シャルロット Ⅰ
オヴリウスの布陣はシャルロットの想像の下をいった。
エドワードは最後方に居座る後衛で、自律型魔導具による広域支援がいいところだと想定していたから、彼が前衛のすぐ後ろの後衛のポジションで援護を行なっているのが滑稽に思えた。
しかも指揮者である。彼が撃墜すれば即試合終了だ。
彼は場に慣れていないのか、視線がキョロキョロと右往左往しながらも〈銀色の仕業〉操り、ナトラを〈集束煌〉から守っている。
〈集束煌〉だけを、だ。
ウォルフガングや〈首を刎ねられた雄鶏〉には対応していない、拙い連携だ。
シャルロットはそれまで散らして撃っていた〈集束煌〉をエドワードに集中してた。
彼は姿勢を崩しながらも自身の周囲の〈銀色の仕業〉で防御する。
一見すると、エドワードの周囲とナトラの周囲で水銀の塊は二つあるように思えるが、目を凝らすと、その間に針金のみたいな細い銀色の筋で繋がっているのが分かる。それで察したシャルロットは、針金部分に〈集束煌〉を集中して撃ち込むと簡単に断線した。
思ったとおり、ナトラ側の水銀の動きが止まる。針金がニュルニュル動いてまた繋がると再び動き出す。
それで、操作できる水銀塊の数はひとつだけなのだとシャルロットは判断した。だが〈銀色の仕業〉は分厚いほどに強固になるので、断線はともかく、エドワードにダメージを与えるのは少し面倒。
まあ、問題ない。
現在、両陣営の前衛は一対一だが、クォーターバックの質の差から状況的にはシンカフィン有利といったところ。ゆっくりとではあるが前進している。
このままいけば、タイムアップまでにオヴリウスの本陣にたどり着けるだろう。
問題はウィングだ。
オイゲンが一度後退したからか、アナスタシアも姿を消しているのだ。このまま放っておくと何をされるか分かったものではない。
シャルロットは襟の内側に刺さった簪、交信用魔導具〈不貞簪〉にゲキを飛ばす。
「オイゲン、新人相手に情けない。ちゃんとタマ付いてる?」
『いやいや、ブリュンベルクの嬢ちゃんは結構やるよ。あとお前も新人だろうが』
『ソゲなイケズな言い方すっと美人が台無しじゃぁ。それにオイゲンの仕事はとっ組み合いじゃぁなかぁよ』
オイゲンに続いてから、ジェノバが気軽な声を出す。
チラリと後ろを振り返ると、時計塔の上で赤いマフラーをたなびかせるジェノバがブンブン手を降っている。この試合では彼が指揮者だから、目立つことはするなと散々言ったのにだ。
二人とも二大会目で、シャルロットの先輩な訳だが、どうにも尊敬する気になれない。
シャルロットは呆れて首を振りながら、
「で、止血は済んだ?」
『もちよ、カチンコチン』
「よし、間合いが分からない以上、サムライはウォルフガングが処理。ジェノバ、“チキン”はどう?」
『送り込んだ分はキッチリ撃たれとぉね。正確な狙い、あの女はトリガラのようで、腕は確かバイ』
エドワードが指揮者なら、オイゲンで背後を取って挟撃すれば撃墜をとれるか? という甘い誘惑が胸中を巡るが、さすがにそんな楽な展開にならないだろう。彼は囮で、何かしらの罠を仕掛けているとするのが自然だ。
取り敢えず、コツコツと撃墜をとれそうなところから仕掛けべきだ。
「ジェノバは“響測”の間合いを測り直し。オイゲンはブリュンベルクを私の前に連れて来い。奴が孤立したらお前と私とチキンでハメる」
イラつくのはライン戦だ。
ウォルフガングの前進速度はいつも以上に遅い。
「おいウォルフガング、何をしている、早く進め」
『鬼じゃ、鬼クォーターバックじゃ!』