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短編集

ハロー、ハロー、こんにちは!

作者: 遠出八千代

 


初めてのお客さんですね!

ハロー、ハロー、こんにちは!

ようこそ、猫猫亭に。


今の挨拶はなんだって?

知らないんですか?巷ではやってる挨拶なんですよ!ハロー、こんにちは。

え、間違えてる?

ハローとこんにちはでかぶってるんですか?

どっちかで挨拶するのが普通?

…いやいやいや、知ってますよ。で、でも今度からはハローかこんにちはのどっちかで挨拶しようかな~


まぁまぁ、いいじゃありませんか。

ほら、お客さんもそんな入口に立ってないで、冷やかしじゃなったらどうぞ中に。

狭いですけど。


ささ、この夜景が一番見える席に。

森しか見えない?

いやいや風情があるでしょ。


注文はクリームパスタと惣菜でよろしいですか?

新鮮な牛乳を今朝、親戚の酪農家の方からいただいたので、いつもより美味しいですよ。

え、好きでよく食べるんですか。

なんか気が合いますね~私の得意料理なんですよ。



ん、なんですか。

さっきから私のほう見て?

そんなに私を見つめても、料理はさくさく出きませんよ。

料理が出てくるまで、何かお話をしてほしい?

他に店員やお客さんもいないことだし、そうしましょうか。

私も暇してたんで。


え?私の話をしてほしい?

…えーと。ほかに思いつかないですし、いいですよ。


そうですね。

意外でしょうけど、私、昔はこれでも貴族だったんですよ。しかも結構なお嬢様だったんです。

新聞とかにも家の名前乗ったんですけど。

ちょっと前の話なんですけど、結構有名じゃありませんでしたか?


何か新聞に載るようなことをやらかしたのか?

いえいえ、私はやらかしてないですよ!

昔同じ魔法学校に通っていた婚約者がいたんですけど、そいつがね…結構酷いやつだったんですよ。

新聞に載ったのもそいつのせいです。


そいつ公爵家のやんごとない令息だったんですけど、いつも偉そうですましてる奴でした。でも顔はかっこよくて、勉強で分からないところを私に教えてくれたり、なんだかんだ優しいところがあったんですけどね…


何が起きたかと言うと。

婚約破棄されました。

最初聞かされた時、なんじゃそりゃって思ったんですけど。

実は彼に好きな人が出来たみたいで。


その好きになった相手がやばい人だったんですよ。

実はこの国のお姫様で、顔は可愛いのに性格が結構酷かったです。

婚約破棄の理由も私に学校で虐められたって階段から突き落とされそうになったーとか周りに吹聴してて、それで彼の愛する人を私が虐めたって難癖を付けられました。一番酷かったのはその人大怪我したことがあって、それが私の仕業ということになってました。


いやいや私何もしてないっていうのに。

どうやら私は嵌められてみたいで。

王族の殺人未遂ですよ、普通は唯じゃすまないですよ。


あの時は、流石に大変でしたね。

それで気付いたら、裁判とか起きちゃって。

元婚約者が改心して私を颯爽と助けてきてくれるかも、と期待してたんですけど。

そう現実は上手くいかなくて、皆彼女の味方で。


結局、私処刑されちゃったんですよね。


「忘却刑」って知ってますか?

名前の通り、罪を犯した人間に忘却の魔法をかけるんです。

結構強い魔法で、それはもう色々と大変な目に合っちゃうんですけど。


…愛する人や大事な思い出をどんどん忘れちゃって、誰が大切な人だったかもわからなくなっちゃうんですよ。昨日まで出来たことが明日には出来なくなっちゃうかもしれないって恐怖を抱いたまま、でも、自分の犯した罪だけは永遠に覚えているって刑なんですけど。


え、よく知っている?そうなんですね。それは失礼しました。


どうぞクリームパスタです。

冷めないうちに召し上がってください

あと、この店はお水は2杯まで無料なので、好きなだけ御代わりしてください。

さっきの話の続きをしてくれ?

お客さんも物好きな人ですねーいいですけど。行儀よく食べてくださいね?


どこまで話しましたっけ?そうそう、私が処刑されたんですよね。

実は大変だったのは私が処刑された後だったんですよ。

私が冤罪をかけられていたことが、証明されちゃったんですよ。

お父さんやお母さんが結構凄い貴族ですので、色々なツテを調べて一生懸命頑張ってくれたみたいです。

そうですそうです。

新聞に載ったって言うのはその話です。


それを聞かされた時、だからやってないって言ったじゃん!って感じでしたねー。

元婚約者の父親や母親が頭を下げに来たり、色々と…

本当に酷い話ですよねー


え、最低な元婚約者は罰せられて廃嫡された?

今は平民?彼女にしたことをずっと後悔してる?


姫様は罪を償う前に、国外に逃亡して行方不明なんですか?

乗っていた馬車がボロボロで見つかり、もしかしたら盗賊に襲われて死んだとも?


へーやけに詳しいですねお客さん、さてはマニアですね。

でも、本当は私もう気にしてないんですよ。



だって、人間は幸せになるために生まれてきたんですから。



残りの人生誰かを憎んだり、そんなことに費やすのはもったいないですからね!

ポジティブなのが私のとりえですから!


それに向こう側からふんだくったお金で好き勝手やらせてもらえているので。こうやって夢だった定食屋を出来てるし悪いことばかりじゃなかったですけど…収入はあれですけどね…あいつには言ってなかったですけど、私料理が趣味だったり、商売とか好きで、もともと貴族の令嬢に向いてなかったんですよね。


あ、ごめんなさい。こんなことまで話しちゃって。

料理美味しかったですか?

よかったです。

もう、遅いですしお店を閉めようかと思います。

また立ち寄ってくださいね。

この定食屋、いつもお客さんがこなくて暇してるんです。

今日もお客さん一人だけでしたしね…


実は収入のほとんどが常連さんからのばかりなので。

仕送りももらってますし、趣味でやってる道楽のようなものですから、あまり関係ないんですけど。


やっぱり立地がよくないんですよ。

こんな森の掘っ立て小屋って、もう少し、街中とかにしてくれれば…ねぇ?

すいません、こんなことお客さんに愚痴ちゃって。

それじゃあ、おやすみなさい!

夜道の林道は危ないですから、気をつけてください。


フランソワ?


どなたですか?

え、私の名前?

…あ、ああ。大丈夫ですよ。

分かってます。分かってます。

そ、それより、何か今言いかけませんでした。

何でもないって。いやいや、絶対何か言いかけましたよね?

気になりますよ。最後まで言って下さいよ。


え、愛してる?


えぇ!!ナンパですか。初対面の人にそんなこといわれても…

確かにお兄さんかっこいいですけど…

そんな酷い顔して落ち込まないで下さいよ。私が悪いみたいじゃないですか。

こんなこと言っても私は忘れちゃう?

やだなー忘れるわけないじゃないですか。こんな大胆な告白。

そりゃ、大変な目に合ってますけど。そうそう忘れないですよ。

じゃあ、毎日来てくれたら、ほんのちょっと、さっきの発言は考えてあげます。




え、明日も来てくれるんですか?



やったー!リピーターがまた増えた!

……というかお客さんは常連さんばかりなので、こうやってリピーターを作ってですね。少しでも収入の足しに…いえいえ、なんでもないです。


それじゃあ今度こそ。本当におやすみなさい!

ええ、また明日!

ぜったい。

ぜーーたい来て下さいよ!







………………

…………

……











あ、いらっしゃい!

初めてのお客さんですよね?

ハロー、ハロー、こんにちは!









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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです。 のほほんとした作風とは裏腹に中身は重いという。 元婚約者っぽい客は、来店すればするほど苛まれるハメになりそうですね。
[良い点] 切ないお話ですね。 明るい調子の独白が余計に悲しくなりました。 大変面白かったです。 こういう無駄のない文章書けるようになりたいです
[良い点] 終わり方がほんと好き。
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