ネリアンカ Ⅱ
ネリアンカの心の中は分厚い雷雲よりもモヤモヤとして、ゴロゴロとしていた。
師と仰いだアゼンヴェインの怪死から日が浅く、未だ心の整理がついていない。本来なら試合に出るコンディションではないのだが、今日のオーダーは彼女が決めた最後のもの。絶対に退きたくはなかった。
できるなら鮮やかに敵を倒し、華麗に降着を決めたかった。ところが今のネリアンカはただひたすらに、キモチワルイ感情を目の前の相手に戦棍を振り下ろし続けた。
「ああああッ! 落ちろよぉぉーーッ!」
「グッ マジかよ」
脆弱な槍を砕き、また一つ下降するが、〈螺旋風〉の風を翼に受け、思うように進まない。〈偽天契約〉によって生える翼はとても軽量であり、そのため不意の強風によって簡単に姿勢が崩れるという欠点がある。
アナスタシアとハチドリ、片方だけなら問題にもならない。ところが、両方を相手にするには今のネリアンカの精神力では難しい槍撃を受ける隙にハチドリの強烈な風に煽られ姿勢を崩し、姿勢が戻らないうちに槍撃を受ける悪循環。
歯痒く、歯痒く、歯を噛み砕きそうだった。
それでも、これだけ不利な条件が揃ってなお、ネリアンカの降着は揺るがない。
第一に、渾身の棍撃と雷撃の威力は敵を退け、確実に地上に近づいていく。根本的な力差は歴然なのである。
第二に、術者が去ったため消耗品の〈螺旋風〉に追加ないこと。
今のネリアンカには、頭の片隅にそれだけあれば十分だった。
「ナトラッ、もうこっちもたない!〈螺旋風〉切れる!」
『一秒でも長く稼げ』
「がんばってるってぇ!」
思考を止めて体を動かすことに全力を尽くす。
ジリジリ、オヴリウスの本陣が徐々に大きくなっていく。
しかしネリアンカの胸中は、試合のことなどどうでも良かった。
誰でも良いから殺したかった。