第090話 物語の中の人達~前編~
疑問の残る中、自己紹介をする目の前の二人に対し、こちらも改めて自己紹介を返した後、案内されるままにオルリア村の中を歩いていく。
因みに、現在ボクの前方の左側を歩くピンクのイヌ科の獣人はミール、そしてその隣を歩く、後からやって来た小柄な女の子はミリーエル王女で間違いなかった。
その後も暫くの間二人の後を歩き続け、その道中ではWEB小説の中で描かれていた大きな畑を目にし、少し感動を覚えていた。
そして前方に大きな泉と、その傍にある一軒の建物が目に入る。
建物はここに来るまでに見た簡易的な造りのものではなく、ログハウスの様な手作りだと思わせるような造りの建物である。
ただ、その建物は手作りというよりも、ナツキという人物のスキルによるものだという事はボクは知っている。
そんな建物のある方向へと、前を歩く二人は真っ直ぐ向かい、やがて玄関へと辿り着くと、ミリーエルはチリンチリンとドアベルの音を立てながらその扉を開き、先に中へと入り、その後にミールとボクが続く。
「さぁ、上がってください。靴はそこで脱いでくださいね」
ミリーエルはそう言うと、ニコリと笑顔を見せる。
それを聞き、この村では玄関で靴を脱ぐのがルールだという事を思い出し、異世界に来てからする事の無かった、玄関で靴を脱ぐという行為を久しぶりに、そして少し懐かしみながら行い、家の中へとお邪魔する。
目の前の扉を潜ると、そこでは黒髪に黒い瞳の男と、3人の女性がテーブルにつき、湯呑でお茶を飲んでいた。
3人のうちの二人は髪型や長さは違えど、その顔はそっくりであり、顔の横にある耳は横に長い。
そんな特徴から、ボクはすぐにその二人があの物語に出てきていたノアとシアという双子のエルフ姉妹なのだと気づく。
「(髪の長い方が姉のノアで、短い方が妹のシア、だったよな。そしてその隣に座っているのは…)」
そう思ったところで、双子のエルフから少し視線を手前へとずらすと、とても特徴的なモノが目に入る。
「(確かあの子の名前はエルージュ、通称エル、だったかな?)」
ボクの視線の先には、少女の背中に生えている、1対の真っ白な翼があった。
「(しかし、こうして実際に見ると、ホント天使っぽい子だな)」
あの物語で登場した時、その説明文を見てボクは何となく天使っぽいイメージを持っていたのだが、実際に視界の先に座っている少女は、幼くも可愛らしい顔つきをしている事も相まって、正に天使の様な女の子という言葉がピッタリだった。
そんな可愛いらしい子たちの事を観察していると、双子のエルフ姉妹の向こう側に座っていた男が口を開いた。
「いつまでもそんなところに立ってないで、こっちにきて座りなよ」
そう言われ、ボクはずっとこの部屋の入り口に立ったままだった事に気付く。
同時に、背後からなにやら小さくクスクスと笑う声が聞こえて来た。
チラリと声のする方を見てみるが、そこにはミリーエルが何食わぬ顔で立っているだけだった。
とりあえずこのまま突っ立っている訳にもいかないので、部屋の中へと入りながら「お邪魔します」と口にし、勧められるままに男の隣の席へと腰かけた。
「今、レイにもう一人の子を迎えに行かせてるから、それまでゆっくりしててくれ」
「(もう一人の子?」
そんな疑問を抱いていると、正面に見える扉が開き、そこから銀色の髪のメイドが入って来た。
ボクの記憶が正しければ、このメイドさんの名前はタリアで間違いなかったはずだ。
銀髪のメイドは、ボクの元まで来るなり、手に持っていたトレイから湯呑を手に取り、ボクの前へとそっと置きながら「熱いのでお気を付けください」と言うなり、一礼した後入って来た扉から部屋を出ていくのだった。




