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サラリーマン、異世界へチート通勤する  作者: 縞熊模様
第2章
126/163

2-15

全員が食べ終えたところで、ノアは椅子とテーブルを消し、3人は飛び上がった地点へ降りる。

その足で、次は酒場に向けて歩き出す。

酒場は夜の店と言うよりも、飯処兼情報の交換場という位置付けが強いらしく、日中もランチを食べたり、昼間から酒を煽り騒ぐ冒険者達で賑わっている。

四島によれば、そこが唯一のその男の目撃情報である場所なのだ。

先ずはそこへ、向かうのが一番情報を得られる可能性が高い。

今ある男の唯一の情報が、ローブを纏い、顔に傷があるというだけだ。


酒場へ向かう途中、ノアは良翔に疑問を思い出したように口にする。

『そういえば、良翔。四島になんで死刑の話とかしたの?北の村の修復の労働があるって昨日言ってたじゃない?死刑は私もそれで無いのかと思ってたわ?』

良翔はノアに言われ、思い出した様に返事を返す。

「ああ。あれか。四島ってほら、あんな感じだろ?大体は刑期を終えて出られると思うんだろうけど、そう思われて労働さえこなせば後は自由だなんて思われたくなかったからさ。労働したってその後に死刑が待ってる可能性だってあるんだぞって、奴に吹き込んでおきたかったんだ。そうすれば刑を軽くしたい一心で必至に働くかな、って思ってね」

『あー、なるほどね。容易に想像つくわ…。まぁ、四島は馬鹿だから良翔の話をないだろうとは思えずに、純粋に死刑の可能性を思い込んで必至に働きそう』

「ね?だから、あいつがいつか外に出る時に今のまんまじゃ困るんだ。きっとまた人に迷惑をかける。ならば必至に牢獄での生活をして、変わってもらわなきゃね」

2人は良翔の話を聞いて、うんうんと頷いている。


そうこう話している内に、酒場に着く。

酒場には外で飲食が出来るように、店外席もあり、そこも多くの人で埋められていた。

店内に入ると、更に多くの人でごった返し、昼間でも構わず酒を煽る者、普通にランチを楽しんでいる者、更には酔い潰れて、カウンターで突っ伏している者、多様な姿が見受けられる。

良翔は、どの人に話しかけるか迷うが、とりあえずはカウンターで飲み物を作っていたマスターらしき中年の男に話しかける。

「昼間でも大盛況だな」

良翔に話しかけられ、中年のマスター男は、グラスから視線を上げ、良翔に目をやる。

しかし、良翔を確認すると、またグラスに目を戻し、キュキュと拭き上げる仕草を再開させる。

そして、そのままの姿で返答する。

「毎日こんなもんだ。代わり映えなど特に無いな」

良翔はあまり愛想が良くない男に対しても、嫌な顔せず、話を続ける。

「そうか。それは素晴らしい事だ」

すると、マスター風の男は良翔が気になったらしく、グラスをユックリ置き、片手をカウンターに付きながら、話しかけてくる。

「見かけん顔だな。この街へは来たばかりか?さて……、ウチはこれでも酒場だ。何も飲み食いせずでは、情報は手に入らんよ。何を飲むんだ。それとも食事か?」

それを聞いた良翔はニコリと笑い返し、マスター風の男に返事をする。

「それもそうだな。忠告感謝するよ。それじゃあ、ビールを2つと、紅茶を1つ」

すると、それを聞いたノアがグイと身を乗り出し

『紅茶は無し!ビールを3つでお願いね』

と注文を変えてしまった。

良翔は驚きはしたが、まぁ、飲むな言う方も変に思い、そのままにする。

「ああ、訂正で、ビールを3つで頼む」

マスター風の男は、ノアをチラリと見てから

「あいよ」

と素っ気なくビールの準備に入る。

その間に、良翔とノアとハザはカウンター席に腰を下ろし、ビールの到着を待つ。

大して待つ事もなく、ゴトリとマスター風の男が良翔達の前にビールを置く。

「ビール3つで1000ゴールドだ。通常は一杯400ゴールドだが、初見だからまけてやる。二杯目からは通常通り支払ってもらう」

ぶっきらぼうの癖に意外に気前が良い。

「そうか、それは感謝する」

良翔は支払いを済ませ、ジョッキに手を掛ける。

ノアとハザも良翔のタイミングに合わせ、グラスを持ち、静かにカチリと乾杯する。

3人とも一口目をグイと煽った後に、カウンターの上へ置く。

ハザだけは、まさかの一口目で飲み干してしまった。

ハザさんや、目的を忘れてないか?と良翔は不安になるが、酔っている風でもなく何も変わらぬ様子だったので、放っておく事にする。

後で飲み方を教えてやらないとな、と心では思うが、今は後回しにし、聞き込みを再開する。

「すまないがビールを一杯追加で頼む。もちろん値段は本来の価格で支払う」

マスター風の男は、またしてもぶっきらぼうに返事をすると、直ぐにハザの前に二杯目を置く。

ハザは、直ぐに届いた二杯目に手を付けようとして、ノアから注意されている様子を眺めつつ、良翔はマスター風の男に話しかける。

「御察しの通り、実はある男を探しているんだ。随分前の事になってしまうし、何か少しでも思い出す事があれば教えて欲しい」

「……」

マスター風の男は、じっと良翔を見つめ、暫く沈黙するがやがてユックリ口を開く。

「どんな男だ」

愛想は限りなく良くないが、良翔の話を聞いてくれるらしい。

「すまないな。その男についての情報は少なくて、どんな人相だったかを知りたいんだ。こちらが得ている情報は、常にフードを被り、頬に縦の切り傷が有る男だ。一年程前に週に一、二度この酒場に顔を出していたとのことだ」

暫く間を置き、マスター風の男が口を開く。

「……残念だが、それだけでは情報が不足過ぎで分からんな。顔に切り傷のあるローブをきた男など、毎日入れ替わり立ち替わり、入って来るからな。多くの冒険者がそんな出で立ちだろうよ」

「まぁ、そうだろうな……」

「だが……、僅かでもその男についての情報があるって事は、その男を目撃した、もしくは、知っている人物がいるって事か?」

思わぬ、聞き返しに良翔は驚く。

慌てて、頷き返事をする。

「そ、その通りだ。その男の情報を俺達に与えたのは四島という若い男だ。やはりその男も一年程前迄、この酒場に通い、その俺達が探している男と何度も会っているんだ。その四島という男を知っているか?」

しかし、男の反応は薄い。

「……シジマという名前の男を俺は知らんな…。その男はここに連れて来る事は出来んのか?もしくは似顔絵とか無いのか?」

四島は今は幽閉されている。

連れて来る事は叶わないが

「似顔絵か……」

そう良翔が呟くと、隣に座っていたノアが、突然マスター風の男に話しかける。

『悪いんだけど、紙と書くものある?』

ノアに頼まれ、男は後ろを振り返り、その辺に貼ってあった紙を剥がし、ペンらしきものと一緒に渡す。

『ありがとう』

とニコリと笑うと、ノアは貼り紙の裏に、物凄いスピードで四島の似顔絵を描き出した。

その動きは迷う事なく、書き出され、ものの四、五分で書き終えてしまう。

そして、ノアが提示した完成した四島の似顔絵はとても良く似ており、まるで本人の白黒写真の様に鮮明に描かれていた。

これには、マスター風の男も驚き

「あんた、凄いな……」

と用紙を受け取る。

しかし、その紙を見てもマスター風の男はピンと来なかったらしく、難しい顔をしていた。

だが、近くを通ったウエイトレスの女性に声を掛ける。

「ミナ!ちょっとこれを見てくれ」

ミナと呼ばれたウエイトレスはマスター風の男に近づき、見せられた用紙を覗き込む。

「コイツらが、1年くらい前にここに通ってたこの似顔絵の男と一緒にいた、顔に傷の有るフード男をさがしてるんだと。お前見覚えあるか?」

すると、ミナは少し考えた後に、目を広げる。

「あー!!この似顔絵の人覚えてる!!酒場に来て偉そうな態度するんだけど、注文はいつもミルクだったから、変な奴って感じで印象に残ってるよ!」

それを聞いた良翔とノアは顔を見合わせて、こ拳を合わせる。

「そいつと一緒に居た、フードの男の事は覚えてるかい?」

良翔はミナに問い掛けると、ミナはお盆を抱えたまま腕を組み考える。

「そういえば、確かに誰かと一緒に居たね。ミルク男と…。………あー!!ミルク男と!!」

突然ミナが目を見開き、マスター風の男と目を合わせる。

何故かマスター風の男も目を見開き

「ミルク男と……水魚男か!?」

と言い出す。

それにミナがウンウンと頷き

「そうそう!ハド、きっとこの人達が探してるのその水魚男だよ!」

すると、ハドと呼ばれたマスター風の男は、初めて表情を崩し、ニヤリと良翔に笑う。

「おい、お前。喜べ。お前らがお探しの奴がわかるかも知れん」

その言葉にノアがニコリと笑い、手を叩いて拍手をする。

「確かにその水魚男はフードを被って、左頬に傷の有る奴だったな。あー、念の為説明しておくが、水魚男ってのは、いつも水と生の魚を注文していく奴だったから、俺らの間ではそう呼ばれてたんだよ」

「なるほど。だが、何で生の魚なんだ。焼き魚じゃ無いのか」

良翔は疑問を口にする。

「さあな、それは俺も知らん。だが何故か奴は毎度ここに来ては、それしか頼まんのだ。火も通さない生物を提供するこちらとしては、腹壊しても文句言うなよと念押しして出してたからな。そんな変な奴が、もう1人の変人みたいなミルク男と一緒になる様になったからな。同じタイミングでミルクと水と生魚の注文が入る訳だ。しかも夜の酒場でな」

『それは……、確かに嫌でも印象に残るわね』

と、ノアはうえーとした顔をしながら話す。

「その通りだ。そんな変な奴ら忘れたくても中々忘れんな」

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