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アイオルとカーネリア  作者: F.Koshiba
紅を識す口碑 アイオル編
6/8

(5)

 北の天極が竜に乗る頃には、アメノワタは地上からさっぱり失せていました。代わりに緑が生し始めた事で、アイオルは地球が清浄になった事を知ります。

 人なき後、世界中に散ったアメノワタに毒気を吸収して無害化する物質となる命令を入力できたのは、連携していた機械人形達以外にありません。そうして機械なき後、彼らが言っていた通り地下でアメノワタに包まれ保存されていた者達が目覚め、地上に戻って来ました。しかし再起した人々は感情を失い、ただ生きて種を繋ぐだけの蠢く殻と化していました。

 アメノワタは人の心までをも死に至る毒とみなし、吸い取ってしまったようです。

 

 それから人々は集落を作り、ひっそりと暮らしていました。アイオルが起動して初めて見たのと同じ風景が、そこにありました。

 彼はその新しいのか古いのか分からない時代で、希望と思えるものを再び探しました。しかし彼らの真っ平らな日常に、それと思しきものは転がっていません。

 さすがに疲れを自覚しました。そして動作を妨げ出した重みと軋みから、ようやく自分の身体の寿命が近くなった事を悟ります。

 それでも探す事を諦めなかったのは、信じ続けた言葉を、偽りにしたくはなかったからです。

 

 かくのごときいきさつがあって、彼は、長らくひとりでした。とある岩窟から通じる地下深いところで、真っ黒な箱に収められた一体の機械人形を見つけるまでは。それが、事の発端とも結末とも呼べる出会いでした。

 朱の髪と瞳。彼女は、彼が恋焦がれ続けた娘と同じ見目形をしていました。腕に嵌められた銀色の飾り輪にも『カーネリア』という、その者と同じ名が刻まれています。

 知らなければ誰も人である事を疑わない、精巧な造り。箱を開けた事で遮断されていた時間に触れ、起動した文明の結晶は、初めて目にする彼の表情を写し取り、微笑みました。

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