エドワード Ⅳ
試合が終わった直後にエドワードは無理を言い、オヴリウス本陣前の二等観客席の前に立った。頭に包帯を巻き身体は泥だらけ。こんな無様な格好は初めてだ。
だが観客たちは絶叫で迎え入れた。
帝国臣民が長い間溜め込んだ鬱屈が火山のように噴火している。幾度となく人前に立ってきたエドワードであったが、これほどの声圧を初めて受けた。
記者たちから渡された大量のマイクが、テープでグルグルにまとめられ束になって、腕全体で支えなければならないほどだ。
「皆さん…… うわぁ」
一言発するとスピーカーからはキイイィィンとハウリング。どうにも締まらないが、それで観客の熱量は少し下がる。
「本日お集まりの皆さん、応援ありがとうございました。この場を借りて、宣言したいことはひとつだけです」
口の中は乾く。人前に出るのは慣れているはずなのに、妙に緊張する。しかし嫌な感じはしない。
「僕は戦います。ただ帝冠を戴だけの、お行儀よくしているだけの人形のような皇帝になりたくはありません。帝国臣民一千万人が過去の栄光ではなく、将来の希望に目を向けるような、導いていける皇帝になりたい!」
「だから…… だから僕についてこいッ!」
エドワードは腹の底から叫ぶと、拳を高くつき上げた。
演説としては下手な部類だ。だが、まだ十二歳の幼い身体を震わせて、精一杯の戦いを見せた直後の叫びは帝国中の心を揺さぶるには充分だった。