第094話 食堂は何処に?
浴衣姿で部屋に戻ったボクは、ベッドに横たわり、完全脱力状態になっていた。
隣のベッドでは、少し着崩れ状態の浴衣姿のルーリアも大の字になっている。
どうやらルーリアもボクと同じく、あの温泉の効果に魅了され、のぼせそうになるまで浸かっていたらしい。
おかげで温泉から上がるタイミングが一緒になり、二人並んで幸せ気分のまま部屋へと戻り、こんな状態になっている。
これが夜ならばこのまま眠る所だが、今はまだ外も明るく、時間的にはは昼を少し過ぎた位だろう。
この部屋に来た時、入り口辺りに時計があったような気がするけど、確認しに行くのも億劫だ。
「お腹が空いてきたけど、もう少しこうして居たい気分ですね」
ふと隣から聞こえて来たその声に、ボクは同意の言葉を返す。
だがそんな状態は長くは続かなかった。
というのも、ボクのお腹がついに根を上げ、グゥ~と音を立てたので、それを聞いたルーリアが昼食を食べに行こうと言い出したのだ。
お腹の音が鳴るほどに空腹を感じているボクとしては、当然それに賛成なのだが…
「食堂ってどこにあるんだろう?」
「さぁ?」
この宿に来てからというもの、食堂らしい場所を見かけてはいない。
あの物語の中で食堂の場所が掛かれていたりしていただろうか?と記憶の中を探ってみるが、全く思い出せない。
「とりあえずソレを使って聞けばいいんじゃないかしら?」
そう言ってルーリアが指し示した先には、小さなハンドベルがあった。
使う事はないだろうと思っていたんだけどなぁ…
そんな風に思いながらも、ボクはベッドから体を起こし、ハンドベルへと手を伸ばす。
本当にこれの音で誰か来るのだろうか?と少し不安に思いながらもソレを鳴らすと、音が鳴ってから20秒程後、扉の方からコンコンという軽いノックの音がした。
ボクは扉に向かい「どうぞ」と入室の許可を出すと、開かれた扉からメイド服を着た20歳位の女性が姿を見せた。
「お待たせしました。どのようなご用件でしょうか?」
こんな質問の為に呼んで申し訳ないと思いながら、食堂の場所について尋ねたところ、その女性が案内してくれるという。
ボクとルーリアは礼をいい、その女性に案内してもらいながら1階のロビーへと降り、そこから来た通路とは別の通路へ進むと、その先に大きな両開きの扉があった。
メイド姿の女性が立ち止まったので、ここが食堂という事だろう。
ボクはここまで案内してくれたその女性に礼を言い、扉へ手を伸ばしたその瞬間、先程通って来たロビーの方から何やら怒鳴り散らす男の声が聞こえて来た。
何事かと心配しながら声のする方へと顔を向けると、案内してきてくれた女性に「何も心配する必要はございませんので、どうぞ中へお入りください」と、笑顔で言われ、ボクとルーリアは顔を見合わせた後、そう言うのであればと思い、食堂の中へと足を踏み入れた。
中に入ると、ボク達以外の宿泊客が何人か座っており、ボク達二人も適当に開いているテーブルへと腰かけた。
その後、運ばれて来た料理を食べ始めたボク達だったが、その食事中の話題はもっぱら、先程聞こえて来た男の声についてだった。
二人してアレコレと予想する事で話題は盛り上がり、気づけばいつの間にか料理は全て食べ終えていた。
こうしてボク達の昼食は終わり、食堂を後にして部屋に戻る為ロビーを通りかかるのだが、そこで普通の宿ではありえないような光景を目にするのだった。




