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冒険者達が全て出て行った後に、部屋に残ったのは、カシナ、ニーナ、バンダンに良翔とノアだ。
四島は、部屋の隅に、おかしな体制で壁にもたれ掛かる様に置かれている。
すると、ドアの方からノックの音が聞こえる。
良翔は後ろを見ると、開け放たれたドアの所にロープ姿の男が、立っていた。
ハザだ。
「おう、あんたがハザだな。入りな」
バンダンはそう声を掛け、中に促す。
するとハザは一度頭を下げた後に、中に足音もなく入って来る。
すると、バンダンが部屋の奥に立てかけてあった、大きめの会議用と思われるテーブルを持ち上げ、部屋の中心に置く。
それに合わせ、ニーナがテーブルの周りに椅子を人数分配置する。
その後、ニーナは執務室の奥の部屋に姿を消す。
まず最初に、円形の会議テーブルの始点となるべく、カシナが座る。
そして、その左隣にバンダンが座り、良翔とノアがそれに続いて座る。
ノアの隣にはハザが座る。
全員が腰を下ろすと同時に、ニーナが奥の部屋から、お盆に乗せた紅茶を持って、戻ってくる。
そして、一人一人に配り終えると、余っていた残りの一席に着席する。
これで全員揃った。
全員を見回し、カシナが口を開く。
「まず改めて、皆ご苦労であった。早速で悪いのだが、状況の把握をする為にも、良翔、事の経緯を説明して欲しい。だが、その前にハザ殿に、自己紹介をしておく。私はギルド連盟タリス支部のギルマスをしているカシナだ。そして、コッチはバンダン。情報屋として動いたり、冒険者として戦力にもなって貰っている。良翔とノアについてはいいな。そしてこの者はニーナと言って、私の護衛兼参謀としても行動してもらっている」
「ご丁寧に紹介頂き恐れ入ります、カシナ殿。私はハザと申します。今回はアースワイバーンの代表としてこちらに参りました」
カシナは頷き、良翔を見る。
「さて、自己紹介はこれぐらいにして、良翔、頼めるか?」
良翔は頷き、本件に関する全容の説明を始める。
事の発端は四島がアースワイバーンを襲い、長を倒し、姫を人質に取った事に始まる。
そこから、四島に弱みを握られたアースワイバーン達は、四島の指示に従い、人間に化け、タリスに潜入して破邪の宝珠を狙ったり、この他にエルフの村の宝を狙っていた事などを説明する。また、アースワイバーン達は四島に対抗すべく、密かにギルドにクエストの依頼を出していた事などを話す。
途中、ハザにはより詳細に背景や具体的な方法などを教えてもらいながら、話を進めて行く。
全てのバラバラだったピースが繋がっていき、話の最後には皆、納得の表情を浮かべていた。
「話は分かった。一言感想を述べるなら、アースワイバーン達と我々が不遇な争いをせずに済んだ事には、改めて安堵を覚えるという事だな。さて、経緯は分かったのだから、肝心なのは今後どうするかだ」
そう切り出したカシナを見て、良翔は口を開く。
話を始める前に、ハザを一瞬見やる。
ハザは意見などを求められない限り、決して口を開かなかったが、目だけは真剣に良翔に訴えているものがある。
良翔は小さくハザに頷き、話を始める。
「それについてなんだが、カシナやバンダンに相談があるんだ。話してもいいかな?」
そう言われ、バンダンはカシナを見やる。
「構わん、話してくれ」
カシナは表情を変えず、良翔に話を促す。
「ああ、では遠慮なく。結論から言うと…」
良翔は一呼吸置く。
「それを行なってしまった張本人が言うのもなんだが、俺達が倒してしまったアースワイバーン達を蘇らせたい」
すると、カシナは眉をピクリと動かし、バンダンは勢い良く立ち上がる。
「な!?500匹以上のアースワイバーン達を蘇らせるっていうのか!?」
良翔はバンダンに向き、頷く。
するとカシナが口を開く。
「今回の作戦で大いに活躍して貰った良翔達には感謝している。どんな要望もある程度は叶えてやりたいとも思っている。だが、500匹ものアースワイバーンを蘇らせるという事になると話は別だ。我々に危害を向ける理由が無くなったとはいえ、500匹という数のアースワイバーンがタリス領内に存在しているという事だけで、大きな脅威となる。その数は一国をも簡単に飲み込める力となるからだ。仮に、全て蘇らせたとして、今は危害を受けないにしても、今後、今回の様な事態が絶対に起きないという保証はどこにもない。せいぜい許容出来て、我々の脅威とならない数、30匹、40匹程度だろう。もちろん、それでも散らばって生息してもらう事が条件となるがな」
良翔はカシナの話を聞き、しばらく黙って考える。
カシナの言っている事も良く理解できる。
それは至極真っ当な意見だ。
だが、それはタリスにとっては、という一方向にとっての話だとも良翔は思う。
四島の話に同調するわけではないが、どちらを主観に置くかによって、良し悪しの判断は変わる。
アースワイバーン達にしてみれば、彼らの生息圏に勝手に侵入してきて、出会えば大騒ぎして、討伐隊を寄越してくる、タリスの住人は敵と映ってもおかしくないのだ。
今回の騒動の根源は四島のみに帰結する。
それ以外の者がどちらかが優勢、劣勢となる結論に終わるべきではないと良翔は考える。
双方が共に、歩める道、それを良翔は考え、模索する。
そして一つの結論に至る。
良翔が考えている間、誰も口を開かない。
皆良翔の回答を待っているのだ。
やがて、良翔は考えをまとめ、皆に顔を向ける。
全員が良翔に視線を向けている。
望まない回答をカシナから突き付けられた、ハザでさえ黙って良翔を見つめる。
全て良翔の判断に任せるという目だった。