どうせ、迎えに来いとか言っといて、忘れてまた寝てるのよ。いいわ、私に任せて』

「お、おい。あまり手荒な真似は…」

良翔が慌てて、ノアを制止しようとするが、時既に遅し。

ドゴォォォォンン!!

と数百メートル先で、激しい爆発音と、何かが吹き上がり、こちらに向かって飛んでくるのが見える。

飛んで来た飛翔体はやがて、形が分かるほどまでに近づくと、ハッキリと亀型の生物である事が分かる。

ノアの事だ。

きっと魔力で探しだして、見つけた場所を、下から高出力の魔力で爆発を起こして、地面ごと上に吹き飛ばしたのだろう。

段々と姿をハッキリ表し、近づいてくる巨大亀は白目を剥き、若干泡を吹いている。

そして、そのまま、受け身を取る事もなく、良翔達の近くに、凄まじい音を立てながら落下する。

良翔は思わず溜息を吐き、呟く。

「ノアは、アイツには容赦ないな…」


噴煙が巻き上がる中、ユックリと影が動く。

ハザはサッと、空気を張り詰め、臨戦態勢の空気を出すが、ノアと良翔は相変わらずそのままだ。

「どいつだ……!!我を眠りから呼び起こしだ挙句、こんな所にまで、吹き飛ばすとは!!!」

怒りの咆哮にも似た、低く、良く響く声で、声の主が空気を震わせながら、怒鳴り散らした。

しかし、そんな声にも動じず、ノアが一歩前に歩み出る。

『何言ってんのよ。亀。あんたが来いと言ったから来てやったんじゃない。せっかく良翔が魔力を出して、呼び出してあげてるのに、出て来やしない。一回消し飛ばしてやりましょうかね』

そう言いながら、ノアは先程良翔が作り出した魔力球よりも、更に高魔力を圧縮した物を一個ならず、複数個作り出し、頭上に輪を描く様に配置する。

輪の周辺からは、空気が歪に揺らめき、黒い何かが時折漏れ出す。

「いや…、流石にそれは不味いんじゃ…」

良翔は、威嚇だとは分かってはいるが、ノアが作り出した魔力球に、思わず呟く。

そして、ハザを見やると、盛大に冷や汗を流している。

アースワイバーンも汗ってかくんだな、と不覚にも良翔は思ってしまう。


すると噴煙の中から、声がする。

「な、何だと!?良翔だと!?すると……、その声は、あの時の女か!?た、確かノアだったな!!」

『ええ、そうよ、ノアよ。だが遅過ぎるわね。本来ならあんたから私達を出迎えるぐらいしなきゃならないのに、寝てるとか…。残念ながら、あなたとはここでお別れね』

ノアがそう言った途端、収まり始めた噴煙を再び捲き上げながら、ズンズンと早足に近づいてくる足音が聞こえる。

どうやら焦り、急いでるらしい。

「い、いや、待て、ノア!!待ってくれーーーーー!!」

声の主は必至に叫びながら、影が近づいて来る。

しかし、不思議な事に地響きを鳴らしながら、早足だった足音が、影が近付いてくるにつれ、聞こえなくなっていく。

気のせいか、噴煙の中の影も段々と見えなくなっていく。

それにはノアも訝しげに思ったらしく、眉間に皺を寄せ、片眉を上げ噴煙の中をジッと睨んでいる。


やがて、噴煙の中から、1人の少女が姿を現わす。

少女は布切れ一枚を纏い、見た目は10歳前後の子供の様だった。

無造作に垂らされた黒い腰まである髪の毛に、水色の瞳が目を惹く。

幼さを残しつつも、大人に向け、徐々に色気を帯び始めた様な、この年齢辺り特有の顔立ちだった。


少女は、息を切らし、必至の形相で、ノアの方を見ると叫ぶ。

「ノア…、いや、ノア様、待ってくれーーー!!み、見ろ!こうして良翔達と一緒に旅する為に、人化も身に付けたぞ!だから、待ってくれーー!!」

少女が話している最中も、ノアは野球の投球の様なフォームをし、今にもアダマンタートルと思われる少女目掛け、バチバチ音の鳴っている強力な魔力球を投げようとしている。

ノアの投球モーションが一向に止まる気配が無いため、良翔も焦り、ノアに駆け寄りながら、呼び掛ける。

「ま、待て、ノア!!ストーーップ!!」


ノアは良翔の掛け声と共に、そのままの姿勢でピタリと動きを止める。

そして、姿勢を楽に戻すと、手に握っていた魔力球を頭上の輪に戻す。

だが、魔力球はまだ消さないらしい。


ノアはニコリと良翔に微笑んだ後、アダマンタートルと思われる少女に向き直り、口を開く。

『あなた、良翔に感謝しなさい。良翔が止めなければ、あなたは空のお星様になっていたのだからね』

良翔は、ノアのセリフを聞き、安堵すると共に、アダマンタートルと思われる少女にシッカリと視線を移す。

「は、はい!!感謝します!!」

『宜しい。では、まずは、お願いをする者は、お願いをするなりの姿勢を取りなさい。私達はあなたの親でも親戚でもないわ。他人なの。他人にお願いをする者が、出迎えもせず、あまつさえ寝ていたなんて、その時点であなたのお願いは無いも同然なの。どうすれば良いか分かるわね?』

ノアの言葉の最後の方は、段々とドスが効き、もはや脅しの様に聞こえる。

ノアの話を聞き意味を理解したらしく、ノアの頭上魔力球の輪をチラチラ見ながら、少女はすぐさま正座し、頭が地面に付くほど下げる。

「よ、良翔さんや、ノアさんをお出迎え出来ずに誠に申し訳ありませんでした。そ、そんな中、非常に手前勝手なお願いでは有りますが、どうか私をあなた様方と一緒にお供させて頂けないでしょうか」

すると、ノアはくるりと良翔の方を向き、ニコリと笑う。

『だって、良翔。どうする?』

良翔は苦笑いを浮かべる事しか出来なかったが、ここでちゃんと返事をしないと、また、ノアが執拗な仕打ちをしそうな気がしたので、良翔はノアに向かって答える。

「ノア、その辺で勘弁してやってくれないか。これじゃあ、流石に可哀想だよ…。アダマンタートルさん、頭を上げてください。そして、返事は、是非こちらこそ宜しくお願いします」

良翔はアダマンタートルの少女を安心させる為に、ニコリと笑顔を向ける。

そこで、やっと安堵したのか、恐る恐る顔を上げた少女はみるみる顔を崩し、泣きべそをかきながら、良翔に抱き付く。

「うえええん。怖かったーーーー!!」

はいはい、と良翔は優しく頭を撫でてやる。

ノアは腕を組み、鼻息を吐くと、やっと魔力球を消す。

そんなやりとりを見ていたハザは思わずボソリと呟く。

「ノア殿は絶対に怒らせてはならんな……」

その場には、暫く少女の鳴き声が響き続けるのだった。

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