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良翔はユックリと、だが、よく通る声で話す。
「カシナさんの話はよく分かった。その言い分もよく分かる。だが、思い返して欲しい。全ての原因はどこにあるのかを」
一同は、壁に突っ伏した四島に視線を向ける。
そして、一同が視線を良翔に戻した所で、良翔は話を続ける。
「今回の被害者は、タリス住民だけでなく、アースワイバーン達も含まれる。つまり、今回の事により、双方どちからに悪を押し付けるべきではないと考えている。それでは、またいつしか、カシナの言っていた遺恨の原因を生み出しかねないのではないかと、俺は思う。そこで、提案したい。双方が共に共存し、相互関係を今よりも強く結ぶ事で、互いに反映と平和を勝ち取れる道を模索するのはどうか、という事だ」
それにはカシナも身を乗り出し、良翔の話に聞き耳を立てて来る。
「つまり、例えばどの様にすれば良いと?」
とカシナが聞いてくる。
良翔は、ニコリと微笑み、
「例えばの話だ。現在タリスに潜入しているアースワイバーン達は、そこにいるハザを含め、皆、人型の姿に化ける事ができる。つまり、タリスの住民と打ち解け易い容姿が出来るという事だ。だが、今後は人型に姿は似せるが、皆アースワイバーンである証、つまり立派な角は隠さずに擬態してもらう。まぁ、獣人族とそんなに印象が変わる事は正直ないだろうから、それが問題になるとは思えないしな。そして、その角が今後重要な意味となる。彼等には、アースワイバーンである事を隠さずに、タリスに堂々と駐留してもらうんだ。そして、そんな彼ら等には、タリスの街の護衛についてもらう。更に、人型に化ける事が出来ない、古の森にいるアースワイバーン達の伝令役としての役目も合わせ持つ。この伝令役というのも、タリスにとっては、大きな利益をもたらすんだ。つまり、今回の様なアースワイバーン達の異変だけでなく、古の森での異変、更には、その周囲での異変を正確に、早く知る事が出来る。そして、その情報を基に、街にいながら具体的な対策が立てられるんだ。伝令役としてだけでも、彼等に街に常駐してもらう意味は大きい。だが、基本は街での護衛時、もしくはアースワイバーン達の異変時以外は彼等自身が行動を起こす事はない。森や周辺の異変は全て、この街の冒険者が対処する。アースワイバーン達にとって、森やその周辺で共存する魔物達に手を出す事は、彼等アースワイバーン達にとっては良い事では無いからな。つまりは、アースワイバーン達にとっても、異変を伝えるだけで、森や周辺の問題が、立場を悪くする事も無く冒険者達によって解決されるのだから、メリットはある。それに、タリス側では護衛や貴重な周囲の情報をもたらしてくれる協力者のアースワイバーンを討伐する理由が無くなるんだ。要は双方にとって互いにメリットのある有益な関係性が築ける事になる。だから、話は戻るが、アースワイバーン達500匹を蘇らせる事は、この街にとって有益だという事だ」
良翔はここまで話し、一旦話を切り周囲に確認する。
「どうだろう?こんな感じで考えてみたのだが、反対などの意見はあるかな?」
一同は黙り、良翔の話を吟味している。
そして、最初にバンダンが口を開く。
何故が得意げだ。
「ふははは!実に面白い!今まで、敵同士だった存在が、互いに支え合う関係になるとは!やってみなきゃ分からん要素もあると思うが、お前たちアースワイバーンはどうなのだ?これはあくまで、良翔一人の意見に過ぎぬのだ。当事者であるお主達はどうなのだ、ハザよ」
ハザはバンダンにそう言われ、
「少し待ってくれ。こればかりは俺一人の判断では決めかねん。他の者にも確認したい」
それを聞いた、バンダンとカシナは頷く。
ハザはそれを見て、仲間達へとコンタクトを取る。
しばらくしてハザがアースワイバーンの意見を伝える。
「我々アースワイバーンとしては、良翔殿の意見に全面賛成という事になった。後はタリスの者達次第だ」
すると、カシナが口を開く。
「そうか…、アースワイバーン達は賛成か…。確かに良翔の話には大きな光を感じる。だが、それを素直にそのまま飲んで良いものなのか、正直決めあぐねるのも事実だ。良翔の案を受け入れるという事は、アースワイバーン達だけでなく、我々にも変化が必要だ。多くの者が突然変わる環境に驚き、動揺するだろう。つまり、皆の常識となる迄には、時間を要するという事だ。それまで街に駐留するアースワイバーン達に、危害が加えられたり、問題の火種となる可能性があるのだ。中には不誠実にアースワイバーン達を手にかけようとする者も出るかもしれん。それに付いてはどうする?」
良翔は少し考えてから
「ふむ…、確かにカシナの言う通りだな。その危険性は、アースワイバーン達にそのつもりがなくても、生じる可能性はあるな…。では、実績を積み重ね、信頼を得るまでは、特定のこの街のギルドを拠点に活動している冒険者達と共に、パーティーを組み、共に活動するのはどうだろうか?今回作戦に参加した冒険者達は、今回のアースワイバーン達の事を良く理解しているし、確か300人近く居たはずだ。その中に30人程の人化したアースワイバーンが混ざり、冒険者達の手伝いや、門番や衛兵達と共に行動する事で、信頼を得ていけるんじゃないかな?そこで積み重ねられた実績があれば、街の者達も、やがて、その光景に慣れ、彼等を信用する様になると期待している。これではダメかな?」
「うむ…。確かにそれなら人目に付くが単独で行動しているわけではないし、常に他の冒険者達と一緒にいる事で、仮に謀反を起こそうとしても、直ぐ対処が出来るという安全な印象は与えられるだろう。そして、そのまま、アースワイバーン達に実績が積み上がっていけば、害意が無い事はいずれ理解されるだろう」
そう話、カシナは黙る。
それに痺れを切らしたバンダンが、口を開く。
「カシナよ、何をそこまで迷う。確かにギルマスという立場上、簡単に決断出来ない事は分かる。だが、アースワイバーン達が自分達は変われると信じてみた様に、お前自身も自分の街の住人達もそれが出来ると信じてみたらどうだ?問題が絶対に起きないって事はあり得んと俺は思うぞ。大事なのは、それをちゃんと対処してやるっていう意気込みじゃねえのか?もちろん、容易に想定出来る危険性は事前に潰しておくのは当然だが、全ての否定的な可能性の芽を潰すのなんざ、この街の住人達しか居ない状況だったとしても、無理だぞ。だから、お前はもう少し、この街を信用して、新しい光に向かって皆を連れてってやっても良いんじゃないか?」
すると、カシナは、ふっと笑い、やがて口を開く。
「全く、お前には敵わんな、バンダン。確かにお前のいう通りだな…。よし…、分かった、良翔。アースワイバーン500匹の復活を認める。そして、お前の言った通り、新しい未来を作り出してやろうじゃないか」
良翔はニコリと笑い、頷く。
そしてハザに視線を送ると、ハザはその場で立ち上がり、黙って良翔に頭を下げる。
するとそれを見たバンダンが笑いながら、ハザに歩み寄り、肩に手を回す。
「ハザよ、お堅いのは無しだ!お前はもう立派なこのタリスに居なくてはならない存在となったんだからな!堅苦しいのは無しにして、ちゃんと打ち解け合わなくてはな!がはははは!」
するとハザも、小さく微笑み
「ああ、そうだな」
と心なしか、嬉しそうに返事をバンダンに返す。