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抜刀ナトラ  作者: 白牟田 茅乃(旧tarkay)
ゼプァイル商連ラウンド
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ナトラ ⅩⅧ

 オヴリウスの墓標の並びから離れたナトラは断崖近くに腰掛けていた。心地のいい緑の芝。塩辛い海風が鼻を(かす)める。高く青い空を白い雲がスルスルと流れていく。自分が死んだらこんなところに墓を建ててほしい、とナトラはちょっと思った。


「ここの墓代は結構するぞ?」


 つばの広い麦わら帽を被り、バケツと箒を持った男が、(しゃが)れ声をかけた。年老いた墓守に変装する天龍院の潜入員、シドウだ。


 彼は(たたず)まいは老人のまま、若々しい口調に変わって、

「金のために禁煙しなきゃなぁ?」

「……俺ぁ無縁仏でいいよ」

「そらぁ良かった。一服するかい?」


 彼は懐からシガレットケースを出し、開いて見せる。そこには紙煙草が並んで収まっていたのだが、その中に一つ、クルクルと巻かれた紙が混じっていた。

 ナトラは煙草を口に咥えてから、クルクル紙を延ばすように広げる。


「ゼプァイル・シティは諜報員の見本市だな」


 シドウ(いわ)く、

 流星事件以降、六大国各国は様子見をしているような状態だったが、国別対抗戦(オリスタイラム)の舞台が商連に移るのと時を同じく、本格的に盤外戦の機運が高まっている。これからは試合のみならず、さまざまな所で戦闘に巻き込まれることもあるだろう。

 ただでさえ代表団の戦闘系魔導師タクティカル・ドライバーは試合というものに慣れすぎて、奇襲されることに免疫がない。しかもそのオヴリウスの本部長がエドワードでは、簡単に手玉に取られてしまうだろう。だが、天龍院からは四人が商連の中に潜入しているし、今後も増える。帝国近衛師団からも諜報員が来ているから、まったく対応できないわけではない。

 ザックリとした説明をしたシドウは、墓の並びに戻るので、ナトラもついていく。


 シドウはバケツにかかった布巾(ふきん)で、とあるの墓の掃除を始めつつ、

「彼らと上手いこと連携が取れれば、なんとかなるんじゃない?」

「そりゃぁお前の見立てか?」

「まさか、ただの希望的観測」


 彼は喜劇俳優のように、大げさに肩を(すく)めるからムカついて「このやろう」と、つま先で彼の脹脛(ふくらはぎ)を小突いた。

 ナトラは目を通したメモ書きをすぐにライターで燃やして、ついでに咥えた煙草に火をつけた。


「それから、関係あるかわからんが…… ここ数ヶ月ゼプァイルの治安が悪い」

「はぁ? ゼプァイルは元々悪いだろうが。つーか“戦闘に巻き込まれることもあるだろう”っつたンはお前だろうが」

「それにつけても悪いんだ。身元不明の死体がゴロゴロ出てくる。国別対抗戦(オリスタイラム)と関係ないとは思うんだが、出歩く際は気をつけておけよ」

「……分かった。じゃ、行く」


 頭の中でこれからのことを考えながらその場を離れようとすると、シドウの私情丸出しの声が背中に当たる。


「ナトラ、いいのか?」

「ああ、なんか…… なんか違うんだよ。こうじゃない気がする」


 シドウが掃除をする墓石は、ナトラの姉弟子、クノのものであった。彼女は前回大会で、ゼプァイル商連ラウンドでシンカフィンとの試合中事故死した。ここに訪れることで自分の心に揺蕩(たゆた)う、漠然としたクノへの感情に折り合いをつけることができるのではないかと期待していた。

 しかし期待は叶わず、心境は変わらず。


「ま、墓石拝んでも、どうにもならないって分かっただけでもマシか」


 かといって、落胆するようなことでもない。ナトラが恐るのはクノのこと忘れてしまう事だけだ。その確認ができただけでも収穫だろう。

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