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抜刀ナトラ  作者: 白牟田 茅乃(旧tarkay)
ゼプァイル商連ラウンド
80/95

ミド Ⅵ

 ラジオ放送を聴いていたミドは、動ける戦闘員(アタッカー)を引き連れて、星薄い夜のゼプァイル・シティを屋根から屋根へ駆けていた。その数、十二名。もちろん全員が完全武装だ。

 元々は同盟事務局セプァイル支局を目指していたのだが、市街地の入り口辺りで、親切な一般人が大使館で戦闘が行われていると報せてくれたので行き先を大使館に変更した。


「アーシェちゃん、突出しない」

「でも!」


 気が逸っているのか、陣形の先頭であったアナスタシアが〈蝶々発止(ファンブル)〉を使って速度を上げる。それに釣られて部隊は速度を上げるが、全員がアナスタシアの速度に合わせられるわけもなく、陣形は縦長に伸びてしまう。

 何が起こるのか分からない非常事態。陣形を崩すのは危険だ。


「私の指揮に従う約束でしょうッ」

「……ちきしょう」


 アナスタシアは歯痒そうに速度を落とし、陣形は再び密集状態に戻った。彼女はそのまま陣形中央のミドのそばに来る。


「ナトラたち、大丈夫だよね?」

「大丈夫でなさそうだから、こうして出張っているのだけれど?」

「うん……」


 ミド自身もかなり動揺している。立場を忘れて慌てふためきたかったが、それでも部隊を率いるとマニュアル的な言葉が口から出てくる。


「さっきも言ったけど、“二次被害を出さないよう尽くす”というのが今回の出撃の前提よ」

「分かってるけどッ」

「大使館が見えたぞッ!」


 代わって先頭を往くハンシェルがそう告げた。

 ミドは、アナスタシアを手で黙らせて意識を前に向けると、半壊している大使館が見えた。

 被害は敷地内にはとどまらず、銃痕は周辺の建物や大通りにまでおよんでいる。よほど混乱したのだろう、馬車は乗り捨てられ、荷物を放り捨てられ、多くの死傷者がそのまま横たわっていて、無事な者はこの場を離れたらしく周囲はかえって閑散としている。

 “大使館”は何をしているのやら。


 苦渋の表情になったアナスタシアが、

「ひでぇ」

 一団は、大使館前の大通りに降りた。

 各々、少しバラけて車の陰に隠れてみたものの、周囲の建物の中には人がいるのか、全方位から視線を感じる。

 ミドはどうしたものかと、壊れた正門の前から敷地内を伺っていると、アナスタシアが急かす。


「早く入ろうよ」

「黙って。エイドリアンッ」

「あー?! ハア、ハア…… はー…… はいはい」


 息の上がったエイドリアンは、既に大量に召喚済みの〈螺旋風(ウィンドリル)〉を敷地内に送り込む。

 響測の魔女(ミド)も〈玉撞き遊び(キスショット)〉で鋼の球を一発撃ち込み、耳を澄ませて反射音を聞き取る。


「……人がいる気配(おと)はないわね。エイドリアン君、どう?」

魔力(エーテル)反応してる。でも、かなり弱いから、魔力残滓(ゴースト)と区別つかない」

「“居る”のか“居た”のか判断できないと?」

「イエス」

 近代兵器(ブービートラップ)も考慮すればかなりハイリスクだろう。


 突入するか悩んでいると、アナスタシアが腕を引っ張って、

「ミドさんッ、エーデルフェルトを押し切ってここまで来たんだから、悩んでも仕方ないよッ」

「……そうね、突入しましょう」

「オヴリウス帝国代表団の諸君ッ! ちょっと待ったぁ!!」


 ミドの耳には過剰ぎみの、ヴォルフガンクの声が隣の白い建物から響く。視線を向けるとその建物の上で、腕を組んで仁王立ちする彼の姿があった。


「剣聖ウォルフ? なんでまたここに」

「君たちの“探し物”を保護しているッ、来たまえ!」

 と一方的に告げた彼は建物の上から降りてしまった。


 アナスタシアは首を傾げ、

「……なんか怒ってる?」

「なんですって?」

「イヤ、ウォルフ怒ってる気がして」


 事実ならば、誰に怒っているのだろう。襲ったテロリストだろうか。襲われたオヴリウスだろうか。


そもそも襲撃にウォルフガングが関わっている可能性もある。



 余計な情報が増えて、頭が追いつかない。ミドの精神の許容量を超えている。知恵熱が出そうだ。

 全部投げ出したい。


「ああ、もうッ」


 ミドの苛立ちを感じたのか、駆け寄ったハンシェルが、

「テンパってるな。落ち着け、お隣はシンカフィンの大使館だ。アイツが居ても不思議じゃないだろ」

「……彼がここにいる理由はそれで良いけど、関わってくる理由がないでしょう? バカ」

「そんなもん、剣聖ウォルフだからだろ? 部隊を分けるか?」

「いえ、戦力は分けない。剣聖が謀略に関わるなんてあると思う?」

「それだけはない」

 

 ハンシェルはサラッと断言した。これと言った根拠もないが、ミドも同感である。

 ならばリスキーな大使館の調査は後回しにしたい。


「全員で彼の招待にあずかりましょう」


 大通りに散らばっていた十二人全員はシンカフィン共和国大使館の敷地内に入る。そこは狭い庭と石造の白い屋敷。玄関が開いていて、ウォルフガングは「来たまえ」とさらに招き、奥に引っ込んでしまった。

 一同は誘われるがまま、屋敷に足を踏み入る。

 屋敷の中はオヴリウスのものと違って、豪華という印象はないが、白色を基調とした上品な(しつら)えであった。

 入ってすぐのエントランスホールではウォルフガングがやはり仁王立ちで、壁際の一人がけチェアにはシャルロットが不機嫌そうに座っていており、血塗れのエドワードとシエスタが絨毯で寝ていた。


「は?」


 二人にはそれぞれ医官らしい人物が施術を行なっているが、二人に意識はなく、危険な状態だと分かる。“緊急事態”になったのは、ラジオを聴いていて覚悟していたが、ここまで深刻なことになっているとは思わなかった。

 非現実的で、悪い夢を見ているようだ。


「ナトラッ!!」


 少しの間思考停止していたが、アナスタシアの叫び声がして、ハッと我に返る。彼女が駆け寄る先に目をやると、血塗れのナトラが壁を背にして座っていた。

 彼は治療を受けた形跡がない。より重傷な二人を優先したのか、あるいはナトラが拒否したのか。ともあれルルゥを連れてくるべきだった。

 ミドは混乱しつつも指示を出す。


「ち、治療をッ。とにかく止血ッ」

「俺がナトラを見てる。お前はお坊ちゃんを」

「え? ええ」


 ハンシェルに言われるがままミドはエドワードの元へ向かい、彼を施術している医者に話しかける。


「どうですか?」

「気が散る、後にしてくれ」


 集中している医者はミドに顔を向けることもなく拒絶した。

 エドワードは全身から出血しているが、とりあえず首から上は無傷のよう。隣のシエスタの身体はナトラよりもエドワードよりも深刻に見えるが、治療をしていると言うことはまだ死んでいないはずだ。二人が生還するのを信じて待つしかない。

 ミドは治療に参加できないが、本部長(エドワード)の身柄を預けている以上、このまま見張るべきか、別のことをするべきか考えていると、大事なことが抜けていたことに気づく。

 ジャスパーが居ない。


「ミドッ、来てくれ!」


 ゾッとした次の瞬間ハンシェルに呼ばれて、ミドの頭は真っ白のまま、彼に近寄った。


「なに? 殴るわよ」

 切羽詰まって暴言を吐くが、ハンシェルは無視して要件を伝える。


「お前を呼んでる」

「ナトラしっかりしろッ! しろってば!」


 そこでは、アナスタシアをはじめ団員たちが床に寝かされたナトラの周りを囲んで、出血箇所に止血剤を塗布したり包帯を巻いたりと大慌てであった。

 彼の反応が薄い。てっきり意識が無いのかと不安になったが、ミドには聞きたいことが山ほどある。


「ナトラくん何があったの?! 起きなさいッ!」

 声が届いたのか、ナトラは吐血しながら口を開く。


「ミドさん。今夜は、ゴフぇ。ここで待機。明日、エドワードと…… グッはぁ、シエスタを動かせるようになってから…… キャンプに撤退」

「え? あ、じゃ、エドワード君の安全を最優先ってこと? ジャスパー君は? 大使館は? 事務局は?」

「みんなは、ジャスパーは死んでる…… そういう状況だった。ゲホッ…… 大使も、全部、後回しでいい」

 途方もない無力感がミドを襲う。


「……そう ……気が重いわ」


 信じたくなかった。だがプロであるナトラがここまで断言するのなら従おう。死人を探し出しても、死人のままである。最悪の事態(エドワードの死)を回避できただけでも喜ぶべきだ。

 話を聞いて気落ちした団員全員が少しの時間、事実を消化しようと(ふけ)る。すると、ナトラはそばにあった〈座鯨切(ざくじらぎり)〉を杖にして立ち上がろうとした。


「じゃ、あとは任せた、グゥ」

「はッ?! ちょっと、ダメだってッ」


 アナスタシアがその真っ赤な服を掴み引き留め、

「ナトラぁ、何してんだよッ、傷が開いちゃうって!」


 応急処置はまだまだ不完全。魔導師(ドライバー)の回復力は常人と比べモノにならないとはいえ、(いく)つもの銃創を短時間で完治できるわけもない。動き出すと再出血しはじめ、服の端からポタポタと血液が垂れはじめた。

 ところがナトラは、そんな事すら理解できていないらしい。


「邪魔だ」


 前後不覚な彼のは明らかに異常だ。口元は嬉しそうに笑って、目がカッ開いている。

 失血がそうさせているのだろうか。

 もちろんこのまま行かせるわけがなく、アナスタシアの引っ張る力は強くなっていく。


「ダメだってッ、言うこと聞けって!」

「いか、なきゃ」


 弱った彼の身体は、アナスタシアに引っ張られ尻餅をつく形で再び床に。それすら理解できないのか、もがく様に手脚をバタバタと。にも関わらず、気圧されてしまう迫力があった。次の瞬間、首が刎ね飛ばされる予感(イメージ)が脳裏にあった。

 だが、そんなことはお構いなしのウォルフガングがナトラの顔面をブン殴る。


「ふんんん!!」

「グッ?!」

 グワングワンとナトラの頭が揺れると意識を失い、そのまま倒れた。


 ウォルフガングは不愉快そうに埃を払い、

「バカ者が、目が覚めるまで寝ていたまえ」

「ナトラッ?!! テメェ! ナトラに何しッモゴッ、フゴ!」


 アナスタシアは火が付いたように激情し、ウォルフガングに飛びかかろうとしたが、素早くブリュンベルク派が抑えつけた。


「お嬢、落ち着いてくだせぇッ」

「ふはッ、なッせぇ」

「お嬢が出しゃばるとややこしくなるんす!」


 こういう時の、ブリュンベルク派の迷いの無さは見習いたい。

 暴走アナスタシア見て、ウォルフガングは一転して嬉しそうに口角をニンマリ上げる。


「はッはッはッ、元気があってよろしい!」

「とにかく、これ以上悪化しないようにッ」


 ミドが投げやり気味に指示すると、アナスタシアたち複雑そうな顔つきで応急処置を施す。ミドとて、こんな乱暴な方法は納得できない。立場的に苦情を申すべきだが、今はそんな時ではない。とにかく事態収束のために徹する。


「さて、そろそろちゃんとした話をしても良いかな? クドリャフカ?」


 そういえば、ろくに挨拶もしていないことに気がついた。視線をウォルフガングに向けると、彼の口元は笑っているのに目が笑っていないことに気づいた。


 ミドは少し喉を鳴らして整えてから、(かしこ)まって深く頭を下げて、

「ミスターフランベルゼ。この度は私の仲間を助けてくれたこと、オヴリウス代表団を代表して感謝いたします」

「うむ、国別対抗戦(オリスタイラム)ではライバルだが、逆に言えば同じ志を持った仲間だとも言える。部外者からの脅威に共に立ち向かうのは当然だろう?」

 だったら殴るな。


「そう言っていただけると、私の心も晴れますわ…… ところでシンカフィンの大使はどちらで?」

「地下シェルターに引きこもっている。挨拶は必要ない」

「あら、それでは後日書類にて、ご挨拶差し上げます」

 外交上の面倒が後回しになったのは、心のゆとりなどないミドにとってはありがたい。


「とにかく、何がどうしてこうなったか、教えていただけますか?」

「ん、無論、わかる範囲で補足させてもらおう」

「はぁ、補足?」


 言葉の意味に引っかかっていると、ウォルフガングはシャルロットの膝の上にあった壊れた録音機を指差し、

「まずはテープを聴いてからということだ」

「なんです? それ」

「キラミヤ(いわく)く、“一部始終を録音している”らしい。我々もまだ聴いていない」


 エドワードの治療が終わるまでは動きようがない以上、他にやることもない。得られる情報は帰路に役立つかもしれないから聞き得だろう。内容をシンカフィンにも知られてしまうのが気になるが、緊急時だ、贅沢は言ってられない。


「……では、外の警戒をしつつ、ということで」

「うむ」


 都合よく、シンカフィン大使館には再生機があって、これを中心に囲みテープを再生する。

 音声はシエスタがゼプァイル支局の地下に現れる所から録音が開始され、エドワードが銃撃される所で終わっていた。四時間ほどもあったが、早回しせず、聞いているともう空が明るくなっていた。

 音声だけとはいえ、生々しい襲撃を追体験した一同は、怒りと憎しみに打ちひしがれていた。敵の居所が分かっていれば、今すぐに突撃しそうである。

 テープが止まると真っ先にウォルフガングが開口する。


「確かに、マーベリックは厳しい。捜索を諦めたのは正解だろうな」


 同じように感じたが、ミドには簡単に発することのできない毒のある言葉だ。仲間を見捨てているのだから。

 何か言いたげなアナスタシアをハンシェルたちが押さえつけている間にミドは話を進める。


「で、何があったのか補足していただけます? 銃撃を受けて録音が止まって、その後のことを」

「ん? うむ…… 元々、代表団はここでインタビューを受けていたのだ。そして、隣でバタバタと不審な物音がしたので、注意していたのだ」

「インタビュー? 大使館で?」

「不思議かね?」

「いえ、帝国にはない文化と思ったので」

「うむ。そして銃声が聞こえたので外の様子伺うと、君たちの皇太子が真っ白い大トカゲに襲われていてな、居ても立っていられなくてな。戦闘に介入した。怪物を使役する魔導具(ガジェット)は〈骨喰の王(ボーラードルフ)〉、敵部隊は猟犬部隊(ハウンド)と名乗っていた。敵はすぐに撤退。我々は三人を回収。エドワードくんとシエスタくんの治療を開始した、というわけさ…… 文句はあるまい」


 大会規約(レギュレーション)では、同じ代表団に所属している者以外から医療行為を施術されることを禁止している。違反した場合、ペナルティとして、三十試合の出場停止処分となる。つまり、エドワードとシエスタは今期の残りと来期の一部、試合に出れない。元々二人を試合に出す事はもうないだろうと思っていたからなんでもないが。


「はい、感謝します…… 真っ白?」

「無論、キラミヤを治療しなかったのは、試合に出場してもらうためさ。以前の試合で出し抜かれたままだからね」

「……しかし良いのですか? あなた方も連中の恨みを買ったんじゃないの?」

「無論無論。しかしさっきも言ったが、我々は国別対抗戦(オリスタイラム)を戦う同志なのだよ。部外者と団結して戦うのは道理ではないかね? というわけで、出し惜しみはせん。おいシャルロット」

「話しかけるな」


 今まで壁際のチェアで沈黙していたシャルロットが親不幸を吐きつつ、布に包まれた物を大事そうにミドの元に届ける。

 気難しい娘なのかとミドが勘繰るが、目が合うとコロッと表情が変わる。単に反抗期だろう。


「〈骨喰の王(ボーラードルフ)〉で使われた触媒です、ミドさん」

「触媒?」


 不思議に思いながら受け取って、布を開けると、左右に真っ二つに割れた頭蓋骨があった。

 いくら戦闘用(タクティカル)魔導師(ドライバー)とはいえ人骨を目にする機会などそうはないからさすがにギョッと驚く。シャルロットが丁寧に扱っているのを見てなければ放り出していただろう。


「頭の骨? ……あら、なんだか最近聞いた気が……」

「うむ。最近ゼプァイルで首無し死体が多数発見されているだろう? おそらく彼らの犯行だろう」

「ああ、そういえばそんな話も…… え? 触媒確保のために殺害を繰り返していると?」


 比較的真っ当な人生を歩んできたミドには信じられない発想であったが、ウォルフガングは(うなず)いて続ける。


「それに加えて、墓を暴いている。白い大トカゲの体表には人面が浮かぶのだが、私の知っている顔がいくつもあったよ」


 ミドは“知っている顔”の意味を察することができなかったが、察することのできたハンシェルが、今日一番の歯痒そうな顔で、

「セプァイルで死んだ国別対抗戦(オリスタイラム)の関係者はトートバスの公営霊園に埋葬されるだろう」

「はあ? 知っている顔って……」


 ミドは、国別対抗戦(オリスタイラム)に今回で三回目の参戦。ゼプァイルで殉死した者を知っている。

 敵も味方も、彼らの顔が脳裏に浮かぶ。

 いまいち状況についていけてなかったミドの思考が、遅れ()せながら現実に追いつく。

 これまで帝位継承問題もソヒエントも盤外戦術も興味はないし、関わりたくもなかったミドだが、当事者であったことの実感が込み上げてきた。


「……なるほど、カチンとくる。〈骨喰の王(ボーラードルフ)〉という魔導具(ガジェット)の触媒。おそらく生前の魂魄(エンジン)能力での性能が変わるのでしょうね」

「うむ、同感だ。それと……」

「よろしいか?」

「うむ、どうぞ」


 治療をしていた医官が話に割って入ると、ウォルフガングはそちらを優先させた。


「とりあえず、二人とも危険な状態からは脱しました。ただ、副作用(リバウンド)で数週間は昏睡状態になるかと」

「ありがとうございます」


 医者の言葉を聞いても、ミドの気が抜けることはなかった。自分でも驚くほどに怒っているらしい。

 ともあれ、後は帰還するだけだ。


「エイドリアン、外は? あれからどうなっている?」

「ちょっと前に警察が来て大通りの通行を規制している、結構広い範囲。ウチの大使館を調べたいみたいだけど、入っては行かないみたい」


 いくら半壊しているとはいえ他国の大使館に無断で侵入すれば外交問題である。末端の警官がそんなリスク負わないだろう。

 ミドとしても、今の状況で大使館や警察官と接触するのはリスキーと感じる。


「警察は無視ね。ナトラ君の上申どおり、キャンプに帰ることを優先しましょう」

「我々も共に帰ろう。どうせキャンプは近いしな」

「何から何まで、本当に感謝します…… ああ、そういえば、先ほど言いかけたのはなんだったんです?」

「……いや、(せん)の無い話だよ」


 ウォルフガングの視線はチラリ、ナトラを向いていた。

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