第092話 山の中の旅館[恵みの湯]
頭を抱えたまま何やらブツブツと言い始めたナツキを、6人の嫁達が励まし始めるが特に効果は無く、仕方ないので暫くそっとしておこうという事となった。
それでいいのか?と疑問に思い尋ねてみたが、6人の嫁達の返事は、それぞれが大丈夫だといったような返事だった。
そんなやり取りがあった後、ミリーエルが「とりあえず…」と口にした後「アルカさーん」と隣の部屋に向かって声をあげた。
すると、先程タリアというメイドが出て来た扉から、肩口で切りそろえられた白髪に、青い瞳、そして若干の幼さが残る顔つきの小柄なメイドが姿を見せた。
「アルカさん、こちらのお二人を[恵みの湯]へと案内してあげてください。そして宿の責任者に、お二人は旦那様のとても大事なお客様だという事を伝えておいてください」
「畏まりました、なの」
まるで「はーい」といった感じで元気に右手を上げながらそう答えたアルカは、ボクとルーリアの方へと身体を向けるとメイド服の裾を摘まみ、「私はアルカと申します。どうぞよろしくお願いします、なの」と自己紹介をし、軽く頭を下げた。
「それでは案内するの、こちらへどうぞです。なの」
そう言って笑顔を見せるアルカの姿は、幼さの残るその表情故にか、口調と仕草がとても可愛らしく見え、ボクとルーリアはほっこりしながら案内を始めたアルカの後へと続く。
尚、未だに頭を抱えているナツキは、どうしようもないので完全に放置である。
きっと次に合う頃には元に戻っているだろうと信じて。
ってなわけで、案内されるままにボク達は家を出ると、村のすぐ傍にある山の方へと向かい、進み始めた。
ボクの記憶にあるのと同じく、目的地である[恵みの湯]という温泉宿はあの山を少し上ったところにあるようだ。
目的地へと向かうその道中、村の事や温泉宿の事を明るく元気に語り続けたアルカ。
そのおかげか、出発してから約30分程の移動だったのだが、全く退屈する事も無く時は過ぎ やがてボク達の前に大きな旅館が見えて来た。
「あちらが今回ユウキ様とルーリア様がお泊りになるお宿なの。特に温泉はオススメなの!ぜひ入ってほしいの!」
前方に見える建物を右手で指し示しながら、アルカはニコニコ笑顔でそう言った後、再び歩き始めた。
そしてそれから程なくして温泉宿の入り口へと辿り着き、ついにボク達は[恵みの湯]へと足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ。あれ?アルカお姉ちゃん?」
建物に入ってすぐ、突然そう話しかけて来たのは、首に真っ黒な首輪をつけた一人の少女だった。
「こんにちはサリーちゃん、今日はナツキ様の大事なお客様をご案内して来たの。急いでハキムさんかエイラさんを呼んで来て欲しいの」
「ナツキ様の!?ちょっと待ってて!すぐに読んでくるから!」
そう言うと、サリーと呼ばれた6.7歳位の少女は慌てて受付の向こう側に見えている扉の中へと入っていき、すぐに大人の男女を連れて戻って来た。
そしてすぐにボクとルーリアの姿を見つけるなり佇まいを正す。
「お待たせして申し訳ありません。私は当旅館の運営を任されているハキムと申します。こちらは妻のエイラです」
ハキムと名乗った男に紹介された隣の女性は名前を言われると同時に、お腹の前で両手を合わせ、深くお辞儀をする。
そんな二人の首にも、サリーと同じく真っ黒な首輪が付いていた。
「(そういえばこの旅館の従業員って、皆あのナツキさんの奴隷だっけな…)」
並ぶ3人の首にあるソレを見てそんな事を考えて居たボクと、隣で首を傾げていたルーリアをよそに、アルカがハキムとエイラの二人にボク達が本日ここに泊まる事を伝え、用件が済んだところでナツキの居るあの家へと帰っていく。
去り行くアルカの後ろ姿皆で少しの間見送っていると、ハキムがボク達の方へと振り返る。
「それではユウキ様、ルーリア様、お部屋に案内いたしますので、こちらへどうぞ」
そう言ってボク達の前を歩き始めたハキムにの後に続き歩き始めたボクとルーリア。
そうして辿り着いたのは2階の廊下の突き当りにある、他よりも少し大きな扉が付いた部屋だった。
この世界に来てまだ1日目だという事実については、気にしないで下さい!




