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「未亜ねー、昨日は草さんともお話ししたよー?」
「えっとね、えっとね、奈々は…、見えない誰かとお話ししたよー!!」
その話を聞き、ノアがギョッとする。
『見えない誰かって…』
2人は楽しそうに話し、周りの反応など気にもとめず、未亜が再び良翔に聞いてくる。
「ねーねー、パパって、パパの中に他の人がいるって本当?」
良翔は驚き、戸惑いながらも、返事を返す。
「あ、ああ、本当だよ。でも、他の人には言えないんだ。だから、未亜と奈々も他の人には言わない様に協力してくれるかな?」
良翔にそう言われ、2人とも元気よく頷く。
「うん!協力するー!」
「キョーリョクするー!」
その後、奈々は、キョーリョクするってなに?と芽衣に聞いている。
この分だと、外に言いふらしてしまいそうだが、まぁ、子供のいう事として、大して気にもされないだろう、と良翔は諦める。
問題は、子供達2人が、他の生き物の声を理解出来るようになっている事だ。
とっさに思い付く事は、創生の粉だが、子供達も食べたのだろうか…。
良翔は、子供を寝かしつけに向かった芽衣の帰りを待つ。
子供達と芽衣がリビングを出て行くのを確認すると、ノアが口を開く。
『驚いたわね…』
「ああ…」
ノアも秋翔も、良翔と同じく困惑している様だ。
「思い当たる節は、創生の粉を同じく子供達も食べたんじゃないかって事だね。これは芽衣が戻って来てから確認しよう。問題は…」
良翔の話に、ノアが続ける。
『その能力を他人に知られぬ様にするにはどうすれば良いか、って事よね…』
秋翔も良翔も頷く。
結局の所、どれだけ理にかなう理由を告げたとて、2人ともまだ幼い。
頭では理解していても、とっさの弾みや興奮して思わず言ってしまう事は容易に想像出来る。
となると、2人に能力を使うな、という事で、この問題の解決を図るのは妥当だとは言えない。
3人はその場で考える。
しばらくして、ノアが口を開く。
『ねえ…、良翔。2人が常に肌身離さず持ち歩く物ってないかしら?』
ノアにそう言われ、良翔は考える。
「いや、残念ながら常に持つものってのは無いと思うな…。ただ、家の中では特定のヌイグルミだったり、遊びに行く時は特定の鞄をいつも持ってる、っていうのはあるみたいだけど…、そんなので良いのかな?」
ノアは考え、小さく頷く。
『これは正直やってみないと分からないんだけど、先ずは、良翔か芽衣にスキルをキャンセルする能力を創生して身につけてもらうの。それで、その身につけた能力で、未亜や奈々が持ち歩く物に、スキルをキャンセルする能力を付与させるっていうのはどうかしら』
良翔は考え、頷く。
「うん、良いと思う。他にも方法があるかもしれないけど、それが一番早く対応出来そうだね。スキルキャンセルは俺が取得する事にするよ。なるべく芽衣や未亜、奈々には、これ以上、不思議な力を身につけて欲しくないからね」
秋翔も頷き
「そうだな。俺も新たな力については、良翔が取得するのが望ましいと思う。そういう力の扱いには、向こうの世界で嫌という程使っているだろうし、能力の使い方については良翔の方が断然慣れているだろうからな」
良翔は秋翔の話に頷く。
『じゃあ、能力は良翔が取得するとして、後は能力を付与する対象をある程度絞らないとね』
「ああ、それについても、俺も多少は分かるが、芽衣に聞いた方が確実だろう。戻って来たら一緒に聞いてみよう」
3人は頷き、芽衣の帰りを待つ。
芽衣が帰るまでの間、食べ終えた食器などを3人で片付け、食後のコーヒーを人数分用意する。
コーヒーをそれぞれの席に運んだ所で、芽衣が戻ってくる。
芽衣は戻ってくるなり、口を開く。
「良翔!あの子達、動物と話せる様になっちゃったね!!」
芽衣はニコニコだ。
良翔も呆れ気味に笑い
「そうみたいだね。でも、自分達が他の人達と違うって気付いて、いつか悲しい思いをしなきゃ良いんだけどね。それが心配で、それについての対策を今ノア達と話してた所なんだよ」
すると芽衣はキョトンとした顔になり
「そうなの?多分大丈夫だと思うけどなー?さっきも聞いたら、他の子は動物達とお話し出来ないから皆んなには内緒にしてるんだって言ってたし、さっきの良翔達へ話す事も、2人で相談して、話すって決めてたみたいよ。だから、そんなに心配しなくても彼女達は上手くやる様に思えるけど…、それでも何かしらしておいた方が良いのかな?」
それを聞き、良翔は呆気に取られる。
ノアも初めは驚いていたが、やがてクスクス笑いだす。
『良翔が思ってる以上に、あの子達はシッカリしてるって事ね。この分なら、良翔の秘密だけでなく、私や秋翔の事、芽衣の力のこともちゃんと理解して話したりしなさそうじゃない?』
「そ、そうだね。………うん、その通りだね。力を奪うよりも、もう少し彼女達を信用しても良いかもしれないね」
良翔が頷くと、芽衣もニッコリ笑い
「うんうん、そうしよー!因みに未亜と奈々は私の力のことも知ってるけど、誰にも話してないみたい。もちろんノアちゃんや秋翔さんの事もね」
秋翔も笑い
「なら、大丈夫そうだね」
と相槌をうつ。
良翔は頷き、芽衣に粉の事を聞くと、やはり子供達も良翔と芽衣が食べた翌日に、夕飯で食べていたらしかった。
やはり、あの粉による能力獲得と見て間違いなさそうだった。
その晩、良翔はベッドに入り、暫く横になりながら考える。
あの粉のお陰で、良翔の周りは劇的な変化を起こした。
色々な懸念もあるが、皆が上手く工夫しながらその変化に順応し、その変化を楽しんでさえいる様に感じる。
もちろんこれは良翔本人も含めてだ。
上手く回り出した新たな環境に良翔は確かな手応えを感じる。
「明日から、新たな旅立ちをしよう。異世界の生活だけでなく、こちらでの生活も…」
そう思い、良翔は眠りに落ちていく…
ここまでお読みいただきありがとうございます!
かなり長くなってしまいましたが、ここで1章完とします!
正直かなり長くなってしまいましたが、今後も懲りずにこんな感じで2章に進めたらと思います!
2章を始めるにあたり、誠に勝手ながら、少し更新を止めさせていただきます!
準備が整い次第、順次また更新してまいりますので、今後共、お付き合い頂けましたら幸いです!
2019.08.21 縞熊模様