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良翔はハザに視線を送ると、ハザも視線を合わせる。
ハザはふっと笑ったのち、再び頭を下げ、何かを待っている。
すると、アースワイバーン達の後ろから、何かがフワッと浮かび上がり、アースワイバーン達の目の前に静かに降り立つ。
それは美しく整った顔をし、やはり他と同じく頭に美しい流線美を描いた角を生やしている。
少しあどけなさが残る少女、アースワイバーン達の姫だった。
姫は、服の裾を両手で摘み、良翔達に頭を下げる。
「初めまして、ノア様、そして良翔様」
姫はユックリ顔を上げ、良翔を見つめる。
幼さが残る容姿だが、その振る舞いは貴族、もしくは王族の様に優雅で滑らかなものだった。
そして、なによりも臆する事なく、気品溢れる姿には、幼さを微塵も感じさせない、高貴なオーラが出ている。
良翔も頭を下げ
「初めまして、姫様。もう、体のお加減はよろしいので?」
すると、姫は顔を上げ、ニコリと笑い、その後良翔をジッと見つめる。
「ええ、お陰様で、この通りで御座います………。貴方様が………、良翔様………。やっとお目にかかれました……」
良翔はそこまで見つめられると思っていなかったので思わず気恥ずかしさから、目を泳がせながら
「そ、そうですか。それなら、良かった…です。これから、大変だと思いますけど、頑張って下さい」
姫はユックリ頷き
「はい、良翔様達に恥じぬ様、シッカリと生きて参ります。ですので…、どうか私達の事を最後迄見守り下さい。そして、私の事は、どうかマレナとお呼び下さいます様、お願い申し上げます」
良翔はそう言われ少し困る。
「いえ、貴方は大地の守護者達の姫になります。それを呼び捨てにするなど…」
マレナは首を左右に振り
「どうか、そうお呼び頂けるようお願い申し上げます。良翔様、ノア様は我々の信仰となります神の様な位置付けの存在になります。ですので、その様なお方が、信仰される者に頭を下げたり、敬語を使う必要はございません。むしろ、そうして威厳ある態度をお取り頂かないと、いつしか我々の信仰にも揺らぎを生じかねません。形だけで結構ですので、どうかご理解の程お願い申し上げます」
良翔はしばし悩むが、信仰の対象としても良いと、彼等に伝えてしまった以上、今更無しにも出来ない。
良翔は苦笑いをしながら
「分かりまし……、いや、分かったよ、マレナ。これからは対等の立場という意味合いで敬語をなくし、マレナと呼ばせてもらうよ。だから、そんなかしこまらないで欲しいな。信仰は認める。だけど、それは大事な仲間という意味でなら、という条件を付けさせてもらうよ。やっぱり、神と呼ばれるのは、どうもあまり気持ちが良くなくてね。どちらもお互いを尊敬し、敬う。それなら立場は同じだろう?どちらが上とかは無いさ。だから俺も君達を敬い、大切にする。どうかな?」
そこへ、話を黙って聞いていた、カシナが口を開く。
「成る程、それなら一理あるな。どうだろうか、大地の守護者達よ。敬うという事は、信仰と同じではなかろうか?そして、それは必ず片側からのみである必要性は無いな。互いに敬いあうことも有りなのではないかな?確かにそうすれば、良翔の言う様に、どちらが上という立場の差は無くせるが、信仰はなくならない。何を守り、何の為に一族が生きて行くのか、それが明確にありさえすれば、威厳だ、立場だというものは必要無くなるのではないだろうか」
マレナは一瞬戸惑う表情を見せるが、ハザ達に視線を送り、彼等が頷くと、良翔に視線を戻す。
「……かしこまりました。それが良翔様の……、いえ、良翔さん達のお望みであれば、それに従います」
良翔は安堵の表情は出さずに
「ああ、そうしてもらえると助かるよ。これから宜しくな、大地の守護者達、そして、マレナ」
その様子を見たカシナが、柏手を打つ。
「これで、今後彼等は我々と共に歩む大事な仲間となった!皆の者、その認識を忘れるな!」
カシナの声に一同が、応答する
「「「は!!」」」
ニーナがその後、解散を宣言し、冒険者達は解散して行く。
アースワイバーン達を邪険にしたり、蔑んだ目をする者は誰一人として見受けられなかった。
この関係はきっと大丈夫だ、と良翔は思えるのだった。
冒険者達が散って行くなか、良翔はカシナに呼ばれ、アースワイバーン達と共にカシナの執務室に行く。
執務室に入ると、カシナに座る様促される。
良翔とノアは手近な椅子に腰掛け、他の者もテーブルを囲う様に腰掛けて行く。
アースワイバーン達も、カシナに促され、主要な代表者のみ着座し、他の者はテーブルを囲う様に立ち並ぶ。
「先ずは、無事に事が終わって良かった。諸君もお疲れ様」
カシナは一旦言葉を切り周囲に視線を巡らせ、全員が頷いたのを確認すると、再び口を開く。
「さて、次の大事なイベントについてだ。皆も既に存じている様に、この後良翔とノアに諸君の同胞の蘇生を行ってもらう」
カシナがそう言うと、ハザやサザ以外のアースワイバーン達はマレナを含め、本当にそんな事が可能なのだろうかといった顔をする。
当然出来る事ならそれを望むが、あまり現実的な話の様にも聞こえないのも事実だ。
カシナは周囲の反応を見、その反応に同意する。
「諸君らの疑問も分かる。正直この私も目にするまでは信じがたい思いがある。だが、出来ると言うのだから、先ずは信じて、実際にやって貰うのが一番早い。良翔、ノア頼めるか」
良翔とノアは頷き、
「その疑問はごもっともだと思う。では早速、現地に赴いて試そう。先ずは城壁の東にある森だ。そこに移動して、皆さんの前で行います」
カシナは頷き
「よし、では移動だ」
全員でゾロゾロとギルドを出て、城門へ向かう。
これだけの人数でかつ、普段見慣れないツノの生えた亜人達が歩いて行くのだ。
周囲から驚きと戸惑いの視線を向けられる。
中には突然視界に入った彼等を見て、腰を抜かし、尻餅をつく者すらいる。
だが、カシナ達は全くそんな様子も気にする事なく、ズンズン城門へと進んでいく。
今は物珍しい光景だが、やがてこれも見慣れて仕舞えば、誰も気にしなくなるのだろう。
であれば、初回のこの反応も特に気にする事ではない。
この光景はこれから毎日という程、街の者は見ることになるのだから。