2-14
良翔とノアがギルドホールに戻り、外に出ようとドアに近付くと、そこに、ハザが待っていた。
「どうしたんだ、ハザ。後で迎えに来るつもりだった筈だけど、何か急ぎか?」
「いや、急ぎでは無いのだが、とりあえず、次の街を決める前に私が知り得た情報を、良翔殿に先に伝えようと思ってな」
「ああ、そういう事か。それは有り難い話だ。今、四島からも話を聞いてきた所だ。どうだろう?ハザは昼食は……、そもそも食事は取るのかい?取るなら、良かったら一緒に食べないか?ノアもいいだろ?」
『ええ、私は構わないわ。これから四六時中一緒に居るのだからね。早いうちにお互い打ち解けちゃう方が後々楽よ。だから、一緒の昼食に賛成』
ノアの返事を聞き、良翔はハザを見る。
「私は良翔殿に、魔力をふんだんに与えて貰ったからな。食事などは取らなくても支障はないが、食べれない訳でもない。昨日の宴会もそうだったが、街の食べ物というのは不思議な味がするものが多く、そのどれもが非常に美味であった。今までは潜伏という目的もあって食事などは個別に取る振りをして殆ど食べてこなかったのだが、昨日の会食で食べた料理を知り、もっと早く色々食べて来れば良かったと後悔したくらいだ」
良翔もハザもノアも笑う。
「なら、話は早いな。食事をしながら、ハザの知り得た情報を聞く事にしよう」
3人は頷き、並んでギルドを出る。
ギルドを出て、道中でハザの食べそうな肉巻き串やら、ピタの中に刻まれた野菜や肉などが詰まったものなどを買いつつ、広場へ向かう。
だが、広場はちょうど頃合いも悪く、人々も昼食時だった様で、昼食を取る人々で賑わい、後から来た良翔達のスペースなどは見当たらなかった。
「残念。タイミングが悪かったみたいだね」
『そうみたいね…。ハザはどこか昼食が取れる様な、人があまり居ない開けた場所なんて知らないの?この街に一年ぐらい潜伏してたなら、私達よりも詳しいんじゃなくて?』
ハザは腕を組み、少し考えると、不敵に笑い
「これは良翔殿とノア殿だから、教えられる場所なんだが…、行ってみるか?」
良翔とノアは顔を見合わせ、ハザの不敵な笑いの理由が分からずに居たが、とりあえず頷く。
「分かった。では、こちらへ」
そう言うと、ハザは裏路地へ入っていく。
暫く歩き、人が見当たらない所まで来ると、ハザは良翔達に振り返り、ニコリと笑い空を見上げる。
「私は潜伏していた間、どうしてもこの街から離れ、一人で考えたい時などはこうしていたのだ」
そう言うと、突然ハザの後ろに巨大な翼が現れ、バサリと空気を激しく打ち付ける様に羽ばたくと、ハザは真っ直ぐ、空へ向かって飛んで行った。
そのスピードは、羽ばたく毎に徐々に加速し、あっという間に上空高く舞い上がり、ハザの姿は点の様になってしまった。
良翔とノアは顔を見合わせ、ニコリと笑うと、2人でハザを追いかける様に、空へ舞い上がる。
あっという間に、2人はハザに追い付き、晴れた日差しの中で、全身に陽の光を浴びる。
これが本当の日光浴と言える程、全身は陽の光で優しく包まれ、気持ちを穏やかにさせる暖かさを体に帯びていく。
「確かに、これは気持ちいいな」
『でもこんな上空じゃ、お昼食べられないんじゃない?』
ハザは驚きつつも、ニコリと笑い
「やはり、私の想像した通り、良翔殿とノア殿は空を飛べるのだな。空の領域は通常、有翼種と高位な魔法使いにのみに限られているのだが……、良翔殿とノア殿にしてみれば愚問だったな」
「空で食事を……、と言いたい所だが、残念ながら座れる様な椅子も、テーブルも用意出来ておらぬのでな。だが、幸いにもこうして高度も高い位置にいるのだから、街を抜けて……、あの辺でどうだろうか」
ハザはそう言うと、タリスから少し離れた森が拓けた場所を指差す。
するとノアが口を挟む。
『なるほどね。でも、待ってハザ。椅子とテーブルがあれば良いのよね?』
「あ、ああ…、それがあれば私の自然を操る力で椅子とテーブルを空中に固定する事は造作も無いのだが……。ノア殿はそんな家具をお持ちなのか?」
ノアの問いに首を傾げつつも返事をするハザに対し、ノアはニコリと笑って返事をする。
『ないのなら……、作れば良いだけの事よ♪』
そうノアは言うと、突然何もないところから、周囲の魔素を集め、魔力で出来た椅子とテーブルを創り出したのだった。
これには流石にハザも驚き、目を見開いている。
「これが……、創造神の力なのか……」
そう言うハザに、良翔は苦笑いをしながら、自嘲気味に返す。
「創造神の力の使い方をこんな事に使うのもどうかと思うけどね…。まぁ、俺もノアも大そうな目標なんてないのさ。自分達が楽しくこの世界を過ごす事に重きを置いているからね。こんな事に力を使うのになんの躊躇いもないのさ」
ハザは良翔の呟きに首を左右に振り
「力の使い道などはその人それぞれによるからな、大した問題ではない。驚くべき点は何も無い所から、新たに何かを生み出せると言う事だ。……無からの創造。即ち神の力に相違ないと言う事だ」
ハザの話を聞き、大そうな名前に聞こえるが、無から何かを創り出す力は確かに絶大だな、と良翔は改めて思うのだった。
実際は無ではなく、周囲の魔素を利用しているのだが、魔素から椅子やテーブルを創り出すという事自体が素晴らしい力なのだ。
3人はノアが創り出したテーブルや椅子を、空気を操作したハザによって固定され、その上で悠々とランチを取る。
他から見れば、空中に浮き、食事をとる姿は異様の一言に尽きる。
「ところでハザが仕入れた情報というのはなんなんだ?」
芽衣のお弁当を食べながら良翔が聞く。
ハザは購入した食事が美味しかったらしく、凄まじいスピードで、貪る様に食べていた手をピタリと止め、何のことだったかを一瞬考える素振りをする。
どうやら、食事に夢中になり過ぎたらしく、純粋に忘れていた様だ。
「あ、ああ……。すまない。本題を失念していた」
ノアはクスリと笑う。
ハザは前屈みだった姿勢を正し、一旦食事の手を止めると、良翔に向き合う。
「実は良翔殿とノア殿が、四島に会いに行かれている間に、我々の元に仲間から連絡があったのだ。どうやら北西の街アトスで何かが起きているらしい」
良翔も食事の手を止め、ハザに聞き返す。
「何か、ってどんな事が起きているのかハザ達は把握しているのか?」
ノアも食事の手を止め、ハザを見る。
ハザは首を左右に振り、口を開く。
「今、森にいる仲間達を数匹現地に向かわせているが、まだ、何かを掴めているわけではない。確認にはもう少し時間がかかるだろう。ただ、仲間が伝えてきたのは、かなり深い傷を負ったアースワイバーンが霊峰ユノの方面から来たという事なのだ。もちろん冒険者などの討伐にあって命からがら逃げて来た可能性もあるのだが、どうやらそのアースワイバーンの傷は鋭い爪の様なもので激しく切りつけられたかの様なものらしい。まるで我々アースワイバーンによる攻撃を受けた様な………。これはアトス、もしくは霊峰ユノに住むガルト族長率いるアースワイバーン達に何か有ったと思えるのだが、良翔殿やノア殿はどう思われる?」
良翔は腕を組み少し考える。
「正直……、今はなんとも言えないな。だが、薄々とはアトスに行くべきかとは思っていた所だよ。だが、四島の話を聞く限りでは、例の男はかなり頭が切れる。距離だけで取れば、今回のことだって、タリスから刺客を差し向けずに、森の北と南のどちらかの村へ赴いて、刺客を作り出せば良かった気もするが、奴はタリスで刺客を生み出した。つまり、落としたい、もしくは壊してやりたいと奴が思う街で刺客を生み出し、行動を起こさせてる可能性も否定出来ない。正直考え過ぎかな、と思う所もあるけど、今はそれも考慮に入れてアトスに行くか、ジラトミールへ行くかを悩んでいる所さ」
『つまり敵の狙いはアトスではなく、ジラトミールという事?』
ノアが良翔に聞き返す。
「いや、まだ分からないさ。だが、今回のやり口に沿うと、その可能性も有りうるな、って所だよ。いかんせん奴の目的がまだ全然見えてないからね。何を理由にどの街を落としいれたいのかが分からないと、ある程度の推測をするのは難しそうだね」
良翔の考えを聞き、ハザは尊敬の眼差しを向ける。
「良翔殿は本当に頭が良く切れる。私では到底その考えには辿り着かなかっただろう。やはり、私は付いてきて正解だったと自分の判断に自身を持った所だ」
良翔はハザにそう言われ、こそばゆい気持ちになる。
「ありがとう。ただ、これぐらいの事は他の人でも導き出せる回答の一つさ。問題の本質がまだ分かっていないからね。解決にはほど遠いよ。さぁ、昼ご飯を食べてしまおう。向かう先は後で決めるとして、次は例の男の容姿について聞き込みをしよう」
2人は頷き、食事へと戻る。
その後は雑談を交えながら、ハザの森での生活の様子などを聞きながら食事を取った。