2-10
だが、良翔は心の中で頭を抱えた。
ハザが付いてくる事を許可したとはいえ、良翔とノアは土日や祝日はこちらには基本居ないのだ。
その間、どうやって過ごすのか。
それがいちばんの課題だった。
それはハザだけに限った事ではない。
これから迎えに行く、アダマンタートルに対しても同じだった。
一緒に良翔達の世界に来る訳にも行かない。
芽衣はきっと大した抵抗は示さないだろうが、仲間が増える度に、そうしていてもキリが無いのだ。
であれば良翔の世界に連れて行き、休日を過ごすという案は無い。
そこで、良翔が辿り着くのは、秋翔の存在だった。
秋翔には休みが無くなってしまうが、ダメ元で一度相談する事に良翔は決める。
「秋翔…。秋翔…。聞こえるか?」
良翔が心の中で秋翔に呼び掛ける。
しばらくすると秋翔から応答がある。
「どうしたんだ、良翔。珍しいな。何かトラブルか?」
「仕事中に済まないな。まぁ、トラブルと言うほどでは無いんだが、秋翔に相談したい事があってね。今そんな話をしても大丈夫かい?」
「相談か……。さては、そっちの世界で良翔が居ない間に、代わりを務めるという内容だったりするかな?」
良翔は思わず驚く。
「な!?……秋翔、よく分かったな!流石にリアルタイムで俺の考えとリンクしてた訳じゃ無いんだろう?どうしてわかったんだ?」
すると、秋翔はクスクス笑いだす。
「まぁ、こっちの立場になれば良翔だって想像出来るさ。アダマンタートルだけなら、休みの間は地中に潜らせておけば良いが、仲間が更に、1人、また1人と増えて行けば当然そういう訳にも行かない。となれば、良翔が休みの間の代わりが必要になる。そして、良翔と同じ考えを共有出来る俺がいる。つまり、自然とそういう答えになるかな?」
良翔は唸る。
「成る程…。言われてみればそうだ……」
「つまり、結論から言えば、俺の事は気にするな。だから、答えはYESだ。良翔が休みの間は俺が代わりをする。その間はどちらかと言うと、その間に調べておきたい事、試しておきたい事をメインにやる。物語の進捗は良翔がやるんだ。そうも言ってられない事態になれば、その限りでは無いが、原則そのつもりでやる、っというのでどうだろうか?そもそも俺には人間にとって大事な負の感情が取り除かれているからな。仕事を行う上ではこの上なく便利だが、人と繋がりながら、道を歩むとなると不都合が多々ある。故にそういう結論だ」
「成る程な…。その結論に異論は無いよ。だが、いいのか、秋翔?お前にとってはずっと休みなしって感じになってしまうと思うのだが…」
良翔の問いに秋翔は、クスリと笑い
「ものは捉えようだよ、良翔。俺は良翔みたいに、休日に家の為に何かをする訳じゃ無い。休日に異世界でユックリと過ごすという風に捉えてもらえれば、良翔の気になるところも解消されるんじゃ無いか?良翔が過ごしている異世界で俺はガツガツ冒険する訳じゃなく、思いのままに時間を使うんだ。つまり、それは独身の休日の様なもんさ。だから、良翔が思っている程、苦痛な訳じゃ無いと思うがな。それに、それでも体が休まらないと感じる時は、どこか平日にでも有給を取るさ」
秋翔の応えに良翔は微笑む。
「そうだな。確かにそういう捉えかたも出来るかもしれない。じゃあ……、秋翔の言葉に甘えて、休日のこちらのやり繰りは秋翔に頼む事にするよ。悪いが宜しく頼むな」
「ああ、任せておけ。……おっと、済まないが、仕事だ。通信を切るが構わないな?」
「仕事中に悪いな。宜しく頼む」
「気にするな。では、また帰りに…」
そう、秋翔が言うと、通信が切れる。
自分で言うのも何だが、秋翔は頭が切れるいい奴だと、素直に良翔は思う。
だが、これで休日の課題もクリアになった。
ハザには後でこの事を説明する事にして、良翔は残りのアースワイバーン達への能力付与に戻る事にする。
「ハザの同行も解決した。さて、残りの守護者達への付与を続けよう。ノア。先程ハザやサザに施したのと同じ様に能力の付与を手伝ってもらえるかい?」
『ええ、分かったわ』
ノアは頷き良翔の隣に並ぶ。
そして、先程良翔がハザやサザに施したのと同じ事をアースワイバーンの戦士達に行なっていく。
だが、ハザやサザとは同じ様な能力の付与を行うが、良翔やノアの魔力は混ぜなかった。
やはり、良翔にとっても、ハザやサザは少し特別な存在だった。
やがて、最後の1人になる。
マレナの番だ。
良翔は、マレナへの付与を行う前に少し考える。
マレナの場合は、やはり一族を束ねる者として、他とは少し違った何かが必要な気がしたのだ。
そこで、良翔は今一度、マレナに対して、鑑定を行う。
他の者とは異なる部分を探し、彼女固有の何かを探ろうとした為だ。
すると、思わぬ結果が良翔の鑑定ウインドウに表示される。
マレナは、明らかに、魔力量も質も他のアースワイバーンの戦士達とは異なっていた。
圧倒的にその魔力量などの基本能力が、他の者達よりも2倍も3倍も秀でていたのだ。
そして、何よりも目を引くのが、マレナに関しては、地属性の他にもう一つ属性が有ったのだ。
マレナは地属性と共に火属性も持ち合わせている事で、その魔力には二色が入り混じっている。
良翔はそれを踏まえた上で、マレナに対しては、地と火どちらも意図した様に操作できる様にイメージする。
そして、マレナに対しても、良翔の魔力を微量に混ぜ、ユックリと流し込む。
すると他の者達と同様に眩い光を放ちながらマレナの姿が変化する。
マレナの変化した姿は他の者達と少し様子が異なり、ツノは同じ白無垢なのだが、長さが非常に短かった。
そして、額には赤と茶のひし形の小さなあざの様のものが二つ出来る。
恐らくそれぞれ地属性、火属性の象徴なのかもしれない。
そして、魔力は先程とは比べ物にならない程、爆発的に膨れ上がっていた。
正直、四島すら凌いでいるのではないだろうか。
正に、アースワイバーン達の主にふさわしい
程の力を持った姫の誕生だった。