673 報連相と ナニと 何が
まさか都知事選のポスターが商売になるとは。
さすがに思い付かなかったかったい。
まあ、思い付いてもやらない人の方が多いのは間違いなく。
こうやって、誰が聞いてもなんだかなぁ、って決まりが増えるのか、と実感。
では、気を取り直して。673話目、お楽しみ頂ければ幸いです。
宇宙空間において球体は基本形と言っていいだろう。
恒星や惑星がそうであるように、どこからも何からも影響されない物質は真球を描き、それにならった宇宙船もまた球や円を多用する。
PTAの指令室もまた球体を元にしていたが、やはり床まで曲線なのは使いづらいのだろう。
・・・真横に入り口を作るとけっこう、急な坂、というかほぼ垂直になる構造では丞に限らず、ほぼすべての地球人が転ぶ。また、転ばないにしても手をつくか、梯子などの補助する構造を追加する手間が必要となる。
ゆえに。
球体を上下に押し潰した、あまり聞き覚えの無いその形を楕円球と呼ぶ。
あまり深くない皿を向かい合わせに重ねた形を想像してもらえれば分かりやすいだろう。
こうすると、入り口にちょっと段差ができるぐらいで、部屋として使いやすい。
そんな形の部屋の縁。
等間隔に並んだ六人による。
不思議な踊りが、いま始まる・・・。
「「準備はいいわね?」」
棒、五階層のボスからドロップした危険すぎる棒を両手で捧げ持った委員長が、索敵対象にばれないよう無言で確認を取った。
「「うん」」「「おう」」「「・・・」」
返事は有言でも無言でもいい。
問題は想定された通りに手に持った棒を操れるか、だ。
異世界会員だけに見えている光の軌跡。
今からこれを正確になぞらなくてはいけない。
ゴクリ! と誰かかが唾を飲み込む。
ツツリ! と誰かの首筋に汗が流れる。
「「開始!」」
やはり無言の合図を受け、全員がまず棒を大きく横薙ぎに振った。
先端の最終位置は、お互いの体に当たるか当たらないか。ここで隙間をつくるようでは、透明ななって隠れているであろう、PTAの構成員を逃してしまう。
一歩前進しつつ、元の軌跡をなぞらないように定位置に構えた棒をまた振る。
前進、振る。
構えて、振る。
その場で振る。
前進と後退、振る、振る、振る。
ゆっくりやっていては、それに合わせて身を躱される恐れが生じる。
ものすごく早いわけではないが、努力しないと追い付けない早さで軌跡の中を進む輝点を無心でなぞるその動きは舞。
棒の片側だけならそう難しくない身体操作は、両端を会わせなければならなくなった時点で、難易度を跳ねあげる。
しかも、使用するアイテムは呪われた代物。
先端に施された黒布の封印が解かれれば、辺り一面は悪臭の災いに見舞われるだろう。
── いっそ、そっちの方が早いかもね。
炙り出しの方法としては提案されていたのだ。
使用する手段が、元々PTAからもたらされたので対策済みでは? という意見により採用されなかったが。
── おっと! 考え事をしている場合じゃないか。
せばまる輪は気をつけないと隣の人を勢いよく殴っちゃうぐらい縮まり。
軌跡と輝点に踊り手の頭の位置が加わった振り付けは、その難易度を上げ続ける。
後れ馳せながら。ものすごくすまなそうにしながらの、チチワからの報告を受け。
異世界会員が彼に───封印されてても、ちょっと臭い───棒の先端を突き付けるのは。
不思議な踊りを踊りきった後の事である。
・・・報連相。まぢ、大事。
☆
「・・・まだ鼻がツーンとするんだが」
「自業自得でしょうが」
チチワの消極的抗議を後ろから切って捨てた委員長がいるのは、彼の席の後ろで、何をしてるのかと言えば、モニターを覗き込んでいるのだ。異世界会員全員+αで。
「こういうのって、パッ! と出るんだと思ってたよ」
「ああ。観測データさえあればすぐなんだが。さすがにあのサイズの全体を一隻で監視はできないからな」
丞の疑問にエージェントKZが答えた。
丞達が───無駄に───踊っていた間に、画面の分割は二つにまで減っていた。
残りの画面では、PTAの船に当たった大きめの隕石によって表面が剥離する様子が繰り返し表示されている。
ズームアウトされていくにしたがい追加表示される、その物体がとるであろう予想移動位置は地球には、重ならなかった。
・・・いまのところ。
「丞はどっちが当たりだと思う?」
そうエージェントKKに聞かれる丞だが、いまはそれを考えるどころではない。
なぜなら、もう、当たっているから。
ナニとは言えないが、後ろからもたれ掛かるKKの胸部が、背中に。
(当ててんのよ! KK談)。
「入電! 追加します!」
待ってたぜー! と言わんばかりの勢いで右側のモニターの予想移動位置が確定に変わり、左のモニターの予想移動位置が点滅して消えた。
「こ、これは !?」
わざとらしく驚いた丞が、体を起こした。
これ以上はマズイのだ。ナニとは言えないが。
「レーダーからロストか。真っ黒だ。漂着物監視班に頼んでたデータは?」
「剥離時点からの地球漂着物物の内、該当するサイズ及び似通った大きさの物は無いそうです」
「なら、まだ大気圏まで到達していないのか・・・。我慢比べするつもりなのか?」
チチワが犬っぽい前足、じゃなくて腕を組んだ後ろで、おずおずと一歩の手が上がった。
「エージェントT。なんだね?」
あえて反射するよう設定したモニター越しに、挙手くぉ確認したチチワが眉を上げた。
・・・ちなみに丞の場合、本当は名字の頭文字でエージェントIになるはずである。
「似通った大きさの物、って言ってましたよね?」
「ああ。補給される事のない宇宙空間では、物体はサイズを減らせど、増えることは・・・、そうか!」
チチワが丞の言わんとする内容に気づいた。
「似通った大きさにオーバーサイズを追加! そう大きくなくていい!」
「該当対象が一つ! これは? 大気圏を突破しています!」
大型モニターに表示された物体が、ほんの僅か、微妙に、ゆっくりと、突入角度に寄っていく。
まあ、地球製でもなければ、推進方法も違うので、わざわざ突入角度を守る必要もないのだが、楽は楽なのだろう。
「軌道計算! 落下位置は!」
「ただいま計算中! 少々お待ちを!」
地球人とは比べ物にならない数の指先がパネルを叩きまくっている。
そうかからないうちに結果が出るだろう。
「いやー。良く気がついたねエージェントT」
「いやー。それほどでも」
── なんでか聞かれなくて良かった!
聞かれなくて良かった !!
ナニが、ナニして、ナニしたから(未遂)。
・・・ナニが、じゃなかった。
何が地球を救うのか。
わからないものである・・・。
次回投稿は、二十六日予定です。




