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抜刀ナトラ  作者: 白牟田 茅乃(旧tarkay)
ゼプァイル商連ラウンド
74/95

ナトラ ⅩⅩⅣ

 放送始まってが三十分、折り返し時点を過ぎる。

 ナトラは、スタジオの開け放した出入口の上に立っていた。スタジオ内全体を見通せ、かつ退路と換気の確保ができるからだ。

 番組としては、初めにエドワードとオヴリウス帝国についての軽い解説をしてから、募集したリスナーからの質問葉書を中心に受け答えをするというものであった。

 機材を操るラジオスタッフに怪しいところは特にないが、彼らが手元でどんな操作をしているのかは結局のところわからない。


 ナトラは思わず、

「綱渡りだな」

「なんか言ったか?」

「なんでもねぇよ」

「そうか」


 すぐ近くに立つジャスパーの緊張は解けないのか、会話がぎこちないが、そもそもナトラ的には戦力に考えていないので大して気にならない。今後も護衛任務があるかもしれないから、今日のところは見学。彼に対する評価はそんなところである。

 緊張を紛らわしたいのか、ジャスパーは虚空に向かってパンチを放つ。普段なら〈積み上げる幸福(テンカウント)〉を装備していても重量を感じさせないキレがあるが、今夜はウソのように冴えない。


 ナトラは試しに、

「重症だな」

「なんか言ったか?」

「なんでもねぇよ」

「そうか」


 精神は一瞬にして成るモノだし、放っておこう。


『それでは次のハガキ。エドワード殿下に質問です。好きな食べ物と嫌いな食べ物はなんですか?』

『好きな食べ物は素材の味を生かしたものならなんでも。嫌いなモノは特にないですね。強いていうなら、旬を過ぎて痛んだモノでしょうか』

『なるほど〜、旬な食べ物ですか。やっぱり季節モノはいいですよね」

『立場的に採れたての食材を頂く事が多いので、そうなってしまったのかもしれませんね』

『それでは次のハガキです。エドワード皇太子に野望は有りますか?』

『世界が平和になってくれれば多くは望みません。皇帝になったら全力で頑張ります」

『え〜結構なビックな野望じゃないですか』


 スピーカーからブース内の三人の声が響く。人前に出ることに慣れているエドワードにはラジオくらいなんでもないのか、緊張することなく、自然な受け答えしている。質問内容は事前にシエスタの検閲を受けたものだから、当たり障りのないつまらない内容だが、最初のラジオ出演だしこんなモノだろう。

 そんな具合でミキサールームの最後方から眺めていると突如、電話のベルの音が鳴る。

 プロデューサーが即座に受けた。


「はい、第一スタジオ。え? ……イヤイヤ、大陸全土に中継してんだからローカルなニュース差し込めないよ…… そう、そう…… オリシズムが終わったら? 分かった、よろしくぅ」


 彼が受話器を置くと、ナトラは彼に歩み寄り、少し高圧的に、

「どうした?」

「え? ああ、いえね、シティ南部の倉庫街で火事だって」

「規模は?」

「派手に燃えてるみたいで、警察と消防の総出で当たってるます。まあ距離もあるしここまで火の手が来るこたぁありません。大丈夫、放送に支障はありません」


 プロデューサーは何事もないかのように言ったが、派手な事件を起こし、街の治安組織をパンクさせる古典的な陽動手法、かもしれない。

 根拠は希薄だが、逃げるなら躊躇(ためら)わない方がいいと、手信号(ハンドシグナル)でシエスタに状況を伝えようとした。

 その時だった。

 突如としてスタジオ内の照明が消え、数匹の〈心開魚(ディスカス)〉がボンヤリと光源になる。


「なんだなんだ!」

「ジャスパー黙れ、出入口(そこ)にいろッ、うお?!」


 腹を揺さぶる轟音が階下から突き上げた。機材がガタガタと震える。ラジオスタッフは崩れないよう必死に抑えつける。

 ブースの中の四人は、放送を続けようと会話を続けるが、動揺が顔に出て落ち着きがない。

 そんな中ディレクターが、スタッフに確認を取る。


「なんだッ?! どうなってる!」

「停電みたいです。下と連絡とれませんッ」

「放送は?!」

「機材は動いてますッ、放送も…… 続いています、電波生きてます」


 照明と通信だけ死んだらしい。

 非常事態での訓練はしているらしく、ラジオスタッフ達はパニックになりつつも手探りに事態を解決しようとする。

 原因は不明だが、テロの可能性が高い。放送に関してはもう諦めるしかない。

 そのことをプロデューサーに伝えようとするより早く、ジャスパーが青い顔叫ぶ。


「……なんだかドンパチ聞こえるぞッ、おいどうすんだよ!」

 それでラジオスタッフたちにも動揺が伝わり、絶句したまま作業の手が止まる。

 これは良くないと、ナトラはパンパンと手を叩いて気を引いて、


「はいはい落ち着け全員で逃げるぞ。ジャスパーはそのまま退路そこを確保してくれ。スタッフは早く放送止めろ。エドワードを出せ」

「わ、分かりました。ただぶつ切りは勘弁してください。三十秒、いや二十秒だけ……」


 と言ったディレクターからの指示トークバックを受けたラジオDJが強引に番組の締めに入った。ラジオブースの中では事情が把握できていないはずだが、荷物をまとめたシエスタが既にドアの前に立っていつでも開けるように準備している。

 そんな中、エイクだけが取り残されていて、聞いてもいないのにナトラに意見を述べ始める。


「……あ、照明だけが一括で落とされたってことは、分電盤がイカれたか? しかし保安部の人間がいるはずなのにこんなに簡単に……」

「保安部も一緒にご臨終なんだろ? 切り替えろ」

「イヤしかし、なんの連絡もなしにか? インフラ設備が事故を起こしただけの可能性もある。大体、放送が止まらないのは不自然じゃないか?」

「“社会的”に殺したいんだよ。エイク、しっかりしろ」


 保安部の人間であるエイクにとっては仲間が設備を守れなかったことは受け入れ難いのだろうが、状況的にはそう解釈しておくのが賢明だ。

 エイクはギュッと目を瞑り、パッと開く。


「……そうだな、了解だ」

 ようやく感情を切り替えることができたのか、エイクの表情はキリッと変わって凛々しくなる。


「ヨシ…… 地下がダメなら正面玄関もダメだな。屋上から……」

「待て」

「なんだ今度は?」


 ナトラは「シッ」と唇の前に指を立て、そのまま天井を指差す。

 ブース内の人間全員で天井に聞き耳を立てると、バタバタと物音がするのだ。

 ネズミやゴキブリの類ではない。人間の足音だ。

「侵入されてんじゃねぇか! エドワードを出せッ! 早くッ!」


 エイクがラジオスタッフに指図するまでもなく、異変に気づいたのか、血相を変えたシエスタが勢いよくドアを開けた。


「エイク後ろッ!」

「遅い」


 と、いつのまにかエイクの背後に立っていたバイトの老人が、いつのまにか持っていた短刀でエイクの顳顬(こめかみ)を突き刺した。


「ぁ?」


 短刀が頭部を貫通したエイクは、ガクガクと痙攣。


「いかに魔導師(ドライバー)が頑丈といえど、脳を破壊されてしまっては終わりでありましょう」

 老人の戯言は無視。ナトラの自己暗示(スイッチ)が入る。


 痙攣が止まり脱力していくエイクを即座に諦め、〈座鯨切(ざくじらぎり)〉に手をかけた瞬間、同時に右の横っ腹に衝撃が走る。

「グッ」


 素足で蹴られた感触だ。構わず〈座鯨切(ざくじらぎり)〉を抜刀。老人の胴体を狙い横に薙ぐ。

 しかし蹴られたことで狙いより太刀筋が上がる。短刀が刺さったままのエイクの首を刎ねたが、肝心の老人は頭を下げてこれを避ける。

 遅れて、内臓がシェイクされた胃液が込み上げてきた。自己暗示のおかげで不感症気味だが、不愉快である。


「ラジオはしゃがんでろッ」


 とスタッフに指示したナトラは老人を警戒しつつ視線を右に向ける。人間の姿はない。だが虚空から人間の放つ威圧感(プレッシャー)は感じるから、そこに誰かがいるのは確かだろう。

 さしずめ、透明人間といったところか。


 透明人間は女のようで、

「クソがッ、抜かせるつもりなかったのに。早漏かよ!」

 と汚い言葉で罵る。

 バイトの女の姿がないから、透明人間がそうなのだろう。さっきは気弱そうに振る舞っていたが、本性は随分と野性味のある声である。


 対して、印象の変わらない老人は転がっていたエイクの頭から短刀を抜きながら、

「気を抜いてはいけませんよ、相手は魔導師(ドライバー)なのですから」

「わーってるつーの」


 透明人間の威圧感(プレッシャー)はガサツな返事をしてから、フッと消えた。魂魄(エンジン)の活動を限界まで絞ったのだ。目と鼻の先にいるはずなのに気取ることができない。

 これ自体は(ステルス)という基礎的な技術だが、このレベルの使い手はそうはいない。透明能力と合わさると、老人より遥に厄介である。

 ナトラは次に備えて瞬時に納刀しつつ周囲を見渡す。

 ジャスパーは突然の出来事に、出入り口の敷居の上でボーッと呆気に取られていた。老人か透明人間がその気になれば瞬殺だろう。


「は? おい! ジャスパー!? 殺されたいのか?! 集中ッ!!」


 強い言葉で叱咤(しった)すると、状況を飲み込めたのか、ハッと目の色が変わる。


「あ、だ、大丈夫だ、やれるッ! 任せろ!」


 退路を確保させ続けてもいいが、

「ジジイをヤレ、背中に気をつけろ!」

「おう」


 両腕を顔の前で揃える、ピーカブースタイルをとったジャスパーは、さらに背中に防楯(シールド)を張り防御を固めた。そのまま上体をリズミカルに揺らしながら、ジリジリと老人に近づいていく。

 ジャスパーのメンタルはベストから程遠いだろう。表情から動揺の色が消えない。フットワークも重々しい。だとしても、どうにかこなせると思うしかない。


「キラミヤ! 脱出だ!」


 半開きのブースのドアから拳銃を差し出しシエスタが老人を狙っていた。同士討ちを嫌って発砲できないのだろう。

 それよりも透明人間だ。エドワードが逃げる瞬間を狙われたくない。耳を澄ませて特に警戒。


「分かってるッ、二人で行け! 透明人間に注意! ジャスパーッ! 早く行け!」

「お、おう!」


 最後の踏ん切りがつかなかった彼は、火がついたように間合いを一気に詰めジャブを二度放つ。

 ジャスパーの打拳を連続で受けた短刀は折れる。他に武器を帯びているように見えない。すぐに処理できる筈だ。


 しかし余裕の消えない老人が、

「よろしいのですか? 我々に気を取られて」


 直後、先程までエドワードが座っていた席の真上の天井が爆発した。閃光で視界が一瞬真っ白になり、爆音で耳鳴りが(つんざ)き全ての動きが止まる。

 火薬の匂いと崩れた瓦礫がラジオスタジオ内に落ち、ブースとの隔壁も壊れてガラスの欠片が舞う。


「エドワードッ!」

「ご無事だッ!」


 シエスタとエドワードが居ても立ってもいられずにブースの中から出てきた。二人は無傷、〈澄碧冠(ブルーモーメント)〉の能力(斥力場)で回避したのだろう。

 遅れて、ドスンッと異様な重量物が上階から何かがブースの降りてくる。照明がないのと、粉塵のせいで影しか見えないが、人の形はしている。

 ただし、人間とは思えないくらい巨大である。

 ナトラは迷わず〈座鯨切(ざくじらぎり)〉を抜いた。同士討ちを避けるため、太刀筋は真上から真下に振り下ろす。距離は至近。障害物は何もなく、刀身(ブレード)がその人影を頭から唐竹割り(真っ二つ)にするはずだった。


「は?」


 カァァンという硬質な音。 衝撃で粉塵が吹き飛ぶ。痺れる手応え。魔導具(ガジェット)や堅牢な具象物(オブジェクト)を斬ろうとした時の感覚。

 斬ろうとした偉丈夫の額の真ん中は、パックリ裂けて鮮血が噴き出て顔面を真っ赤に染めているものの、余裕の笑みを浮かべていた。


「はっはぁ!! ヌルい剣だなぁ!!」


 思わず〈座鯨切(ざくじらぎり)〉を確認した。

 いつも通りの滑らかな刃筋。異常はない。なぜ斬れていないのか理解に苦しむ。


「人間じゃないな」


 偉丈夫は、身長は二百三十センチはあるだろう。天井が崩れていなければ坊主頭が当たっていたかもしれない。上半身は裸で、浅黒い肌には大きな幾何学模様の白い刺青が目立っていた。分厚い胸板と背中、割れた腹筋。そして丸太のように太い手脚。何より威圧感(プレッシャー)の強さが異常だ。対峙しているだけで背筋が凍り息が詰まる。

 そんな彼が身を屈め、握り拳を床に着けて四つん這い(ナックルウォーキング)になる。グリズリーか、バッファローか、ゴリラか。それらが可愛く思えくらいに深刻な獣である。


「グァッ、ハァァァァァァ!!! ぶっ殺す!!」

 咆哮で鼓膜が破れそうだった。一太刀受けてなお血気盛んである。


「ルシウス、待ってください」


 さらに、天井の穴からライフルを構える者が四人いた。強力な懐中電灯も各人持っているようで、サーチライトのように照らすからナトラは眩んで、彼らの銃口がどちらに向いているのか目視できない。

 しかし、この状況で狙うのはエドワードただ一人だろう。

 彼らは躊躇なく発砲。ボルトアクション小銃(ライフル)の銃声が響き渡った。

 シエスタが防楯(シールド)を展開するが、集中砲火を浴びてみるみるヒビが入る。

 ライフルにエーテルを流し込んで活性化(ハイライト)しているのだ。複数人で狙われると魔導具(ガジェット)なみの威力である。


「近代兵器がッ」


 ナトラも、自分の防楯(シールド)を展開して二人の前を守る。自分が無防備になってしまうが、その時は致し方ない。自分の命惜しさにエドワードを守れないのではここにいる意味がない。

 時間を稼いでいるうちに納刀すると、上階から玉のようなモノを一つ落としてきた。それは金属で暗い緑色。パイナップルを思わせる形状をしていて、エーテルがコレでもかと込められている。

 手榴弾だった。狭いスタジオには敵味方混在しているのにお構いなしで爆発物である。活性化(ハイライト)によって、威力は十分だろう。


「バカかよ!! エドワードッ! 上を塞げ!」

「あ、はいッ!」


 やはり呆気の取られていたエドワードは、まだ戸惑いながら〈銀色の仕業(シルバリオン)〉を操って分厚い板を造り天井の穴を塞ぐ。

 手榴弾はというと、カタンカタンとオモチャのように床を転がり、ナトラの足元へやってきた。

 ナトラは咄嗟に蹴り飛ばす。次の瞬間に爆発するかもわからない状況だったから強さとか方向とかを考えてられない。とにかくエドワードとは反対に力強く蹴った。

 手榴弾は壁に跳ね返り転々。

 壁際で腰を抜かしていたラジオスタッフの脚の間に行ってしまった。


「え、あ……」


 と彼は絶句しつつも、手榴弾を腹と床の間に挟むようにうつ伏せになった。

 爆発。

 轟音と共に血飛沫と粉塵と手榴弾の破片が室内中に飛び散り、精密機器たちを破壊して、床が崩れて下階と繋がってしまうほどだった。

 お陰様で人的被害は彼だけで済んだ。

 彼の挺身がなければ魔導師(ドライバー)はともかく、他のスタッフも死人が出ていただろう。そういう威力だった。

 だが(とむら)う暇はない。

 シエスタは手榴弾の爆発で開いた直径二メートルほどの穴から、新たに造った〈心開魚(ディスカス)〉を送り込みつつ下階の様子を伺っていた。如才ない事である。


「よし、脱出するッ」


 彼女は手を上げて指示すると、そのままエドワードを連れて穴から下に降りる。

 手榴弾に気を取られている間に老人と偉丈夫は接近していた。だが臨戦体制をとったまま逃走を(とが)めようとしない。透明人間もその近くだろう。上階からの援護が切れたから躊躇(ためら)っているのだろうか、あるいは背後から追い立てたいのか。

 不審だが、このままここで戦うよりマシだ。

 ナトラも下階に移ろうとすると、腰の抜けたディレクターが縋り付く。


「あッ、あの!」

「あんたらは……」


 どう考えても足手纏いである。

 顛末(てんまつ)を覚悟しているのだろう、彼は紫色の唇をしていた。


「我々のことはいい、せめてこれを。ボイスレコーダーです」


 そのステンレスの機械の箱にはいくつかボタンがあって、小窓からはテープが動いているのがわかる。

 ナトラはレコーダーのスリングベルトを肩にかけた。

 ズッシリと重い。

 それで彼は満足したのか引き攣った笑みを浮かべた。親指を立てる。


「うちの備品なんで、壊さんでくださいね」

「必ず返しにくる」


 心にもないことを言って、ナトラも下階に降りた。

 下階の部屋は広い部屋の中に事務机が規則正しく並べられていた。人はおらず、やはり照明はついていなかったが、空間を泳ぐ大量の〈心開魚(ディスカス)〉が光源になっていた。


「ここは?」

「オフィスだろう」


 〈心開魚(ディスカス)〉の空間を泳ぐ速度はかなり早く、意図的物にぶつかるように設定してしているようで、所々からガタガタと音がしていた。

 もちろんナトラの身体にたびたび体当たりしてくるが、ダメージはなく、こそばゆい程度のものである。


 魔導具(ガジェット)の本体である手鏡(コンパクト)を閉じたシエスタは、

「奴ら、魔導具(ガジェット)を持っていない。これで対応するしかない」

「そうだな」


 〈心開魚(ディスカス)〉は魔導具(ガジェット)を感知する魔導具(ガジェット)である。そのため、魔導具(ガジェット)を携帯していない彼らには全くの無力である。

 しかし空間をコレで埋め尽くせば、透明人間のいる所だけ“浮く”から逆算でそこにいると分かるはずである。


「おいッ、マーベリックッ」

 中々降りてこないジャスパーに痺れを切らしたシエスタが叫んだ。


「……俺が残って、こいつらの足止めをする。適任だろ?」

 上階にいる彼がどんな表情をしているのかは見えないが、心なしか、声が震えている。


「了解」

 とナトラは即答した。


 老人が興味深そうな声で、

「これはこれは…… 良いのですか? 多勢に無勢ですよ?」

「だからこそだろうが!」

「これはこれは……」

「いくぞ、閉じろ」


 ナトラが指示を出すとエドワードは何か言いたげに、

「あ、あの……」

 問答をする余裕はない。


「諦めろ、早くしろ」

「……はい」


 幼い彼には過酷な判断だが、時間はナトラたちの敵である。

 早くしてほしい。


「が、頑張ってくださいッ!」

「了解ですッ、殿下ぁ!!」


 ジャスパーの言葉をしっかり聞いたエドワードは、残りの水銀を操り二つの部屋を繋ぐ穴を塞いだ。

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