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バッカス王国の物語

エッグハントの仕込み人

作者: ▲■▲



 儂は人に公言できない趣味を持っている。


 公言出来ないといっても禁呪とされる魔術の研究、あるいはいかがわしい犯罪行為をしている――という趣味ものではない。


 ただ、大っぴらにはしづらい趣味なのだ。


 その趣味は「宝探し作り」と言う。儂が名付けた趣味だ。


 端的に言えば宝箱に宝を詰め、人に探して貰う遊びだ。何とも子供じみた趣味なのは自覚している。だが、それでもこれは数少ない儂の趣味なのだ。


 宝を探すのは楽しい。


 宝箱を開ける瞬間もまた楽しい。


 しかし、現実には宝箱はそうそう転がってない。


 自分で箱に宝石なり黄金を詰め、それを開けたところで既に中身はわかっている。既知のものではワクワクとした感情は削がれてしまう。それは宝探しではない。


 結末がわかっている物語を読むようなものだ。


 そこで儂は、自分で作った宝箱を人に探させる事にした。


 こうすれば宝を探す者は未知に対する期待感ワクワクを味わう事が出来る。儂はその宝探しをしている者達の顔をこっそり見て、楽しむ事が出来る。


 試行錯誤し、宝の在り処を探ろうとしている彼らの表情は十人十色。儂にとって未知のもの。ついに宝に至り、箱の中身を覗き込む表情もまた多種多様の「喜」の感情が詰まっている。


 それを、あくまでこっそり見る。


 こっそり見るからこそ、大っぴらに出来ない趣味なのだ。宝を仕込んでいる事を広く知られると面倒でもある。知れば探す以前に盗みにやってくる者もいるかもしれん。


 自分でもおかしな趣味である事は自覚している。だが、楽しいのだから仕方がない。


 宝を作り、隠し、探させる。


 そこに儂の未知ワクワクがあるのだ。


 探させるなら子供が良い。


 子供かれらは純真で知らない事が多い。だからこそ宝探しをしている時の反応も見ていて和むものや面白いものが多い。彼らこそ儂の宝だ。


 大人は斜に構えてしまうところがあるからな。ハメを外して童心に返り、満面の笑みを浮かべて宝を探す者など早々いない。仮に跳ね回って探していたらそれはそれで引くが。


 なので、探させるなら子供が良いのだ。


 その事を数少ない友人に語ると、彼は重々しく頷いて口を開いた。



「自供は終わりか。続きは監獄で聞こう」


「儂は何も悪い事はしておらん」


「子供に手を出したわけでは無いのか?」


「出してない。出すわけがなかろう、失礼な男だな」


「ふむ。だが十分に変質者の素養はあるように思う」


 数少ない友人は無表情かつ淡々とそう言った。


 反論してやりたいところだったが、人には理解され難い趣味ゆえにボケカス人非人にんぴにんとなじられないだけマシだと思う事にする。


 下手に話を混ぜ返すと面倒でもある。


 いま、人気のない酒場で話をしている友人はこの国の――バッカス王国の中枢を担う人物であり、儂を捕まえるよう働きかける事が出来る政府の人間だ。


 なじられるだけならまだ良し。捕まるのは面倒だ。


「変質者に聞くが、宝はどこに隠す?」


「街中だ。子供でも探りやすい場所に……公園や花壇の一角に、掘り返す事で迷惑をかけづらい位置を探し、隠す。隠れてやっている活動とはいえ、人に迷惑をかけたくはないからな」


「公共の場を勝手に掘り返し、ゴミを埋めるのは不法投棄だ」


「ゴミではない、宝だ」


「土に還らなければ似たようなものであろう」


 ぐうの音も出てこない言葉だった。


 何と言い返せば惑っているところ、「政府こちらでも把握はしている」という言葉が投げかけられた。儂が話す前から把握していたらしい。


「誰にも掘り返されずに終わったものも、一ヶ月ほどで回収されているし国民からの苦情も来ていない。気にせず続けるといい」


「む……そうか、それは有り難い」


「私はしょっぴいてしまえと言ったのだがな」


「おい」


「だが、我が王は子供好きゆえ、子供を笑顔にしようとしている貴様のようなものは放置しているのだ。良かったな。大っぴらには公認出来んが、かのじょも応援している」


「王の墨付があるなら心強いな。心の狭い政務官長きさまより頼りになる」


「変質者には言われたくない」


 鼻を鳴らした友人は片手を上げ、牛系獣人の給仕を呼んでその胸部をつねって新しい生乳を注ぎ、それを無表情にあおった。好き好んで頼むなら、もう少しうまそうに飲めばいいものを。


 飲んだ後、儂には手のひらを出してきた。


「宝の地図をくれ。金は払う」


「何だ、藪から棒に」


「知人の娘にやるのだ。両親に愛されてはいるが、少しばかり事情があって俯いてばかりいる子でな。宝探しを通じ、少しは上を見て貰いたいだけだ」


「まあ、儂の事は伏せておいてくれるなら構わんが……」


 どうせどこかの子供に渡すものだからな。


 持ち歩いているものを1つ……いや、せっかくなので3つほど渡しておこう。これで少しでも笑顔になってくれればいい。子供たからは笑っている方が美しい。


「金はいらん。金のための趣味ではない」


「そうか。ではここの支払いは持とう」


 その後、しばし飲んだ後に友人と別れ、家路につく。


 帰ったところで「ただいま」と言う相手もいない。そういう相手を作る努力をしてこなかった。年々、一人である事に対する寂しさがこみ上げてはくるが、最近は割り切る事が出来ている。


 使用人はいるものの、住み込みでは無いので既に帰ってしまっている。その使用人が残した今日あった事の書き置きを見た後、眠りにつく。


 そして早朝に目覚め、顔を洗って歯を磨き、着替えを済ませた。



「おはようございます、旦那様」


「おはよう」


「良かった、今日は旦那様が朝食を作る前に間に合いましたね」


「いや、もう食べた」


 朝、8時の鐘が鳴っている最中にやってきたウチの使用人――アイーダに「パンとチーズだけ齧り、食後の珈琲を飲んでいるところだ」と報告する。


 儂の言葉にアイーダは嘆息した。


「私の仕事を取らないでください」


「朝食作りは雇用契約に含んでいない。儂が勝手に用意し、勝手に食べると決めている。片付けは頼みはするが、作らんでよろしい」


「今日はその片付けも無いようですね」


「皿を使わなかったのだ。……ああ、この珈琲カップは洗って貰おう。しばし待て。本でも読んで待っていなさい。儂もまだ新聞を読んでいる」


 まだ文句を言いたげにしていたが、新聞に目を落とす事にする。


 アイーダは優秀な使用人だ。


 儂の家が使用人として勤める最初の家という事もあり、最初は優秀とは言い難かったが……やる気はあったので今では朝食以外の家事は全て任せている。


 ただ、少し真面目過ぎる。


 彼女との契約は「宅内の掃除」「庭の多少の掃除」「買い出し」「趣味関連の雑務」「儂がいると言えば昼食・夕食を作る」というものだ。食事は大抵、外で済ませるので頼む事はあまりない。


 勤務時間は特に決めてないが仕事は平日のみ。別にやる事をやってくれれば昼から来ても良いし、早めに終わればさっさと帰ってもいいと言っている。もちろん副業も可だ。本業に支障が無ければウチでやってくれても構わん。


 だというのに、アイーダはしばしば契約外の業務をする。


 庭は多少の掃き掃除で良いと言っているのに草取り、外壁の掃除、他所猫の餌やりまでする。おかげで業者に仕事を頼む事が減ってしまった。猫の餌は儂がやりたいのだが……そんな事を言うと体面に関わるので言えずにいる。


 朝食も作りたがる。ドワーフの老人である儂の健康に配慮した美味い朝食だ。だが、7時からウチに働きに来るのは早すぎるので早くとも8時以降にしろと怒った事がある。


 契約外の仕事なのだから、やらなくて良いと言っているのに。


 アイーダは真面目で、働きたがりだ。


 そのくせ勝手にやった契約外の労働に関して対価を求めない。つまり儂を「使用人にタダ働きさせてるクソ雇用者」にしているのだ。そういう意味では酷い子である。


「……給金は十分払ってるつもりだ」


「はい。おかげさまで家族4人、良い生活をさせていただいてます」


「なら雇用主ワシの言う事を聞いて契約外の仕事をするな」


「わかりました」


「お前は絶対わかってないな。この会話は既に50回以上繰り返している。最近はもうわかりました、の言葉でごまかし続けるばかりだ。まったく、時間外労働主義者め。寿命が縮まるぞ」


 儂が少し語気を強めて言うと、アイーダは肩をすくめた。


「給金が誇張なしに十分過ぎるうえに、どこにも行く宛がない私達家族に家まで用意していただいて……さらには雇っていただいたご恩を返しているだけです」


「所有している不動産の空き部屋を貸しているだけだ。家賃も貰ってる」


「最初の半年は家賃を受け取っていただけませんでした……」


「お前は無理やり支払ってきたな。半年無料だと言ったのに」


「恩義がありますので、甘えてばかりではいられません」


「恩などない。儂らの間にあるのは雇用契約と信頼のみだ」


 などと言ってみたが、どうせアイーダは儂の言う事を聞かん。


 知人オトレレの紹介で雇う事になった赤の他人ではあるが、しっかりと仕事をしてくれているのは満足している。少し仕事し過ぎで、有りもしない恩義とやらを持ち出すのは困りものだが。


 いてくれると、助かる。


 いてくれた方が助かるからこそ雇っている。儂は自分で家事をするのが面倒だった。アイーダは仕事を求めていた。需要と供給が噛み合っただけの話だな。


 それを恩義などと言うのだからアイーダはありもしない恩を有り難がる時間外労働さーびすざんぎょう主義者ばんざいの毛がある。恐ろしい思想だ。儂は使用人が働いているために雇用主の体面として残業に付き合ったりなどしたくない……。


 まあ、アイーダはともかく儂は多少、恩がある。


 たまにアイーダの子供ら交えて食卓を囲めるからな。孫が三人もいるようで目が細くなる。楽しい。欲しけりゃ自分で作れよ、という話ではあるが……若かりし頃は面倒だったのだ。


 ただ最近、子供らが来る事が減った。


 学院がっこうに通うようになったのだ。


 前は「どうせ儂は日中おらんからな」と言って子供らをここに連れて来させ、アイーダが仕事をしながらここで育児をしていたのだが、三人とも学院に通う年頃となった。


 そのため、以前なら平日は毎日会えていたのに最近は週に3日ほどしか子供らに会えてない。それは不満だが、それこそ契約外の事なので文句は言えん。


 アイーダが「旦那様のご厚意に甘えてばかりでは申し訳ないので……」などと自重する事も増えた影響でもある。自重などせんでいいのだがな。


 まあ、今のままで十分、楽しい。


 そう思いながら立ち上がり、カップの片付けを任せる。


「では、行ってくる」


「行ってらっしゃいませ」


「昼食はいらんが夕食は欲しい。シチューが良いな」


「午前中のうちからじっくりコトコト煮込み、夜まで寝かしておいたシチューですね?」


「うん。材料は揃っている筈だ。可能であれば頼む。無理はせんでよろしい」


 外套を羽織り、家を出る。


 鞄は持たん。儂は学院時代から置き勉する主義ゆえ、仕事用の鞄も事務所に放りっぱなしだ。楽でよろしい。家に仕事を持ち帰りとうない。


「……そこそこに冷えるようになってきたな」


 吐く息は白く、街並みも空気も冬のものに変わりつつある。


 冬は、趣味の宝探し作りにも変化が生まれる。隠す宝は平時より見つけやすいものにする必要がある。日が暮れるのが早いから、子供が遅くまで出歩かんようする必要がある。


 その辺りの事を――新しい宝探しの構想をしつつ、出勤した。


「所長、おはようございます」


「おはよう」


「おはようございます、今朝は冷え込みますね」


「おはよう。そうだな」


「所長、おはようございます。本日の予定についてなのですが、円卓会の総長様より夜、晩餐会へのお誘いが来ているのですが――」


「行きたくない」


「そこを何とか」


 事務所の所長室に入りつつ、今夜の予定をねじ込もうとしてくる秘書に返す言葉を考える。


 考え、儂にとって死活問題の事を話した。


「今夜はシチューなのだ。儂はとても楽しみにしている」


「晩餐会にもあるかもしれません」


「円卓会の総長の顔を見ながら食べるメシは不味い。あやつはヒューマン種以外を平気で差別してくるくせに、ドワーフの儂にも仕事振ってくるからな、上から目線で」


「へそを曲げた総長様がウチに仕事を回さなくなります。所長としては晴れ晴れとした気持ちになれるかもしれませんが、私達の仕事は減ります」


「うぅむ……。なら、こういうのはどうだ……? ウチの所長は老齢ゆえ夜が早く、晩餐会の最中に眠ってしまいそうなので今回は辞退させていただきます、と」


「お部屋を用意していただけそうですね」


「やめろ、一泊二日など悪夢だ。…………アイーダに伝言を頼む、やむを得ない事情で今夜は夕食がいらなくなった。しかし、シチューは明日の朝に食べるから作っておいてくれ、と」


「かしこまりました」


「はぁ、つらい」


 口惜しいが仕事だ……仕方がない。


 儂の仕事は誓約業。


 魔術を交え、約束事の仲人をする仕事だ。


 世の中、商取引であれば契約書を作り、それに違反したら裁判を起こすなり官憲に違反者を捕まえさせ、執行して貰えば良い。


 しかし、官憲は全ての違反を取り締まってくれるわけではない。


 例えば「禁煙する」という誓いを破ったところで民事不介入……どころか「それぐらい自分で自重しましょうね」と受付で苦笑されながら帰されるのがオチだ。


 誓約業ではこのような些細な問題も取り扱う。


 禁煙を行う者に誓約ゲッシュの魔術をかけ、禁煙の誓いを破るようであれば少しばかり体調が悪くなるなどの罰則を与える。それにより行動を縛る。


 儂はその誓約業事務所を開き、所長をしている。


 いわば精神的矯正であり医療分野でも使われるゲッシュだが、中には何ともくだらない誓約を結びに来る者達もいる。それで仲介施術料が貰えるから構わんがね。


「先生、このカスに浮気防止の誓約をお願いします。浮気したら心肺停止するキツーイやつを」


「殺害に至るものは法律で禁止されている。まあ、不特定の異性の体液に反応し、それが付着した部位を痒くするようなものであれば出来るが、それでいいかね?」


「それでお願いします」


 浮気防止はくだらない部類ではない。切実なものだ。恐ろしい方法を提案してくるな、という者はよくいるのが怖いぐらいだ。平気で残酷なことを言うからな、もう別れろと言いたい。


 昼寝しない、夜更かししない、誰それに負けたくないから訓練をかかさないような誓約をつけたい――というゲッシュをつけてほしい、と言ってくる者も来る。


 儂にとっては「それぐらい自分で何とかしろ」と言いたくなるものもあるが、重要性は個々人で違うからな。代金を貰えるなら良いのだ。……事件に巻き込まれるのは勘弁してほしいが。


 このような仕事で平日は半日が過ぎていく。


 所長をやって人を雇ってる手前、大口の誓約仕事を取るための営業活動をしなければならないのは面白くないが、人付き合いは苦手だ。


 取引先の中には顔をしかめたくなるようなカスもいるが、40人の職員を雇い入れている以上、全ての取引先に強気には出れん。まあ、自分で選んだ道だ。仕方ない。


 仕事が終われば家に帰れる。


 いよいよ楽しい趣味の時間だ。


 家にこもってばかりはいられない趣味ゆえ、出かけねばならんがな。


 出なければならない理由の一つとしては、買い出しが挙げられる。


 宝箱と、それに詰める宝を買う必要がある。


 箱に関しては馴染みの職人に頼んでいる。最初は市販の箱を適当に使っていたものの、直ぐに特注品を頼むようになっていった。少し値は張るが仕方ない。


「例の宝箱ものは出来ているか?」


「こちらに。お確かめください」


 宝探しにおいて、肝となるのは宝。


 だがその宝を収める宝箱も「うわぁ! 中には何が入ってるんだろ?」というワクワク感を煽るものが良い。宝箱そのものを取っておきたくなるものであれば、なお良し。


 加えて、手に取るのが子供という事も考えなければならない。子供でも持ち帰りやすく、なおかつ怪我をしないようなものにしなくてはならない。


 大きさも収める宝によって気をつけねばならない。


「これでいい。注文通りだ。さすがだな」


「ありがとうございます。ところで、今回はどういう事情で寸法サイズと意匠の変更を? 前回は冒険者カードをキッチリ収めるためのものとの事でしたが……」


「今回はニャンぽこ・アンニアちゃん版のためだ」


「ニャンぽこ、あんにゃーちゃん……」


「ニャンぽこ・アンニアちゃん、だ」


 ぬいぐるみの一種で、中身は綿ではなくスライムが詰まっている。音に反応して喋ったり動いたりするものだ。


 数多くの種類があり、その一つがいま老若男女問わずにはやっているそうだ。それに合わせた宝箱を作ったわけだな。箱にもニャンぽこをあしらっている。著作権? 見逃してくれ!


「先生は子供の流行に敏感ですね……」


「趣味だ。宝は子供が喜ぶものを用意してやりたいからな」


「なるほど」


「といっても儂の感性では子供が本当に好きなものについていくのは難しい。ゆえに興信所を使って最近の流行や次に流行りそうなものを調べて貰っているのだ」


「趣味にお金をかけ過ぎでは……?」


「趣味に金をかけんでどうする。あの世に金は持っていけれんぞ」


 金を使う対象かぞくもおらんしな。


 誓約業での収入を生活費に充て、不動産からの賃貸収入などを趣味にぶちこんでるわけだ。遺産はアイーダに渡せば良かろう。今後も世話になる予定だし、退職金代わりだ。


 箱を仕入れ、流行情報を仕入れ、それを元に宝を――主に子供向けの玩具を仕入れる。箱詰めはアイーダに手伝ってもらう。


 子供らを連れてきてもらってな。


「爺ちゃん、このお人形はこの箱?」


「うむ。優しく入れてやってくれ。取り出した時に痛ましい姿では、見つけた子の心が曇る。ただでさえ箱の中は窮屈だからな」


「水と食料も無いとだね! チョコいれたげる」


「うーむ、さすがに……いや、緩衝材代わりに、何か腐らないものをいれるのは良い案かもしれん。チョコは溶けかねんが、他に何か良いものを思いつかんか?」


「なんだろ……飴とか?」


 母親の教育と本人らがしっかりしている所為か、子供らはすくすくと良い子に育っている。


 儂の趣味ひみつをうっかり知られてしまった当初はひやひやしたが、その辺はきっちりと言わないでいてくれている。秘密にしてくれている。とても助かっている。


 箱詰めだけではなく近頃の子供の事を教えてもらい、報酬として好きな玩具を持って帰ってもらう――というのはアイーダに恐縮されて止められている。


 まあ、毎回玩具を持ち帰っていたら置き場にも困るしな。代わりに賃金を渡し、好きな時に好きなものを買うのに使って貰っている。たまに地図も渡したりするり


 一人でせっせと箱詰めするのも悪くはないが、この子らが来るようになって皆でワイワイ騒ぎながら箱詰めする楽しさも覚えた。一人ではわからない「気付き」もある。


 悪くない日常だ。


「お爺さまはホント、宝探し作り好きよねー」


「うむ。趣味であり人生の一部だ」


「……自分で探したりはしないの?」


 長女のアイーシャの言葉に頷く。


「世の中、宝箱が転がっていないのが普通だからな。儂以外にはこんな酔狂な事をしている者は中々おらんし探しようがない。まあ、冒険者業界なら似たようなものはあるが」


「あったらしたい? 宝探し」


「まあしたくないと言えば嘘になる。しかし、その手の楽しみは若人に譲るべきだろうよ。爺が出しゃばるものではない」


「そうかなぁ……」


「そうだともよ」


 宝箱など、その辺に転がっていないのが普通の事だ。


 仮にあったとしてもそれは誰かしらが所有しているものであり、漁って中身を持ち去るのは単なる盗賊である。無論、宝箱がタンスであっても同じ事だ。


「……あっ、箱、どれか貰って帰っていい?」


「構わんが、何に使う?」


「え、えっと……収納! 最近、物が増えてきたから~」


「ふむ……? まあ、構わんよ。好きなものを持ち帰るがいい」


 子供らとの楽しい箱詰めの時間の次は、地図作り。


 宝の地図は自分で描く。


 子供でも簡単に解ける暗号を添えた地図だ。隠し場所は当然、危なくない場所に隠す事を意識する。この地図を作るのも楽しい時間だ。


 そして、早々横取りされないところに隠す。仕事帰りの夕方、あるいは夜のうちに隠しておき――後は子供らに宝の地図を届けるだけ。


 基本的に地図は子供のいる家庭の郵便受けに投函する。偶然拾うようにする事もあるが……何かしらの事情で充足していない子供に優先的に遊んでもらう。


 後は地図に仕込んだ魔術の反応を元に使い魔を差し向け、使い魔の眼ごしに子供らが宝探しを楽しむ光景を観戦する。それが儂の報酬だ。


 全てを見ていられるわけではないが、それはいいのだ。より多くの子供にワクワクとする気持ちを届けられれば、それで良いのだ。


 休みの日は特に観戦に集中する。


 出かけずに済むよう、前日のうちにアイーダに買い出しと作り置きをして貰い、儂と同じく休日を謳歌している子供の姿を影から見守る。


 自宅のソファでくつろぎつつ、菓子をちびちび齧りつつ、はしゃぐ子供を眺めるのはとても楽しい。変質的おかしな趣味なのは自覚している。


 しかし、かれこれ50年はハマり続けている趣味なのだ。


 生き甲斐と言っていい。何とか見逃してほしい。



「む……あやつに渡した地図の持ち主がいるな」


 先日、酒場で数少ない友人に引き渡した3つの地図全ての反応がある。


 地図の所有者を見つけた。


 所有者はまだ小さな幼女で街角でポツン、と立ち尽くしている。覇気というか元気の無い幼女で自信なさげな顔のまま、金色の髪を弄んでいる。


 地図を持っているという事は探す気はあるのだろう――と見守っていたところ、やがて幼女はパッと表情を明るくした。


 どうも友人を待っていたらしく、その友人らがやってくると陰りのあった表情が少しほころび始めた。しばし話をしていたが、おずおずとした様子で友人らに地図を差し出していった。


『あ、あの……こんなの貰ったんです……』


『あにゃん!? 宝の地図だ!! しゅごい、本物はじめて見たーよ』


『良かったら、これ、探しませんか……?』


 地図を一人で独占するのではなく、友人らと探す事にしたようだ。誘われた者達も嬉しげにはしゃぎ、全員で頬をもみ合っている。


『じゃー、今日は宝探し! しゅっぱつだー!』


『『『『『おぉ~~~~!』』』』』


『お、おぉー……!』


 後から来た友人らは意気揚々と、宝探しに誘った金髪幼女はおずおずとした様子で友人らに倣い、全員仲良くポテポテ歩き、出発していった。


 さて、宝探しの謎解きが上手く解けるだろうか……?


 そう思いつつ、使い魔越しに見守るのを一時中断し、珈琲を用意しに台所に立つと――なにやら家の前が騒がしい事に気付いた。誰かがいる。


 騒がしいといっても、そこまで騒々しいわけではない。


 誰かが家の前にいるだけ。


 そして、内緒話をするように小声で話し合ってるのに気づいただけだ。



「へへっ……爺ちゃん、よろこんでくれるかなぁ?」


「大丈夫だよぉ、だって緩衝材かんしょーざいは爺ちゃんの好きな珈琲豆にしたし」


「喜んでくれるかはわからないけど……お爺さまだったら怒ったりはしないわよ。さ、郵便受けに入れて、こっそり退散しましょ。気づかれないようにね」


「「うんっ」」


 子供らが三人、ウチの郵便受けの前でニコニコと笑っている。


 思わず窓を開けて声をかけようと思ってしまったが、空気を読んで隠れる。そして、郵便受けから「コトン」と何かが投函されるのを聞いて、三人が去っていくのを待つ。


 十分に待った後、郵便受けを開けにいった。


 そこに入っていたのは、宝の地図だった。


 儂が預かり知らん、未知の宝の地図だった。


 手作り感あふれる地図で、つたないところはあるが温かみのある地図だった。実際、儂の体温が上昇した気がする。自分でも胸が高鳴っているのがよくわかった。


 家に入り、地図を改めて眺める。


 街の地図と照らし合わせつつ、地図に記された最初の謎を解き明かし――目星をつけたら外套を羽織り、地図を片手に外に出る事にした。今日は外出だ。


 こういう休日も良い。


 確信を持ってそう断言出来るほど、儂の頬は緩んでいるようだった。




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