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アースワイバーン達との今後の方針も決まり、その場には和やかな空気が流れる。
ニーナは一度席を立ち、皆に紅茶のお代わりを配る。
そして、配り終えると再び自分の席に戻る。
そこで、良翔は別の問題を切り出す。
「さて、アースワイバーン達とタリスの今後の歩み方も決まったところで、アイツ、四島はどうしよっか?」
すると、ニーナがこの会議が始まって、初めて口を開く。
「それにつきましては、一度、その四島と呼ばれる男を起こし、今回の騒動の理由を本人の口から直接聞いてから、今後の御処分を決められた方が良いかと思います。見る限り、アースワイバーンの猛者達を押さえつけてしまえる程の強さを持ち合わせている様には見えませんし、実際にその力を持ち合わせているというのなら、どの様な力を持っているのかも把握しておきたい所です。今後この男の様な存在が出た際に、対策を講じる為の情報を得ておきたい所が御座います。ですが、その男を起こす前に、良翔様方がこの男について何かご存知の事があれば、先にお聞かせ願えればと思います」
ニーナの発言が終わると一斉に皆が良翔に視線を送る。
ハザも興味があるようだ。
確かに、四島は見た目からしたら、ひ弱な若い男と、しか見えないのだ。
そんな男が、アースワイバーン達の首領を倒し、その他の猛者達をあっという間に倒してしまったのだ。
この男の力は一体なんなのか、という疑問を抱く事は至極当然な事だった。
だが、良翔は少し、迷う。
四島について、良翔が想像しうる事を、話してしまえば、良翔達自身についての話にも飛び火しかねない。
良翔としては、別に特別視して欲しい訳ではなく、むしろこの世界の一住人として普通にこちらの世界での暮らしを楽しみたかったのだ。
だが、今回四島が起こした事件は、そんな良翔の悠長な考えを理由に、無かった事に出来る程、軽いものではない。
良翔はつくづく四島の存在に嫌気が指した。
だが、腹を決め、良翔は話し出す。
「俺が四島について知っている事は、コイツが凄まじいまでの身体強化を使う事が出来るという事と、恐らくそれから察するに、魔法もかなりのものを使えるという事だ。そして、コイツは転生者だ」
端的に良翔は、全員に伝える。
話を聞いたが、カシナとハザはあまりピンとくる内容ではなかったようだ。
だが、バンダンとニーナが反応する。
「なんだと!?そうか…、コイツが…」
バンダンは呟く。
ニーナは何やら考え出す。
そんな二人の様子が気になるカシナは、ニーナに説明を求める。
「ニーナ、この情報で気になる事を教えてくれ」
ニーナはカシナにそう言われ、頷く。
「良翔様の話の中で、一番重要と思われる事が、あの四島という男が転生者であるという事です。カシナ様はまだお若く、ご存知ないかと思いますが、転生者とは、我々が生活している、この世界とは別の世界から、何らかの理由により、この世界に突如として生まれ変わった者を指します。ただの生まれ変わりだけならば特段問題にもならないのですが、その者達は生まれ変わりの際に、並々ならぬ、技や身体能力を得て生まれ変わると言われております。まさか、この四島がそんな稀な存在とは思いもしませんでしたが、それが事実であれば、アースワイバーン達の首領や猛者共が容易に倒されてしまったのにも説明が付きます。しかし、彼らが現れる頻度は100年に一度程度という割合ぐらいになりますし、大概は多大な功績を残し、この世界で暮らす者に平和や富をもたらすと言われております。ですが、限られた期間に限定となりますが、王立資料室の資料によれば、過去に一度だけ、その転生者と思われる者によって世界蹂躙が行われた記録があります。四島はその悪夢の再来になりえた可能性があるという事になります」
カシナは目を見開き、口にする。
「世界戦争の事か…。確か我が国の初代タリス王がその戦争で、世界の半数の人が滅びてしまった中、多くの者の力を借りて、その者を封印し、世界に平和をもたらした、と聞いているが…、まさかそれがその転生者がもたらした災いと言うのか…」
「はい、王国資料には、災いをもたらす者、としか記載が有りませんでしたが、私はこれについては他の文献も当たり、その存在を指しているという結論に結びついております」
そこにバンダンが話を繋ぐ。
「なんだカシナは知らないのか?お前の家系にも関係してる事だぞ?俺はガキの頃に、爺様から散々聞かされてたからな。俺としては半信半疑だったが、まさかここでそいつに出会うとはな」
カシナが驚く顔をして、バンダンに問う。
「転生者が、我が家系に関係しているなど聞いた事がないぞ?どういう事だ?」
「そうか、聞かされてないのか?意図的に教えられていないのか、途中から伝承されなくなったのかは知らんが、初代のタリス王は転生者だと言われている。ウチの爺様はその初代タリス王と共に戦ったと言っていたから、あながち間違った情報ではないと思うが」
すると、カシナは驚きのあまり、立ち上がる。
「な、なんだと?では、私の家系は元々この世界以外の者の血筋という事なのか!?」
まぁ、座れとバンダンはカシナに着席を促し、口を開く。
「最初はそうだったかも知れんが、その妻となった妃はこの世界の者だそうだ。だから、既にカシナの血筋の中に残っている初代タリス王の血はかなり薄まっているさ。まぁ、血筋が、全く無くなっていない事はお前のその強さが証明してるがな」
カシナは片眉を上げ、バンダンを見る。
「私の強さと、どう関係があるのだ?」
バンダンは、ふぅ、と行きを吐くと気怠げにカシナに説明をする。
「いいか、お前はその辺のものと比べて、圧倒的に魔力量が多い。その辺の者がお前の得意とする技なんぞ放とうものなら、一発で魔欠、つまり、魔力欠乏で動けなくなるぞ。お前のその魔力量は初代のお陰だな。産まれながらに多量の魔力を持つ事など、それに見合う器と、それを安定させる精神が必要となる。それを持つお前は初代の列記とした子孫だろうよ」
そう、バンダンが言い終え、ノアが我慢していた疑問を口にする。
『えーっと…、カシナ…さんはタリス王の血縁者なの?』
すると、カシナは、あぁ、と思い出した様にノアに向き
「すまんな、お前達にはまだ言ってなかったな。実は私は、タリス王の娘なのだよ。私の正式な名は、カシナ・オルベリア・タリス。タリス王国の第三王女に当たる。普段は王族である事は口外していない。皆が王族だと知るとギルドを運営する上では色々と不都合だからな」
その話をニーナが引き継ぐ。
「カシナ様には、この他にも兄君がいらっしゃり、現国王様の後継としても決まっていらっしゃいます。その為、カシナ様やカシナ様の姉君様方も、立場上、後継問題もなく、タリスの為に自由に活動して良いと現国王様からの御許しが出て御座います。その為、カシナ様は姫君でありながら、冒険者として、この街の平和に尽力なされる事を決められ、そして、今やその強さと多くの者の信頼から、ギルドマスターという立場にいらっしゃるのです」
良翔はニーナの話を聞き、素直に感心する。
やはりカシナは、力を抜きしても、その志や街を守ろうとする姿勢は、この街にとって必要不可欠な存在である事には変わりないのだろう。
突然ですが、お休みを頂きました!
また、今日から、適度に上げて参りますので、宜しくお願いします!