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サラリーマン、異世界へチート通勤する  作者: 縞熊模様
第2章
124/163

2-13

良翔とノアも挨拶を済ませ、執務室を後にする。

ハザについては、用がある為、後程迎えに来ると伝え、カシナから借りた念話の指輪を渡しておく。

良翔とノアはそのまま、四島の幽閉されている牢獄へと足を向ける。

牢獄はギルドに地下にあり、主に街の中で罪を犯した者達が収容されていた。

城の地下にも牢獄があるらしいが、収容されるのは城内での犯罪者のみで、城下町で犯罪を犯したものは、皆ギルドの地下牢へと収容される。

実質この国の警察機関はギルドが担っていると言っていい。


ギルドの地下階層は、一階層から三階層まであり、浅い階層から下に下がって行くほど罪が重い者が収容されている。

四島は、今は力を奪われたとはいえ、あれだけの力を持ち、下手をすれば国家を滅ぼしかねない程の罪に問われている筈にも関わらず、地下二層に幽閉されているとの事だった。

良翔とノアは、カシナに手配してもらった案内人に従いながら、地下牢へと降りて行く。

「四島が地下二階に幽閉されてるって事は、地下三階はもっと凶悪な犯罪者が幽閉されてるって事なのか?」

良翔が案内人に尋ねると、案内人はビクビクしながら、小声で答える。

「私も、噂だけを聞いたので、実際は分かりませんが、地下三階には、この世界に放ってはならぬと判断された者が幽閉されているとの事です。つまり、この世の災いクラスの者が収容されてるって事です。滅多な事では地下三階に降りる事すら許されませんので、通常使われているのは、地下二階迄になりますね。まぁ、出来る事なら一生関わりたくないものです……」

「そうなのか……。四島だってこの世界にとってはそれなりの脅威にはなり得ると思うんだけどな…。要はそれ以上の者が居るって事か……」

『ふうん。良翔は地下三階に行ってみたいの?』

そうノアが言った途端に案内人の顔が青ざめて行く。

「え!?……、それは本当ですか!?まさか、これから……?!」

慌てる案内人に、良翔は苦笑いして

「いやいや、そんな事はないから、安心してくれ。カシナさんと約束していたのは四島のみだから、そこにしか用はないさ。そして、出来る事なら俺もそれ以上の脅威などには会いたくもないしな」

それを聞いた案内人は、ホット胸を撫で下ろし、歩みを再び開始する。

案内人の後ろに従い、再び歩き出した良翔はノアに、ジトと視線を送る。

だが、ノアはそんな事は御構い無しに、なあに?と笑顔を向けるのみだった。


随分歩いた様だ。

あたりの空気はひんやりとし、終始ジメジメしている。

決して良い環境とはお世辞にも言えなかったが、囚人に対する人権などはこの世界ではあまり考えられていないのだろう。

やがて、ある牢獄の前で案内人が立ち止まる。

ランタンをかざし、中の様子を伺う様に収容者の居場所を探す。

すると、奥の隅の方で膝を抱え、壁にもたれかかる様にしている男が居る。

四島だ。


出会った時とは、全くと言っていい程、生気は抜け、廃人の様に天井の隅を眺めている。

明らかに光を照らされ、こちらに誰かが居るのは分かっている筈だが、視線を寄越しもしない。

良翔は正直、まともな会話が出来るか不安になったがダメ元で話しかけることにする。


「おい、四島。聞こえるか」

「………」

良翔の予想通り、四島からは何の反応もない。

残念ながら仕方ない、と良翔は諦めようと思った時、ノアが口を開く。

『あら、あなた、いい御身分ね。もう一本骨でも折ってやったら返事をする様になるのかしら?』

ノアが牢獄の中に向けてそう言うと、四島はハッと顔を向け、ノアを認識する。

そして、気付いた様に、良翔にも視線を這わせる。

途端に四島は、ガクガクと震えだし、目をギョロリと見開き、口を半開きに開けた状態で冷や汗を浮かべ始める。

「あ……、あんたら、な、何しに来たんだあああ!!」

良翔は軽くため息混じりに、怯える四島に返す。

「そう、怯えるなよ、四島。今は何かしたりはしないさ」

「う、嘘を言え!僕にこんな酷い仕打ちをしておいて、まだ、飽き足らずちょっかいを出しに来たんだろ!?」

四島がギャンギャンわめき出して、やはりこれは無理かな、と良翔が思っていると、ノアが一歩牢獄に近付き、小さな声で四島に何かを言っている。

四島にのみ向けられた、小さな声であった為、良翔も案内人も聞き取ることが出来ない。

四島は、ノアが小声で話し出した途端に、ノアの方に釘付けになり、顔がみるみる青ざめて行く。

ノアの話に、四島は必死に何度も何度も頷き、涙目になりながら懇願の目を向けて話を聞いている。

血の気が引くとはこの男の顔を表現するのにうってつけな言葉だと良翔は思う。

ノアは一方的に何かをぶつぶつ言っていたが、突然通常の音量に戻し

「さあ、四島君、私のお願いは上手く伝わったかな?それじゃあ、改めて、私達の質問に答えてくれるかしら?」

四島は、その場で急ぎ正座し

「は、はいいい!!」

と大きな声で返事をする。

さっきまでの廃人の様な様子とは打って変わって、驚きの変化だ。

良翔はノアが何を言ったか気になるところではあるが、深く追求する事を辞める。

四島の表情や態度を見るに、決して唯のお願い[・・・]ではない事は分かる。

良翔は気を取り直し、四島が答えてくれると言うのだから、質問に戻す事にする。

「では、早速聞くが、お前が村を襲い、拠点を南のハタットではなく、北の村に築いた理由は何だ?」

四島は良翔の質問を考え、自分の中で答えを探している様子だった。

「正直、大した理由は無かったと思うよ」

そう答え、四島はノアを見てビクッと震える。

「……と思います」

ノアの表情は良翔からは見え………ない。

正確には、見えない事にする。

世の中には見なくて良い事も有るものだと、良翔は悟のだった。

「大した理由じゃなくても良い、教えてくれないか」

四島は良翔にもう一度聞かれ、思い出す仕草をする。

その間にもノアの顔をチラリと見て、必死に思い出そうとする様子に変化したのは言うまでもない。

「確か……、南は流れが遅くて、河が汚れてしまうとか何とか…ってあの男が言っていたんだ。だから拠点にするなら、河から離れた北の方が美しい自然を守ったまま、その景色を眺められる、って言われた気がするよ……、気がします」

良翔は鼓動が早まるのに気付く。

何故かは分からないが、あの男が気にしているものがあるのだ。

河が汚れる事を嫌がっている……。

だが、その理由は分からない。

これ以上四島に追求したところで、期待した答えは望めないだろう、と良翔は思うものの念の為聞いておく。

「その男が何で河が汚れるのを嫌がるのか分かるか?」

「それは分からないよ。僕も自然を壊そうとは思わないからね。その男に言われた通り、自然を汚さないなら北の方が良いなってアースワイバーン達にちょっかい出す前から決めてたんだ。これでも僕は自然との共存を好んでいるからね」

四島は何故か、自慢気にそう語る。

自然と共存する代わりにアースワイバーンを殺すなんて考え自体が理解不能で、思わず、お前バカなのか?と突っ込みたい所を我慢し、四島との会話を続ける。

「アースワイバーンを使役しようとした理由は何だ?ファウンドウルフだって数なら、アースワイバーンよりも多く、かなりの数が居る。体も小さい方が見つかりづらいだろうしな。お前の成し遂げようとした内容には、他の魔物でも事足りる様に思えるが?やはり、個体の強さが必要だったのか?」


すると四島は首を左右に振る。

「さっきも言った通り、僕は自然との共存がいいんだ。アースワイバーンはその巨体で大地を踏み荒らし、草木をなぎ倒す。そして地面をえぐり、大地を傷付ける。ファウンドウルフは数は多いけど、アースワイバーンの体の大きさに比べたら、比じゃないさ。個体の強さという魅力は確かにあるけど、別にタリスを落とそうと思えば、僕1人でも落とせると思っていたからね。奴らの力は必要ないさ。目的はそこじゃないのさ。僕は太古の姿のままあり続ける神聖な古の森を害するアースワイバーンを利用してやる事にしたのさ。これ以上、被害を広げないためにも、いづれ用済みになれば全滅させても問題ないと思うからね。それに、それを教えてくれたのもあの男さ。ついでにアースワイバーンを操るヒントをくれたのもそのタイミングだったしね」

良翔は苛立ちを覚えながら、四島の話を聞いていた。

例の男は四島がここまでバカだった事を見越して、上手く口車に乗せたのだろう。

だが、四島の苛立つ話の中でも聞き入る部分は有る。

例の男は自然というキーワードと河というキーワードを重要視しているらしい。

他にも要因はある可能性はあるが、それらのキーワードを軸に四島を操っている様にも思える。

これはこれで、苛立ちを我慢しながらも四島の話を聞いた価値がある。


良翔は聞きたかった話を終え、最後に思い付いて、四島に問う。

「なるほどな。聞きたかった話は以上だが、最後に、お前は今後どうするつもりなんだ?恐らく二層に幽閉されている所を、見る限り死刑ではなさそうだが……」

すると四島は憤慨した様に怒りながら良翔に応える。

「僕が死刑だなんて、とんでもない!?確かにタリスの街を支配してやろうかと思ったけど、街への被害なんて元々出してないし、実際には支配も失敗してるんだ。タリスニはなんの影響もないだろう?それに、僕は古の森を守っていたんだ!感謝されても良いぐらいだよ!だから、僕が死刑になるなんてあり得ない!今後は……、どうにか自由になって、この世界を旅するつもりさ!今度は支配じゃなく、表に出て堂々と感謝されながら生きるんだ!」

良翔は苛立ちを通り越し、ここまで来ると呆れてため息しか出ない。

「そうか……。話は以上だ…。まぁ、せいぜい頑張ってくれ」

そう言い、くるりと踵を返して元来た通路を戻ろうとする。

するとノアが、四島を手招きし、檻のすぐ手前まで来させると、四島の額にきついデコピンを入れる。

四島は鈍い音を立て後方の壁に吹き飛び、頭から血を流しながら、気を失う。

『あんたみたいな害虫は一生その中にいたら良いのよ』

と捨て台詞を吐き、驚きビクビクしていた案内人に、この事は内緒ね?と人差し指を口の前に立てて口封じをしている。

案内人はすぐに怯えをほどき

「この男は私が知る中で最も愚かで、腹の立つ奴ですね。当然自分で盛大に転んで頭を打った事にしておきますとも」

とニコリとノアに笑う。

ノアもニコリと頷き

『ご理解頂けて光栄だわ』

と満足気だ。

流石に良翔も、いつもなら慌てて止めていたノアの行動も、今回ばかりは、仕方ないと思えた為、ノアには追求しない。

案内人も口を揃えてくれると言っているのだから、良しとしようという、思いぐらいだ。

良翔とノアは四島を後にし、ギルドの外へ向けて歩みを進める。

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