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2人がギルドの前に着くと、扉が開いており、何やら中が騒がしい。
良翔とノアは何事かと中を覗くが、人だかりがあり、あまりよく見えない。
仕方なく、徐々に進んでいく列に並び、ギルドの中を目指す。
やっとの事で、ギルドのホールに入ると、とある人物達の周りを冒険者達が囲い、何やら拍手やら、賞賛の言葉などを送っている。
その輪の中心にいる人物達に目を向けると、そこには、周りの冒険者達とは異なり、皆同じ白銀の胴当てをまとい、頭には二本の立派な角が生えている。
頭部には胴当てと同じく、白銀色の額当てがあり、凛々しい角と美しいバランスを築き上げていた。
そして彼等はとても物静かそうに見えるが、その瞳からは、みなぎる意思と力強さを感じさせる。
アースワイバーンの戦士達がそこには立っていたのだった。
「成る程、これがアースワイバーン達のこの街での衣装となるのか」
良翔は一人呟く。
きっと白銀色はカシナの意図を汲んでの色なのだろう。
良翔達が、遠くからその光景を見ていると、良翔と1人のアースワイバーンの戦士と目が合う。
容姿は大きく異なるが、どこか面影がある。
ハザだ。
すると、ハザはアースワイバーン達の前に進み出て、良翔達に向けて、片膝をつき、首を垂れる。
その様子を見ていた、他のアースワイバーン達も一斉にハザと同じ様に片膝をつき、首を垂れる。
その光景に驚いた周囲の冒険者達は、一斉にアースワイバーン達が頭を下げた先へ顔を向ける。
一同の視線が同時に良翔とノアに集まる。
「あ…、えっと……」
良翔は何か言おうと思ったが、突然の予期せぬ状況に、上手く言葉が出てこない。
そこへ、ハザの声が響く。
「大地の守護者である我等の大恩人、良翔様、並びにノア様に申し上げたい。我等は、お二人方の慈悲深く大きなお力のお陰で、新たな種族名を手にし、大きな一歩を踏み出す事が出来ました。つきましては、我等には新たな志と、その志を注ぐべき存在が必要となります」
ハザは一旦言葉を切り、良翔とノアに顔を向ける。
「つまり………、貴方様方を大地の守護者の守り神として、祀らせて頂きたい。この身を貴方様方への信仰と一族の発展に捧ぐ事をどうかお許し願えないだろうか」
突然の事に、良翔とノアは呆然とし、固まる。
そこへ大きな別の声が響く。
「がはははは!良いじゃねえか、良翔!この際だ、神にでもなんでもなってやれよ!コイツらにここまで関わっちまったんだ、最後迄関わるのが筋ってもんだろ?」
バンダンは愉快そうに、良翔に言う。
「だけどな、バンダン……、祀るって言われてもさ……。正直戸惑わないとは言えないだろ」
するとそこにカシナの声がする。
「良翔、気持ちは分かるが、コイツらの気持ちも察して、汲んでやってはくれないだろうか。コイツらは元々は霊峰イニジオを神として祀り、それを守る為に存在して来たのだ。だが、今はこの街と共に歩む事を決め、コイツらの母体だけでなく、他の象徴となる信仰が新たに必要になるのさ。だから、それにうってつけの存在が良翔達、お前らなのさ。それに、なに、何かをお前がしてやる必要はないのさ。ただ崇められてれば良いだけだ。そこまで悪い話ではないと思うぞ?」
「まぁ、言いたいことは分かるけどさ…」
良翔がカシナの説得にも中々に首を縦に振らずにいると、ノアが口を開く。
『いいじゃない、良翔。カシナさんが言う通り何をするわけじゃないし、ただ彼等に生きる目的を与えて上げるだけみたいだし、そこまで深刻に捉える必要も無いんじゃない?』
ノアも初めは驚いていた様子だった筈だが、驚く程の順応力の高さだ。
良翔はノアの発言に驚いていると、バンダンが大笑いする。
「がーははははは!お前の相方はそう言ってるんだ、良翔!さっさと飲んでやれよ!がははははは!」
絶対にバンダンはこの状況を楽しんでいるな、と良翔は腹のなかで思うが口には出さない。
良翔は軽くて溜息を吐き、ハザ達に改めて向き直る。
「………、分かったよ…」
それを聞いたアースワイバーンの戦士達は一斉に顔を上げる。
そして、何故か周りでやり取りを聞いていた冒険者達も大喜びをし、拍手喝采となる。
「一体どんな状況なんだ、これは…」
良翔は一人呟くが、その呟きは部屋を満たす割れんばかりの拍手にかき消される。
そこに、周囲のざわめきをかき消す様にノアが声を張り上げ、アースワイバーン達に伝える。
『ただし!!』
周囲がノアに注目し、途端に静まり返る。
『良翔と私に忠義を誓ったのなら、それに恥じぬ様、生きなさい!この街と共に歩むと決め、私達を信仰の対象として決めた以上、中途半端は許さないわ!何があってもこの街と森と共に歩む為に、努力を惜しまない事!そして、諦めない事!それをここで誓い、私達を崇めている事が羨ましく思える程、他の者から見ても憧れる程、熱く生きなさい!貴方達が私達を祀る事は、即ち自分たちの生き様に妥協を許さない事なのだと、気持ちを律しなさい!!』
そして、ノアは厳しい表情から一変して、とても優しい笑顔をアースワイバーン達に向け、透き通る様な声で優しく話す。
『そして、貴方達もやっと手にした幸せを十分に感じる事。もう、貴方達は貴方達だけでは無いわ。多くの者と関わり、これから生きて行くの。他の者から存在を認められ、その者達と共に歩んでいけるという事の幸せ。それを確かな幸せとして、肌で感じて生きて欲しいと思います。私からの貴方達への願いはそれに尽きます』
そう、ノアが言い終わると、アースワイバーン達の表情に変化が生じる。
中には涙を流す者すらいるのだ。
それ程ノアの言葉は、彼等に響いたのだろう。
一呼吸の間を置いた後に、アースワイバーン達は尊敬の眼差しをノアに向け、一斉に
「「「は!!」」」
と返事をするのだった。
こういう際のノアの行動は、正直真似出来ないな、と良翔は思う。
正確には、真似をする様な振る舞いを良翔がしたところで、この空気を生み出す事はきっと不可能だろう。
歴史の教科書にも載っていたが、とある国の革命の時には、きっとこんな存在が周囲を引っ張ったのだろう、と良翔は想像する。
それは、女神に等しい程、神格化された美しい存在であったに違いない。
そう、それはまるで今のノアの様に…。