第072話 オークの到着
左肩を襲う痛みに耐えながら、ボクは地面を全力で蹴り、ウルフの左目辺りを狙い、上段から斬りかかる。
が、ウルフはソレを右側へと回避し、[心具]は虚しく空を斬る結果となる。
だが、ソレはボクにとって予定通りであり、すかさず返す刃で下段からの横薙ぎで追撃する。
敢えて初撃を思っていた方向へと避けさせ、そこから本命の攻撃を仕掛けるという作戦を見事実行に移したボクは、もらった!と内心喜ぶのだが、その喜びは数瞬後、驚きへと変わる。
なんとウルフは、本命であった2撃目に対し、サイドステップ後の着地と同時に、すぐさまバックステップをして回避したのだ。
「嘘だろ…」
まさかのウルフの回避力に、ボクは心底驚き、そう声を漏らす。
どうやら一番最初の攻撃を避けられたのは偶然ではないらしい。
「(素早さはボクの方が高いはずなのに、なんで…!?)」
不思議に思いながらも、ウルフと距離を取ろうとバックステップした瞬間、ウルフはボクへと飛び掛かり、同時に前足を振り上げた。
マズい!と思いながらも、すぐさま右半身を引き、身体を逸らす事でソレを避けるのだが、完全には避けきれず、ウルフの爪はボクの胸元を軽く掠めてしまう。
後ほんの少しでも反応が遅れたら、きっと深手を負ってしまっていた事だろう。
「(危なかった、とりあえずステータス差の謎については後で考えるとして、今はどうやって倒すかを考えないと)」
剣先をウルフに向ける事で、お互いが牽制しあうという状況に持ち込み直したところで、必死に思考を巡らせる。
急がなければ背後のオークはもうすぐそこだ。
どうにか攻撃さえ当たれば倒せそうなのだが、どうすればその攻撃を当てる事が出来るのかが分からない。
そんな答えが見出せない中、ふと、赤く染まったウルフの横腹が目に入る。
その傷はアースグレイブを避けきれずに出来たものである。
流石に2度目は通用しないだろう。
そう思った瞬間…
「(…いや待てよ?だったら…)」
咄嗟に浮かぶ一つの案。
それをさっそく実行しようと、ボクはウルフから目を離さないようにしつつ、痛みに耐えながら左腕で古木の棍棒を拾い上げ、ウルフに向けて構えた。
そして…
「アースグレイブ!!」
いつもの3倍近い魔力を消費しながら放たれたそのアースグレイブは、ウルフの足元を起点に発動する。
いつもならば太い岩槍が相手を貫く魔法なのだが、今回放ったものはいつもと違い、起点となる場所を中心に、直径2m程の波紋を描くように、内側から外側へと向けて大量の細い岩槍が勢いよく突出する。
魔法の発動と同じタイミングで避けようとその場から飛び退いたウルフだったが、流石にこればかりは避ける事も出来ず、大量に突出した岩槍の内の2本にその体と頭を貫いており、絶命するのであった。
「何とかなったけど、流石に[心具]以外でこれだけの魔法は使うのは辛いかも…」
ウルフを早く倒すためには仕方なかったとはいえ、一度に大量の魔力を消費するという無茶をしたため、身体がすごく怠い。
このまま地面に寝転がって休みたい、そう思っていると、ついに近づいて来ていたオークがボク達の前に姿を見せたのだった。




