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結局、サラに事の顛末を説明し、何とかこれ以上の追求を免れた良翔は、ホールの端のソファーでくつろぐ。
そのまま、良翔は騒がしい音と、程よい疲れからか、段々と眠気に誘われていく。
意識が遠のく中、誰かの優しい声が響く。
「おやすみ、良翔…」
声が段々と遠ざかっていく。
誰かが優しく髪を撫で、柔らかな枕を良翔の頭の下に敷いてくれる。
いつのまにか良翔は眠りに落ちていた。
ふと、遠くから騒がしい声が聞こえる。
段々と意識を戻しながら、良翔は自分が不覚にもこの騒がしいパーティーの中、眠ってしまった事に気付く。
良翔は、枕に顔を置いたまま、ホールの様子を眺める。
このままではあまりよろしくないと、ユックリ顔を上げようとすると、すぐに枕とは反対側に柔らかさを頬に感じる。
良翔は視線だけを上に向けると、すぐ側にノアの顔があった。
『おはよう、良翔。よく眠れた?』
優しく微笑むノアに、良翔の胸は激しい脈を打つ。
先程良翔の頬に当たったのは、ノアのふくよかな胸だったのだ。
防具は外され、服の上からも分かるノアの立派な胸が、良翔が顔を上げようとした際に妨げとなったのだった。
すると、これは枕じゃなくて、ノアの太ももじゃないのか!?と、状況に気付き良翔が焦り、すぐさま起き上がろうとすると、ノアはニコリとしたまま凄まじい力で良翔を押さえ付ける。
「!!?!」
良翔は焦るが、ノアに押さえつけられ、身動きが取れない。
そんな良翔に構わず、ノアは胸を良翔の頬に押し付けてくる。
『良翔は少し頑張りすぎなのよ。もう少しここでユックリしなさい』
ノアにそう言われ、良翔はどうにか脱出しようと試みていたが、断念する。
そして、仰向けになり、ノアに応える。
「ああ。分かったよ、ノア。ノアには敵わないな。今だけはノアの言葉に甘えるようにするよ」
するとノアは再びニコリとすると、良翔の頭を優しく撫でる。
良翔の目には、下から見るノアの仕草や表情が、息を飲むほどの美しい光景の様に思え、思わず口をついて出てしまう。
「ノア………、ノアはまるで女神みたいだな……」
マジマジと、良翔に見つめられながらそんなセリフを言われたノアは、思わぬ言葉に驚きの表情をする。
そして、みるみる内に顔を真っ赤に染め、耳まで真っ赤になっていく。
途端にノアは勢い良く立ち上がり、顔を両手で覆いながら、駆けて行ってしまう。
ノアが立ち上がった拍子に、床に落ちてしまった良翔は、突然の事に唖然として、床に尻を付いたまま、ノアの立ち去った方を見ている。
そこにミレナがニヤニヤしながら、やって来る。
「あらあら、良翔さん。私は見てましたよ〜?ノアさんたら酷いですね〜。良翔さんを床に放りだすなんて。さぁ、立ち上がって下さいな」
「ああ、すまない。ミレナさん」
良翔はミレナの手を借り、立ち上がる。
そしてそのまま、ミレナに促されて、何故か二人隣同士でソファーに座る。
座った途端、ミレナは良翔の肩にもたれ掛かり、囁くように良翔に言う。
「良翔さん、今回のクエストはお疲れ様でした。私は心配で心配で……、ご無事で本当に嬉しく思います」
良翔はミレナの突然の行動に、固まり、姿勢正しく座ったまま、ミレナを見れずにいる。
「み、ミレナさんにはご心配をお掛けしました。無事にクエストを完了して、俺も一安心で……、!!??」
良翔がそう返している最中に、突然ミレナは
良翔の首に両腕を回し、頬に何度もキスをして来たのだった。
良翔は驚き、ミレナの肩を掴んで離し、ミレナの様子を伺う。
「あ、あの……、ミレナさん?」
するとミレナからはボワっと酒の匂いがする。
かなり酔っているらしく、まだ、良翔から離された事に気付かずにエアーキスをしている。
ミレナはどうやら酒乱らしい。
良翔は周囲を見回し、近くを通ったバンダンに声をかける。
「バンダン!バンダン!こっちに来てくれ!」
「おう、どうした良翔、随分と楽しそうじゃねえか」
バンダンは相変わらず、酔っているのか、シラフなのか分からない様子だが、意識だけはハッキリしているようだった。
「ミレナさんが、こんな感じで酔ってしまっていて、ちゃんと座れないんだ。俺もトイレに行きたいから、その間この場所を変わって、ミレナさんが倒れないようにしてくれないか?」
するとバンダンはニヤリと笑い
「なんだ、良翔、そんなもんシッカリ楽しめば良いだろう。ははぁん、さてはお前、意外にウブなんだな。がははははは!良いだろう。倒れないようにする為だ、いた仕方なく変わってやる」
バンダンの救いの声に良翔は、せーので入れ替わる。
ミレナは相変わらず気付いていない。
良翔は上手く入れ替わったかを確認すると、ミレナが既にバンダンの首に手を回し、頬にキスをしている。
「ん〜、良翔さんの毛ってなんだかフワフワして気持ちいいですぅ〜」
「がはははは、そうだろう?俺様の自慢のチャームポイントだからな!」
「それに良翔さん、なんだが男の臭いって感じがしますね〜。まるで狼さんみたい…」
「がははははは!そりゃあそうだわな!」
良翔は哀れな思いを抱きながら、その場を退散する。
後ほど、正気に戻ったミレナの絶叫がホール中にこだまし、気を失った事は言うまでもない。
良翔は、逃げ出した足でハザを探す。
姫の様子が気になったからだ。
すると、間も無く一人壁にもたれ掛かり、ちびりちびりと酒を飲んでいるハザを見つける。
良翔はそのままハザに近寄り、声をかける。
「ハザ。酒は口にあったか?ところで、お姫様の様子はどうなんだ?」
ハザは良翔に顔を向け、応じる。
「中々この酒というのは面白い味のするものだな。あまり美味い様には感じないのだが、皆何故かとても楽しそうだな。この酒が影響しているのか?姫様は、今はカシナ殿の執務室で休まれている。ニーナ殿が治療を施してくれたお陰で、安らかに眠っておられる」
「そうか、ならよかった。酒は気分が高揚し、気を大きくしてくれる飲み物だよ。だから、こんな交流会などでは打ち解ける良いきっかけになるだろうね。ただ、あまり飲み過ぎると痛い失敗をする飲み物でもあるがな」
良翔はふと笑い、ハザを見る。
すると、ハザは頷き
「では、私も少し気を大きくして、皆と交流しなくてはならないな」
そう言い、一息に手にしていた飲み物を飲み干す。
「ああ、その粋だ」
良翔は頷き、ハザを見送る。
そして良翔はそのまま、カシナの執務室に向かう。