40 思いがけず游ぐ
今日は予約投稿です。
前書きに書くネタも無くなってきました。
下手にあおりをいれるとネタバレしそうです。
でもずっと書いてきたのでないと不安になります。
では、40話目楽しんで頂けたら幸いです。
「はい。どうぞ」
説明を終えたFが豆腐ぐらいの固まりを渡してくる。
丞は固まりが何か分からない。
他の人を見ると体の中心部に当てている。
固まりから黒いラインが体全体に走り、スーツが装着された。
頭部はヘルメットで覆われ、軽い装甲がついている。装甲には小さな噴射口もある。
変身みたいで格好いいなと思いながら、丞も固まりをベルトのバックルに当てる。何か紐状の物が絡み付いた感じがした。体を見下ろすとちゃんとスーツは着ている。
変身って自分では分からないんだとがっかりしながら、自分の体に装着された装甲を触ってみた。
ゴムみたいに曲がるが指の装甲で叩くとキンと固いもの同士がぶつかる音がする。
頭にさわろうとすると、丸いものをかぶっているのも分かる。
『ヘルメットもちゃんとかぶってますよ。宇宙に出る為のスーツです』
シープの声がする。いつもと違いヘッドホンから聞こえて来るような響きだ。姿はいつの間にか消えていた。
「シープは非実態モード?」
『いえ、やはりナビの活動が制限されます。今はスーツの人工知能ぐらいの役割しかはたせません』
「それっていつもと違うの?」
『実体化できないのと、情況の把握が丞様の着ているスーツに由来します。普段より外部情報が少ないので不安です』
「シープも不安になるんだ」
『ええ』
「次どうぞ」
Fがストラップのついた短い棒と細い金属の棒でできた虫かごみたいな箱を渡してくる。
「何これ?」
『トレジャー装備です。ステックは念じるとある程度伸びて先端部に転送ゲートを開きます。転送された物は亜空間ボックスに収納されます』
丞がストラップを手首に通して棒の部分を握り念じると、ステックが伸びて先端部に三角錐が現れた。見た目は虫取網だ。
他のトレジャーハンターも転送ゲートを確認しながら、虫かごみたいな亜空間ボックスをたすき掛けしている。
虫取の少年に見えてくる。
命知らずのトレジャーハンター達ではなかったのか。
丞も亜空間ボックスをたすき掛けにする。
テストなのか小物を投げ合っては虫取網に見える転送ゲートでキャッチしている。
転送ゲートは直径は一メートルぐらいまで広がるようだ。
「一旦転送したものを虫かごから出すのはどうやるの?」
他の人はテストでキャッチした物を出して相手に返している。
『ボックスの隙間から出したい物を見て、念じてください。ボックスは亜空間に収納された物が表示されているだけです』
言われても丞の亜空間ボックスには何も入っていない。
「亜空間ボックスにはどのくらい入るの?」
『丞様の感覚だとニトントラックの荷台ぐらいです。ボックスには縮小されて表示されます。重さも表示サイズに合わせられます』
「準備は宜しいでしょうか?」
Fが聞くと辺りが静かになる。
「では皆さま、宜しくお願い致します」
Fが言うと宇宙船の天井が開いていく。
天井があった場所には薄い光の境目が見える。
丞以外のトレジャーハンターは床を蹴って外に飛び出して行く。
丞も床を蹴ってみた。スーツにパワーサポートがあるらしく余裕で光の境目を越える。
百メートルぐらい先に宇宙ステーションが見える。
「これって宇宙遊泳だよね!」
無重力。普通に生きていたら体験する可能性がほとんど無い経験に丞のテンションが上がっていく。
腕や足を振るとクルクル回り続ける。
「え、何で。止まれない」
『こちらで制御します』
シープの声が聞こえるとスーツから何か噴射した音がして回転が止まる。
乗って来た宇宙船が見える。
「宇宙遊泳!思ってたより難しいけど楽しいね!」
『ちょうど乗って来た宇宙船が見えるように止まってみました』
「思っていたより小さいね。荷物をどうやって運ぶんだろう?亜空間収納かな」
『荷物は多分そうですね』
宇宙船の下側の空間が四角く光った。そこから前面にアームの付いた宇宙船が二機出てくる。
トレジャーハンターにぶつからないよう左右に別れて、大回りしてステーションに近づくようだ。
『船体のほとんどを隠しているようです。兵器対策でしょうか』
シープが説明してくれる。
「作業用宇宙船は亜空間でコンパクト収納じゃないんだ」
『亜空間収納は中で動けません。整備の必要上それなりの広さは必要です』
「亜空間に収納されたら動けないってきついね」
丞は想像して震える。
亜空間がどんな所か分からないが、指一本動かせないのは、金縛りにあう恐怖を感じる。
『亜空間収納は安全装置を基本に作られています。生き物は例外を除き入りません』
「安全装置を基本?例外?」
『安全装置をベースに亜空間収納の機構が組み立てられています。後から安全装置をつけるのと違って、安全装置を外す事が不可能です。外せば亜空間収納自体が壊れます。例外の生き物は鉱物系の人で呼吸の必要がなく、動かないで何百年も平気な人と緊急時に避難で入る人です。避難で入るにはスーツを着て呼吸が確保されていることが条件です。入った人は、亜空間の外が安全なら出たいと思うだけで出られます。亜空間の外が危険な時なのに出たくなった時は、救難信号が発信されます』
「なるほど。色々対策されてるんだ」
『はい。そろそろステーションです』
丞は腕を振って振り返る。
シープと話しているうちに近づいて、ステーションの壁がもう間近だ。
「どうやって止まるの?」
振り返った勢いで、丞はクルクル回り続けている。
『噴射口から推進剤を出します』
丞の回転が止まる。
「いや、前進もやめないと!」
『あ』
「ぶげっほぅ!」
丞はステーションにぶつかった。




